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プロローグ

第三章開幕!

 目を覚ますとそこは真っ白な空間だった。

 あれ? なんだこれ、物語の導入みたいな場所は。こういうのは普通死んだ後に行くことになるはずだが。俺は死んで、この空間に行かず魔王と融合することになった。


 その後は冒険者を始めて、なぜか同じく冒険者になった天使エルジェとパーティーを組むことになり、それからい色々あって、次に精霊王レリルとパーティーを組んで。

 それで……俺は死んでないはずだ。

 むしろ生きている。というか魔王と融合したため簡単に死なないはずだが……これは夢か?


「正確には精神の間、と言ったところだけどね」

「誰だ!?」


 背後からの声。

 俺は警戒心を高め、振り返る。

 そこに居たのは。


「やっ。やっと面と向かって話せることができたね。霊児君」

「あなたは……魔王ゼルファス!?」


 魔王ゼルファス。

 彼こそが、俺と融合した魔王。今の俺があるのは、偶然にも彼と融合したから。いや、あれは偶然だったのか? 

 いやそれよりも、なぜ彼が俺の目の前で、それも意思を持って喋っているんだ?


「混乱しているようだね。ここは、精神が触れ合うことができる空間なんだ。つまり、今の君と僕は精神だけの存在。こうでもしないとまともに話せないからね。君が寝ている間に話すべきことを話しておこうと思ったんだ」

「ま、待ってください! その前に、俺も聞きたいことがあります」

「ふふ。敬語は不要だよ。僕と君は言わば一心同体。いや運命共同体? まあそんな関係なんだから敬語なんて堅苦しいのはなしだ。偶然にも同じ顔ってことで、敬語なんて使ってたらむず痒いだろ?」


 記憶でわかっていたけど、かなりフレンドリーな魔王様だな。一応命の恩人みたいなものだし、敬語を使わなくちゃならないと思っていたけど。

 本人がそういうなら、そうするか。確かに、偶然にも同じ顔なわけで。ある意味鏡に映る自分に話しているようなものだからな。……多少はゼルファスのほうがかっこいい気がするけど。

 俺は一度、こほんと咳払いし再び口を開ける。


「じゃあ、ゼルファス。俺が聞きたいのはひとつだ」

「ん?」

「なんで俺とお前は融合したんだ? それも、体が俺で記憶と力はお前ので。普通なら、俺みたいな一般人。というか人間が所有権を得られるなんてありえないだろ?」


 そう、俺が聞きたいのはそれだ。どうして融合してしまったのか。そして、どうして融合したら、体が俺で記憶と力を受け継いでしまったのか。

 どうして、意思は俺なのか。


「やっぱりその質問か。そうだね……簡単に説明すると、僕がそうしたからかな?」

「ゼルファスが? どういうことなんだ?」

「つまりね。これは偶然、いや奇跡だったのかな。僕と君が死んだ時間、そして時期が同じだったんだよ」

「は?」


 何を言っているんだ。そんなこと、本当に偶然、いや奇跡じゃない限りそんなことは。


「その時に、僕はまだやることがあった。だから、誰かの体と融合することで擬似的に生き返ろう、と思ったんだ。幸い君の体はまだ残っていた。僕の体は知ってのとおり殺されてすぐに消去されたからね。だから、まだ体が残っていて魂も定着していて偶然にも同じ時間に時期に死んだ君の体と融合したんだ」

「それで、俺は記憶と力を受け継いでこの異世界に?」

「丁度、空間の歪みが君を飲み込んだんだ。そしてこっちの世界に来る途中で、僕と融合した、ということだ」

「てことは、俺は死んだ後に神隠しにあって偶然同じ時間、時期に死んだ魂だけの存在であるゼルファスと融合して異世界にってことか?」

「まとめるとそうなるかな?」



 なんだよそれ。てことは、俺は車に轢かれた後、あいつらの目の前で神隠しに遭ったっていうのか? そんな偶然があるものなんだな。


「偶然ってすごいな」

「そうだね。偶然はすごい。ただ、偶然ではなかったのかもしれない」

「どういうことだ?」


 そんな意味深な言葉に、俺はふとあの夢のことを思い出す。


「以前から、僕と君は繋がっていたんだ。こんな夢を見なかったかな? 見知らぬ世界、見知らぬ人達なのに日常のように過ごす夢を」

「確かに、いつからかそんな夢を」

「実はね、僕もなんだ。いつの日からか、見知らぬ世界、見知らぬ人達と見知らぬことをして過ごす夢を」


 そうか。その時から、俺達は繋がっていたのか。てことは、融合したのは偶然ではなく必然だったってことなのか? 


「さて、質問の回答はこれでいいかな? そろそろ僕の話を聞いてくれるかい?」

「……もちろん。それだけわかれば今はいいかな」

「ありがとう。それじゃあ、話すとしよう。俺が言いたいのはひとつ。霊児。これからお前に試練が訪れるだろう。それを見事乗り越えて見せろ!」



 試練だって? いったいどんな試練だっていうんだ? まさか、魔王同士で戦うとかそういうのじゃないだろうな。


「試練って、どんな?」

「それは教えられない。それにすぐ……おっとどうやらもう来たようだな」

「は? 来たって、試練がか?」

「ああ。そういうわけだから、僕はこれで失礼するよ」


 などと勝手に消えようとする魔王様。いったいどんな試練があるのか教えてくれず、言うだけ言って勝手に薄くなっていく。


「お、おい! もう少し詳しく説明を!」

「そうだね……じゃあ、ひとつだけアドバイスだ! 彼女はとても繊細な心を持っているから優しく接してあげて欲しい! 僕の代わりにね」


 は? え? 彼女? どういうことだ、それ。


「それだけじゃわからないって! あ、おい! 待て!! まだ話は」


 だが、魔王ゼルファスの姿は消え、俺の意識も途切れていった。魔王さん……あんな雑な説明でどうしろっていうんだ!




・・・・・




「ん……ここは、現実か」


 目が覚めると見慣れた天井がそこにあった。

 いつもの宿でベッドで眠っていた。どうやらあの精神の間とやらから出てこれたらしい。それにしてもあの魔王め、もう少し詳しい説明をしろよな。


 試練、繊細な心、彼女、この三つのキーワードしか手に入れられなかった。これをまとめると……その繊細な心を持った彼女とやらが試練を持ってくるということでいいのか?

 その彼女さんは、もう来たようなことを言ってたけど……ん?


「なんだ? なんだか柔らかい感触が」


 いつものように涎を口からだらしなく出している天使を起こそうと思ったところで違和感を感じた。俺は一人で寝ていたはずなのに、俺に何か柔らかい感触が纏わり付いている。

 それも腰の辺りに。

 チラッと、毛布を剥がしその正体を確かめると。


「……なんだこの子」

「すぅ……すぅ……すぅ……」


 気持ちよさそうに、寝息を吐いて寝てる黒髪ロングヘアーの幼女が!

 それも大き目のシャツ一枚。

 下着はどうかはわからないけど、なんだこの状況。まさか、この子が試練を持ってきた彼女なのか? いや、待てよ。この子、見たことがある。

 魔王ゼルファスの記憶にはっきりと残っている。

 この記憶が正しければこの子は!


「んん……ふあー」


 あっ、起きちゃった。ゆらりと身を起こし、目蓋を擦りながら小さく欠伸をする。じっと俺のことを見詰めた後、まだ意識が完全に覚醒していない状態で口を開く。


「おはよう、ゼル。今日もよろしくね」

「えっと」


 瞬間。

 空間が歪んだ。何が起こったんだ!? と驚く俺だったが、すぐに空間に歪みは収まり、そして周りを見渡すとそこは。


「……な、なんじゃこりゃあ!?」


 まるで引き籠りしていそうな部屋の光景が広がっていた。

 薄暗い部屋。

 薄型のテレビにゲーム機。

 その目の前に布団と食べかけのお菓子の袋とゴミが散乱。カップ麺の容器は何層にも重ねられていて、携帯ゲーム機もあり、パソコンもある。

 えっと……どこかのアパートですか? いや、それよりもまさか!


 地球に戻ってきた、のか?

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