第五話
無事クエストをクリアした俺達は森で迷っていた方向音痴勇者ロイスと共にトルスタへと向かっていた。彼もトルスタに行くことになっていたから帰りも一緒だ。
それに勇者として冒険者のクエストを手助けしたのでギルドで報告をすると報酬を貰える。
勇者特権というやつだ。
「そろそろトルスタだ。ほら、街が見えるだろ?」
「ああ、長かった。森を迷って三日……! やっと街に行ける!」
「さすがに見えている街に行くのに迷ったりはしないだろうけど。一応最後まで付き合うぞ」
三日も森を迷ってやっと出られただけで感動している。違うな。三日もあんな森を迷っていれば、普通は感動するか。
瞳から零れる涙を拭い、ロイスは真っ直ぐトルスタを見詰める。
「ああ。僕は、トルスタで食料を補充するために行こうとしていたんだ。サバイバル生活は村で旅のために何度かやったことはあるけど。かなり意外ときつかったな、ここは」
「てことは、食料を補充したらまた発つのか?」
「そうだな。疲れも溜まっているし、一度宿でぐっすりと休息をしてからだな」
確かに、三日も食料なしに森を迷い、サバイバル生活を強いられていたんだ。それに、俺達のクエストにも付き合ってくれた。
外面では平気そうな顔をしているけど、やはり疲れは溜まっているんだ。
「おーい! 早く早くー!」
先にレリルを連れて飛んで行っていたエルジェが俺達を急かすように呼びかける。こっちは歩きなんだから、もう少しゆっくり歩かせてくれって。
「わーったよ! ……ロイス」
「なんだ?」
「改めてありがとうな。手伝ってくれて」
「気にするな。僕は勇者だ。困っている人が居たら助けるのが勇者の勤めだからな」
奇妙なもんだな。本来は敵対する者同士なのに……でも、こういうのはいいものだ。
そして、数十分後。
街に無事到着した俺達は、このまま真っ直ぐギルドへと報告しに向かった。ユリアさんに報告をすると、勇者が一緒に居ることに驚いていた。
もちろん、他の冒険者達もだ。
さすがは勇者と言ったところか。伊達に選ばれし者じゃないな。
今回のクエストで晴れて俺とエルジェはランクCに上がった。もう少しかかると思ってたが、ギルドの判断はランクDにも関わらず、自由依頼書を二つもクリアした実力者ということで、すぐに上がったのだ。
まさかこんなにも速くCに上がってしまうとは。まだ登録したばかりのレリルもランクCに上がった。これだけ早くランクが上がったのはギルド創設してから、初めてのことだと言う。
なんていうか、実力は本物だからな。精霊の王なだけに、普通の冒険者とは違うってことか。それだけではなく、勇者ロイスの推薦っていうのもあるそうだ。
やっぱり、勇者ってのは特別なんだなって。
「それじゃあ、僕はここで」
「ああ。街の中ぐらいは迷子になるなよ?」
「わ、わかってるって! ……明日の早朝にはここを発つつもりだ。その間に何かあったら遠慮なく頼ってくれ。勇者として、手助けをする」
などと、言い放つロイス。まったく、疲れているはずなのに。
「大丈夫だよ。今の私達ならどんな敵にだって負けないから!」
「だそうだ。こっちのことは気にしないで、お前はゆっくりと休め。そっちには、そっちの戦いがあるだろ?」
「……そうか。そういうことなら、ゆっくり休ませて貰う。短い時間だったが、貴重な体験をさせてもらった! また会おう!!」
「おう」
「ばいばーい!」
「お気をつけて!」
森で迷子になっていた勇者ロイスと俺達は別れた。また会えることを信じて、また迷子にならないことを信じて……。
「さて、これからどうする?」
「お祝いのパーティーを開こう!」
「何の祝いだよ」
「ランクアップと新しい仲間が加わった祝い!」
「えっと、それは私のこと、でしょうか?」
「そうだけど?」
レリルは自分のことだとわかってないような表情をする。エルジェは、なんでそんなこと聞くの? 当たり前じゃん、と小首を傾げた。
「エルジェ。レリルは一時的にパーティーに加わってもらっただけだぞ? レリルにも都合ってものがだな」
「えー! じゃあ、これでお別れなの!?」
「別れじゃない。冒険者同士、いつでも会えるだろ?」
あまりレリルに迷惑をかけるなと、エルジェに言い聞かせている中。レリルが、ぼそぼそと何かを呟いている。
どうしたんだ?
「仲間……仲間、ですか。あ、あの!」
「どうした?」
「私、お二人とパーティーをこのまま組んで居たいです! だ、だめでしょうか?」
ぐっと拳を握り、叫ぶ。
それを聞いたエルジェはぱあっと嬉しそうに笑顔になる。そして、俺を見詰め「仲間仲間!」とこのままレリルを仲間のままにしてと訴えてきている。
レリルも、このまま一緒にいたいという決心の瞳で俺を見ている。ふむ、よく考えるとまだまだ世間知らずなレリルを一人にしてるとまた色んな人達に騙されそうだな。
「もちろん、俺はいいぞ。むしろ精霊王がうちのパーティーに加わってくれるなんて願ったり叶ったりだ」
「やっ」
「やったー!!!」
歓喜の声が響き渡る。それはレリルの声ではなく、エルジェのものだった。なんでお前が一番喜んでいるんだよ、まったく。
けど、その気持ちはわからなくもないが。
「よーっし! それじゃあ、さっそく今回の報酬で祝杯だー!!」
「は、はい!」
「おいおい。まだ気が早いぞー。もう少し日が落ちてからにしろよー。それとあんまり高いところはなしなー」
ひとつのクエストが終わり、新たな仲間が増えた。魔王、天使に続き、今度は精霊王と。なんだか聞いているだけでかなりすごいパーティーだが、危険性がほとんど感じられない。
三人とも交友的で、少し残念なところがある。でも、これはこれで……楽しいからいいか。
「あっ! そうだ! レリルも仲間になったことだし、また絆のリングを買わなくちゃ!」
「またあれを買うのか? それじゃ、ひとつ余るぞ」
「大丈夫! 霊児が二つつければ!!」
「……仲間が増える度につけてたら、指輪だらけになりそうだな」
やれやれと頭を抱えていると、またあの感覚を覚えた。どうやら、レリルとの絆が生まれたことによりまたブラックボックスが解禁したようだ。
今度の能力は【ステータス眼】? ……なるほど。読んで字の如しってところか。
・・・・・
レリルがパーティーに加わって、部屋割りが変わった。
俺が一人で、エルジェとレリルが同室。
これで少しはゆっくり休めることができる。窓から差し込む陽気な日差しと風を体で感じながら俺は今日もうふかふかのベッドで眠りに。
「霊児ー!!」
「うおっ!?」
つけなかった。
またもや乱暴にドアを開けて入ってくるエルジェ。今回は、レリルも一緒らしく、二人とも荷物を抱えていた。
「なんだよ、せっかく気持ちよく眠ろうとしていたのにさぁ」
「す、すみません。お邪魔して」
「気にしない、気にしない!」
「いや、お前は気にしろ。レリルはいいとして。それで? その荷物は何なんだ?」
仕方ないとばかりに、ベッドから起き上がり頭を掻きながらテーブルに置かれた二つの袋を見る。なんだかどこかで見たことがあるような。
気のせいだろうか。
「実はね、さっきレリルと一緒に買い物してたんだ! それでお互いに買ってきたものを霊児に見せようってなったわけ!」
「いいお買い物でした」
「……何を買ったんだ?」
不安しかないが、一応聞いてみたところエルジェは、ドヤ顔で袋を探りそれを取り出した。
手に持っていたのは……猫人形だった。
あれ? なんだか見たことのある人形だな。
「これね! 持っているだけで金運が上がるんだって! それもこのさらに金運を上げる小猫人形が付いてきて四万五千ルドなんだって!」
……おかしい。あの人形を売っていた悪徳商人は捕まったはずだ。それに、一度被害にあったレリルが居るのにどうしてこんなものを。
そして、肝心のレリルはというと。
「お前は?」
「私は……これです!」
袋から取り出されたのはまたもやどこかで見たことのあるような洋服だった。しかし、どこか色とデザインが違う。
でもこれはやっぱり、あれだよな。
「これは私の着替えです。ど、どうでしょうか?」
よかった……さすがにレリルは学習していたようだ。ただ世間知らずだっただけなんだ。一度教え、学べば学習してもう間違いは犯さない。
しかしながら、その隣に居るアホ天使は。
「えっと、エルジェさん? その人形って」
「レリル。このアホ天使はいったいどこでこれを買ってきたんだ?」
「わ、わかりません。それに、買ったものは霊児さんに見せるまで秘密にしておくようにって約束だったので」
あー、そういえばそういうことになってたって言ってたな。
「……エルジェ。お前、その人形どこで買った?」
「え? これはねぇ、裏路地にぽつんっと建っていた店で! なんだかローブを羽織ったおじさんが売ってたよ」
うん、それだけ聞ければ十分だ。
「この疑うことを知らない純真なアホが! お前は騙されたんだよ!! 今すぐ返却しに行くぞー!!!」
「な、なんだってー!?」
「ま、待ってくださいお二人ともー!!」
逃げられないように俺はエルジェの首根っこを掴み、宿から出て行く。
次回三章! 更なる超展開が!?




