第四話
「はあっ!」
「だあっ!!」
森の奥へと進む途中で数々の魔物と戦闘を行っている。だが、目的に【魔精霊】とはあれっきり出会っていない。
気配はするが、森もそう広くないのであまり大きな動きはできない。
身軽な奴は木から木へと飛び移りながら戦えそうだが、うちのパーティーはそんなことできるのは……全員できそうだな。
約一人は本当に飛ぶけどな。
「レリル。本当に、こっちでいいんだな?」
「はい。あと、少しと言ったところでしょうか」
「だったら、さっさと進んでしまおう」
そう言い放ち、極普通にロイスは先へと進んでいくが……まったく別方向へと進んでいた。
「おい! そっちじゃねぞ! また迷子になりたいのか!?」
「なに!?」
自分では正しい道を進んでいると思っていたらしく。
驚愕の表情で、振り返った。
「大人しく私達と一緒に行動したほうがいいと思うよ~」
「ぐぐぐっ! そ、そういうなら、わかった」
この勇者は放って置くとマジで迷子になるからな。これは勇者としてどうなんだよって思う。
だが、戦闘ではかなり役に立つ。方向音痴を抜けば、かなりすごい勇者だ。見た目がまだ駆け出しのように見えるが、やはり勇者は勇者ということか。
「皆さんこっちです」
「ああ。ほら、方向音痴勇者! ちゃんとついて来いよ!」
「わかってるって!」
「手を繋ごうか~?」
「僕は子供じゃない!!」
先ほど出会ったとは思えないフレンドリーな会話だ。
やはりエルジェの交友スキルは半端じゃないな。しかしながら、時々純粋過ぎて相手を馬鹿にしているような行動をしたり、言動を吐くのでそこが難点だが。
本人には悪気がないっていうのがまたなんというか。
悪気がない分、怒れるに怒れない。だが、俺はそこをはっきりとさせて叱らなければならない。
今のところは叱るところはないがな。
「ほら。早く来ないと置いていくぞ~」
「はーい!」
「はあ、疲れるなぁ」
ロイスさんや。この程度で、疲れていてはエルジェとは一緒に居られないぞ。もっと精神力と体を鍛えるんだな。
こいつと一緒に居るなら相当の覚悟と体、精神力がないと確実に倒れる。俺が普通の人間だったら、やばかったかもしれない。ゼルファスには感謝しなくちゃな、色んな意味で。
「レリル。疲れていないか?」
「全然です。私は精霊王なので。人間とは体の作りが違いますから。これぐらいへっちゃらです!」
「そうか。でも、疲れた時はちゃんと言うんだぞ? その時は、俺が背負ってやるから」
「え! じゃあ、おんぶー! 私、疲れちゃったー」
レリルに向けて言ったことなんだが、エルジェが反応してしまった。
「お前はずっと飛んでるだろ? どこに疲れる要素があるんだ」
「飛んでるのもすっごい疲れるんだよ! 羽を動かすのって、皆が考えてるより大変なんだよ! だから、おんぶー!!」
とはいえ、歩いているよりは楽そうなんだけどなぁ。
「ええい!! くっつくな!! お前は、甘え過ぎだ!!」
「しょんなぁー」
「……止まってください」
俺に無理やりおぶさろうとするエルジェを引き剥がそうとしている中、レリルが真剣な表情で俺達を制す。
真っ直ぐ奥のほうを見つめ、見ない何かを睨んでいる。
奥には、少し広めの空間があった。
まさか、あそこに【魔精霊】が居るのか?
「どうしたの?」
「まさか、居たのか?」
「わからない。だが、今はレリルに全てを任せるしかない」
追いついてきたエルジェとロイス。いつでも戦闘できるように【紅魔の鎧脚】を装備。ロイスも剣を抜刀し、エルジェは緊張感のない顔をしていた。
しばらくするとレリルが動く。
「居ました」
「どこだ? ……俺には見えないけど」
「僕にもだ」
「うーん……なんだか薄っすらとは見えるような気がする~」
俺とロイスには見えなく、レリルとエルジェには見えるか。
「今、皆さんにも見えるようにします。ですから、その後は」
視線を送っていいですか? と問いかけてきたので俺は頷く。エルジェとロイスも同じく頷き、レリルは手を前に出した。
光の粒子が集まってくる。
それは、微精霊。自然界に存在するエネルギーだ。それを集めているのようだ。さすがは精霊王といったところか。
「お願いしますね、皆。いけえー!」
集めた微精霊を解き放った。そのエネルギー体は、広い空間へと真っ直ぐ突き進み、弾けた。何もない空間だが、そこから徐々に姿を現していく。
それは、女性のような形をしている。
でも、あの禍々しいオーラ。あれは明らかに普通の女性ではない。あれはおそらく、いや確実に【魔精霊】の親玉ってところだろう。
それも、この森を通る旅人や冒険者を襲って怪我をさせたり、殺したりしている張本人。ケタケタと不気味に笑い声を上げ、ゆらりゆらりと軌道を描くように動く。
まるで、西洋人形のようなドレスを身に纏っているが不気味なくすんだオーラでそれも台無し。姿を現したことで、周りから下級の【魔精霊】がまるで女王を守る兵士のように集まってきた。
「かなり大変そうだな」
「ああ。でも、ここで引くわけにはいかない」
「そうだね。ここで引いていたら」
「もっと多くの犠牲者が出ます」
隠れていた俺達は、姿を晒す。それを見た【魔精霊】は、獲物を見つけたようにこちらを見て不気味に笑う。
周りを浮遊している下級の【魔精霊】も戦闘する気満々だ。
「決まりだな! 皆! 行くぞ!!」
戦闘開始。先に俺とロイスが前に出た。突っ込んでくる下級の【魔精霊】を蹴散らしてすために俺は剣を展開し、ロイスと共に切り裂いていく。
術を発動しようとしている奴から先に。
「いっけえ!!」
エルジェの攻撃が、俺の背後を取ろうとしていた【魔精霊】に直撃。
「ナイスサポート!」
「へっへーん! 次、行くよー! エルジェ・レイ!!」
いつもの【聖天術】が複数の下級の【魔精霊】へと突き刺さる。
それにしても。
「こいつら、倒しても倒してもキリがないな」
「やっぱり、親玉を倒さない限り増え続けるってことなのか?」
背中を付け合い、ロイスと共に眉を顰める。どうやらロイスの言うように、あの【魔精霊】が何か指示し、空間が歪んでそこからどんどん増え続けている。
「このままじゃ、長期戦になるな。どうする?」
「どうするも何も。簡単なことだ」
「簡単?」
「ああ。だってさ、こっちには……精霊王が居るんだぜ!!」
頼んだ、レリル。俺達が下級の【魔精霊】を引き付けている間にレリルは【魔精霊】の背後へと回りこんでいた。魔王や天使の力を無闇にぶっぱしてしまっては、森の生態系を破壊しかねないからな。俺達は大人しくサポートに徹する。
「同じ精霊として、道を踏み外したあなたを救ってあげたい。ですが、私はまだまだ未熟。せめて、王としてあなたを……倒します!!」
レリルはいつも以上に真剣な表情で構える。【魔精霊】は、レリルを攻撃しようとエネルギーを収縮。
術式を展開している。
「遅いです! フレア・ブレード!!」
「―――――!?」
術式を展開せずの先制攻撃。
あれが【精霊術】なのか? 一瞬にして生成された炎の刃が【魔精霊】を切り裂いた。だが、それほど強力な攻撃ではなかったらしくかすり傷程度だった。
その間、下級の【魔精霊】がレリルを襲う。撃退しようと、魔力を練り上げるが。
「霊児さん! ここは私にお任せください!」
「大丈夫なのか!」
「はい! 今から、お見せします。精霊王としての力の一部を!」
「……そういうことなら、俺は全力でサポートするぜ! 今こそ見せてやる! 【魔王の威光】を!!」
この間、エルジェとの絆が生まれた時に解放された俺の能力。右手を天へと掲げると、俺を中心に眩い光が広がり、エルジェ達を包み込んだ。
「な、なにこれ! すっごい力が湧いてくる!!」
「これは……温かいです」
「何をしたんだ? 霊児」
「俺の能力のひとつ【魔王の威光】だ。これは、俺が仲間と認めた者達の身体能力を一時的に底上げすることができる!! さあ! レリル! 思いっきりやれ!!」
「……はい!」
下級の【魔精霊】の攻撃を華麗に踊るかのように回避しつつ、マナを練り上げていく。すると、レリルの体が色鮮やかに輝いた。
赤、青、緑、黄の四色の球体が出現し、レリルの周りをくるくると回る。
「炎よ!」
宣言。
すると、赤の球体から炎を噴き出し下級の【魔精霊】を一掃。
「水よ!」
宣言。
すると、次に青の球体から収縮された水が噴き出し薙ぎ払う。
「風よ!」
宣言。
すると、緑の球体を中心に荒れ狂う風が巻き起こった。
こちらまで吹き飛ばされそうだ。
「地よ!」
宣言。
最後に黄色い球体が地面へと潜り込み【魔精霊】達へと鋭い棘が突き刺さった。
「我は地水火風! 四属性を統べる精霊の王レリル! 悪しき力に染まりし我が同胞よ! この一撃にて大地に眠りなさい!!」
手を天へとかざすと、四色の球体はひとつになりて色鮮やかに輝いた。それは徐々に形を変えていき、二倍、三倍にも大きくなり、生成されたのは……ハンマー?
「せーのっ!!!」
振り下ろされる色鮮やかな巨大ハンマーは、身動きが取れない【魔精霊】へ直撃した。
「アアアアアアッ!?」
悲痛の声を上げる。うわぁ、まさかのフィニッシュは精霊術(物理)とは。だけど、これで終わったのかな?
大きなクレーターができた中心にピクリとも動かない【魔精霊】の姿が。しばらくすると、徐々に光の粒子となり消滅する。
同時に、レリルが持っていた巨大なハンマーもマナへと分散した。
「終わりましたよ、皆さん!」
「意外とあの子、危険なんじゃないのか?」
「一応精霊王だしなぁ。敵にはならない、と思うけど」
笑顔のままこちらに近づいてくるレリルを見て俺とロイスは苦笑い。
「まあでも」
「ああ」
「え?」
近づいてくるレリルを飛び越し俺とロイスはレリルを襲うとしていた生き残りの下級の【魔精霊】を一緒に攻撃。
「まだまだ未熟なところがあるから大丈夫か?」
「大丈夫か? レリル」
「は、はい。すみません、助けていただいて」
「いいっていいって」
「おーい! もう相手はいないのー!」
一人で戦っていたエルジェが大声を上げる。あいつも仲間でよかったと心底を思ってる。知能や性格には問題はあるが、戦闘力は本物だからな。
あの数の【魔精霊】を清々しい表情で、殲滅してしまったようだ。
「ああ! もう終わりだ! 後は街に帰って報告をすれば終わりだ!」
「やっとか……! やっとこの森を抜けられる!」
「これにて一件落着、ですね」
「だな。さあ、早くこの森を抜けて街に戻るぞ!」
精霊王レリルの活躍により、無事クエストはクリアできた。方向音痴勇者ロイスもやっと森を抜けられると涙を流している。
俺も、また大きなクエストをクリアして満足。
さあ、帰ろう。
俺達の街に! クエストは報告するまでがクエストだ!




