第三話
「そうか。この森で【魔精霊】が居たのか。僕も気配だけは感じていたけど。だったら、中々人が通らなかったことが納得いくな」
「これ以上怪我人を出さないためにギルド側から【魔精霊】を倒すまでは森には入らないようにって報告がしているからな。それが今から三日前のことだ」
「すごいタイミングだね」
「ロイスさんが迷子になった日にちと丁度重なります」
「僕はどれだけ運が悪いんだ……はあ」
ここで出会ったのも何かの縁ということでロイスは俺達のクエストを協力してくれるようだ。勇者の加入により戦力が強力になった。
これならいけるな。
ちなみに勇者は世界を救うために選ばれし者としてギルドからの依頼を途中で割り込み参加できるのだ。そして、クエストをクリアした場合は報酬もしっかりと貰える。
さすがは勇者と言ったところか。若干ロイスに嫉妬しながら森を進むと、徐々に邪悪なオーラがこちらに流れてくる。
まさか、これが【魔精霊】の?
「そろそろだな。よく【魔精霊】が人を襲っていた場所っていうのは」
「ですね。この波動……この近くにいます。でも、まだ人間界のマナに慣れていないので正確な位置までは」
「この感じ……どこだ?」
近くにいる。それだけがわかった俺達は戦闘態勢をとり、周りを警戒する。
「わひゃっ!?」
「エルジェ! どうした!」
エルジェの悲鳴に振り向くと、太ももを押さえて訴えてきた。
「な、なんかに舐められたような」
「何? まさか【魔精霊】か?」
「だけど、どこにも姿は見えないな」
辺りが薄暗くどこに何がいるのかわからない状態になっている。俺とロイスは背中を合わせて周りを観察。
エルジェとレリルも一緒に周りを見渡しているが。
「きゃっ!?」
「レリル! どうした!」
今度はレリルの悲鳴に振り返ると両手でお尻を押さえて頬を若干紅潮させ口を開く。
「さ、さっき、何かにお尻をその」
「……まさか」
また探そうとすると。
「わわっ!?」
「ひゃあ!?」
「今度はどうした!」
エルジェとレリルの悲鳴に振り返ると、今度はどちらとも胸を押さえていた。
「こ、今度は胸を触られた!」
「わ、私もです」
「ロイス。まさかとは思うが」
「ああ。僕も思ったところだ。今、ここにいるだろう【魔精霊】は」
《変態だ!》
声が重なった。悪戯というよりも、単なるスケベ行為。変態の精霊。
現に、エルジェとレリル。
女の子しか襲っていない。この薄暗い闇の中で、姿を暗ましながらエルジェ達の体を隅々まで触る気だな。だが、思い通りにいかないぞ。姿が見えないんだったら、見えるようにすればいいんだ。
「エルジェ! 半径五メートルまで光を放出できるか!」
「え? で、できるけど」
「よし。じゃあ、俺の合図に合わせて放出しろ! そして、ロイスとレリルは目を瞑ってくれ!」
「なるほど。そういうことか」
「その作戦が一番だと思います」
「ああ」
ロイスとレリルはわかってくれたらしくいつでも目を瞑れるようにする。
「えーっと。まだよくわからないけど……準備いいよ!」
「よし。いくぞ……ゴー!!」
瞬間。
俺とロイス、レリルは目を瞑り、エルジェが翼を広げて……輝いた。
「輝けー!!!」
目を瞑っていても、どれだけ強力な光なのかがわかる。
これならば!
「わああ!!?」
「目があああ!!?」
「痛い! 痛いぃ!?」
どうやら成功したようだ。俺は目を薄っすらと開けて、周りを見渡す。
そこには、目を光でやられた【魔精霊】の姿が三体。
「ロイス! レリル! いまだ!」
「ああ!」
「いきます!」
三人同時に、近くにいた【魔精霊】へと攻撃。俺は【紅魔の鎧脚】で蹴り飛ばし、ロイスは剣で切り裂き、レリルは土属性の魔法で岩石を落とし攻撃をしていた。
「ふう。なんとかなったな」
「そうだな。それにしても……まるで人形みたいなやつらだな」
「たぶん、これは下級精霊だと思います。まだ力が未熟な存在ですね。ちょっと失礼しますね。あなた方のマナを拝借します」
どんなデザインかと思ったら、なんだかデフォルメな可愛いデザインの精霊だった。もう二体は消えてしまったらしい。
レリルは人間界のマナに慣れるべく【魔精霊】に触れ、マナを感じっている。これで少しは【魔精霊】を探すのが楽になるだろうな。
「へー。これが【魔精霊】なんだぁ。わー! ぐにぐにするー! おもしろーい!」
気絶している【魔精霊】を面白がってぐにぐにと触りまくっているエルジェ。確かに弾力性があって、面白そうだが、今はそんなことはどうでもいい。
「こいつらが下級だったら、この先にいるのか? 上が」
「……います。この先に、中級ぐらいの精霊の波動が」
下級の【魔精霊】のマナを読み取ったレリルは、この先に居る精霊達を感じ取っているようだ。
「だったら、進むしかないな」
「だな」
「では、行きましょう」
「これは? 持って行っていい?」
どうやら【魔精霊】の感触が気に入ってしまったのか。エルジェは気絶している【魔精霊】を持って問いかけてくる。
さっきの行動から考える限り、あいつは女性ばかりを襲うスケベな奴。 このまま放って置いてもいいが、そうなるとまたこの森に入った女性冒険者が、またエルジェ達のような目に遭ってしまうのは確実だ。
「だったら、私がどうにかしましょうか?」
「どうにかって、どうするんだ?」
レリルが挙手をして【魔精霊】へと近づいていく。
「この子も精霊。だったら王である私がこの子の中にある悪を取り除けば、もう悪事はしないと思います」
「そんなことができるのか?」
「やったことはないですが。できると思います」
「おし。じゃあ、お願いできるか?」
「はい」
穏やかな表情でレリルは【魔精霊】に手をかざす。その姿は、今までの可憐な少女とは違い、まさに王としての風格が現れてきている。
刹那。
レリルの周りから光の粒子が出現し、まるで蛍が宙を舞っているようなに輝き始めたではないか。その粒子は、徐々に【魔精霊】へと収縮していき……消えてしまった。
ど、どうなったんだ?
「これで、あの子はこの自然界で他の精霊と共に過ごせるようになりました」
「そうか。じゃあ、もう【魔精霊】じゃないんだな?」
「やったことはなかったですが、成功してよかったです。ですが、今のまだ道を踏み外していない者だったから可能でした。王とはいえ、私の力はまだまだ未熟です。道を踏み外した者を浄化することが、できるかどうか」
精霊の王なのに、未熟さゆえに救える可能性が低いことを悔しそうに俯く。
だよな……同じ精霊として、いや王としては助けれる精霊は助けたいよな。
「レリル! 元気出して!」
「エルジェさん?」
俯いているレリルにエルジェは天使の抱擁とでも言うのか。
優しく抱きしめた。
「レリルはよくやってるよ。一生懸命に。だから、元気を出して! 笑顔笑顔!」
「ふぁ、ふぁい。ありがふぉうごふぁいまふ」
無理やりな笑顔の作り方だな。エルジェは無理やりにレリルに笑顔を作らせた。口を掴んで。
天使さんよ。
もう少し、天使らしい元気のつけ方はないんですかね。
「本当にいい仲間だな、霊児」
「ははは。結構、苦労することが多いけどな」
「ああいう仲間は大切にしたほうがいいぞ。中々出会えないからな。天使に精霊王っていうかなり豪華な仲間だけあって余計にな」
「だな。おーい! そろそろ行くぞー!」
エルジェがレリルを弄っているので助け舟を出す。
「はーい! ほら、行こうレリル」
「は、はい!」
さてはて、この先にいる【魔精霊】はどんなやつなんだろうな。少なくとも、さっき戦った奴らとは比べ物にならないぐらいの力を持っているに違いない。
気を引き締めて行かなくちゃな。
「そういえば、普通の精霊もあんな風にぐにぐになの?」
「え? ど、どうでしょうか? 私は触ったことがないので」
「……」
「な、なんですか?」
「レリルも精霊なんだよね」
「そ、そうですが?」
「じゃあ、レリルも」
「あ、あのエルジェさん? 私は、他の精霊とは違いますので。えっとその……り、霊児さーんっ!?」
あーあ。
またやってるよ。さっきのちょっと天使らしい一面はどこにいったのやら。助けを求めるレリルをアホ天使から救出すべく、俺は駆けた。




