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第二話

 【魔精霊】とは、精霊という存在に相反する魔の精霊のことを示す。幽霊とも言われることもあり。その姿を見たものは精神的に苦しめられることが多く、時には自然すら汚染する者もいるらしいのだ。


 もちろん、その魔精霊は精霊と同じ力を持っていて、実体を持たないのが多いが、道を踏み外した魔精霊は、化け物と化してしまう。

 魔の精霊と言っても、精霊は精霊だ。

 良心な存在もいる。


 ただ行き過ぎた悪戯のせいで勘違いされやすいんだと思う。この記憶も魔王のものだが、魔王も何度か魔精霊に悪戯をされたことがあるらしい。

 そのせいで何度も体を悪くしたことか。それでも、ゼルファスはお人よしだったために魔精霊の悪戯を何度も許していた。


 俺達が請けたクエストは【魔精霊】の調査、討伐をするために、ジュダルの森へと訪れている。そして、旅人を襲う【魔精霊】らしき存在を確認した。

 ジュダルの森とは俺が最初に居たところ。

 つまり、魔王城がある森だ。その【魔精霊】は、森を通る旅人や冒険者を襲って苦しめたり、殺したりしている。

 悪戯にしてはやり過ぎだ。これは明らかに道を踏み外していると判断したためギルドに依頼が来たというところだろう。


 本来ならランクがCぐらいの実力じゃないと無理なクエストだったはずだ。しかしながら、今度もエルジェが自由依頼書にそれが貼ってあったのをいち早く発見し、受注しようとしていた同じ冒険者を蹴散らして持ってきたということだ。


「お前はどうしてそう簡単に危険に首を突っ込むんだ? 俺は、ゆるりまったりと冒険者生活を満喫したいって言ってるだろ?」

「そんなこと言って~! 文句言いつつも付き合ってくれる霊児であった~! もう! 素直じゃないんだから~!」


 などと嬉しそうにくっついて、恥ずかしくもなく頬と頬を擦り合わせる。あー、何度も思うがこいつにくっつかれると体がむずむずする。

 これも魔族と天使という弊害のせいなのか……普通の魔族だったら、むずむず程度じゃすまなかっただろうけどな。


「くっ付くな暑苦しい」


 現在は、その森へと入っている。木漏れ日が差し込む中、俺とエルジェ、そして協力者である精霊王レリルを加えた三人が移動。

 同じ精霊同士なので協力を要請したけど。


「ごめんな、つき合わせて」

「いえ。霊児さんには助けてもらいましたし。そのお礼も兼ねてお手伝いしますよ。それに同じ精霊として見過ごせませんから」

「そうか。ありがとうな。そんで、よろしく頼む」


 と、俺は拳を突き出した。しかし、その意図が理解できていないレリルは首を傾げた。


「えっと、これはどういう意味があるのでしょうか?」

「あー、悪い。気の合う仲間同士よろしくっていうことだ。ほら、俺の拳にレリルも」

「は、はい! よろしくお願いします!」


 少しぎこちないところはあるが、しっかりとその小さな手で拳を作りくっ付ける。まだあまりわかっていないようだが、それでも嬉しそうな顔をしている。


「あー! レリルばっかりずるい~。私も私も~!」

「お前は、離れろ」

「……えへへ」


 あれ? レリルが立ち止まって自分の手を見ながら笑ってる。そんなに嬉しかったのかな? 


「レリルー。どうしたんだのー?」

「あっ! えっと、なんでもないです!」


 エルジェが呼びかけると、ハッと我に返り追いついてきた。


「どうしたの?」

「なんでもないです、はい」

「そう? あっ! 前方に魔物発見!」


 レリルのことも気になるが、今は魔物との戦闘だ。俺は【紅魔の鎧脚】を装備。

 エルジェは、飛行し術式を展開した。相手は、猪型の魔物で《ウリガ》という。その凶暴性は図鑑などにも記されている。

 敵を見つけると誰これかまわず突進してくる。その突撃力は岩をも砕く。

 二本の生えた牙は、人間の肉体を簡単に貫くほどだが、このメンバーならいける。


「よーっし! いくぞー!!」

「ああ!」

「私も準備万端です!」


 いざ戦闘開始! と、魔物へと駆けるが。


「でやああああ!!」

「誰だ!?」


 第三者の介入。木の上から落ちてきたその人影は、一瞬にして《ウリガ》を切り裂いてしまった。


「ちょっと! なんで邪魔するの!」

「邪魔はしていない。僕は、最初からこの魔物を狙っていたんだ。丁度、腹が減っていたからな。よし、運良く肉が落ちたか。……それで、お前達は冒険者か?」


 得物である長剣を鞘に収めて近づいてきたのは、少年剣士だった。焦げ茶色の髪の毛に赤いハチマキに、軽快に動けるように作られたライトアーマーに赤いマント。

 左手にだけ頑丈そうな篭手を装備している。

 俺と同じぐらいだろうか? こんなところにいるということは同じ冒険者か? でも、一度も見たこと無いな。


「ああ、そうだけど。あんたは?」

「僕は、ロイス。ロイス=ベルクリア。勇者だ」


 ……今度は勇者ですか。天使以上に出会ってはいけない存在じゃないっすか。




・・・・・




 そんなこんなで、休憩しながら俺達は話し合いを始めた。クエスト途中で出会った勇者ロイスの話を聞くとどうやら街に行く途中だったらしい。

 ジュダルの森を通って俺達が住む街であるトルスタへ向かう途中で迷子になったとのこと。この勇者……どうやら方向音痴らしく、森に何とか入ったのはいいが、それっきり出られなくなったらしいのだ。


 勇者が方向音痴ってどうなのさ。

 正直に思った。

 丁度水辺があったのでそこで持ってきた鶏肉を焼いている。結構安売りしていたからな。焚き火を囲い、鶏肉は焼きあがるのを待ちながらゆっくりと会話。


「で? 迷子だからここ通った人に道を教えてもらおうと、森を迷って何日目なんだ?」

「今日で三日になる。はあ、どうして僕はこうも迷子になりやすいんだ! ちゃんと道を真っ直ぐ進んでいたのに……!」

「道を真っ直ぐ進んで迷子になるって、ある意味才能だよな」

「そんな人居るんだね~」

「なるほど。人間界では、このように異常なほどの方向音痴な人間がいる、と」

「レリル。付け足しておくとこいつは特殊だ。人間界に住む人間がこいつのように方向音痴じゃないからな?」



 いつものようにメモを取っていたの付け足しておいた。それを聞いたレリルは素直にふむふむと頷き付け足していく。


「そうそう。こっちの紹介がまだだったな。俺は霊児。冒険者だ」

「私はエルジェ! 同じく冒険者で天使だよ!」

「天使? まさかとは思っていたが、本当に天使だったとは」


 それはそうだよな。誰がどう見ても、天使だよなエルジェは。


「えっと、私はレリルといいます。同じく冒険者で精霊王です」

「精霊王だって!? そんな馬鹿な。精霊の王がこんな女の子で、それも冒険者をやっているなんて」


 うんうん、信じられるないのはわかる。わかるけど、真実なんだよ。俺も、最初は驚いた。そもそも精霊とはマナから生まれる存在であり、普通の生物と同じく成長というものをしない。つまり、レリルは一生この幼い姿のままだということだ。


「嘘じゃない。レリルは精霊界から交友を深めるために人間界で過ごすことになったんだ」

「嘘みたいだ。まさか、天使と精霊王が僕の目の前に居るなんて。てことは、霊児。お前も何かとんでもない存在なのか?」


 やべ、こっちに矛先がきてしまった。だから、あえてただの冒険者ってことで紹介したんだが。エルジェやレリルが素直に自分の正体を明かしてしまったので、自動的にこうなってしまった。

 相手は勇者だ。下手に魔王なんて言ったらどうなることか。


「俺は普通の」

「霊児は魔王だよ」

「ま、おう?」

(このアホ天使!!!)


 予想はしていたが、ここは冷静に同様せずエルジェへと脳天チョップを食らわせた。


「わぷっ!? なんで! なんで? 嘘はついてないのにー!?」


 お前は、正直すぎるんだよ! くそ、ロイスの反応は……?


「魔王だって! まさか、お前が今この世界を滅ぼそうとしている!」


 敵意むき出しで、立ち上がり抜刀した。

 ですよねー。こうなることは予想していましたよ。ここは、なんとしても誤魔化さなければならない。このままでは、俺の冒険者生活が早くも終了してしまう!


「違う! 違うんだって!」

「何が違うんだ! そういえば、よく見たら魔王らしい格好をしているな、お前! やっぱり、魔王なんだろ!」

「まーった! まった! 俺は確かに魔王だけど」

「やっぱりそうか! ならば、勇者として今ここで!」


 振り上げられる剣。

 本当に待った。その危ないものを収めてください。 


「だからちょっとタンマ! ストップ!! 俺は、魔王だけどお前が思っている魔王じゃないんだ!」

「なに?」

「いいか? 魔王と言っても世の中には色んな種類の魔王が存在する。お前が思っているような悪魔の王。そして、魔法使いの王とか。俺はその魔法使いの王なんだよ! それに、魔王だったらどうして冒険者なんてやっている? どうして世界を滅ぼそうとしない? おかしいとは思わないか?」

「それが作戦なんじゃないのか!?」

「ぜんぜん! ほら、エルジェやレリルもなんか言ってくれ。俺は悪いことをしていたか?」


 助力を求めるように、二人へ問いかける。 

 すると、すぐエルジェが口を開けた。


「霊児は、そんなことしないよ。冒険者登録する時だって、お金が足りなかった私に貸してくれたし。一緒にクエストもやってくれているし。あっ、それと、ご飯も奢ってくれるし!! あとあと、なんだかんだで羽の手入れもしてくれるし。寒い時は一緒に」

「待て! 最後のは誤解されるから止めろ!」


 誤解されないように言い訳をするが、一緒に寝たは寝たが俺は途中で抜けた。朝まで一緒に寝ていたら俺が死んでしまう。

 ……なんだか、俺は餌付けをして飼い慣らしているみたいな感じに思われてないよな?


「私は、まだ出会って日が浅いですけど。霊児さんは世界を滅ぼそうなんてことは考えていないと思います。今日だって、私のことを助けてくれましたし。霊児さんが魔王だったとしてもいい魔王だと私は思います」

「……」

「な? ほ、ほら。鶏肉が焼けたぞ。これでも食べて落ちついてくれ」


 こんがりといい具合に焼けた串に刺さった鶏肉を剣を突きつけているロイスへと差し出す。くんくん、と匂いを嗅ぐように鼻を動かした後、剣を収めて座り込み、鶏肉を受け取った。


「本当に、世界を滅ぼそうとは考えていないのか?」

「お、おう! むしろ世界を救おうとしているぐらいだ!」

「世界を救う?」


 この際だ、勇者を納得させることを言わなくちゃならない。どうせ、今世界を滅ぼそうとしている魔王は一人だけだし。

 記憶通りなら。


「ああ。俺は、世界を救う。この美しい世界を! 結構居心地がいい! 俺は楽しい冒険者生活を過ごしたいって思ってるんだ!」


 両脇に居たエルジェとレリルを見て、にっと笑う。


「一緒に居たいって思える仲間だってできたしな。こいつらが居るこの世界を俺は救いたい。守りたいと思っている!」


 ちょっと恥ずかしいけど、この場を乗り切るためならば!


「……そうか。そこまで言うんだったら、信じてやる」

「ほっ」

「だが! ひとついいか?」

「ん? どうした?」


 すっと、指差したのはまだ焼かれている鶏肉だった。


「もうひとつ貰っていいか? 僕は、鶏肉が大好きなんだ」

「そ、そんなことか。ああ! いいぞ!! 遠慮なく食べてくれ!!」


 丁度焼けた鶏肉を差し出し、握らせた。よかった……こいつは鶏肉が大好きだったのか。安いから多めに買っておいて助かった。


「よし。じゃあ、冷めないうちに食べよう!」

「おう!」


 とりあえず、成功かな? 一安心だ。


「ねえねえ、霊児」

「ん?」

「私達は仲間?」


 まるで、何かを待っている飼い犬かのように羽を広げ、俺を見詰めてくるエルジェ。あー、さっき恥ずかしくも仲間だってはっきり言っちゃったからなぁ。

 改めて言うのは、もっと恥ずかしいが。


「当たり前だろ。ほれ、お前も食え」

「えへへ。ありがとうー! はぐっ! うーん! おいしいー!」


 本当においしそうに食べる天使だ。その蕩けた表情は、本当においしいと思わないとできないな。

 次に焼けた鶏肉をレリルへと渡す。


「ごめんな。勝手なこと言って」

「いえ。嬉しかったです。仲間だって言ってもらえて。これで一歩目標に近づけたと思います」

「そうか。じゃあ、食べるか? 一緒に」

「はい!」


 焼きたての焼き鳥を一緒に齧り付く。

 熱々で、火傷しそうだが溢れる肉汁とこの肉厚……おいしい! ん? そういえば精霊って、俺達と同じように食事とか普通にするんだな。

 てっきり良質なマナがあれば大丈夫的なあれかと思ったんだけど。ま、それは勝手なイメージだな。こうやっておいしそうに食べているんだ、それでいいじゃないか。


「あふっ! あふっ! あ、あふいですけど……んく。おいしいですね!」

「だな」


 にこっと笑ったレリルは、精霊王なんて思えないほどの可愛らしい女の子の笑顔だった。


「とったぁ!!」

「あああ!! それは僕が狙っていたやつだぞ!」

「へっへーん! 早いもん勝ちだよー!!」

「まったく、何やっているんだよ、お前らは。ほら、まだ鶏肉はあるから喧嘩だけはするな」


 こっちは接するのが大変だな、元気過ぎて。

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