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ぷろろーぐ

俺は今空にいる。飛行機に乗っている。


上はペンキでベタ塗りをしたような青空。下は、そうだな、例えるなら...否、わざわざ例える必要は無い。分厚い雲の絨毯がある。

雲の下はかなり荒れた天候だという情報が、無線で届いていた。

そんなところには、できれば飛行機乗りは行きたくないものだろう。だが雲の下に降りない訳にはいかない。

燃料がもう残り少ないから...できることならずっと飛んでいたいのだが、まぁ、そんなことをいくら言っても思ってもしょうがない。どうしようもない事だ。


世の中には、どうしようもない事ってのがいくつも存在する。これはそのうちの一つだろう。


アクションのひとつひとつに、エネルギーを必要とする人間がつくった物なのだから、エネルギーを必要としない訳がないじゃないか。

ずっと飛んでいたいなんて、子供じみた発想だ。

んまぁ、実際俺は子供なんだがな。

でも、大人はずっと飛んでいたいと思わないのだろうか?

あぁそうだった...空に大人はいない。

まず大人は空を飛べないんだったな。

重すぎるんだ。


だけども空を飛んでいる連中は違う。

いくら歳をとっても、大人ぶっても、空を飛ぶやつらだけは皆子供のままなんだ。


あぁ、俺はずっと子供でいたい。

ずっと空にいたい。

でも、人というものはいつか死ぬ。

翼を失い、飛べなくなる。

空を失ったまま死ぬのは嫌だ。

俺ァどうせ死ぬなら空で、子供のままで...死にたいものだなァ。


とかなんとかくだらない事を考えているうちに、基地付近にやってきた。この辺りが降下ポイントだ。


『きこえるか?アンタレス。そろそろ降りてこい』

「了解」


アンタレス。相変わらず小っ恥ずかしいコールサイン。

でも、変える気は無い。なぜかって?それは...


チカチカッ


視界の端で何かが光った。航空機だ。

味方か?遠い。よく見えん。


「.....コントロール。こちらアンタレス。この辺りに味方機が上がっているとかいう情報はあるか?」

『ん?ちょっと待ってくれ...』


敵機か?いやでも、そんな事は流石にないだろう。この辺りはもうひとつ基地があったはずだ。そこから出たか帰って来た味方機の可能性が高い。まぁもしもって事、ありはするだろうけど。


『いや、北のエリア6に連絡をしてみたが機は一切上げていないそうだ。帰投する連中もいないらしい。もちろん、うちも上げていない。』

「わかった。ありがとう」


味方機は上がっていない。

他に考えられるのは民間機だが、こんな高度に旅客機なんかの民間機は上がってこられんだろうし、そもそもルートにここは入っていないはずだからその可能性もかなり低い...

となると敵機、こんな辺境にもやってくるのか...

ちくしょう、こちとら作戦後で疲れてるってのによ。


「コントロール。敵機を発見した。数は二、機種なんかはよくわからねぇ。兎にも角にもエンゲージだ」

『了解。気をつけろよ』


敵機をもう一度見る。

1000フィートばかし向こうが高いかな。


よし...見えてきた。

ちょっとでかいな...しかも双発機、あぁ、ブリッツだな。

双胴の悪魔なんてうちの軍からは、たいそうな名で呼ばれてはいるが、機体特性を理解していないパイロットが多く、格闘戦ばかり仕掛けてくる。結果、ただの的だ。

せっかく機首に機銃集めてんだからその素直な弾道と、双発自慢のハイパワーを利用して一撃離脱やれよ。馬鹿が。

向こうの軍はそんな事も教えてやらないのか?

それとも、教える奴らも馬鹿なのか?

まぁ、楽に金稼げるんだ。ありがてぇことじゃあないか。


で、もう片方は?単発機。シュラークか。

こいつは対地攻撃でうちにかなりの被害を与えている機体。

空対空能力は低い。ただ、防弾性能が高いのが厄介だ。


まぁいい、そんなこたァどうでもいい。

どうやって落とそうか。

燃料も弾も残り少ない。5分が限界だろう。

ヘッドオンで必ず一機墜す。

その後は...まぁ、あとはあいつらの動き次第。

臨機応変ってやつだな。


ゴーグルをかける。

シートベルトを締め直す。


...ブリッツが前に出た。まずはあいつからだ。


残弾確認。

高度確認。

速度確認。

軽くふかしてやる。吹き上がりも問題ない。

油圧、油温、水温、音を聴いて...吸気や排気系統もオールクリア。


あいつの軸に合わせる。

フルスロットル。

もう少し引き付ける。

まだだ。

もう少し。

今だ。

左に翼を振る。

軸外へ。

エレベータ。

右にバレルロール。

ラダーをあてて尾っぽを左に持っていく。

無理やり軸方向に機首を向ける。

ファイヤ。

刹那、奴のキャノピーが朱に染まる。

そのまま500フィート程降下。上昇。


シュラークはどこだ?

見つけた。真後ろ、ついてきている。

あの馬鹿みたいに重たい機体がこちらの上昇についてこられる訳が無い。つり上げるか。

スロットルは全開。

まだ速度、高度ともに余裕がある。

向こうは?...キツそうだな。

昇る。昇る。まだだ、まだ昇る。

そろそろか。

スロットルを絞る。

フルフラップ。

エレベータ。思いきり操縦桿を引く。

ストール。

トップで翼から一瞬空気が剥がれた。

軽くラダー。

ターン。

機首が真下を向く。

そしてまた、空気が翼にまとわりつく。

すぐにフラップを戻す。

フルスロットル。

プロペラ後流を利用して安定させてやる。

シュラークは腹をこちらに向けて滑り落ちている。

当てやすい。

ストールだ。

立て直せてない。

素人かよ。

照準に入れる。

撃つ。

そのまま下へ離脱。

確認。

燃えている。

タンクに当たったか。

水平に戻す。


残弾確認。残り二十発か。

燃料確認。戦闘にあまり時間もかけていない、まだ大丈夫。

油圧、油温、水温、吸気や排気系統もオールクリア。

被弾はもちろんしていない。なんせ相手に撃たせなかったからな。


はぁ、敵のお二人さんよォ...

あんたらはこんな所までわざわざ死ににやって来たのか?

あんたらは空を飛べているから子供ではあるんだろう。

だが、あんたらは正規軍。

国だとか信念だとかそういった荷物が多すぎるんだよ。

そして、それらは重い。


俺は傭兵。

金の為だけに生きる。金の為だけに屍を積む。

国、信念...その他、愛だとか友情だとかそんな荷物は持っちゃあいねぇ。


空で生き残るのは、軽い奴らだ。

重いやつから順に死んでいく。

死にたくなけりゃ軽くなるしかない。


「おっといけね、報告し忘れてた。」


「コントロール。アンタレスだ。敵機は二機とも撃墜」

『了解』

「追加報酬よろしく頼むぜ」

『けっ、マーセナリーめが』

「はぁ?そんな言い方ァねぇだろ?我が軍屈指のエースパイロットだぜ?」

『関係ねェよ。それより早く戻ってこい。不死鳥サマ』

「チッ...はいよ」


ったく、またそんな呼び方しやがって。

俺自身その呼ばれ方も、このコールサインも、そんなに気に入っちゃいねぇんだヨ。

だがまぁ、ある種の戒めみたいなものなんだがな...コールサイン“アンタレス”ってのは。

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