ACT9
プルルルル……今日何度目かの通報が入る。他の巡査はすべて出払っていて、留守を預かっていたのは二年目の新人、桂木 裕輔。桂木は緩慢な動作で受話器を取る。
「はい、こちらX交番です」
「……」
「もしもし?どうしました?」
受話器の奥からはジジ、という音と共にかすかに人の声のようなものが聞こえるばかりで、話者の声らしきものは聞こえない。
いたずら電話だろうか、とも思ったが、事件性を感じないわけでもない。もしかしたら声を出すのもままならないような緊迫した状況なのかもしれない。
まずいなぁ、と思う。もしそんな差し迫った状況だとしたら、自分だけでは手に負えない。
そんなことを思いながら耳をそばだてていると、急にピッ、という電子音がした。電子音?
「ジジ……これは、自動音声です。警察に対し通告する。A事件について公表し、謝罪せよ。繰り返す。A事件について公表し、謝罪せよ。我々はどこにでも存在する。事件は終わらない。目的が達するまで終わりはない。A事件について謝罪せよ……」
桂木はどっと冷や汗が浮くのを感じた。合成されたようなその音声はひたすら単調に流れ続ける。喋っているのが人間ではないので何かを言い返すこともできない。他に誰もいない交番。桂木は泣きそうになった。
「こんなん俺にどうしろっつうんだよ」
その間も音声は流れ続ける。向こうから切れる様子もない。
なぜこんなものを、小さないち交番にかけてくるのか。警察に向けたものなら警視庁とかに直接かけて欲しかった。
「A事件について謝罪せよ。我らは雪町 楓の遺志を継ぐ者……」
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