〈8〉荒沢さんはランクアップと新魔法を開発する
トールバン大陸歴321年4月26日
翌朝
窓から差し込む日差しで目がさめる荒沢さん。
殆どの宿の窓は木窓で寝ているときは閉じているが、この部屋は高いだけあり硝子窓だ。
しかし前の世界の様に透明ではなく少しばかり歪みがあり色もついている。
基本的に硝子は迷宮から発見された硝子製の物を工房で再加工して使用している。
硝子を一から作る技術はまだ確立されて居らずその為に硝子は非常に高価だ。
何せ迷宮では硝子よりも高価な魔道具や財宝を目当てに皆挑む為に硝子は発見されても壊れやすく目立つ為に迷宮内の魔物に狙われやすくなるのであまり取られない。
まあ、中には商人の依頼で取りに行ったり硝子専門の探索者がいるらしい。
閑話休題。
それしてもこの世界に来てからは規則正しい生活を送っている。
日が昇ると共に起きて沈むと共に眠る。
まさに健康的だ。
………
……
…
珍しくラクスとクイーンはベッドに居らず何処に居るのかと辺りを見回すと浴室からシャワーの音が聞こえるので行ってみると、二人とも風呂場に居た。
「今日は随分と早起きだな」
「あっマスターおはよう」
「あら、マスター起きたのね。どうマスターも一緒に入るかしら?」
「そうだな。入るとするかな」
30分後……
朝風呂でサッパリ気分爽快とした後に模倣魔法でコーヒー牛乳を出し飲む。
他にもフルーツ牛乳など各種を出して小さな冷蔵庫を出して其処に入れておく。
地球の電化製品などは魔力が電力変わりになるので自分の魔力が切れない限り問題なく稼働する。
それにしても今まで魔力が切れた事がないな。
ステータスを見ると後半部分がerrorと出ているからどうなんだ?と思っていたが多い方なのか?
それとも意外と電化製品は魔力を使わないのか?
まあ、今まで問題なく使えているので別にいいか。
「今日は冒険者組合に行き解体が終わった素材の引き取りと売却を行うが、お前達二人はどうする?」と二人への気配りも忘れない荒沢さん。
「う〜ん。そうねぇ私は特にする事もないからついていくわ」
「妾も同意見じゃな。それに我らは契約精霊じゃぞ?基本的に契約者と共にいるのが普通じゃ」
「そういうものなんだな。わかった」
そう言えばちゃんと契約内容とか確認してなかったな。
気が向いたら確認して見るかな。
今日の予定は取り敢えず冒険者組合で素材の引き取りと売却を行いその後は教会にでも行って見るか。
その後は新しい魔法でも創造魔法で作成して試して見るかな。
鎧姿に着替えてラクスとクイーンはいつも通りのペンダントと剣になる。
食堂に降りてハブマに朝食を頼み出された朝食を食べ終わると早速冒険者組合目指して歩き出す。
朝早くの時間帯の為か冒険者組合は混雑していた。
皆依頼書が貼られている掲示板に群がり早い者勝ちとばかりに良い依頼書を取り合っている。
そんな冒険者達を横目に荒沢さんは買取カウンターに居るワーグワンの所に向かう。
「おはようございます。グラウさん」
此方に気付いたワーグワンが挨拶をして来る。
「ああ、おはようワーグワン殿」と此方も挨拶を返す。
「では、早速ですがいくつかの素材を買い取らせて貰いたいのですがよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない」
「今回は量が量ですので私の裁量で任されている金額を超えますので組合長の元へと御案内致します」と言われたのだ黙って頷き了承する。
ワーグワンに案内されて三階にある冒険者組合長室に通される。
扉をワーグワンがノックして「組合長。ワーグワンです」
中から「入れ」と許可が下りたので中に入るとそこには巌の様な立派な体格をした初老の男性が机に座り書類仕事をしていた。
立派な体格のせいか持っている羽根ペンがとても小さく見える。
「ん?ワーグワン後ろの冒険者は誰だ?」
「はい。彼はグラウさんと言いましてあの深い嘆きの森へと行き薬草採取を行い襲い掛かって来る魔物を撃退しまして、その魔物を解体したので売却したいとのことですが、量が量ですので私の裁量範囲を超えますので組合長の元へのお連れしました」
「ほう、お前に任せた裁量範囲を超える奴は久しぶりだな。それに深い嘆きの森産といえば他の地方にいる同種の魔物よりも上質の素材で有名だからな。最近の冒険者で深い嘆きの森に行ける奴はだいぶ数が減っていたのでちょうど良いところへ来てくれたな。まあ、立ち話も何だ座ってくれ」
組合長に促されてソファへと座る。
その対面に組合長も座り秘書の女性に「クララくん。すまないが何か飲み物を頼む」
「畏まりました。組合長」とクララと呼ばれた秘書はお茶を準備をする為に給湯室へ行く。
「そう言えば、自己紹介がまだだったな。儂はこのアドベンチャーの冒険者組合長のラガンだ」
「初めましてランク1冒険者グラウです」
「儂を前にして物怖じしない奴は久しぶりだ。気に入ったぞ。ガッハッハッハ」と獰猛そうにラガンは笑う。
2人の自己紹介が終わった時を見計らってクララが「失礼します」と断りを入れて2人の前にお茶を置きラガンの後ろに控える。
「それでは此方が素材のリストになります」とワーグワンが羊皮紙に書かれた素材のリストを渡す
「ふむ。思ったよりも量があるな。すまんが全てを買い取ることは出来ないな。なのでこのリストの中から吟味させて貰う。残った分は商業組合の方に売っても良いぞ」
「良いんですか?」
「ああ、基本的に儂ら冒険者組合が冒険者から素材を買い取りそれを商業組合に幾つか流しているから問題はない。原則魔物の素材は儂ら冒険者組合に先に渡してそれで儂らが買い取れなかった分を直接商業組合に売ることは認められているからな」と説明してくれる。
「すまんが明日まで時間をくれないか?」
「ええ、構いませんよ」
「助かる。それとランクだがなこれだけの数の魔物を仕留めたんだ。儂の権限でグラウお前をランク5まで昇格させる。本当ならランク7ぐらいにはしたいが、それは無理だな。後はランク6になると探索者と言う別の試験を受けることが出来るぞ。ある程度迷宮について勉強すると良い。ランク5以上になると迷宮について書かれた書物の閲覧が可能になるからな。後は護衛依頼と盗賊などの討伐依頼の二つを完了し次第にお前をランク6に昇格させるぞ」と一気にランクが5まで昇格した。
ラガンに促されて冒険者組合証を渡すと何やら魔道具にセットして10秒ほどで処理が終わり返されると確かにランク5になっていた。
「では、また明日来てくれ」
「わかりました。失礼します」
グラウが出て行った後ラガンは室内に残ったワーグワンに向き直り「面白そうな奴が来たもんだな」
「ええ、そうで御座いますね」
「よせよせ。その口調は儂とお前の仲だろうが」
「これは昔からの癖だと知っているでしょう?」
「わかってはいるがどうもむず痒くてな」
ラガンとワーグワンは昔一緒に冒険した冒険者パーティーの一員だ。
そしてクララはその冒険者仲間の内の一人の娘である。
その後久しぶりに三人は暫く談笑した。
◇ ◇ ◇
荒沢さんは冒険者組合を出た後アドベンチャーの街の外へ行き人気のない森の中にある拓けた場所に行き新たな魔法を考える。
「この世界の殆どの生物は魔力を持っているならそれを利用出来ないだろうか?」とブツブツと思考錯誤しながら魔法を考える。
「毒はどうだ?それもただの毒ではなく解毒剤などが効かない」
その考えの末完成した魔法が魔障粒子と呼ぶ新しい魔法だ。
触れたり吸い込むと体内の魔力と干渉して猛毒を生み出す魔法であり例え風の防護膜や光魔法のバリアを張ったとしてもそれを通り抜けて相手を害する凶悪極まりない魔法が出来た。
欠点は大量の魔力を消費する点だが無尽蔵と言えるぐらいに魔力を保有する荒沢さんにはうってつけの魔法だ。
勿論使用者である荒沢さんには効かない。
それと間違って味方に魔障粒子を行使した場合に備えて解毒出来る魔法を作る。
魔法名はシンプルに特効薬にした。
後は重力魔法を開発した所で日が沈んで来たので終わりにする。
新しい魔法を作るのに夢中になり昼飯を食べ損ねて腹ペコだ。
アドベンチャーの街へと戻った荒沢さんは宿に戻り腹一杯夕食を食べ部屋に戻り風呂に入り今日一日の疲れを癒した。
「ラクス、クイーンすまないがマッサージでもしてくれ」
「しょうがないわね。わかったわマスター」
「よかろう。妾がその疲れを癒してしんぜよう」と二人にマッサージされていると気持ち良くていつの間にか寝てしまう。