〈6〉荒沢さん勇者について聞く
光り輝く魔法陣から現れたのは6人の若者達であった。
彼らはキョロキョロと辺りを見渡して不思議そうな顔をして居た。
何故自分達が此処に居るのかわからない様だ。
神官長である初老の男ダグワーが一歩前に出る。
「勇者様方。ようこそファースト王国へ。私は貴方様方を異界の地より召喚致しました者達の長をやって居ります神官長ダグワーと申します。今は突然の事でさぞ混乱されて居る事でしょう。何故呼び出されたかの説明も踏まえまして我が国の国王陛下に謁見して頂きたく存じます。では、早速ですがどうぞ此方へ」と言葉は丁寧だが有無を言わさぬ迫力を持って6人の若者達にダグワーは移動を促す。
6人は困惑しながらも大人しくダグワーの後について行く。
魔法陣が描かれた場所から階段を上がった扉を開けると其処には鎧甲冑に身を包んだ男達が待ち構えて居た。
「彼らはこの国の騎士であり精鋭である近衛騎士達です」とだけダグワーは説明して再び歩き出す。
6人を囲む様な位置どりで近衛騎士達は一定の距離ーー近衛騎士達にとって必殺の一撃を与えるのに適した距離ーーを空けて追随する。
謁見の間に向かう途中に簡単にダグワーは最低限の礼儀作法を説いた。
いきなり高度な事を言っても理解されないだろうと考え魔法研究所から謁見の間の道順までに覚えられそうな簡単な礼儀作法に留めた。
歩いてる最中にダグワーは法衣を見て皺などがないかを逐一確認しながら進む。
歩く事20分程で目的地の謁見の間に辿り着いた。
謁見の間の扉を守る近衛騎士に目配せして近衛騎士が神官長ダグワーや勇者達の来訪を伝え中へと通される。
ダグワーは神官様の礼を行い定位置で片膝を着く。
失礼と理解しながらもチラリと背後に視線を向けると勇者達6人は何とか最低限の礼を取って居るが、何で自分達はこんな事を?と顔に疑問符を浮かべて居た。
その後国王陛下から有難い御言葉を賜り更にはこの地にはまだ不慣れだからと礼儀作法の面は多少無礼でも許すと寛大な心で許し彼ら6人に一人ずつ専門の教育係まで付ける。
その後謁見の間を退室して行く勇者達の部屋にまで案内した後、報告のために国王陛下が待つ応接室まで向かうダグワー。
勇者達は突然の事に疲れたのかすぐに寝入った。
時刻ももう遅いので仕方がないだろう。
◇ ◇ ◇
-勇者剣崎ハジメ-
いつものメンバーで学校からの帰宅途中いきなり足元に光り輝く紋様が浮かび上がった。
「な、何だこれ!?」と思わず声が出た。
「わ、わかんないよ〜」
「何かわからないが、身体が動かないぞ!」
「これって魔法陣かしら?」
「えっ!?何!?」
「どうなるっすか!?私達!?」
と6人が思い思いに心の声を吐露する。
光は弱まるどころかより一層光り輝き目が開けていられないぐらいになった時に突如浮遊感が襲う。
そして次の瞬間には見た事もない場所へと移動して居た。
わけがわからず辺りをキョロキョロと見回していると聖職者にしては華美な服装を身に纏った集団の中でも特に華美な法衣を来た初老の男性が近付いて来た。
警戒しながらその男に注目していると話し出した。
「勇者様方。ようこそファースト王国へ。私は貴方様方を異界の地より召喚致しました者達の長をやって居ります神官長ダグワーと申します。今は突然の事でさぞ混乱されて居る事でしょう。何故呼び出されたかの説明も踏まえまして我が国の国王陛下に謁見して頂きたく存じます。では、早速ですがどうぞ此方へ」
顔立ちから見るに異国人に見えるが言っている言葉は理解できた。
流暢な日本語を話す人物だな。
と思って居たが口元を見ると話している言葉と口の開き方が違う事に気が付いた。
それに俺たちの事を勇者とか意味がわからない事を言っているので質問したいが、有無を言わさぬ迫力でついてくる様に言われたので此処は下手に逆らわない方が良いだろうと判断して他の5人に目配せすると、意図が伝わったのか頷きで返してくれる。
着いて行く最中に騎士が合流して俺達の周りを囲む様にする。
流石に此処まで来ると此処が日本ではなく更に地球でもない事が理解出来た。
何故なら通路にある窓から見える街並みは確かにヨーロッパの街並みを彷彿とさせるが時折モンスター見たいな見た目の鳥?が飛んで居たり街を行き交う人々の中に首輪に繋がれて襤褸を着て歩く頭に獣の耳を生やした人などが見える。
そして長い事歩くと謁見の間と呼ばれる所に案内された。
此処までの道中ダグワー(前を歩く初老の男)に最低限これだけはしろと言われた(言葉遣いはもう少し丁寧だが此方を実験動物か何かの様な冷めた目で見られるのでその様に感じた)のでそれだけは守る様にする。
一際豪華な扉でそれ自体が一種の芸術作品の様な大きな扉を開いた先には煌びやかな服装に身を包んだ男達が通路の左右に並んで居た。
そして赤い高級そうな絨毯の先には他の場所も高くなった段差の上に置かれた玉座に座った壮年の男が居た。
此方を見る眼光は鋭くだが、欲に濁った目をして居た。
多分彼がこの国の王と呼ばれる人物なのだろう。
「よく来てくれたな。勇者の諸君。私はこのファースト王国第十四代国王フロッグ・カイエシア=トマルク・ファーストである。それにしても勇者の諸君らは随分と若いのだな?いや、何貴殿らを莫迦にしている訳ではない。この国では15歳を越えれば成人と見なされるので多分勇者の皆様方も15歳を超えていると思うのだが?何せ顔立ちが種族ごとに違うのでな。もしかしたら貴殿らは私よりも遥かに歳上の可能性もあるな。それならば失礼したな」
「いえ………僕達は皆見た目通りの年齢で16歳です。それと僕達が居た国では成人は20歳からと決められて居ますので前の世界ではまだ学生でした」どの様に答えれば良いかわからなかったので無難な回答をするハジメ。
「ほう、やはり勇者の者達は違う世界から来るのだな。伝承通りだな。ああ、それとそんなに畏まらなくても良い。此方が貴殿らに頼み事をする立場なのだからな。単刀直入に言おう。君達が例え元の世界へと戻りたかったとしても残念ながら我々には召喚は出来ても返還する術はない。だが希望はあるぞ?我々の勇者召喚の術式は古代の魔族と呼ばれる存在から奪取したと古文書に記載されている。なので魔族の王である魔王なら或いは帰還方法を知っているやもしれん。だが、魔族共は我々よりも強く歯が立たなく我々人類は窮地に立たされている。今現在は魔族からの侵攻は止まり停戦状態だがいつ争いが再開するかはわからない。そこで魔族に立ち向かえる存在として君達勇者を召喚したのだ。勇者は始めは一般人よりも多少強いだけのステータスしか持って居ないが、鍛えれば鍛えるほどに強くなり我々人類を凌駕するポテンシャルを秘めていると古文書には書かれている。どうかこの世界を救ってほしい」と言いフロッグ王は頭を軽くだが下げる。
それに対して臣下達は少しばかり動揺したが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「今日はもう夜も遅くまだ頭が混乱しているだろうから部屋でゆっくりと休むが良い」と言われてダグワーとメイド達に案内されて6人それぞれの部屋へと割り当てられた。
翌日彼ら6人は話し合いこれからの事を相談した。
剣崎ハジメは元からの正義感でこの世界の為に立ち上がろうと言い他の5人もそれぞれ悩んだ末に帰る方法が魔族達の王である魔王の手の中にあるなら取り敢えず自分達の出来る範囲でこの国に手助けをする事にした。
最後までクラス委員長である少女の一人はこの国と昨日話したフロッグ王の話に懐疑的だったが、他の5人からも説得されて渋々この国に協力する事にした。
その後6人は専任の指導教官が付き日々鍛錬をこなしている。
◇ ◇ ◇
「───で、現在召喚された勇者様方は近衛騎士の方達に鍛えられ順調にレベルとステータスを上げて言っているそうです。それと近々ダンジョンに挑戦すると噂話がまことしやかに囁かれていますね。私が知っているのはこのぐらいですが、よろしいでしょうか?」とワーグワンは長々と勇者について話してくれて話終わる頃に倉庫に到着した。
「ああ、ありがとう十分だ。つまり現在勇者の者達は王都を中心に活動しているのだな?」
「ええ、そうなりますね。王都の近くには初心者でも安心して入れる比較的難易度の低いダンジョンもありますから入るとしたらそのダンジョンだと思います」
「そうか、わかった。助かったよ」
「いえいえ、この程度お礼を言われるほどでもありませんから」
「そうか?まあそういうのであれば」
流石は荒沢さんが認めた漢ワーグワン渋い!
「では、ここら辺に仕留めた魔物を出してくれますかな」
「うむ。わかった」応用に頷き言われた場所に魔物を出して行く。
「ほう、どれも見事な太刀筋や魔法で仕留めていますね」と丁寧に一匹ずつ見聞して行く。
「数が数だけに少しばかり時間を頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない」
「ありがとうございます。では担当の者をお呼びしますので少々お待ちください」とワーグワンが去って行く。
………
……
…
十分程でワーグワンは一人の筋骨隆々の禿頭のツナギ姿の親父を連れてきた。
「俺は解体屋のダッカンだ。今回あんたの獲物を解体する。この量だと二日もらうがいいだろうか?」とこの量を僅か二日で解体してくれるらしい。
「そんなに早くか?」
「ダッカンさんは当組合一番の腕前ですからね。それに彼じゃないと深い嘆きの森の高ランクの魔物は捌けませんからね」とワーグワンが補足説明してくれる。
「そうか。では頼む」
「うむ」
「グラウさん。此方が預かり証明書です。二日後に冒険者組合に来て頂き此方の証明書を見せて頂ければ手続きに移れますので」
「それと通常は解体手数料などを頂きますが、今回はこれほど沢山の高ランクの魔物という事で無料にさせて頂きます」
「そうなのか?それは有難いな」と経費を削減出来て嬉しい事を表に出さず冷静に言う荒沢さんは流石だ!
その後は特にすることもなかったので宿に戻った。