〈5〉荒沢さん初依頼
冒険者組合の中は予想通り冒険者達でごった返して居た。
右手側にある掲示板に依頼書が貼られそれ冒険者達が吟味しながら早い者勝ちとばかりに依頼書の争奪戦が其処彼処で起こっている。
中には殴り合いにまで発展している者達も居るがその隙に依頼書を取られて無駄に労力を浪費したりして居る。
そんな非生産的な行動を冷めた目で荒沢さんは見ながら他の冒険者達の行動を観察する。
今日はお試し感覚で来たのだそこまで焦って依頼を受けるつもりも無く余り物や常時依頼である薬草採取や街人の手伝いの依頼でも良いかと考えている。
討伐系の依頼はランク3以上ではないと例え魔物のランクが1だとしても受ける事が出来ない。
それ程までに魔物と人間種の実力差は隔絶しているとも言える。
冒険者のランク 魔族のランク
ランク10
ランク9
ランク10 ランク8
ランク9 ランク7
ランク8 ランク6
ランク7 ランク5
ランク6 ランク4
ランク5 ランク3
ランク4 ランク2
ランク3 ランク1
ランク2
ランク1
と適正ランクこの様になる。
なので実質ランク9以上の魔族が出て着た時に勝てる人材は今の所居ないという事だ。
だが、幸いかランクの高い魔族取り分け魔人は自身の縄張りである領域からは滅多な事では出て来ない。
此方側からちょっかいをかけない限りは今の所大丈夫だ。
何故魔人が自身の領域から出て来ないのかは諸説あるがそれよりも問題なのはランク10の魔族よりもそれを統べる魔王と呼ばれる存在は上だという事だ。
まあ今はそれはさて置き荒沢さんは威風堂々と歩くのを意識しながら依頼掲示板に行き貼ってある依頼書をざっと見渡す。
荒沢さんのランクはまだ冒険者組合に加入したばかりなので新人であるランク1である。
ランク1で受けられる依頼は薬草採取にアドベンチャーの街の住人からの雑用で後は一応討伐とも呼べる野生動物の間引きぐらいの物だ。
まあ、何でもいいかと思いながら取り敢えずこちらの世界の薬草の効能などを知っておくと後に役に立つ事もあるだろうからと薬草採取の依頼書を選択した。
選択した依頼書を持って受付に向かう。
相変わらず例の受付嬢の前には若い冒険者や年嵩の冒険者が受付嬢にアピール合戦をしている。
それを横目に見ながら受付の列に並ぶ。
受付は優秀なのか特に待つ事もなくスムーズに列は進み荒沢さんことグラウの番になった。
受付の職員に依頼書と組合証を提出する。
受け取った職員は依頼書に書かれなランクと組合証のランクを最初に確認して受けられるランクか確認する。
受けられるランクは自分のランクと同ランクの依頼書か一つ下までのランクの依頼書だ。
上のランクは危険性が高いと判断され受けられないようになったが例外がある。
それは緊急依頼とパーティーを組んだ者達だ。
パーティーは前後一つ違いならパーティーを組む事が可能でありパーティーメンバーの中で一番ランクが高いランクの依頼を受けることは可能だ。
そして何故ランクは自分のランクよりも一つ下までなのか。
それは下のランクの者達の依頼を奪わない為だ。
閑話休題
次に依頼書を読んだ職員は「えっとグラウさん。この依頼の薬草採取は確かにランク1であり受ける事自体は可能であり問題はありませんが、場所は【深い嘆きの森】と呼ばれるランク8以上が推奨されている森です。確かに深い嘆きの森が一番この薬草の採取が適してますが、これはランク8以上の高位の冒険者が討伐のついでに一緒に受ける依頼です。(依頼は幾つも同時に受ける事が可能)それともう一つの場所はここから馬車でも1週間も先ですので依頼書の期日の8日ではとても間に合わないと思いますのでお勧め出来ません」と丁寧に理由などを説明してくれる職員にグラウこと荒沢さんは内心でマジかよ面倒な依頼だったのか!だから誰も手に取らなかったんだな。
このアドベンチャーの街の冒険者の最高ランクは6だった筈だ。
その為に長期間受けられて居ないこの依頼は塩漬け依頼と呼ばれる類の依頼だ。
この世界では長期保存の食料は大体が塩漬けする事が由来と言われている。
何人かの冒険者はニヤニヤと此方を見ている事から新人には良くある事なのだろう。
だがここで引けば男がすたるとばかりに荒沢さんは腕を組み足を肩幅にまで広げて堂々と「構わない。その依頼を受けよう」と周りに聞こえる声量で答えると賭けをして居たのか何人かの冒険者が溜息を吐きお金を隣に座る冒険者に渡して居た。
受付の職員は本当に良いんですか?と確認を取って来るが構わないと答えた。
依頼は無事受理されたので職員に「すまないがこの薬草の見本などはないか?」と質問すると植物図鑑を取り出して教えてくれる。
薬草の名前はポルタ草と書いてあり効能は怪我や擦り傷に効果ありと書かれて居た。
職員に礼を言い北門に向かう。
北門にいる筈のヒョロ男とゴリ男の探したが見つからないので門番に聞いてみると間の悪い事に二人とも今日は休暇で休みとの事だ。
まあ、仕方がないと荒沢さんはキッパリと諦めて深い嘆きの森へと向かった。
歩くと時間が掛かるので飛んでさっさと向かう。
深い嘆きの森に到着するとラクスに命じる。
「ラクス。ポルタ草を見つけろ」と命じる。
「わかったわ。すぐに見つけて見せるわ」と魔力の波動を放ちまるでレーダー見たいに反射して来る魔力の波動からその物体の形を読み取りポルタ草を探す。
その間に近寄って来る魔物を荒沢さんはカッコ良く精霊王の剣を引き抜き「貴様らなぞこの剣の錆にしてくれるわ!」と高らかに剣を掲げ宣言する!
カッコイイぞ荒沢さん!その大声で更に遠方からも魔物を招き寄せて居るぞ!
ザシュ!ザシュ!と襲い掛かって来る魔物を精霊王の剣で真っ二つに斬り時には首チョンパを決めながら華麗に舞う様に剣を振るい魔物を撃退して行く荒沢さん。
だが次第に絶え間なく襲い掛かって来る魔物に嫌気がさしてそろそろ我慢の限界が来た時ラクスが「十分な量のポルタ草を確保して来たわ!それと見せてもらった植物図鑑に載ってた他の薬草もこんないも採取して来たわよ」と褒めて褒めてオーラを出しながら水の膜で魔物の攻撃を防護しながら元気一杯に歩いて来るラクス。
「よくやったラクス!それと伏せろよ!」と大声で合図するとラクスはすぐさま地面にうつ伏せになる。
それを確認をしてから荒沢さんは精霊王の剣に魔力を込めて剣先を伸ばす。
「喰らえ!」と気合の掛け声をあげて両手で精霊王の剣を持ち一回転する。
剣の長さは魔力を具現化して高速回転させる事で擬似チェーンソー状態にさせる。
これにより毛皮が硬い魔物も一刀両断だ。
長さは実に50mもある。
木も斬り倒しながら一回転を終えるとあたりには上半身と下半身を真っ二つにした魔物の死骸がそこら中に転がって居る。
血の匂いに再び魔物が集まって来る前に魔物の死骸に手を触れてドロップさせてアイテムを収納して行く。
「帰ったら早速風呂に入らないとな」と言いながらラクスから受け取った薬草の束も収納しラクスがペンダントに戻り首に掛けて飛翔の魔法を使いアドベンチャーの街まで一気に戻る。
返り血だらけだと門で止められそうなのでラクスに頼み表面の血を洗い流してもらう。
飛んで居る最中でも問題なく返り血は除去された。
門の手前の丘に再び降りてそこからは徒歩でアドベンチャーの街の北門まで徒歩で向かう。
問題なく手続きを終えて街の中へと入る。
冒険者組合に行き買取カウンターの方へ行き依頼受注書と組合証を提出して依頼に書かれていた薬草のポルタ草を提出する。
買取カウンターの職員はポルタ草を手に取り「ほう、大変素晴らしい状態の物ですな。最近の駆け出しの方々は乱暴に扱いがちなのでその分買取金額が落ちてしまうので文句を言う方々が多くてこちらが何度丁寧に説明してもご了承下さらない方々が居りましてこちらも辟易して居たのですよ」
「その分グラウさんの提出して頂いたこのポルタ草は最上の物と言えるでしょう。それにしても久し振りにポルタ草を見ましたね。此処から一番近い場所は深い嘆きの森ですからそこで採取されたのでしょうな。そうするとグラウさんは途轍もなくお強そうですな」と嬉しそうに笑顔で告げる職員。
「おっと自己紹介がまだでしたな。私はこの買取カウンターで買取物の鑑定と査定をして居ますワーグワンと呼ぶ者です。以後お見知りおきを」
「ああ、グラウだ。よろしく頼む」
どうやらこの職員は当たりの様だ。
それにしても渋いダンディーな職員だな。
荒沢さんも認める紳士なワーグワンだ。
「それと他にも色々と薬草と魔物を倒したのだが、其方も良いだろうか?」
「そうですな。魔物の方は此処ではアレですので後で倉庫に案内致しますのでそこでお願いします。薬草は今此処で出して下さって構いません。それにしても収納持ちとは羨ましいですな。個人で容量は違うらしいのでそこは何とも言えませんが、商人が欲しがるスキルの内の一つですよ。まあ、魔法の袋と言う収納魔法と同じ効果の魔道具とあるらしいですが、ドロップ率が低く最低ランクの魔道具も最低金額が金額100枚は下らないと聞き及んで居りますし最高ランクは最早国宝級とも言われておりますな。……おっと長々と失礼しました。つい最上のポルタ草の採取技法をお持ちと収納持ちのグラウさんが相手ですのでつい饒舌に喋ってしまいましたな。失礼いたしました」
「いや、構わない。こちらも良い情報が聞けた」
「そうですか。それは重畳です。では、薬草をお出しください」
ワーグワンに促されてテーブルの上に次々と薬草を出して行く。
それをワーグワンは「う〜む。こちらも見事な手並み。おっ!?こちらは珍しい物ですな」とホクホク顔で次々と鑑定と査定をして行く。
「どれも大変素晴らしい物ですな。それに此方は確か依頼に出されて居ましたので此方も依頼達成と受理させていただきます」
「それは可能なのか?」
「ええ、何処其処でいつまでにと指定された薬草ではなく。手に入り次第欲しいとの事ですので依頼を受ける前に持って居ても問題はありません」
「それで此方が査定金額でございます」と電卓に似た魔道具を見せて来て其処に書かれて居る金額を見せる。
チラリと一瞥した後特に薬草の価値などはわからないが、ワーグワンが騙す様な輩には見えないので了承する。
「それで構わない」
「わかりました。では依頼料などを合わせまして全部で金貨89枚に銀貨65枚になります」と二つの袋を渡して来た。
片方に金貨もう片方には銀貨が入って居た。
それらを受け取り枚数を確認した後収納魔法で仕舞う。
これで荒沢さんの所持金額は以下の通りだ。
【 所持金 】
50,547G
45,197S
251C
金貨換算すると金貨55,061枚と銅貨20枚となる。
「では、倉庫に案内致します」
「ああ、頼む。そうだワーグワン殿は勇者について何か聞いた事はあるだろうか?」
「ええ、ありますよ。あれはーーー」
◇ ◇ ◇
荒沢さんが初依頼を受けて完了した頃よりも2週間前に話は戻る。
春の季節がやって来たトールバン大陸歴321年四月九日ファースト王国は勇者召喚の儀を行なった。
他の者達よりも豪奢な法衣を纏った初老の男性が他の法衣を着た者達に指示を出して行く。
「では、皆の者。只今より勇者召喚の儀を執り行う。これは失敗が許されない試みだ。この儀の成否に関わらず必ず他国に情報が漏れるだろう。そうすれば二度と勇者召喚の儀を我々が存命中のうちに執り行う事は出来ないだろう。歴史に勇者召喚の儀を成功させた輝かしい未来を掴むか、失敗して愚者として歴史に名を残すかはこの瞬間にかかっている。皆の者奮闘を期待する。では始めようか」と初老の男性の指示に従い魔法陣の決められた場所に立ち詠唱を始める。
………
……
…
詠唱を始めてから一時間皆額に汗を滲ませながらも絶える事なく詠唱を唱える。
そして遂に念願の時が訪れる。
魔法陣がより一層蒼白く光り輝き目も眩む様な明るさになり思わず手で顔を覆い隠した瞬間光り輝く魔法陣の中心に6人の人影が降り立った。