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「どうやら陛下は、お前を俺の側室にする気らしい。」


殿下の言葉にお茶を噴き出さなかった私を褒めて欲しい。


やっとの思いでお茶を飲み込み、第一声を発する。


「ゲホゲホゲホっ!」


気管にお茶が入っていた様だ。

失敗した。


「大丈夫か?」


ロダンから掛けられた言葉に、片手を上げて大丈夫だとジェスチャーで伝えた。


この重大発表がもたらされたのは殿下の執務室。

用事があると呼ばれて来てみればコレだ。

ちょっといつもより良いお茶出すな、とか思ったらそんな事情があった訳ね。


応接ソファの向かいに座った殿下は、咳き込む私から逃げる様に体を反らせて頭を守っていた。

・・・・・・飲み込んだから吹き出しませんよ。


私の呼吸が落ち着いたのを見計らって、殿下は姿勢を正し、真面目な顔に戻して話しを続けた。


「そのうち話しがあると思うから先に言っておく。」


心構えが必要だろう?

と殿下は言うが、心構え云々の話しでは無い。


「まずもって、なんなんですか、それ。冗談にもほどがあるでしょう。」

「竜を瞬殺してしまう程の力を持つ魔術師を、国は繋ぎとめて置きたいんだよ。さらにあわよくば、その力を王家の血筋に組み込みたい、といったところだ。」

「それにしたって、殿下なんて嫌過ぎます。」

「ニーナならそう言うと思ったよ。ちなみに俺にも傷付く心はあるからな。」


こんな所から縁談の話が来るとは予想外だった。


確かに、結婚相手として殿下は好物件過ぎるほどに優良物件だ。

何しろ将来はこの国の王様だ。

女としての天下を目指すなら申し分ない。

それに加え、殿下は俺様風イケメンなので、それなりにモテている。無くてもモテる。

たとえ側室だろうと、王族とのパイプも出来て、イケメンの旦那も出来て、御令嬢達には願っても無い話しだろう。


そりゃあ、婚約破棄されたから今はフリーだし?チャンスがあれば結婚したいし?そろそろ身を固めたいし?何より行き遅れてるし?

だからって殿下はなー。

よりによってかよー。


「お前、今、人の悪口考えただろう。おい、何故そこで俺の頭を見る!」


ないなー。


やっぱりお断りしよう。

私だって女だ。

政治的な結婚ではなくて、愛し愛され、私だけを愛してくれる人と幸せな結婚がしたい。

まだ、結婚に夢を見るお年頃なのだ。(誰だ、いい年して、とか言ったの)


「陛下にお伝え下さい。結婚はしたいが、殿下に頼るほど落ちぶれてはいない、と。」

「何で俺との結婚がそんなに低評価なんだよ。」

「私にも選ぶ権利があります。」

「俺にだってあるわ。まあ、何だ。お前の気持ちは良く分かった。良くな。」

「ご理解頂けて何よりです。」

「陛下にもニーナの考えについては伝えてみるが、そのうち陛下の使者から話が来るかと思うから、やんわりと断ってくれ。あまりハッキリ言うと角が立つからな。」


やんわりと、ですね。オーケーオーケー。

王侯貴族は婉曲表現が好きとか、偉い人に直接的に意見したらダメとか、どこの世界も同じ様なもので、この世界でも貴族などの権力者には角が立たない様、気を遣って発言しなくてはならない。

幸いなことに私は曖昧表現が得意な日本人。任せて下さい。

きっちり大人の対応をしますよ。


「間違っても、魔術を使用しないこと。口で言え。」

「えー、しませんよそんな事。」

「知ってるいんだぞ。以前、縁談を持って来たとある貴族の従者を何処かに飛ばした事を。」


そんなこともあった気がしないでもない。

その縁談は、さる貴族の後妻にならないか、というものだった。

だが、その相手というのが好色家で有名な色ボケジジイで、どうせ行き遅れの売れ残りの捨てられ女だから拾ってやるよ、的なちょっとイラっとするような人だった。

そのため、私は話しを持って来たそやつの従者を、バシ○ーラを使って追い出し、聞かなかったことにした。

その後、その従者を見ることは無かった。

アリ○ハンにでも行ったかな?


「陛下も陛下だ。どうせなら俺ではなく、フェルークにこの話を持って行けばよかったものを。」

「何故そこでフェルーク様が出るんです?」


フェルーク様とはこの国の第三王子で、アルフレッド殿下の双子の弟君でいらっしゃる。

ハリストール殿下に顔が似てなくもないが、アルフレッド殿下とは違って、瞳に新緑を宿す優美な面差しは、傾国の美姫と謳われた母親である第二妃の方によく似ており、城での扱いはさながらアイドルだ。

ちなみに現国王には第三妃までいたりする。


「フェルークならいいだろ?婚約者もいないし、知らない仲でもないんだし。それに・・・・・・」

「僕が何です?」


と、そこへ、手に書類を持ったフェルーク様が開いた扉の影から顔を覗かせていた。

噂をすれば何とやら。

ずっと出番を待っていたかの様に完璧なタイミングでいらっしゃる。


「やあ、フェルーク!いやーそろそろ君が来る頃だと話していたところだよ。」

「約束もしてないのに、僕が来ることが分かるだなんて、さすが兄上だ。」


終始笑顔でフェルーク様は受け答えるものの、殿下は分かり易く慌てふためいた。

ヘタクソか。

しかしながら驚き過ぎだろう。何故そこまで慌てる。


「まあ、それは置いておいて、これは視察の報告書で、あとこれお土産。」


そう言ってフェルーク様が懐ろから一つの包みを取り出した。

包装紙で包んであり中身はよく見えないが、そこそこ厚みのある物だった。

殿下はそれを受け取ると、繁々と包みを観察しながら眺めた。


「何だこれは?」

「この間、視察で行った所の特産。兄上、欲しがってたでしょ?」

「!」


殿下が小さく目を見開いた。


「凄いな、よく見つけた。流石だ。」

「お褒めに預かり光栄です。」


殿下の嬉しそうな声を受け止めて、フェルーク様も笑顔で応えた。

そして、そんな状況の中、蚊帳の外の私は1人首を傾げた。


あの包みには何が入っているのだろう、と。

殿下が欲しがってて、手に入ったらとても喜ぶもの。

そう考えた瞬間、私は閃いた。


「分かりました。それはケ」

「違う。」

「まだ言ってません。」

「言わなくても何を言おうとしたか分かる。」

「なら、イ」

「それも違う。」

「まだ言ってませんって。」

「お前が言いそうなことは透けて見える。」

「じゃあ、毛ーーー」

「それも違う!それ関連から離れんか!」


ちぇっ。

我ながら素晴らしい推理力だと思ったんだけどな。

あ、ロダンも「違うのか?」という顔をして考え込んでる。


そんな事を考えていると、殿下がチラリと私の方を見た。

そして目で促してくる。

出て行けってことかな?

あと人払いもしろって事かな?


私は殿下直属の王宮魔術師ではあるが、政の深い話しには基本参加しない。

根っからの研究者である私は国勢に明るくないし、居てもこの間の殿下暗殺未遂事件の後始末の時と同様にお茶飲んで頷いてるだけだ。

それを分かっている殿下は、私の知識が必要になるまでは、こういう時私を追い出すのだ。


「じゃあ用件も終わった様ですし、私はこれで失礼します。」

「ああ、悪かったな。ロダン、送ってやれ。」

「はい。」


私はソファから立ち上がりロダンを伴って殿下の執務室を後にしようとした。ら、フェルーク様に止められた。


「ニーナ、今日は僕早いんだ。久しぶりにどう?」

「あー、まあ、別に、はい。」


人前でのこういったやり取りは久しぶりだったので答えるのに思わず濁ってしまった。

殿下が結婚相手にフェルーク様の名前を上げるから、少し意識してしまったではないか。

こういうやり取りは初めてじゃないのに。

この歳で生娘みたいな反応をして恥ずかしい。

あ、私、生娘だった。


「じゃあ、いつもの所で。」


フェルーク様の眩しい笑顔に見送られながら、私はその場を後にした。


さて。

もうお気付きの方が大量にいるかと思いますが、フェルーク様こそが、私の飲み仲間、別名飲み友達なのです。はい。


飲み仲間、別名飲み友達の彼との出会いは、魔術学園に通っていた頃。

私達は同じ学び舎、教室で共に過ごした。

つまり同級生で、在学中はずっと同じクラスだった。

フェルーク様は在学中から優秀さが抜きん出ており、王族初めての魔術師になるのではないかと言われていた。

だが結局は、その美貌を活かした外交や地方との渉外役に収まったのだが。

そのため出張が多く、中々王宮で見かけることがない。


そんな彼とは学生時代は気の合う仲間として、今では飲み友として付き合い続けている。


「それで?兄上と何の話をしていたの?」


やっぱりきたか。

と思いつつ、私は一口含んだ酒を噴き出さずに飲み込んだ。

今度は咽せませんでした。


さて、何と答えたものか。


ここはいつもの大衆酒場。

周りには勿論、沢山のお客さんが酒を飲み交わしながらうじゃうじゃいる。

彼が聞きたい話しは、とても繊細かつデリケートな内容(私にとっては)なので、誰かに聞かれる可能性があるこの場所では何とも話し難い。

もし、誰かが聞き耳を立てて「竜殺しが王太子の嫁になるらしい(笑)」とか噂にでもなったら、私は社会的に死んだも同然。少ないプライドがギタギタに傷付けられる。

そうなったら街を、いや、国を出てやる。

もしかしたら、あの呪文やあの薬を使いかねん。

早まるな私!犯罪者にはまだ早い!


それに、何となく、彼には言い辛い。


「・・・・・・毒にも薬にもならない話しですよ。」

「何それ。」

「大した話しではありません。」

「だったら、聞かせてくれてもいいじゃないか。」

「が、私の社会的地位を脅かしかねず、且つ、今後のこの国の明暗を分けかねないので、ここは黙秘します。」

「結構、大事な話しってことね。」

「・・・・・・。」


「まあ、いいけど」と彼は言いつつも明らかに腑に落ちていない顔をしており、纏う空気は「ふーまーんー」と訴えかけてきた。

う、心が折れそう。


しかし、結婚かぁ。


あれだけ「したいしたい」言っていた私だが、こう、現実味のある話しになってくると、今更感が強過ぎてどうもピンとこない。

まあ、殿下が相手に上がっていることも原因として否めないが。

いやだって、まさかそこ!?て気持ちな訳ですよ、私としては。

予想の斜向かいくらいから攻められた感じ。


また、正直、呪詛を唱えることを止めたあの日から、結婚願望は薄れつつあり、今は以前ほど結婚に飢えてない。

そりゃあ、チャンスがあれば是非ともしたいですがね。

私だって、まだ夢を見ることを止めていない乙女だ。

愛し愛され、互いに慈しんで生きていきたいと夢見ることだってある。


されど、私は異世界からやって来た身。

身元が不確か過ぎてならない。

今の両親に拾われたり、こうやって魔術師になっていなければ、細々と一人で生きていかなきゃいけなかっただろうと思う。しかも野生で。

特定の相手がいない今もそうだ。

このまま順調に行けば生涯お一人様コース。

そのために、今稼げるだけ稼いで老後資金をたんまり貯めておかなくちゃとも思っている。

独身貴族を楽しむぞ!とすら思うようになった。


まあ、ここまでつらつら言葉を並べてみたが、私からすると今回の話しは「いまさら〜?」という感じなのである。


それにしても、結婚したい時には出来ず、結婚したくなくなったら縁談が来るとは。


「かくも、人生とは思うようにいかないものだ。」

「どうしたのいきなり?」

「いえ、人生について考え込んでしまいまして。」

「さっきの話しから?」

「はい。」

「そんな深刻な話しだったんだ。ごめんね、聞き出そうとして。そう言う大事おおごとなことだとは思わなくって。」

「気になさらないで下さい。」


私はそれだけ言うとグラスに残った酒を一気に煽り、一つ溜息を吐いた。


そんな私を見て、彼はそっと私の皿に唐揚げを入れてくれた。


もう少しだけ、この話題続きます。


17/01/24記

一国一城の主だ→この国の王様だ

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