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で、こうして今の状況が出来上がったのである。
題して『いつ射るの。今でしょ!女だって狩る時は狩るのよ!いざ!告白してみせようぞ!』作戦が決行されている最中なのだ。
つまり、作為的なものしかないね!
大体、始め私の護衛担当はメルリーサ様だったしね!
途中で警護案に修正入ったからね!
お陰で私はスナイパー顔になった訳です。
フェルーク様は暫く外を眺めると、仕方がないと言う様にフッと笑い、視線を馬車の中へと戻した。
「今更どうこう言ったってどうしようもないし、この状況を楽しむことにするよ。せっかくニーナと一緒なんだしね。」
そう言ってとてもいい笑顔を向けて来るフェルーク様に、私は返答を詰まらせた。
確かに、今回私は下心満載、いい雰囲気にしようと言う気持ち満載でこの場に臨んでいますけどもよ、ただでさえこう言うのが苦手だというのに、序盤からこんな飛ばされたら、ちょっと心が折れそうですよ。
フェルーク様担当の護衛だから、辺境伯領までずっと同じ馬車で数日この状況が続くのかぁ。
早くも根を上げそうになった私は、顔をさらに険しくする事しかできなかった。
海に面した土地を持つジェベル辺境伯領は、この国最大にして唯一の港を有していた。
何故唯一かと言うと、我が国において海に面した領地がジェベル辺境伯領しかないからだ。
それ故、港を使用した船による他国との貿易をほぼ独占的に行なっており、ジェベル辺境伯領は、まさに貿易の要所と言えた。
旅程は特にトラブルも無く予定通りに進み、滞在先であるジェベル辺境伯の屋敷へと問題なく到着した。
ジェベル辺境伯の屋敷は、海が近い土地柄なだけあって、ちょっと南の国の家っぽい。
なんだろう、南欧風と言うのかな?
それに、潮よけであろう木が海側の庭に植えてあった。
「遠路遥々、ようこそお越し下さいました。」
「久しいな。暫く世話になる。」
辺境伯様の屋敷へ着くと、伯御自ら出迎えてくださった。
さすがは王太子。伊達に王族じゃない。
辺境伯様は何というか、絵に描いたような『貴族のおじ様』といった感じの人だった。
品はあるし、威風堂々とした佇まいで威厳はあるし、何より後光が凄い。
見ないように気を付けてはいるが、頭の上から射す光が、凄い。
リスペクト・オブ・○平だ。
私はガン見したい気持ちを抑え、失礼にならない程度に視線を斜め下へと固定し、案内に従い応接室へと向かった。
応接室へ着くと、当たり前の様に応接室へ入り殿下達の背後に立った私を見て、辺境伯様は「おや?」と首を傾げた。
え、入っちゃダメなやつだった?
「失礼ですがハリストール殿下、もしやこちらの魔術師の方が・・・・・・。」
「ああ。紹介しよう。『竜殺しの魔術師』ニーナだ。」
殿下に紹介されたので、私は一歩前に出ると、辺境伯様へ魔術師の礼をとった。
なんだ、見慣れないから誰か分からなかっただけか。ちょっと焦ったよ。
「お噂はかねがね。お会い出来て嬉しいよ、竜殺し殿。」
「光栄にございます。」
うへー、こう言うの久しぶりだから緊張するなぁ。
中腰気味に礼して保たなくちゃいけないから、足がプルプルする。
ピー歳の筋力舐めちゃいけない。
すぐ足釣るから。
「彼女の専門は治癒魔術で、そちらも竜退治に引けを取らぬ名声ぶりだ。今回の訪問には必要かと思い同行させた。」
「もしや、例の物を作ったのも・・・・・・」
「ああ。彼女だ。」
「何と、左様でございましたか。ならば、是非ともご意見を頂きたいですな。」
そう話しながらハリストール殿下とジェベル辺境伯は「ふふふふ」と怪しいと優雅の間くらいの笑いを浮かべ、楽ししそうに握手をや交わしていた。
こわっ。
ん?
今、何か引っ掛かる事を話してなかったか?
私は一体何の意見を求められるんだ?
引っ掛かりを払拭するため、事情を知っていそうなフェルーク様をチラリと見てみるも、微笑みを讃えて不思議そうに見つめるだけで、次にメルリーサ様を見てみたが、穏やかにおっとりと微笑んでいるだけで、話しに加わる様子はない。
利き腕だし何か知らないかな、とロダンを見てみるが、うん、話し聞いてなかったみたいだね。顔が無だもん。護衛の事しか考えてないとは流石騎士の鏡。
二人の怪しい話しは終わった様で、この場は一旦お開きとなり、夕食まで旅の疲れを癒すのと荷物整理の時間になったので、取り敢えず、考えるのは止めて、私も自分の部屋へと移動する事となった。
馬車の旅で心身疲れ果てたし、私も一回一息入れよう。
夕食はささやかながら歓迎の宴が催され、豪華海鮮フルコースの晩餐が用意されていた。
晩餐の警護に就いた私は、海の幸が並べられるテーブルをフェルーク様達の背後から眺めて感嘆の息をそっと吐いた。
流石は沿岸。
王都から海まではそこそこ距離があるので運搬が難しく、王都の人達は主に肉を食べている。
だから、この世界に来てこんなに海鮮が並ぶのを見るのは初めてで、驚くと共に、今日の賄いに期待で胸を膨らませた。
やっぱり元日本人としては魚も故郷の味で、たまに恋しくなる食材の一つだ。
ちなみに私は煮魚派だ。
料理を眺めつつ、ふと、私は思った。
何か、海藻系多くない?
海藻サラダに海藻と葉野菜のポタージュ、白身魚のムニエル海藻ソース添えなどその他諸々。
何?ここは魚介より海藻の方が名産なの?
まあ、確かに海藻を使用したあれこれは深い緑が色も鮮やかで、名産というのも納得の品質そうで、てかそれ、海藻で一括りにしてるけど、もしかして大半はワカメ?
・・・・・・。
私はこのことを、そっと胸にしまう事にした。
世界変わっても、世の男性達は同じ事を考えるという事ね。
ここで私はある重大な事に気が付いた。
晩餐も終わり、お部屋へ戻るフェルーク様をお送りしている時のことだ。
言わずもがな、今回、私はフェルーク様の護衛だ。
護衛とは、対象から付かず離れずに側に居るものだ。
だから、お部屋までついて行って、部屋の中に入って就寝するまで近くに居るんだけどさ・・・・・・。
こ、こ、これは、まさかな展開があるのではないか?
大人の展開があるのではないか?
何しろ肉食系女子代表、メルリーサ様プレゼンツだぞ。
マドカちゃんの言ってた乙女ゲームな展開があるのではないか?
少女漫画な展開があるのではないか?
イヤーンアハーンなラブイベントが発生するのではないか!?
こう、開放的な気分になるアレが入ったお茶を飲んで、とか、ムーディーな気持ちになる香り的なもので、とかとか、私の部屋は本当はここで寝室まで一緒で、とかとかとか!
「どうしたの?ニーナ。また、あの凄く険しい顔になってるけど。」
「背後に注意な展開かと思って。」
「また背後?え、何、変な気配でも?」
私の不用意な発言にフェルーク様は難しい顔をしてそう言うと、護衛騎士に周囲の警戒を指示しようとしたので、私は慌てて止める羽目になった。
違います。そう言う意味ではありません!
不審な視線を私へ送るフェルーク様を宥め、部屋まで送る。
とにかく送って、その後のことはそれから考える事にする!
翌日は港の視察という事で、海にやって来ました。
海面に光が反射して、ちょー眩しい。
光に目がやられてチカチカする。
「どうしたの、ニーナ。顔色が優れないみたいだけど。」
「通常営業です。」
「特に目の下の隈が酷いよ。」
「通常営業です。」
海岸沿いを走る馬車に揺られながら、向かい側に座るフェルーク様が心配そうに私の顔を覗き込んできた。
その視線から逃れるように窓へ顔を向けるが、海の輝きに目潰しを喰らい、私はすぐに眉間を揉みほぐす事になった。
汚染されてない海が、こんなに眩しいなんてしらなかった。
誰のせいで隈なんぞ作ったと思ってるだ、と恨み節を言いたいところだが、自業自得なので私は口と目を噤んだ。
そう、誰のせいでもない。自業自得なのだ。
結局、昨夜は何も無かった。
アハーンな展開も、暗殺者の襲撃も、何一つ無く、平和に終わった。
昨夜、無事に彼を部屋まで送り届けた私達護衛一行。
護衛一行。
まずここで気付くべきだった。
私一人が彼の就寝まで侍るわけじゃないのだ。
部屋にだって、護衛の騎士が普通に入ってくるし、彼の侍従だって普通に居る。
二人きりの状況はまず無かった。
お茶は出てきたが、変な物が入ってたら、普通に考えて捕り物劇が始まるし、普通に医者がやって来るだろう。てか、治癒魔術師の私が解毒させられる。
それにこんな所で変な香とか焚かれたら、違う方向の酒池肉林になる。そして、何故か女の私はスルーされ、美しい彼がモテる未来しか見えない。
そして、普通に私の部屋は別にあった。
暗殺者とか肉弾戦に対応出来ない私は基本的に日勤で夜中の護衛は、護衛のプロの騎士さん達が行なっている。
足音消してるとか、人の気配がするとか、そんな超人技持ってないもん。
しかし、それでも「もしかしたら夜中に私の部屋に・・・・・・!」とか考えた私は、考えてしまった私は、なかなか寝付けずに今日という日を迎えてしまった。
つまり、一睡もしていない。
ちょー眠い。
現実的に考えて、そうだよな、あるわけないよな。
くそっ!何故あの時の私はあんな変な方向に頭を働かせてしまったんだ。
メルリーサ様だって、夜会で仕掛けるって言ってたじゃないか。
それまでは、親交を深めておけばいい、て言ってたじゃないか。
何なんだ!私!
はっ!
もしかして私、この歳まで拗らせに拗らせちゃってるから、
「欲求不満なのかしら?」
「え?」
おっと。
口に出ていたか。
フェルーク様が流石に引いた顔をしている。
「どうしたの急に、そんなこと言って。」
「通常営業です。」
「いや、流石にそれは無理があるよ。」
ですよねー。
欲求不満が通常営業だと、私ただの痴女ですよねー。
「ねえ、ニーナ。」
「はい?」
「もしかして、期待してる?」
「え?」
フェルーク様の発言にギョッとした私は、思わず彼に顔を向けた。
まさにその通りです!
とは流石に言えないので、私は空笑いで誤魔化してみた。
「ははは、ご冗談を。」
「そう?僕は誘われてるのかと思っちゃったんだけど。」
そう言って脚を組み、腕を組み、少し伏し目がちの艶やかな瞳で見つめられ、私の動きは止められた。
なんだその色気は。
「気のある女性からさ、そんな言葉を聞いちゃうと、男としては悩みを解消しろと誘われてるのかと勘繰っちゃうよ。」
トン、と彼の足先が私の足先に触れた。
それだけなのに、ブワッと熱が私の身体に広がっていくのが分かった。
「そ、それは、曲解し過ぎですよ。」
「そう?」
「欲求不満が誘い文句だったら、センス無さすぎでしょうよ。実際、フェルーク様だって引いてたじゃないですか。」
「まあ、驚きの発言ではあったからね。」
でしょうね!
「でも、まあ、分かった。」
彼はそう言うと、クスクス上品に笑いながら触れていた足先を離し、組んでいた脚と腕を元のお行儀の良い位置に戻した。
私はそっと息を吐いた。
「顔色も良くなったみたいだし、ここまでにしておいてあげる。」
笑う彼をチラリと見ると、その目にはイタズラの色が見てとれて、そこで私は自分が揶揄われた事に気が付いた。
私は目を細めると、静かに片足を上げ、彼の足に振り下ろして踵をグリグリしてやった。




