アルフレッドの思慮
双子とは不思議なものだと、僕は思う事がある。
フェルークと僕は双子だけれど、全く似ていない。
彼は母似で、僕は父似。
彼には魔力があって、僕には魔力が無い。
彼はマフィンが好きで、僕はクッキーが好き。
彼は愛想が良くて、僕はちょっと人見知り。
好み、趣味趣向、適正に正確、並べるときりが無いくらい僕達は全く似ておらず、本当に双子なのか分からなくなる。
驚く程の別個体ぶりで、双子によくある「僕達は別々の人なんだ」なんていう悩みを持ったことは無い。
まあ、比較される事はあるけど、これまた適正分野が違うから微妙に比較しにくいみたいで、ここ数年、そういうものは全く無くなった。
さて、そんな僕達だけれども、双子の不思議はたまにあったりする。
本当に、たまにだけどね。
この間も、何だか口の中が痺れるな、と思っていたら、この世の物とは思えない不味い薬を飲んだフェルークが口を押さえて悶えていた。
ああ、僕の痺れはこれが原因か、と察した。
ところで、その薬は飲んで大丈夫なヤツなの?
あ、ニーナが、そう、良薬は口に苦いんだ。でも、苦味より痺れが際立ってるんだけど。
こんな風に、フェルークが感じたモノを僕も感じる事がある。
勿論、その逆、僕が感じたモノをフェルークが感じる事もある。
そして、この不思議な能力は感情についても、たまに感じ取れてしまう。
あれは僕が学術院に、フェルークが魔術学園に在籍していた頃だった。
普通に授業を受けていたら、ある時「ホワッ」と胸が温かくなった。
何だろう?と小首を傾げてみたものの、すぐにそれは無くなったし悪い感じはしなかったので、取り敢えず放って置くことにした。
次に胸の辺りに違和感を感じたのは、前回から数日経った昼休みのこと。
僕が友人達と昼食をとっている時のことだった。
談笑しなが食べていたのだけれど、急に胸が「ギュッ」と締め付けられた。
何だろう、少し、哀しい気持ちだ。
咄嗟に胸を押さえてしまった僕を不審に思ってか、友人がそんな僕に声を掛けた。
「どうした?胸なんか押さえて。」
「あ、いや。」
「もしかして、痛むのか?」
痛む?
そう言われると、そんな気もする。
でもそれ以上に、泣きたい気もする。
なかなか答えない僕を心配気に見てくる友人に、安心させるように僕は笑って見せた。
「大丈夫だよ。怪我してるわけじゃ無いから。ただ、胸が締め付けられたように感じただけだから。」
「はあ。」
「そう言えば、この間は温かくもなったな。」
「え?何?恋でもしてるのか?」
恋?
僕が?
「誰に?」
「いや、知らないけどさ。でもその胸に感じるものってさ、よく恋をしたら感じるヤツじゃん。」
そう言われても、僕に心当たりは無い。
始めの時は授業中で、お爺ちゃん先生の話を眠気と闘いながら真面目な顔して聞きいてなだけだし、今だって友人達とくだらない話をして食事をしているだけ。
恋云々を感じる要素が見当たらない。
あ。
もしかして、この気持ちはフェルークのものかもしれない。
そうだ、と確信めいたものがその時僕にはあった。
城に帰ってるみると、フェルークが窓辺にボーと佇んでいた。
学生の僕等は未だ母の離宮で生活しており、卒業と共に離宮を出て王城に自室を賜る予定だ。
そのため、フェルークとは同じ空間で生活している。
どうしたんだろうと思い、声をかけようとした瞬間、また僕の胸が締め付けられた。
あまりの強さに僕は息を止め胸を押さえる。
そして、僕はフェルークの方を見た。
彼は胸を押さえ、今にも泣き出しそうな顔で闇夜を見つめていた。
ああ、やっぱりそうなのか。
僕は暫くフェルークを見た後、声を掛けずにその場を離れた。
もし、これが友人が言うように恋する感情だというのであれば、何て苦しいのだろう。
こんな思いをしているだなんて、フェルークは何て辛い恋をしているのだろう。
僕の頬を滴が辿る。
これは、僕のだろうか?それとも、彼のだろうか?
僕はそれをソッと拭った。
それからもたまに、フェルークの恋愛事情が流れてくるようになった。
それはあの日ほどの強さはないけれど、ほのかに「あ、今、嬉しかったんだな」や「あ、ちょっと切ないや」と感じることは出来た。
やがて無事に卒業し、兄の補佐に就いて仕事を僕は始めた。
兄の所に出来上がった書類を持って行こうと廊下を歩いていると、廊下に面した庭にフェルークの姿を見つけた。
良く見てみると、1人ではなく相手がいるようで、王宮魔術師の制服を着た女性だった。
あ、と思った。
彼女と話すフェルークから流れてくるこの気持ち。
そうか、想い人は彼女なのか。
僕は一つ頷きその場を後にした。
魔術師棟に寄った際、彼女の事をさりげなく聞いてみた。
彼女は今年入りたての新人で、学生時代からフェルークと友人関係にあったらしい。
そして、なんでも彼女は、3年経ったら田舎に帰って結婚するらしい。婚約者が待っているそうだ。
そうか、報われない恋というやつだったのか。
卒業してから数年経ったある日、フェルークが僕の部屋にやって来た。
なんと、酒瓶を片手に。
そこで僕は、朝からモヤモヤする気持ちの正体に気が付いた。
酒はあまり得意ではないが、しょうがない、付き合おう。
双子とは不思議なものだと、たまに思うことがある。
今もフェルークは黙って次々に酒を煽るが、僕は彼が何を感じているのか分かる。
この胸の痛みは、彼の痛みそのものだ。
自然と僕の目からは涙が流れていた。
「何で、アルフレッドは泣いてるの?」
「何故だろうね。僕にも分からないや。」
「ふふ、変なの。」
そう言ってフェルークは笑い、その声は次第に嗚咽に変わり、止めどなく彼の目から涙が流れていった。
フェルークにも僕の気持ちが伝わったのだろう。
僕等は二人でただただ、その日は泣いた。
後日分かったことなのだが、その日は彼女が結婚のために田舎へ帰った日だった。
まあ、男泣きした僕等だけど、それは結局無駄に終わった。
彼女の結婚は破談になり、王宮魔術師に返り咲き。
そのまま家族共々王都に居を構え、破談に対する強い意志を感じた。
それからフェルークの感情は穏やかだ。
たまに「ホワッ」と来るようになり、何だかいい感じのよう。
人の不幸を喜ぶのは良くないが、それでも、可愛い弟が嬉しそうで良かったと思うのは、兄として仕方がない。
双子とは不思議なものだ。
でも、この不思議は厄介なこともある。
あのさ、この不思議は本当にたまに起きるんだけどさ、共有するのも時と場合を考えて欲しい。
僕、この後謁見なんだけどさ、口が痺れて喋れる気がしないよ。
うぷ。胸焼けもする。
【ボツ案】
恋云々を感じる要素が見当たらない。
それに、
「ここは男子校だよ。この環境でどうやって恋をするのさ。」
「・・・・・・新たな可能性を開花させるしかないな。」




