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婚約破棄された異世界の魔女【連載版】  作者: 純太
第3章

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「フェルーク様!しっかりして下さい、フェルーク様!」


固く閉じられた瞼を開こうと、私はフェルーク様へ必死に呼び掛けた。

慌てて救護班から駆けてきた数名の医師は、フェルーク様の傷を診るとすぐに処置を始めた。

医師達が止血をするものの傷が深いのか、止まることを血は知らず、フェルーク様の顔色はどんどん悪くなる一方だった。


こんな所では満足な治療もできない。

このまま血が流れ続ければ、出血多量で死んでしまう。

フェルーク様が・・・・・・。


それはダメだ。

だって私は言ってない。

まだ、言っていないのだ。


貴方に好きだと。


「駄目だ、止まらない。ニーナ殿、魔術で止血を!」


絶対に死なせない。


私はフェルーク様の傷口に手を翳すと、全神経を集中させ、私の全霊を持って治癒魔術を行使した。


フェルーク様の背中が淡く輝きだすと、傷口ががみるみる小さくなっていく。

そのままその肌は早送りで塞がれていき、かさぶたが出来たかと思えば、早々にポロリと綺麗に剥がれた。

そして光はフェルーク様の体全体を覆うと強く輝きを放ちやがて収束した。


私はフェルーク様の頭を抱えて、顔を覗き込んだ。

暫くそうしていると、少しずつ頬に赤みが差し、血の巡りを感じる事ができ、呼吸も安定した音を立てていた。

それを見て、わたしはやっとホッと息をつく事ができた。


「よかった。」

「そうですね、て、いやいやいや、ニーナ殿、これは流石に治しすぎなのでは?傷跡とか全くないし、気のせいか、肌艶も良くなってませんか?成人すぎてる男の頬が薔薇色とかちょっとないでしょう。」


そんな医師の声など聞かなかった事にし、私はフェルーク様をそっと寝かせると、魔法の杖を握って立ち上がった。


リュプスの群れはこちらに襲いかかってくるものの、完成した結界に阻まれ体当たりしては跳ね返されていた。

戦闘員達は、体制を整え、隙をついては攻撃を与えリュプスへ応戦している。


私はそれを視界に収めると、ゆっくりとそちらへ足を向けた。


「よくも、やってくれたわね。このお返しは、高くつくわよ。」


ユラユラと迎撃している所へ近付く私に気付いた魔術師の同僚が、私の様子を見てとると顔を青ざめさせ、アワアワと指揮官の元へと走って行った。

同じく私の顔を見た別の同僚は、慌てて他の同僚に声をかけ、新たな結界を張り始めていた。


それらを横目に、私は今まさにこちらへ攻めてこようと駆けてくるリュプスの群れから視線を離さず、一歩一歩、足を進める。

私は漲る怒りのまま、足を踏み出し、そして、杖をリュプスの群れへと向けた。


「全員退がれ!結界の中に!結界は強度を上げて!竜殺しの攻撃に巻き込まれるぞ!」


指揮官の焦りの滲む声が響く。


結界の外で応戦していた騎士達は私の姿を見ると、たちまち顔色を悪くさせ、急いで結界の中へと戻った。


私は魔力を練ると、彼を害した敵に相応しい仕返しを放った。


「こういう時はね、倍返しじゃ緩いから、五倍返しって相場が決まってるのよ!」


私は溢れる感情のままに、リュプスの群れを壊滅させた。


それを見ていた人々はのちに語ったという。

「五倍返しだと、跡形も残らないんですね。」と。







「討伐隊に大きな損害も無く、重傷者もいなかったことは良くやったと言えよう。が、森の一部を更地にしたのはどうかと思う。」


今いるのはハリストール殿下の執務室。

討伐から戻った私は、後片付けもそこそこに、医務室へ戻ろうとしたところ、王宮の入り口で手招きするロダンに連れてこられ、良い笑顔の殿下に出迎えられたのだった。


怒りの赴くままに敵を駆逐した私は、リュプスの群れを一匹も逃さず殲滅すると共に、攻撃範囲内にあった草木を一緒に殲滅してしまった。

多分、上から見たらぽっかり穴が空いていると思う。


まあね、確かに殿下の言うことは一理あると思うよ。

だって、一頻り暴れた後、周りを見渡してみたら、ドン引きした目で皆んな見てたもん。

私の周り空間が空いてたもん。


「更地にはしてません。草の一本や二本くらいは生えてると思います。」

「良く見ないと見つからん草など、その場に無いに等しい。」

「心が綺麗だと見えるんですよ。」

「なら、お前にも見えないだろ。」


殿下は溜息を吐くと、椅子に深く腰掛け肘置きに肘をついて頭を乗せた。


「とにかく、弟を助けてくれた事には感謝するが、いくらなんでも森を禿げ上がらすのは問題だ。」

「殿下の頭よりはマシです。」

「何か言ったか?」

「いえなにも。」







@@@@@@@@@








痛い。

殿下のヤツ、本当のことを言ったからって、何も殴ることないじゃないか。

いい大人がさ、いい大人を殴るってどうなのよ。

しかもグーだよグー。


「今日はいつにも増して怒られたらしいね。」

「何で知ってるんですか。」

「そのタンコブは雄弁に色々語ってくれるよね。あの人の怒りとか。」


いつもの大衆酒場でタンコブを撫でながら自分を慰めていると、いつものようにフェルーク様が向かい側の席に現われた。

そしていつものように、いつ注文したのか飲み物を携えていた。


「て、いやいや待て待て。」

「どうしたの?」

「あなた、大怪我したばっかりでしょうが。こんな所ほっつき歩いてていいんですか?」

「お陰様で、無傷みたいなものだからね。どこかの腕の良い治癒魔術師が跡形も無く傷を治してくれましたから。心なしか、前より肌艶が良くなった気がするよ。兄からは、薔薇色の頬とか気持ち悪い、と言われたよ。」

「う、だから心配してるんですよ。自己治癒力が著しく低下しているはずなので、暫くは免疫力が低下するだろうから病気とかにもかかり易いし、怪我も治りにくいし。」

「そう?昨日より元気な気がするけど。」


そう言い、カラッと笑いながらフェルーク様は手元のグラスを傾けた。


「あ!言ってるそばからお酒なんて飲まないで下さいよ。自分の身体を労わって下さい。」

「大丈夫だよ、これは果実水だから。さすがに今日は飲みません。」


本当だろうか。

果実水を飲む彼をジト目で見ながら、私もお酒で喉を潤した。


「まあそれに、もしまた僕が倒れたら、きっと腕の良い治癒魔術師が看病してくれるだろうから、そんなに心配してないんだ。」

「良薬口に苦しって言葉知ってます?特別に良〜く効く薬をご用意して差し上げますよ。」

「うーん、それは遠慮したいかなぁ。」


そうやって軽口を叩いていると、不意に目が合い、何だか面白くなってクスクスと二人で笑った。


私は彼の全身にサッと目を走らせ、治癒が無事に成功し、元気な姿であることを確認して心底安堵した。


討伐から戻って一時間程、フェルーク様は目覚められなかった。

始めのうちは、このまま目覚めなかったらと、不安だったが、医師の診断では問題も無く、順調に回復に向かっていると聞いて、一先ず落ち着いた。

殿下の雷に打たれているうちに目覚めたと聞いた時は、嬉しさに涙が溢れるかと思った。

その時、殿下の執務室にまだいたので、殿下やロダンと一緒にその報告を聞いたのだが、私の様子を見た殿下はヤル気が削がれたようで、お叱りを終われせてくれた。

本当に、目覚めてくれてよかった。


私はもう一度、彼の元気な姿を噛みしめるように良く見た。


また、彼の笑顔が見られて。

また、彼と笑い合えて。

本当に良かった。


「そんなに見つめられると、僕も恥ずかしいんだけど。」


さすがに見過ぎたようで、フェルーク様は苦笑を浮かべると頬を掻いた。


「私なんて可愛いもんですよ。いつももっとガン見されてるじゃないですか。私よりも強い視線で。」


見ているのは大体『女豹』と呼ばれる肉食系狩猟女子だ。

そういった人種に、獲物のフェルーク様は常に狙われているのだ。

隙あらば確実に捕まって食われていることだろう。確実に。

モテるのも大変ですね。


フェルーク様は女豹達のことを思い出したのか、若干困ったように笑うと、少し考えるように視線を上に向けた後、再度私に向き直った。


「ニーナからの視線は特別。」


瞬間、私の顔がカッと熱くなるのが分かった。


何てことをサラッとかますんじゃ、この男は!

聞いてるこっちが小っ恥ずかしいったらありゃしない。てやんでい。べらぼうめ。一昨日来やがれ。いや、一昨日に来られちゃ困る。というか、一昨日にはどうやって行けばいいんだ?

ダメだ。自分が何言ってるだかよく分からない。

一旦落ち着こう、そう落ち着くんだ私!


私は落ち着くため、残っていた酒を一気に飲み干した。

そんな私の様子を見ていた彼はクスクスと笑った。


「いい飲みっぷり。」


誰のせいだ、誰の。


私は不貞腐れつつも笑う彼を横目に新しい飲み物を注文することにした。

一頻り笑うと、彼はついた肘に顎を乗せ、何でもないことのように言葉を続けた。


「ねえ、そんなに僕が死ぬのは嫌だった?」


そう言われ、私は彼から視線を外し、手元のメニューへ落とした。

彼の真っ白な顔を見た時、私の眼の前も真っ白になった。

震える身体は抑えることもできず、ただただ彼を失う不安と恐怖に怯えるしかなかった。


「いや、でした。」


今でもその時の事を思い出すと震えるくらいには。


「そう。」


彼はそれだけ言うとグラスを傾けた。

言葉少なな彼の様子が少し気になり、チラリとそちらを見てみると、何故か器からはみ出た彼の口元は上がっていた。


「・・・・・・ちょっと、何で笑ってるんですか?」

「ああ、ごめん。つい。」

「今、笑う空気じゃ無かったですよね?」


多分、世間ではこういうの「ちょっといい雰囲気」て言うんですよ。

私が不機嫌を露わにしていると、グラスを置いた彼は口元を片手で覆い隠した。


「ごめん、ごめん。嫌だ、て言われたのが思いのほか嬉しくって、つい。」


だから此処は欧米か!異世界だ!

チョイ恥ずな台詞を何でそんな言えちゃうかなあ。

しかも嬉し恥ずかしな微笑み付きとか。

周りを見てご覧なさい。

そのご尊顔を直視しちゃった女達が頬染めちゃってるよ。

こっちの方が恥ずかしいよ。まったく。


「ねえ、ニーナ。」


不意に呼ばれ、私が視線だけで応えると、フェルーク様は卓の上に乗せていた私の手に自身の手を重ねた。


「僕は、自惚れてもいいのかな?」


その言葉に私は手を身じろがせた。

しかし、彼の手に少し力が入り、私の動きを止めた。

目の前の彼を見やると、その瞳は揺れており、何処となく柳眉が下がっているように見えた。


私は少し目を泳がせると、彼の温かい手を見つめ、鮮やかな新緑の瞳を見つめた。


「自惚れて、いいですよ。」


ポツリと、彼に届いたか分からないくらいの本当に小さな声で私は漏らした。

喧騒に紛れるように放った自分の言葉に、私は己の頬が熱を帯びるのを感じた。


フェルーク様は数回、ゆっくりと瞬きを繰り返す。

その様子を見て、やっぱり聞こえなかったか?と、私は言葉ではなく重ねられた手を握ることで想いを伝えた。


奥ゆかしい日本人な私にはこれが精一杯です。

これ以上は悶え死ねる。


彼は握り返された手を見て、私の赤く染まった顔を見て、何か言おうと口をパクパクさせた。

暫くそうした後、長く息を吐くと、握り合っていた手に、さらに力を加え破顔した。


優しく細められた新緑に、私は眩しさに目を細めた。


「やっぱり僕も飲もうかな。」

「ダメです。」

「こんなに気分が良いのに飲まない何て勿体無いよ。」

「絶対肝機能が低下してるからダメです。」

「酔い潰れたら介抱してくれるでしょう?」

「レディーに男を運べと?」

「うん。」

「店員さーん、この人にお水をー。果実水でなくお水をー。」

「けちー。」


私が無言で重ねた手を、力強く抓ったのはまた別の話。

17/03/02 記

誤記修正

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