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それから事態は急速に終息へと向かった。


私の激昂した魔力は屋敷を半壊(文字通り屋敷の半分が木っ端微塵に無くなった)にし、私が発した騒音を聞きつけた地元の警備兵とフェルーク様のお供が駆け付け、ベンゲランテ伯爵達は捕らえられ、私達も無事に救出された。


まあ、ベンゲランテ伯爵達は私の怒りにあてられ気絶をしていて捕らえるのは簡単だったし、私も魔力を爆発させた時に魔封じの手枷を一緒に壊してしまっていた様なので、両手は自由だったが。

後でフェルーク様に聞いたところによると、あの時の私は金髪で宇宙最強なスーパー星人みたいだったらしい。






「終わり良ければすべて良し。」

「終わりを丸く収めてから言え、ニーナ。」


ベンゲランテ伯爵邸での出来事をハリストール殿下に報告するため、私は只今殿下の執務室を訪れている。


「後始末をするこっちの身にもなってみろ。」

「適材適所ですよ殿下。ほら、私は壊す係、殿下は片す係。」

「成る程、確かにその通りだな。」


そう言って殿下の後ろに控えていたロダンが神妙に頷いた。


「でしょ?」

「治癒魔術師として、壊す係でいいのかお前は。」


呆れた様に言う殿下は無視し、私は出されたお茶に手を付けた。


「さて、竜召喚の魔法陣についてだが、お前の見解を聞きたい。」

「専門じゃありませんが。」

「勿論、魔法陣を専門とする魔術師にも話しは聞いている。異世界の知識を持つニーナの話しも聞きたいんだ。」


殿下は執務机に肘を付き、真っ直ぐな眼で私を見た。

真面目な雰囲気に、私もカップを置き、殿下を正面から見つめた。


「あれは召喚術というよりも、『転移魔術』に分類されるものではないかと思います。」

「転移魔術?」

「こちらの世界では研究されていませんが、以前いた世界では、物語によく登場していた魔術です。」


ベンゲランテ伯爵がしようとしていた竜召喚は『何処かにいる竜をここに引っ張ってくる』という表現が正しかった。

魔法陣を見てみても、『呼び寄せ』の文言があったし、他にも対象や召喚場所を特定させる陣などもあった。

逆バシ○ーラと言ったところか。

それに、あの魔法陣では理論が足りずに上手くいかなかったと思う。

足りないものをあげるとすれば、呼び寄せる際に『物体をどう目的地まで移動させ、その場に形作り、その形を止めるさせるか』という所だろうか。

それ故に、最初の竜召喚は劣化した状態になり、竜本来の力を顕現させられなかったのだと思う。

あの魔法陣には強化の陣が施されていたが、この問題が解決しない限り、結果は変わらなかったと思う。


「ふーん。転移魔術か。」

「あったら便利ですよね。移動時間大幅に省略できるし。通勤が楽。」

「国内外への旅も、危険が少なく、また時間も少なく済みそうですね殿下。それに、交易もし易くなるし国の発展に繋がるとも思います。」

「そうだな。研究してみる価値があるかもな。」


おお、これで○ーラが使える様になるのか。

まあ、本家の様に使用MP1とか0にはならないんだろうけどな。それは将来おいおいで。


「もし、この研究を進めていったら、もしかしたらニーナの世界に行く事ができるかもな。」


私がルー○を使う日を夢想していると、ポツリと殿下が呟いた。


「あれ、殿下は私の世界に興味があったんですか?」

「ここよりも色んなものが発展した世界だ。将来国を治める者としては興味がある。」


さすがは金貨症になっても辞めなかった志。

素晴らしい向上心です。

しかし、殿下が現代日本に行っても、


「コスプレした中二病的時代錯誤の痛い感じのお上りさんになっちゃうから、やめた方がいいと思いますよ。」

「意味はよく分からなかったが、貶された事だけはよく分かった。」


まあ、○ーラが使える様になったくらいじゃ、異世界に行くのは無理だと思うけど。


同じ世界を移動するのと、別世界へ行くのとでは考えが違い過ぎる。

四次元までの考え方は研究されていたが、その外に出てしまっている別世界の事なんて、授業やニュースでも聞いた事がない。

一瞬、私も元の世界に戻れるかも、と考えもしたが、元の世界が何処にあるのかとか情報が全く無い状況では、どだい無理な話だった。


「さて、用件も済んだことですし、私は戻ります。」


そう言って私は残りのお茶を飲み干し、退出するために席を立った。


「あ、そう言えばどうだった?『ハラハラドキドキを一緒に体験☆恋の吊り橋効果』を体験してみて。」


殿下のその台詞に、私はピタリと動きを止めた。


その文言、見た事あるぞ。

非常に最近、大変身近な場所で見た事あるぞ。


固まる顔で恐る恐る殿下の方を振り返ると、殿下の手には一枚の紙が握られていた。

その紙をヒラリとひっくり返すと、私の方へ中身が見える様に向けてくれた。


「この間提出した報告書に挟まってたぞ。お前もこういうのに興味があるんだな。」


そ、そ、そ、そそそそれは!

私がまとめた恋に恋する研究資料!!

無いと思ったらそんな所に紛れ込んでいたのか!

なんたる不覚!


「中々に興味深い研究資料だった。危機を共に乗り越える事で男女の愛が育まれていく過程は、成る程とすら思ったよ。で?実際に体験してどうだった?愛は育まれたか?」


首を取ったと言わんばかりに、紙をヒラヒラさせながらニヤリと笑う殿下に、私はただ口をパクパクさせて、顔を真っ赤に染める事しかできなかった。

穴があったら入りたいとはこの事か!


「うわっ!馬鹿止せ!ここに大穴を開けるつもりか!ロダン、止めろ!」

「殿下、人には出来ることと出来ないことがあります。これは人間には無理です。」

「キリッとした真顔で拒否するな護衛!」

「無理です。」








「聞いたよ。また建て物壊そうとしたんだって?」


違います。私が入る穴を作ろうとしただけです。


一人寂しく裏庭の木陰で昼食を取っていると、フェルーク様がニヤニヤしながらやって来た。


「耳が早いですね。」

「まあね。」


フェルーク様は私の隣に腰掛けると、私の手元を覗き込んだ。


「今日は外で食べてるんだ。」

「ええ。ロダンに会ったら食堂に大穴を開けかねなかったので。」

「うん。それは止めて正解だね。」

「ところで、フェルーク様はどうしてこちらに?」

「休憩がてらニーナに確認したい事があってね。」

「確認したい事ですか?」


「そう」と言いながらフェルーク様は懐から一枚の紙を取り出した。

それを私へ渡し、見るように促した。


「一応、あの召喚魔法陣の構成内容。君が壊したりして消えている所とかあったみたいで、漏れは無いか確認して欲しいって、魔術師が持って来たよ。本物を直接見たのは君と僕とフルドだけだからね。僕も専門じゃ無いから、君と話したくて。」


ああ、あの魔法陣壊れたんだ。

私の足下だったから大丈夫だと思ってたんだけど、崩れた瓦礫とかで削れたりしたのかもな。

ちょっ、恨みがまし気に見ないで下さいよ!

さっき殿下にも怒られたばかりなんですから!


紙を受け取った私は、フェルーク様の視線から逃れる様にその内容に目を通した。


いつも酒場で呑んだくれている私たちの関係でも、割とビジネスライクな会話をする事もある。

特に魔術に関する事では、よく相談される事もあるのだ。

飲みニケーションしかしていないわけでは無い。


紙に書いてある内容は大体、私が殿下に報告した通りだ。あ、あの読めなかった文字、こんな事が書いてあったんだ。

はー、こんな感じになってたんだなぁ。


「私の記憶と相違ありません。まあ、そんなによくは見てませんでしたから、こちらの方がより詳しいですけどね。」

「右に同じ。じゃあ、その旨伝えておくよ。」

「ありがとうございます。」


フェルーク様は紙を懐にしまうと、一度伸びをして立ち上がろうとした。

その様子を見た私は慌ててフェルーク様を呼び止めた。


「あ、あの、フェルーク様。」

「ん?」

「その、あの。」


次に会ったら伝えなければいけないと思っていたのだが、いざそのタイミングとなると、なかなか言い出せない。

モゴモゴとしている私を見て、フェルーク様は再び落ち着いて腰掛けると、私の手にそっと自分の手を重ねた。


何故そこでそうなる!

余計緊張するわ!


「そう言えば君に、後で教える、と言ってそのままにしていた事があるね。」


そんなのありましたっけ?


「ほら、ベンゲランテや他の人の反応が意味あり気だったやつ。」


あー、ありましたね。


「まあ、言ってしまえばこの国の風習みたいなものなんだけど、『女性に自分色のドレスを男性が贈るのは、所有の証』と言われているんだ。」


ん?


「ほら、君、あの時僕の瞳の色のドレス着てただろ?だから、皆勘繰ったみたいで、意味あり気に君を見ていたんだよ。」


そ、そうだったのか。

あちらの世界にいた時も、その様な話を聞いた事はあったが、こちらの世界でもそれが適用されているとは。

という事は、あの時私はフェルーク様の所有、つまりは恋人だぜ!て言いふらしていた様なものなのか。


ぐはっ!


でも、あれは殿下がくれた訳だし、今回の事象には当てはまらないよね!


「さらに言うとね、あのドレス、僕が見立てたんだ。兄上がニーナにドレスを作るって言うから、お願いして僕が作って贈ったんだ。」


ぐはっ!


もろだ。

クリーンヒットでストレート直球だ。


「この事黙っててゴメンね。でも、兄上と会った後に知ってよかったでしょう?」


そうですね。

風習も贈り主も知ってて、あのドレス着て行けと言った殿下を血祭りにしていたかもしれませんでした。

もしくは特大の大穴を開け執務室に開けていたかもしれません。

あ、もしかしてこの手は私の襲撃防止策でしたか?

だって、今少し殺気だったらフェルーク様力入れましたもん。


「しかも、僕の魔力を練り込んだ髪飾りなんて付けさせちゃったから、フルドにはあからさまって言われちゃったしね。色々ゴメンね?」

「いえ・・・・・・。」


呆れつつもそう返事をして、私はハッとした。

もしかして、これは私が話しやすい様に空気をフェルーク様は作ってくれたのではないか、という事に気付いた。

私が言いたかった事を察し、フェルーク様が場を調えてくれたのだ。


ホント、敵わないな。


「私も、頂いた髪飾り壊してしまって、すみませんでした。あと、ドレスもボロボロにしてしまってすみません。」


私はあの時壊れた髪飾りの事を、実は気にしていた。

マジ切れしてしまう程に、壊れた事がショックで、その後、フェルーク様への申し訳ないという気持ちが溢れてきたのだ。

本当に嬉しかっただけに、溢れる二つの感情を抑える事ができなかった。

まあ、それでベンゲランテ屋敷は半壊した訳だが。その上、知らなかったとはいえ、ドレスも捕まったり土埃なんたりでボロボロになってしまった。


「いいんだよ。それよりも僕は、ニーナが怒るほどにあの髪飾りを気に入ってくれていた事が嬉しかったよ。」


そう言うとフェルーク様は優しく微笑み、重ねた手を握り締めた。


私は頬の熱を上げ、そっと微笑み返した。


「さて、今度こそ戻ろうかな。」


そう言うとフェルーク様は今度こそ立ち上がり、「また今度呑もう」と言って立ち去ろうとしました。


しかし途中で何かを思い出されたのか、「あ」と言って足を止めてこちらを振り返った。


「そうそう、新人が王宮魔術師に入るそうだよ。新入りを虐めたりしないでね。本当は結構、良い子だから。」


この中途半端な時期に?

中途では無くしかも新人?


フェルーク様はそれだけ言うと「じゃあ」と足早にその場を後にした。


何か、言い逃げっぽくないか?


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