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婚約破棄された異世界の魔女【連載版】  作者: 純太
第2章

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12

フェルーク様に挨拶にやって来た人達の相手をしている間に時間は過ぎ、人の波が一段落したところでダンスの開始を告げる音楽が会場に響いた。


「ダンスか。」


昔、テレビで社交ダンスを踊っている人達を見た事があったが、その時は、こんな世界もあるのねーと別世界を外から見ていた。

それがまさか、社交界で踊る本当の社交ダンスを見る日が来るとは、あの時は思いもしなかった。

そして、自分が体育以外でダンスの練習をする日が来るとも思わなかった。


「そう言えば、ダンス習ってたよね。良かったら踊らない?」


もうすぐ曲が終わろうかという時、フェルーク様がそう言った。

しかし、その提案に私は思わず渋い顔をしてしまった。


「ワタクシの国には無い文化デスワ、見ているだけで楽しめマス。」

「何その棒読みの台詞。」

「と言って断れと上司に言われました。」

「練習したんでしょ?」

「ダンスって、思ったよりも奥が深いんですね。」


つまり、人前で踊れる程、上達しなかったということです。

以前、夜会の警備についた時、踊る人達が皆簡単そうにクルクル回るもんだから、私でもイケるイケる、とか楽観視してたらとんでもなかったんですよ。

オクラホマミキサーが踊れたらどうにかなるレベルではなかった。

そう考えると、今ホールで踊っている人達も、血の滲むような努力をして、あそこでキャッキャウフフしてるんだなぁ。

楽しそうに仲睦まじく踊る若者を見て、ちょっと滅べばいいのに、とか思っていた過去の所業を今こそ謝ります。

ホントすみません。


何か察したフェルーク様はクスリと笑い、差し出しかけていた手を戻した。


「運動系は全般苦手なんです。」

「剣で竜を一突きに出来るのに?」

「あれだけ的が大きければ、誰だって刺せますよ。」

「普通はそれがとても難しいんだよ。さて、それじゃあ、代わりに何か食べますか。」

「あ、それは有り難いです。お腹減ってたので。」

「ふふふ、じゃあ行こうか。」


そう言うとフェルーク様はもう一度手を差し出し、私はその手を大人しく握ったのだった。


「鳥を揚げたやつあるでしょうか。」

「うーん。あれは大衆向けだから無いんじゃないかな?」


確かに、ハイソな会場に唐揚げあったらビビるよな。

流石、いくつもの夜会を制した男。

夜会について詳しくていらっしゃる。

そしてそんな男だからこそ、そこで色んな女性にちやほやされたんだな。

今だって、パートナーの私がいるというのに今日の夜会に参加しているご令嬢達がフェルーク様に秋波を送ってる。

もしかして彼は、その波に乗った事があるのだろうか?

これだけのイケメンだ。

多少プレイボーイな側面があっても納得してしまうが・・・・・・なんか・・・・・・。

・・・・・・あ。


「どうしたの?難しい顔して。」

「いえ、ちょっとまた己自身との闘いを繰り広げているところです。」

「それは、また破壊系かな?それとも滅亡系かな?何かそっち系の魔術を考えちゃった?」

「何故みんな、私を破壊神にしたがるんでしょうか。」

「うーん、何でだろうね?」

「笑顔で誤魔化されませんよ。」


まったく、と溜息を吐きつつ、考え事をしているうちにフェルーク様が用意してくれていた食事を奪うように受け取り、モリモリと食べることに専念する事にした。


実は、私には墓場に持って行こうと思っていた秘密があった。

そりゃあ、秘密は女を魅力的にすると聞いた事があるし、私には秘密にしたいことが沢山あるが、それでも、墓場に持って行きたい程のものなど無かった。(他のもバレるのは嫌だけど。)

結婚するなら、誰にも知られてはいけなかった。

しかし、それも今では必要がなくなってしまったものなんだが、習慣って治すのほんっと難しいわ。


それにしても、美味しいな、この料理達。ちょっとシリアスな気持ちが吹っ飛んだわ。


「よく食べるね。今日一番の輝きを放ってるよ。」


私が夢中で食事に勤しんでいると、フェルーク様からそう声を掛けられた。

しまった、存在忘れてた。

慌ててそちらを見ると、瞳に少し哀愁を宿したフェルーク様のご尊顔が。


「腹が減っては戦はできぬ、ととある人が言いましたし、そして何より、ここのご飯、美味し過ぎます。箸が止まりません。あ、フォーク使ってるんでした。」

「そうなんだ。」

「ほら、フェルーク様も食べて力を蓄えて下さい。」

「ああ、うん、そうだね。・・・・・・髪飾りを渡した時より笑顔が眩しいよ。」

「これ、このお肉、ソースが絶品!そして肉が口の中で溶けて無くなります。はい、食べて下さい。」

「ああ、うん、有難う。」


目を遠くしながらもフェルーク様は私が取り分けたご飯を大人しくつつき、時々目頭を押さえていた。









食事をしたり歓談をして暫く過ごした後、私達は本日のメインディッシュに取り掛かる事にした。


本日のメインディッシュ、屋敷内を秘密裏に捜査する事。


計画としてはこうだ。

気分が突如優れなくなった令嬢は、別室へ案内してもらう事に。

フェルーク様に連れ添われて休憩室に着いたなら、私は索敵魔術を使い、怪しい箇所を見つける。

そして、後は素知らぬふりして帰るフリをし、見つけた場所へ調査へ向かい、相手の弱みを握って次こそ本当に帰る、と言うものだ。


ということで、早速私はヨロヨロとふらつき、気分悪いアピールを始めた。


「どうしました?」


フラフラの演技をする私に、フェルーク様がすかさず支えるように寄り添って来た。


「ちょっと気分が・・・・・。およよよよ。」

「それはいけませんね。どこか休める部屋を借りましょう。そこの君。どこか休める部屋を用意してくれないか?彼女、少し食べ過ぎたらしくて、気分が優れないみたいなんだ。」


何だと?

体調不良の理由が食べ過ぎとな?

うら若くはないけど乙女に向かって、その設定はないんじゃないか?

明らかにトイレコースじゃないか。

嫌だそんな設定。


私が抗議の意を込めて見上げると、フェルーク様はこちらに目を向けることもなくシレッとし、気付いていませんとばかりに前を見つめていた。

後で覚えておけ。


「まあ、大丈夫かしら。でも、確かによく食べていらっしゃったものね。」

「遠い東国の方には、さぞ珍しい料理だったんでしょうね。」

「私なんて、このプディングだけで精一杯ですわ。」

「私も、このケーキ一切れが食べられるかどうか。あれほど食べられて羨ましいですわ。」


クスクスと何処かでそんな囁きが聞こえた。

本当に、後で覚えておけ!








滞りなく私達は休憩室として用意された部屋へ案内され、無事に次のミッションをクリアしたのだった。


「上手くいきましたね。」

「取り敢えずは、と言ったところかな。」


私達は怪しいところがないか部屋をザッと見た後に、早速索敵魔術を始める事にした。


「じゃあ、僕は見張ってるから。」

「分かりました。私も取り掛かります。」


私は部屋にあったソファに腰掛けると、索敵魔術に意識を集中させた。

この屋敷にはベンゲランテ伯爵子息の結界が施されている。

彼に気が付かれないよう、隙間を縫って調べなくてはならない。

ゆっくりと結界に引っかからないよう索敵の範囲を広げていく。

怪しい魔術を使うなら何処だろうと考えた時、定番はやっぱり地下かな、と思ってしまう。

テレビとか漫画とかの知識だが。

球体を少しずつ大きくしていくように、範囲を広げ、ようやく地下に辿り着く。

だが、地下にはまた別に厳重な結界が張ってあり、簡単に侵入を許しはしなかった。


これは、地下が当たりだったってことかな?


私は結界の中身を探るべく、より意識を集中させた。


んん?これは?


「どうだった?」


私が索敵を止めたことが分かったのか、フェルーク様は見張りのために立っていたドアの側から離れ、こちらへと足を向けた。


「黒かもしれません。あ、いや、詳しくはまだ分かりませんけど。新人研修の時にあった竜が纏っていた魔力と酷似した力を少しですが感知しました。」

「本当?」

「はい。」


フェルーク様は何か考えるような素振りを見せたあと一つ頷き、次の行動の指示を出した。


「もう少し調べておきたいところだけど、今のところは十分だろう。次の行動に移ろうか。」

「はい。」


二人で頷き部屋を出ようとした瞬間、部屋にノック音が響いた。

誰かが来たようだ。


フェルーク様は私を支えるように肩を抱くと、「はい」と返事をした。


「なんです?この手は。」

「気分の悪い人を支えて起こす人の手だよ。」


ああ、そう言えば、私は気分が悪くてこの部屋に来たんでしたね。食べ過ぎで。


フェルーク様が返事をしたものの、誰かが部屋に入ってくる様子はなく、不審に思ったフェルーク様は立ち上がり、警戒しながらドアノブにに手を掛けた。

瞬間、


「ぐぁっ!」


苦痛を訴える声を上げたフェルーク様は、その場で糸が切れたように倒れてしまった。


「フェルーク様!」


私は慌てて立ち上がり、フェルーク様の元へ駆け寄ろうとした。

だが、彼の元へ着く前に、首筋にチクリとした痛みを感じたかと思うと同時にブラックアウトし、フェルーク様の安否を確認する事は叶わなかった。


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