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黒の魔眼  作者: ひのえの仏滅
第2章 冒険者 新人編
9/29

04.

 キャスカとパーティーを組んで翌日。

 アラタは武器屋に来ていた。


 「アラタだと、片手剣になるかな。このショートソードはどう?」


 キャスカが手渡したのは、バゼラードと呼ばれる小剣である。

 突くことも斬ることも出来る、扱いやすい剣。

 アラタは試しに振ってみるが、メイン武器としての心許なさに棚へと戻す。

 くるりと振り返り反対側にある長剣に目を付けると、店主に断りを入れ店の外で振ってみる事にした。


 上段から唐竹に、そのまま右切り上げ、逆袈裟、真下からの逆風、最後は真横からの左凪ぎ。

 太刀筋は確りとしており、アラタの体は剣にひっぱられること無くピタリと止まっている。

 どうやらアラタは、重量剣の方が使いこなせているようだ。

 アラタが持つ剣はブロードソードと呼ばれ、普通の剣より肉厚に打たれており、重量がかなりある大剣。

 何せ、剣の全長がアラタと同じくらいなのだから。


 これにはキャスカも驚きの表情を見せ、武器屋の店主などは口をあんぐりと開き言葉も出ない程であった。


 「ア、アラタ。剣術はやったことないって言ってなかった?」


 「あぁ、見様見真似でやってみた。駄目だった?」


 まさかアニメで学びましたとは言えず、適当に誤魔化すことに。


「いや、ビックリするくらい確りとしていたよ。全く問題無い。それどころか、ベテラン剣士の域に達しているかのようだった」


 キャスカからの誉め言葉に少し照れつつ、剣はこれにしようと決めていた。


 「いやはや驚きました。剣士のお嬢さんの言う通り、長年修練してきたかのような素晴らしい太刀筋でした。そちらの剣の事なのですが、お客様には、こちらなど如何でしょうか」


 そういい店主が持って来たのは、刀身が黒く染まったブロードソードである。

 見た目には色の違いしか分からなかった。


 「此方も同じブロードソードなのですが、使用されてる素材が違いまして、魔鋼鉄を使い打たれているのです」


 聞いたキャスカも『えっ』と、声を洩らしていた。

 魔鋼鉄とは、鋼鉄に純度の高い魔石を砕いて入れる事で、硬度を高めるだけで無く、魔法耐性も備えた一級の素材である。

 ミスリルに近い性能で、硬度だけなら同等と言われていた。

 そこいらの駆け出しが持つような武器ではなかった。

 更に店主は、打たれていると言っていた。

 即ち、鋳造ではなく鍛造である。

 鋳造は鋳型に流して作る為、比較的に増産しやすい作りである。

 反対に、鍛造は何度も折り返し重ねを繰り返し、一本一本鍛冶師の手で作られる。

 その作りの違いから、強度も切れ味の鋭さも、目に見えて違っていた。

 違うのは剣の質だけでなく、値段もである。

 鋳造品に比べ、鍛造品は高いのだ。


 「確かに凄そうだが、買えなきゃ意味が無いな。僕はそれ程裕福じゃ無いから」


 凄い素材で打たれた事は分かったが、それだけ値が張ることも理解している。

 アラタが遠回しに要らないと伝えると、

 

 「いえいえ。私達武器屋は、ただお客様に武器を売るだけでは御座いません。これから名を挙げそうな冒険者への、先行投資も行っているのです。名を挙げた際には武器も注目されますので。私はお客様にも感じたのです、英雄の資質を。ですから、今回はお安くしておきますよ」


 何やら怪しいとキャスカに相談するが、そういう話しは何処にでもあり、英雄が誰かの支援を受けているなど普通のことであるようだ。

 始めから金を持ってる英雄など、稀なことだと。


 そう言われれば納得出来た。

 勿論、支援者もただではやらない。

 見返りがあるから支援するのだ。

 アラタは、その見返りの事を考える。


 「あの、安くとは幾らくらいになりますか」


 「そうですな。本来なら金貨八枚の所、金貨三枚でお売り致しましょう。これで、どうでしょう」


 アラタは悩んでいる。

 金額に関しては悪魔から貰ったお金で足りるが、金貨の半分が無くなる事に。

 アラタは再度店主と交渉する。


 「あの此処にハンターマンティスの素材が丸々あるんです。これで、もう少し安くなりませんか?」


 マジックバッグ(偽)より、ハンターマンティスを取り出す。

 店主も、新人冒険者がハンターマンティスを討伐するとは思っていなかったようで、アラタのことをいたく気に入り、金貨一枚まで値を下げてきた。

 店主の評価には、アラタが既にマジックバッグを持ってた事も含まれていた。


 アラタは金貨一枚で剣を買う事にした。

 おまけで、背に担ぐためのベルトもただで貰えた。

 店主に礼を言い武器屋を後に、次は防具屋へ。

 ここでは、オーガの革を重ねて作られた、革の鎧、革の籠手、革の靴を一式購入した。




 アラタは早速剣の性能を試す為、森の周辺まで来ていた。

 キャスカが無謀にも一人で探索していた場所である。


 この森には遺跡があり『ウォルの迷宮』と呼ばれている。

 ウォルとは、嘗てこの森を縄張りとしていた魔獣の名。

 二十年前に討伐されたが、未だ森はウォルの名で呼ばれている。

 ウォル討伐から二年後、ある冒険者が森の奥にある遺跡に行くと、そこにはダンジョンが出来ていた。

 ダンジョンの情報が広まると近隣の冒険者が集まり、攻略が進められていく。

 ウォルの迷宮は数年で攻略され、今は初級から中級冒険者のいい狩り場となっていた。


 ダンジョンの最奥にはダンジョンコアと呼ばれるものがあり、コアを外せば攻略となる。

 しかし、攻略するとダンジョンは徐々に小さくなり、最後には消えていくのである。

 ダンジョンによって人が集まる町にとっては痛手であった。

 だが、コアの代わりに魔石を入れた所、ダンジョンが消えず活動するのを発見し、その後はダンジョン維持の目的で、魔石を設置するところが増えていった。

 ここもその一つである。

 どんな魔石でもいい訳では無く、ある程度の大きさと、魔力量が要求される。

 ダンジョンコアから魔石に代わった為、魔物も弱体化しているが、周辺の町には喜ばれていた。


 アラタはキャスカから、ダンジョンについて聞いていた。

 ダンジョンにはボスが存在し、コアを守っていると。

 ダンジョンはそれぞれ造りが違い、魔物の強さもコアの大きさも違うようだ。

 それぞれにS~Eまでのランク付けがされ、今向かっているのはDランクになると。


 二人は今、ウォルの迷宮に向かっている。

 途中魔物と出会うもゴブリンや野生の猪しか出て来ず、剣を抜くも案山子を斬っている気分になり、早く撃ち合える相手との出会いを望んでいた。


 ウォルの迷宮前。

 迷宮の入り口は遺跡の中央にある。

 人が四人並ぶと、ギリギリ入れるくらいの大きさである。


 キャスカが言うには迷宮内は広く、アラタの剣でも問題無く振れるらしい。

 らしいとは、キャスカも話しでしか聞いた事がなく、迷宮自体始めて入るからであった。


 入り口付近はテントや簡易小屋が建てられている。

 商人が建てた物で、有料で宿泊も出来る様になっていた。

 二人はグランドの街で必要な物は購入済みである。

 なので、そのまま入り口に向かって行と、周りの冒険者から誘いを受けるのだった。


 「君達、ここの迷宮は始めてかな。だったら案内しようか。今なら成功報酬の二割でいいよ」


 「ヒーラーは要らないかい。迷宮内では必須だよ。此方は一回銀貨五枚と食事でいいよ」


 どうやら自分の売り込みをしているようだ。

 代わる代わる話しかけて来るが全て断り、漸く迷宮に足を踏み入れる事が出来た。


 「はぁ、やっと着いた」

 

 アラタはため息をつきながら呟く。


 「本当、しつこかったね。私達が女子供だから、余計に売り込むんでしょうね」


 子供呼ばわりされるも仕方ないと、アラタは半分諦めていた。

 もう半分は、やはり納得出来ない思いではあった。


 迷宮内はキャスカの情報通り広く、充分剣を振り回せそうであった。


 「地図は私が持つわ。アラタは周囲の警戒をお願い」


 「分かった」


 二人は地図を頼りに探索を開始する。

 通路を三つ程進むと、前方の角からゴブリンらしき声が聞こえてくる。

 角から覗くと、ゴブリンの集団が見えた。

 十匹程度である。


 アラタは指先をゴブリンに向け、キャスカに行くぞと合図をする。

 二人は角から飛び出し、一気にゴブリンに肉薄すると、アラタは剣を横一文字に振り抜き、三匹を一瞬に切り裂いた。

 キャスカもサーベルを抜き、二匹のゴブリンの首を切り裂いていた。


 数秒で半数に減らされたゴブリンは混乱状態に陥り、その数秒後には生きている魔物はいなかった。

 魔石と討伐証明を切り取り、アラタ達は先へと進んでいく。

 地下への階段が見つかるまでに出てきたのはゴブリンのみで、二人はさっさと二階へ降りるのだった。


 地下二階を進んでいると、ゴブリンが現れるもその中にはホブゴブリンや、ゴブリンメイジなどが混じっている。

 アラタは、ハンドサインでメイジを頼むとキャスカに伝え、目の前のゴブリンへ駆け出していく。

 まずは、リーダー格のホブゴブリンに向かう。

 ホブゴブリンは、斬り込んでくるアラタの剣を受けようとするも、その剣ごと唐竹に切り捨てられ、斬り別れた体が左右へと地面に倒れていく。


 キャスカはゴブリンメイジへと向かう。

 だが、他のゴブリンに道を塞がれ、近寄れずにいた。

 ゴブリンメイジは呪文を唱え始める。

 キャスカは急ぎ、壁役のゴブリンを切り捨てる。

 が、同時にゴブリンメイジの魔法が完成し、アラタに襲いかかる。


 魔法を放つもすぐにキャスカに接近され、ゴブリンメイジは首を斬り落とされた。

 放たれたファイアーボールは、アラタに剣で切られ消滅する。

 残ったゴブリンも討ち取り、魔石と討伐証明を回収。


 この戦闘で、二人の行動や作戦ミスなどが浮き彫りになった。

 ホブゴブリンを唐竹に斬り捨てたが、同時に魔石まで斬り裂いてしまった。

 本来なら、魔石や討伐証明の事を考え、戦わなくてはいけなかった。

 もう一つは、魔法でゴブリンメイジを狙う方が、効率が良かった。

 最初の作戦から間違っていたのだ。

 二人は今回の失敗を話し合い、次に活かすよう反省をする。


 その後は、失敗らしいものはなかった。

 ゴブリンメイジも出てくるが、アラタの魔法とキャスカのナイフの投擲で討伐されていく。


 地下二階もゴブリンしか出ず、二人は更に下へと降りて行く。

 地下三階からはオークが出てきた。

 オークはゴブリン同様繁殖力が強く、度々人間や獣人、エルフなどの人形を拐い、繁殖の為の母体とする習性がある。

 同種のメスが存在するにも拘わらず、他種族のメスを拐う理由は解っていなかった。

 したがって、全種族の女性から忌避されている魔物である。

 だが、一方では肉は旨く、市場では人気の食材として並んでいた。

 狩れば必ず売れるので、どちらの意味でもおいしい相手ではあった。


 三階はゴブリンとオークであったが、四階はオークメインになる。

 たかがオークに、二人が遅れを取る筈もなく、サクサクと探索を進めていくのだった。


 五階に降りると小部屋の中に、宝箱を発見した。


 「キャスカ、大丈夫だと思うか?」


 「この階層で、宝箱の罠とか聞いた事がないから、大丈夫だと思う。ここは、私が開ける」


 キャスカが進み出るもアラタが自分がやると前に出て、宝箱を一応鑑定してみた。


 宝箱:迷宮の宝箱。罠無し。


 どうやら、鑑定出来たみたいである。

 罠は無しとの事で、早速開けてみた。

 中身は金貨五枚。

 上層の宝箱にしては当たりだった。

 小部屋を出ると行き先にオークがいたので、アラタが一刀のもとに首をはねる。


 ここにも、手こずるような敵は現れなかった。

 先へ進むと、大きな扉が目の前に現れる。


 「アラタ、ボス部屋よ」

 この奥にボスがいるらしい。

 二人は休憩を取るが、警戒と作戦の確認は怠らない。

 

 疲れも取れ、二人は装備や持ち物を確認すると、この迷宮初めてのボス部屋へと入って行のだった。

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