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黒の魔眼  作者: ひのえの仏滅
第2章 冒険者 新人編
8/29

03.

 グランド近くの草原。

 アラタとキャスカはグランドの街に帰る途中である。

 アラタがハンターマンティスより助けた女性は、キャスカ・レビンと名乗った。

 年齢は十七で赤髪に切れ長の目、スタイルも良く可愛いを卒業して美しいと称される姿をしている。

 キャスカが街中を歩けば振り返る男も多いだろう。


 「さっきの魔法、凄かったわね」


 キャスカが言う魔法とはハンターマンティスに放ったものである。

 人前であまり使いたくなかったがハンターマンティスは手加減出来る魔物でなく、更に後ろに人を庇っていれば自ずと力が入るものである。

 討伐したハンターマンティスは去り際にこっそりと虚無の中に入れてきた。

 キャスカに直接見せた訳ではないが、何かしら変に思っているのではないかとヒヤヒヤとしていた。


 「キャスカ、僕の魔法のことは内緒にしてくれない。あまり広めたくないんだ」


 「わかったわ、約束する」

 

 アラタは命の恩人である。

 キャスカはこの言葉を違える事はないと頷くのだった。


 アラタはホッとした顔を見せるが、完全には信用していなかった。

 前世での出来事から、人間不振なところがある。

 キャスカも信用を得ているとは思っておらず、どう歩み寄ればいいのか思案していた。

 しかし、考えても上手く纏まらず、この際ストレートにお願いしてみる事に。


 「アラタ、私と組んで欲しいの。一緒にパーティーを組みましょう」


 キャスカは是非一緒に組みたいと、アラタに誘いをかけてきた。

 

 「無理」


 アラタは興味無さげに拒否する。

 ただ一言に断られたキャスカは悲しそうに俯いていた。

 アラタには、誰かとチームを組むという考えは全くなかった。

 チームを組むと言う事は、その能力を誰かに見せることになる。

 ゼルやポリーにさえ見せた事のない能力を、他人に見せようとは思わない。

 いずれは二人に話したいと思ってはいたのだが、その一歩が未だに踏み出せずにいた。

 だが今回の事をきっかけに、二人になら話してみようと思えるようになってきた。

 二人なら受け入れてくれる様な気がしていた。

 出会って間もない間柄ではあるが、二人の事は信頼する事が出来た。


 断られショックを受けていたキャスカだが、再度チーム申請をしてくる。


 「もう一度、考えてくれない?街に着くまででいいから」


 何か組みたい理由でもあるのかと、アラタは疑いを深めていくのだった。


 グランドの街中。

 アラタとキャスカは中央広場を、串焼き片手に歩いていた。

 キャスカへの返事はまだしていない。

 キャスカはアラタからの返事を気長に待ってはいるが、断られた時のことを思うと、気分がだんだん沈んでいくのを感じていた。

 中央広場から冒険者ギルドへ続く通りに出ようとすると、ポリーの明るい声が聞こえてくる。


 「アラター」


 歩いている所にポリーが抱きついてきた。

 この頃ポリーはアラタにベッタリとくっついてくる。

 出会った頃はしっかりとしたイメージがあったが、この頃は甘えたがりでその都度アラタが相手をしていた。


 「危ないぞポリー。悪かったねアラタ君。おや、一緒にいるのはレビン騎士爵家のお嬢さんではないですか」


 「はい、お久しぶりです。ゼルさん」


 ゼルはキャスカの家、騎士爵家へも出入りしているらしく、暫し二人で話し合っていた。

 その間アラタはポリーの相手をして、時間を潰していた。


 アラタ達はゼルの家にいる。

 ゼルがキャスカを招待したのだ。

 アラタとの経緯を聞いて、二人の渡し船になれればと考えていた。


 「それで、アラタ君はどう考えているんだい。キャスカさんはアラタ君と組むのを望んでいるようだけど」


 「正直まだ考えています。これはキャスカさんへの問題では無く、僕個人の問題なんです」


 「その問題は聞いても大丈夫かい、アラタ君」


 アラタは迷っていた。

 ここにゼルとポリーのみであるなら、躊躇わず話しただろう。

 その心意を察したか、ゼルがキャスカについて語りだす。


 「アラタ君、何を心配しているのか理由は分からないけれども、私個人の意見になるがキャスカさんの事なら心配する必要はないと思うよ。私は彼女の家と長年の付き合いがあるから。小さい頃から知っているけど、彼女は恩人の不利益になるような事は絶対にしない。私自身、保証する」


 キャスカはゼルの後押しに感謝しつつ、アラタの信頼を得る為自分自身のことを話し始めた。 


 キャスカの家はどこにでもいる騎士爵家。

 父親は厳しくグランドでも腕利きの騎士であり、亡き母も嘗てはB級冒険者であった。

 B級とはチームでドラゴン狩りを行う程の強さをもった、ベテラン冒険者のことである。

 したがって、キャスカの中には両親の剣の才能が引き継がれていたのである。

 小さな頃から才能を開花させ、兄二人よりも剣の腕は上であった。

 その為、一番上の兄には疎まれているが、一つ上の兄には可愛がられていた。


 レビン騎士爵領はグランドの隣になる。

 グランドの隣に小さな町があり、其処がレビン騎士爵領である。

 レビン騎士爵家とは、四代前の国王陛下の時世に起こった戦で大きな戦功をあげて叙勲された、比較的新しい騎士爵家である。

 小さな領地で主に農業が主産業。

 特に麦の栽培が盛んで、この辺りでは一番評判が良かった。


 そんなレビン騎士爵現当主こそ、キャスカの父親であった。

 父の名はロンバルト・レビン。

 その日、突然父がキャスカに対し剣を置き伯爵家へ嫁げと言ってきた。

 キャスカも抵抗はしたが父親の考えは変わらず、こうなれば家を捨て母と同じ冒険者になろうとグランドに来たと言う。


 ここまで聞くとキャスカに同情的にはなるが、まだ信頼を得る程の話しではなかった。

 アラタの考えもまだ纏まっておらず、キャスカとのチームを模索してみようと思えてはいたが、これはキャスカの話しから来るものではなく、ゼルの信頼して良いとの言葉から来る、心の変化であった。


 キャスカは突然立ち上がるとアラタの前で片膝を着き、アラタに頭をさげて宣誓する。


 「私、キャスカ・レビンはここに誓う。アラタ殿の(つるぎ)となりて、その敵を打ち払い、一切の不利益になる行動を戒め、命の恩に報いる事をここに誓う」


 もし誓いが破られた時には、この命をもって償う覚悟であると、三人の前で宣言をする 

 宣言するその姿は、叙勲される者が王に対して行う誓いの儀式そのものであった。


 この宣誓にはアラタも驚いていた。

 自分を真っ直ぐ見て『お前のために死ぬ』と、目の前でそう言うのである。

 元日本人のアラタには分からない感情であった。ドン引きである。

 しかしキャスカの覚悟は本物らしいと感じられ、チームの事を含めて受け入れてもいいかなと考えていた。

 一番の決めては宣誓でなく、やはりゼルの信頼ではあったが……。

 キャスカに対しては、少し怖いイメージをもってしまった。

 お前のために死ぬと言われて喜ぶほど、アラタの感情も壊れていなかった。




 キャスカの宣誓からアラタはチームを組む事を皆に伝えて、自分の能力も話すことにした。


 「僕の能力は魔眼。色々な力を秘めているみたいです。魔導書から魔法を読み取り、魔力を吸収したり、呪言(呪い)さえも取り込む事ができるみたいで、因みに錬金術もこの目のお蔭です」


 皆はただただ驚いていた。


 「アラタ君、その目の能力はまだ一部なんだよね。どんな能力があるのかは、分からないのかい」


 ゼルは心配なのか聞いてくる。

 表情がそう語っていた。


 「すみません、分からないです。感覚的にまだ能力が隠されている事は分かりますけど、どんなのかまでは分かりません」


 話すと決めた以上、日本のことや悪魔のこと以外は正直に話そうと思っていた。


 「そうか。話してくれて有り難う。僕はどうやら、アラタ君に対しては心配が過ぎるみたいだね。でも、あまり無茶はしないで欲しいかな。僕達にとっては、家族なんだから」


 ゼルは微笑みながらポリーの頭に手を乗せ、ポリーはゼルの手に自分の手を重ねてニッコリ笑顔を見せている。

 アラタもキャスカも、二人の姿を見て微笑んでいた。


 その後は三人に虚無を披露した。

 すると、ゼルがポリー以上に驚く。

 商人にとっては、夢のような能力である。

 キャスカは思う所があるらしく、先程から考えては頷いていた。

 今日のハンターマンティスの事であろうか?

 ばれてはいなかったが、僕が何かしたのではと疑ってはいたらしい。


 「あれ程大きな物が、忽然と無くなれば不思議に思うわよ」


 やはり、ばれるものらしい。

 三人に人前であまり使えない事を伝えると、偽装としてマジックバッグを持つかマジックバッグに偽装したバッグを持ち、其処から出し入れして誤魔化せばいいとゼルがアドバイスをくれる。

 高位や熟練の魔術師にはバレる恐れがあるが、大概の人は誤魔化せる筈だと。

 早速持っているバッグで試すと問題なく使えるようで、これからは人目を気にせず使えるのかとほっとしていた。


 「アラタ様、チームを組む為にも、戦闘スタイルを教えて欲しいのですが」


 確かにアラタのスタイルは、分かりにくかった。

 レイピアを持っているかと思えば、魔法使い。

 前衛なのか後衛なのか。

 身体的に見れば後衛であろうが、レイピアを持っている以上ただの後衛ではないと思考していた。


 「基本的には後衛かな。剣の技術も無いし、レイピアだって使いこなせてないしね。だけど、何時までもこのままなのは嫌かな。いつか剣も使える様になりたいし。それとキャスカ、僕の事はアラタでいいよ」


 「いや、しかし、宣誓した以上はアラタ様と」


 「宣言したのは僕の剣になる事、不利益な行いをしない事、恩に報いる事だった筈。その中に呼び名に様を付けるとは含まれてない筈だよ。一緒に冒険するのに堅苦しいのは嫌なんだ」


 キャスカは複雑な表情をするが、本人が嫌がるからには仕方なしと、助けられた時の様に呼び捨てにする事にした。

 

 アラタとキャスカはこれからについて色々と話し合っていた。

 そこにゼルのアドバイスが入ったり、ポリーの意見が入ったりと、楽しそうに話し合っている。

 キャスカもこの家の雰囲気を気に入ったみたいで、いつの間にか皆との談笑になっていた。

 特にポリーを気に入っているみたいで、頭をなでたりして可愛がっている。

 ポリーも始めは緊張していたみたいでぎこちなかったが、今はお姉さんが出来たみたいで嬉しそうであった。


 夕刻を過ぎ、もう夜になる。

 キャスカが帰ろうとすると、夜は危ないからとゼルに止められ泊まっていく事になった。

 冒険者である以上危ないのは当たり前なのだが、そこはお人好しのゼルらしい対応であった。


 夕食も終え、二人は話し合っている。

 アラタが剣の事をキャスカに相談していた。


 「アラタ、レイピアは技術が確りしてないと、扱いづらいわよ。力便りなら大剣もあるけど。アラタだと片手剣になるわね」


 「そうか。だったら明日、武器屋に連れてってくれないか。しっくり来るのがあれば買うかも知れないし」


 「えぇ、わかったわ」


 こうして、明日の予定が決まった。

 ポリーは既に寝ており、ゼルも部屋へと上がっていった。

 アラタとキャスカも此処までとして、二階に上がっていく。

 階段を上がると、おやすみと挨拶を交わして部屋へと入る。

 アラタはいつも通りに魔力操作の訓練をし、今日からはポーション作製も練習に加えるのだった。

 今日は色々あったので気分が落ち着かないのか、アラタが眠りに堕ちるのは真夜中過ぎになる。

 一方キャスカも見慣れない場所での就寝に戸惑いつつ、漸く眠りに着いたのは真夜中過ぎであった。


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