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黒の魔眼  作者: ひのえの仏滅
第2章 冒険者 新人編
7/29

02.

 歓迎会の翌日。

 アラタは今、錬金術の練習をしている。

 薬草と魔草が予想以上に手に入ったので、早速ポーションを作っていた。


 ポーション(中):傷薬。薬草と綺麗な水。中級品。


 マジックポーション(中):回復薬。魔草と綺麗な水。中級品。


 今日、初めて作ったにしては上手く出来ている。

 魔力コントロールの練習を毎日していたから。

 既に五本机の上に並んでいた。

 今日は午前中一杯、ポーション作りを続けようと思っていた。


 「アラタ、ご飯だよ」

 

 ポリーが部屋へ駆け込んでくる。


 「アラタ、何してるの?」


 アラタがやることに興味津々と目を輝かせ、ベッドにダイブし寝転がりながら覗きこんでくる。


 「ちょっと、待ってて」

 

 アラタは今作ってるポーションに、あらんかぎりの魔力を込めて精製していく。

 魔力の流れが今までより、更に緻密に収束していく。

 魔力量に比例して、時間もその分かかるようだ。

 暫くすると、魔力の流れが止まる。


 「ふぅ、出来た」

 

 アラタの手の中には、これまでとは少し違うポーションが握られていた。


 「すご~い、アラタ。今の何?」

 

 ポリーは更に目を輝かせ、アラタにくっつくようにポーションを眺めていた。


 「錬金術で、ポーション作ってたんだ」


 アラタはたった今出来たポーションを鑑定してみた。


 ポーション(最):再生薬。遺伝子情報からの肉体の再生。薬草と綺麗な水。最上級品。


 「えっ、上級品、何処いった?」


 まさか上級を越えて最上級品を作るとは思ってなかったのか、アラタは戸惑いを隠せずにいた。


 「わぁぁ、すご~いアラタ。ねぇ、ねぇ、どうやったの。僕にも出来る?」


 ポリーは見様見真似でやってみるが出来る筈もなく、アラタの背中にくっつきながら教えて教えてとお願いしてくる。


 ポリーがじゃれついていると、今度はゼルがやってきた。

 呼びに行ったポリーが戻らないので様子を見に来たのだ。


 「ポリー、何してるのかな。アラタ君もご飯の時間だよ」


 ポリーがアラタにじゃれつくのはいつものこと。

 仕方ないと思いながら見ていたが、アラタの持つポーションが気になった。

 

 「アラタ君、そのポーションを少し見せて貰っていいかな」


 「えぇ、いいですよ。ゼルさんにあげようと思っていたので」


 ゼルはアラタの手に持つポーションを鑑定して驚きの声を挙げた。


 「アラタ君、このポーションどうしたの?最上級品じゃないか」


 「凄いんだよ、アラタ。それアラタが作ったんだよ」


 ゼルは、ポリーの言葉を聞いて絶句する。

 この時、アラタは気付いていなかったのだ。

 自分が作ったポーションがどれだけ凄いかを。


 「アラタ君が作ったというのは本当かい?」


 「はい、さっきやったら最上級品が出来ちゃいました」


 アラタにとっては、試しに作ったただけのポーションである。

 最上級品を作ろとせず出来たのであって、特別な物では無いと思っていた。

 そこに、ゼルの反応との違いがあった。


 「アラタ君、これを僕にくれるって本当かい?これなら最上位の冒険者や貴族にも高く売れるよ」


 「えぇ、本当ですよ。お世話になってばかりでは悪いので、これくらいさせて下さい」


 「いや、これじゃあ此方が貰い過ぎなくらいだよ。本当にいいのかい?」


 「はい、錬金術の練習で作りますから、ゼルさんの商売に使って下さい」


 ゼルは練習と聞いてまた驚く。

 練習で作れる物では決して無いからだ。

 最上級品を作るには大量の魔力とそれを御する緻密なコントロール、更には貴重な素材も必要で、早く言えば長年の研鑽と技術を必要としていた。

 今まで作ってきたのでは無く、先程作ってみたら最上級品である。

 ゼルは才能の違いと、半ば無理矢理納得しようとしていた。


 今日作ったポーションは殆どゼルに渡し、アラタはポーション八本と、マジックポーション五本をバッグとポーチにしまった。

 手元に残したポーションをポリーに挙げたところ、アラタに抱きつき喜んでいた。



 アラタは冒険者ギルドに来ている。近場で出来る依頼を探しに。

 昼過ぎだからかあまり混んではいなかった。

 ギルドが混雑するのは、朝の仕事選びと夕方の完了報告の時間帯である。

 アラタはそれを知って昼過ぎに来ていた。

 それでも不安はある。

 条件にあった仕事が残っているかどうかである。

 もしなければゴブリン退治に行くか、薬草摘みか、それとも出直すかの選択である。

 あまり深刻に考えてはいなかった。


 近場といっても、何でもいい訳ではなかった。

 ギルドの公約に仕事は自分のランクの一つ上までしか受けられないルールがある。


 これは過去に無謀な挑戦をして幾人もの冒険者が死亡した事を教訓に、ギルドが明確なルールを設けたのである。

 それ以外でも、護衛依頼で内容にそぐわないレベルの冒険者が来て、依頼人ごと死亡するという事件が何件か続き、一時期冒険者ギルドの信用が落ちたことが原因の一つにあった。


 ボードを確認するがお目当ての仕事は見つからず、仕方ないとゴブリン退治に行く事に決める。

 ギルドを出ようとすると、カウンター内から声が掛けられた。


 「アラタくぅん、こっち」


 受付嬢のマーシャである。


 「こんにちは、マーシャさん。何か用ですか」


 「ううん、用事は無いんだけど。無かったら呼んじゃ駄目?」


 マーシャは寂しげな表情でアラタを見つめてくる。

 改めてマーシャを見ると相当な美人である。

 目元は妖艶で、気まぐれな性格。

 髪は長く毛先が少しウェーブしている。

 体つきは女性平均をかなり越え、出るところは出て、引っ込むところは引っ込むというメリハリのあるボディ。

 マーシャを一言でいうと、蠱惑的な女性である。

 知らずに近づくと痛い目を見るに違いない。


 マーシャがアラタに構っていると隣に座るレレが、アラタとマーシャの間に割って入ってくる。


 「マーシャ、アラタさんの仕事の邪魔をしちゃ駄目ですよ」


 アラタは助かったと、レレに心の中で感謝する。

 レレは真面目な性格である。

 何事にも一生懸命に行動する。

 性格が全く違うからこそ、マーシャとの相性がいいのかもしれない。

 正反対な性格だからこそ、お互いに尊重する事が出来ていた。

 レレの容姿はといえば……

 優しげな目で愛らしい唇。

 見た目は美人というより、可愛いと言われることの方が多いだろう。

 ショートの髪が更に可愛いさを引き立てている。

 体つきも少し幼い感じから、ギルド職員だけでなく、冒険者のファンも多い。


 二人が話し合っていると、依頼を終えた冒険者が帰ってきた。

 冒険者の姿を見た二人は受付嬢の顔に戻り、冒険者はレレが対応し、マーシャはギルドを出て行くアラタに、小さく手を振っていた。


 アラタはグランドの街の外にいる。

 森周辺でよくゴブリンを見かけるらしい。

 ほっておくと草原まで出てきて人を襲う。

 その為、見かけたら即討伐となっていた。

 これだけ狩られてゴブリンが絶滅しないのは、繁殖力の強さと成長の早さにあった。

 ゴブリンは多産で生まれてから十ヶ月で成体となる。

 そのため狩っても、狩っても、減らないのである。


 森が目の前に見えてきた。

 まだ、ゴブリンらしきものはいない。

 アラタは手の平に小さな水の玉を作り、喉を潤している。


 「森に来れば何かあると思ったけど、そんなに上手くはいかないか」


 アラタの周辺は静かだったので警戒しながらも、散歩するみたいに辺りを歩いてみた。


 すると森の中から大きな猪が姿を現す。

 猪はアラタに気付き突進してきた。

 アラタは魔法で風をうみだし、三日月のイメージに整え猪に向かって放つ。

 猪は見えない風の刃で左足を切断され、地面に大きな音をたてながら倒れると、血を流しバタバタともがいている。

 アラタは猪の前まで来ると、手に持つレイピアを猪の胸に差し込んだ。

 レイピアはアッサリと刺さり数秒の後、猪の動きが止まる。

 死んだのを確認して、虚無の中に呑み込む。

 この猪はグレードボアといい、魔物では無く野生動物になる。

 二百キロの巨大な体躯をしているが、その中に魔石は存在していなかった。


 「随分あっさり倒したな。魔法にも馴れてきたか」


 実際、アラタの魔法発動スピードは、一般の魔術士よりも早かった。

 まるで、熟練者のようである。

 まだ小魔法しか使えないが、魔力コントロールと魔力量が人並み以上に豊富であった為、威力も他者と比較にならないくらい高かった。

 使い方によっては心強い武器となる。

 中魔法や大魔法のように威力はでかいが発動時間がかかるものより、早く発動する小魔法の手数で押しきる戦法もあるのだから。

 特に風魔法は発動時間が短く、威力もそこそこ高いので使い勝手がよかったのだ。アラタの場合そこそこでは無く、過剰気味であったが。


 またプラプラと散歩を始めると、森の中から女性の叫び声が聞こえてきた。

 アラタはすぐに駆け出し森に入っていく。

 叫び声からそれ程離れてはいない筈。

 奥の方で女性が何かに追われていた。


 「こっちだ、走れ」


 アラタが叫ぶと女性は此方に向かって走ってくる。

 女性はアラタを見て子供では勝てないと判断したのか、しきりに逃げろと叫んでいた。

 女性を追っている魔物の姿が見えた。

 ハンターマンティス。二メートルを超える巨大なカマキリの魔物である。

 森の緑に擬態し獲物が来るのを待ち、巨大な鎌で体を切り裂く別名冒険者殺しと呼ばれる魔物である。

 初心者は勿論、慣れた冒険者でも油断をしていると命を刈られれることになる。

 ハンターマンティスの被害は毎年のように後を経たない。

 そんな魔物に、この冒険者は行き合ってしまったみたいだ。


 ハンターマンティスを森の外まで誘き寄せる。

 ハンターマンティスは獲物が小さいので危険はないと判断したようだ。

 アラタは女性を背に隠す(小さくて隠れてないが)と、魔力を解き放つ。

 すると火の玉が五つ表れ、ハンターマンティスに襲いかかった。

 ハンターマンティスも二発は避けたが顔に一つと腹に二発受け、火に巻かれていた。

 止めに風魔法で、これまたアッサリと首を飛ばされ、戦闘はすぐに終了する。


 助けられた女性は唖然として見ていた。

 冒険者殺しが簡単に刈られているこの状況を。

 それも目の前の子供にである。


 「大丈夫ですか。怪我があったら言って下さい。ポーションがありますので」


 女性冒険者は目の前の子供を見て更に驚く。


 「あなた、この間の子。私と一緒の日に登録してた」


 どうやらこの女性は、アラタに絡んでいた馬鹿をねじ伏せ助けてくれた、あの時の女性剣士であった。

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