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黒の魔眼  作者: ひのえの仏滅
第2章 冒険者 新人編
6/29

01.

 グランドにあるゼルの家。

 アラタ、ゼル、ポリーが集まり朝食を食べていた。


 「アラタ君、今日はどうするんだい。こちらの予定はアラタ君の歓迎会をすることくらいだけど」


 「わぁぁい、賛成。僕もお手伝いする。アラタ夜まで待っててね」


 ポリーは両手を上げ、体一杯使い歓迎会に賛成している。

 アラタもゼルもポリーを見つめ、その無邪気な姿に微笑んでいる。


 「僕は冒険者ギルドに行こうと思ってます。以前から決めていたことなので」


 ゼルは心配そうな表情、ポリーは憧れを抱く少年の瞳でアラタを見ている。


 「アラタ君、冒険者はとても危険な仕事だよ。本当に行くのかい?もっと安全な仕事だってあるんだ。考え直してくれないか」


 ゼルは正直不安に思っていた、アラタの冒険者入りを。

 付き合いは長くはないが、ここまでの旅でアラタの優しい性格や面倒見の良さ、今では家族の一員と言ってもいいアラタが、自ら危険に飛び込もうとしているのを止めたかったのだ。

 危険のない仕事もあるのだから。


 一方ポリーは、冒険者と聞いて目を輝かせていた。

 ポリーにとっても冒険者は憧れの職種なのだ。


 「すみません、ゼルさん。ずっと決めてたことなんです。ある 人 (悪魔)と約束したんです。ちゃんと生きる、必死に生きるって」


 それでもゼルは心配にである。

 アラタの言う約束をした人とは、亡くなっ両親のことではないかと、勘違いをしていた。

 亡くなった両親への誓いを無下にさせるなど出来ない。

 それに以前約束したのだ、咎めることはないと。

 商人であるゼルにとって約束は重要なこと。

 信用こそ、商売の宝なのだから。


 アラタの決意は重く、諦める事はないと感じられた。

 大きく息を吐きながらゼルはアラタの決意を認めることとする。

 

 「分かった、アラタ君の冒険者入りを認めるよ」


 「うわぁぁ、いいなアラタ。僕もなりたい」


 アラタの冒険者入りはゼルも渋々ではあるが容認され、当然ポリーの言葉は却下される。


 「だとすると、アラタ君の証明書は冒険者カードになるね。早速行ってみるかい、冒険者ギルドに」


 「はい、行ってみようと思います。場所だけ教えて貰えれば一人で行きますよ」


 「そうだね。冒険者が登録初日に保護者同伴じゃ、カッコがつかないよね」


 「えぇぇぇ、アラタ一人で行くの?一緒に行けると思ったのに」


 「ポリーはアラタ君の歓迎会の準備を手伝ってくれるんだろう。アラタ君、場所を教えるよ」


 アラタは早速出かける事にした。


 冒険者ギルドは中央広場に出て、右手側にあるとゼルさんは言っていた。

 僕は中央広場に向っている途中。

 大きな街だけあって、商人やら冒険者、兵士やときに騎士と行き合う。

 今までで一番大きく活気のある街。


 中央広場。

 広場では食料品や服飾品、武器や鎧の性能を、商品を全面に押し出し語る商人の姿がそこらかしこに見える。


 賑やかな広場を抜けると、大きな建物が見えてくる。

 あれが冒険者ギルドのようだ。


 ギルドの中に入ると混雑していた。

 受付であるカウンターには列が作られ、壁際にはボードがあり、体格のいい冒険者達がボードを見たり、貼ってある紙を剥がしたりしている。

 中にはどちらが取るかで言い合いになっている集団もある。

 周りの人達は誰も止めようとせず、これが日常の風景であるかのようだ。


 受付はより混雑していく中、一番奥だけはすいており、机の上のプレートには案内、登録の字が見える。

 そこに並んでいる人達を見ると、僕より背も体格もいいが、同じくらいの年代の子達が数人並んでいる。

 アラタが一番後ろに並ぶと、前にいる一人が振り返り見下ろしてきた。


 「何でお前みたいなチビが並んでんだ。ここは冒険者ギルドだぞ。さっさと帰れ」


 目の前の少年は胸を張り、自分の強さをアピールするよう睨んでいる。

 アラタは無視するが、胸ぐらを掴もうと手を伸ばしてきたので、その手をはたき落とす。

 はたき落とされ逆上した少年が、怒りの表情を見せ殴りかかろうとすると、少年のひとつ前に並んでいた少女に腕を掴まれ、後ろ手に締め上げられていた。


 「痛て、放せ。何で俺が」


 「後ろでギャーギャー喚かれると煩いのよ。そっちのあんたはどうする」


 「どうするも何も、絡まれただけだからな」


 「あっそう。でも、このくらいどうにか出来ないと、冒険者なんてやってられないわよ」


 アラタは当然だと一言返し、少女は締め上げる少年の体を突き飛ばした。

 突き飛ばされた少年は列からはずれ地面に転がる。


 「てめぇ、何しやがる」


 少年は激昂し声をはりあげると、


 「煩いぞお前ら」


 カウンターの中から一人の男が進み出てきた。

 男は筋肉質で二メートルを越える大きな体でアラタ達を見下ろしている。

 少年も流石に静かになり、アラタの前に入ろうとするが一番後ろだと言われ、渋々アラタの後ろに並び直した。


 登録はさくさくと進み、アラタの番である。


 カウンターには若い女性が座り、アラタを見て驚いた表情をする。


 「あの、冒険者登録ですか?」


 「はい、お願いします」


 少し不安げな表情を見せながらも、登録用紙を出してきた。


 「理解はされているでしょうが、危険が伴いますのでご了承の上、ご記入下さい」


 まるでマニュアルを読むかのような口調で説明される。


 「お名前と年齢、出身地、それと得意な分野ですね。剣士とか魔術師とか。書ける所だけでいいですから」


 「そんなんでいいんですか?」


 「あまり言いたくない過去を持つ人もいますので。それに名前にしても隠し名を使うひともいますから、厳しくすると冒険者になれない人が、それなりの人数でちゃうんですよ」


 『適当でいいの?』と思いながら、記入した用紙をカウンターに置く。


 「アラタさん、十五歳。魔法戦士。はい、大丈夫です。これで登録完了です。って十五歳。本当に」


 「えぇ、嘘は書いてませんよ」


 「す、すみません。私もっと年下かと思っていました」


 「気にしていません。よく言われますから」


 受付嬢はカウンターの引き出しよりカードを取りだし、アラタの目の前に置く。

 冒険者カードである。


 「アラタさん、このカードに血を一滴垂らして貰えませんか。カードにアラタさんの情報を写しますので。個人情報登録に必要なんです」


 そう言うと、カウンターの上に針が置かれる。


 幾人にも使われてきたのであろう針に、大丈夫かと疑ってしまう。


 「大丈夫ですよ。毎回清 浄(クリーン)の魔法を使い綺麗にしてますから、プスッといっちゃって下さい」


 アラタの不安を悟ってか、安全宣言を砕けた口調で楽しそうにしてくる。


 仕方ないと、左手の親指を刺しカードに指を押し付ける。


 「はい、これで終了です。では、こちらがアラタさんのカードになりますので。もし紛失した場合、銀貨五枚で再発行となりますから、無くさないでくださいね。もし、無くした場合には、すぐお知らせください」


 アラタはカードを受け取り、早速依頼を受けようとボードの前に行く。

 先程より空いてはいるが、まだ何人もの冒険者達がボードの前にたむろしている。

 背の低いアラタには見えずらく、仕方なく端から覗く事にする。

 すると、アラタが立っていた場所は初心者用であろうか、迷子の猫探しだとか、一寸したお使いだとかが貼り出されていた。

 その中に常時依頼と書かれた紙があり『薬草採取』、『魔草採取』、『ゴブリン討伐』、などの紙が貼られているのを見て、最初の依頼を決めたのである。


 さっきの受付に行き採取のことを伝えると、常時依頼は依頼品を持ってきた時に併せて受付や支払いなどが行われるみたいで、現時点で受付の必要は無いと言われた。


 それならばと、早速採取に行くことにする。

 場所はグランド近くの草原である。


 草原に着くと何人かが採取している姿が見える。

 早速探そうと辺りを見回す、すると頭の中に表示が現れた。


 薬草、薬草、草、草、薬草、魔草、薬草、草、草、草。



 魔眼がアラタの目に馴染むことで、五メートルくらいであれば見分けることが出来るようになっていた。

 アラタは辺りにある薬草、魔草を数本わざと残し採取していく。

 アラタの採取は周りの人よりかなり速く、いちいち鑑定しながら採取しなくていいのが、その速さの理由であった。


 リュックに薬草を入れ、魔草は紐付きの袋に入れられ仕分けされている。

 二つに入らなかった分は虚無の中にバッグごと放り込まれていた。

 予備の分も合わせると相当な量になる。

 粗方取り終わり辺りを見回すと、採取を始めた場所から随分移動していた。

 昼を少し回った頃だろう。空腹で時間の経過を知り、アラタは採取を切り上げ、ギルドに戻る事にした。


 ギルドに戻ると中はガランとしていた。

 朝の喧騒が嘘みたいに。

 チラホラと見える人達も受付側に居らず、奥の酒場で酒を飲んでいる。

 アラタは背のリュックと肩に担ぐ袋をカウンターに置き、買い取りの依頼をする。


 「お疲れ様です。薬草と魔草の買い取り依頼ですね。では、お預かりします」


 リュックの中の薬草に、袋に詰められた魔草の枚数に、受付嬢は驚きの表情をみせる。


 「こ、これ、全部ですよね。野草など入っていた場合はそれを引いた枚数の金額になりますので、宜しいですか?」


 「はい、構いません。全て仕分けされてますので」


 受付奥から男が出てきてリュックと袋を奥へ運んでいく。

 仕分け作業をするのだろう。


 アラタがカウンター前で待っていると受付嬢も暇なのか話しかけてきた。


 「挨拶がまだでしたね。私はレレと言います。入って一年目の新人なんです。宜しくお願いしますね」


 レレは子供にしか見えないアラタに対しても、丁寧な挨拶をしてくれる。


 「こちらこそ。今日冒険者になったばかりのアラタといいます。これから宜しくお願いします」


 二人が笑顔で挨拶を交わしていると、レレの隣にいた受付嬢が話しに入ってきた。


 「えぇ、何この子。レレの知り合い?可愛い」

 アラタを完全に子供扱いである。

 今までも子供扱いされてきたので、もうそれほど気にはならなくなっていた。


 「ちょっとマーシャ、失礼よ。此方はアラタさん。今日冒険者になったそうよ。ちゃんと挨拶して下さい」


 「全く、レレは固いな。まるであなたの胸みたい」


 そういいマーシャは腕を組むと胸持ち上げ、あからさまにレレに見せつけるよう前につきだした。


 「な、何言ってんのよ。胸は関係ないでしょ、胸は」


 レレは顔を赤らめながらマーシャに言い返している。

 マーシャはそんなことないと言わんばかりに、今度は胸を揺らし始める。


 「お前ら何やってんだ」


 鑑定を行っていた男が受付に現れ、そのやり取りを見て、呆れたような目で二人を見る。


 「す、すいません。ナッツさん」


 レレはナッツに対して頭を下げ謝るが、マーシャは私は関係ないという態度であさっての方を向き、素知らぬ顔を決め込んでいた。


 『もう』と、ため息をつきレレはナッツからの鑑定用紙を受け取り支払いに入る。


 「君の持ってきた薬草や魔草は全て綺麗に仕分けされてたよ。朝から今まででやっていても、あれほどの量は集まらないんだよ普通。みんな鑑定しながら行うからね。すごい才能だね、スカウトしたいくらいだ。どうだい、うちにくる気はないかい?」


 アラタもここまで注目され、あまつさえスカウトされるとは思っていなかったので困惑していた。

 ナッツのスカウトに対し、すぐにレレが救いの手を差しのべてくる。


 「ダメですよ、ナッツさん。無理に誘わないで下さい。アラタさんが困ってます」


 「そうよ。ナッツのところに行ったら、私の可愛いアラタ君が何されるか分からないわ。絶対行っちゃ駄目よ。何かされそうになったら私が助けるからね、アラタ君」


 二人からの反撃を受け、ナッツは肩をすくめながら去っていく。

 報酬が支払われるまでの間、三人で雑談していた。

 そこで分かったのが冒険者にはランクがある事。

 上からSS、S、A、B、C、D、E、F、G、とあり、当然、アラタは G である。

 大まかにランク分けすると、G、Fが初心者で、E、Dが一人前。C、Bがベテランで、Aが英雄。SとSSに至っては、人外ではないかという程の強さを誇るらしい。


 支払いの手続きも終わり、カウンターの上に報酬が置かれる。

 アラタは報酬を袋にしまいギルドを出ていく。

 去り際に二人を見ると、レレは手に振り、マーシャは投げキスをしていた。

 

 アラタはギルドを出て。

 中央広場の屋台で買い食いしながらゼルの家へと帰る。

 今回の報酬額は、銀貨五枚、大銅貨九枚、銅貨四枚となった。

 安宿が一泊大銅貨二枚で泊まれ、大銅貨五枚も出せば一般的な宿に食事付きで泊まれることから、今回の報酬は破格の金額であった。

 薬草が銅貨二枚、魔草が銅貨五枚の値段なので、どれだけの枚数あったのか。


 ゼルの家では着々と歓迎会の準備が進められていく。

 アラタも手伝おうとするが二人に固辞され、ならばとポリーの相手を頼まれたので中央広場に引き返し、ポリーと店舗巡りをし遊ぶのだった。


 夕刻に差し掛かる前に家へと帰ると既に準備が出来ており、早速歓迎会が始まった。


 その日の歓迎会は大いに盛り上がり、終了と同時に疲れのためか三人とも部屋へと引きあげていく。

 アラタも始じめての依頼で疲れていたのか、ぐっすりと眠りに就いていた。

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