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黒の魔眼  作者: ひのえの仏滅
第1章 始まり
4/29

02.

 昨日の夕刻過ぎ、ようやく町に着いた。

 疲れていたのか宿に着くと食事もせずに眠ってしまった。


 僕は今、町中を散策している。

 ゼルさんは知り合いに挨拶してくると、ポリーを伴って朝から外出中。

 昨日狩ったウサギは帰って来てから一緒に売りに行こうと言われた。

 商人のゼルさんと一緒の方が安心出来るので、売りに行くのは午後になるだろう。

 その為午前中は僕一人暇で、だからこうして散策をしているのだ。


 この町は活気のある町であちらこちらで露店や屋台があり、その周りで客が商品を覗き込んでいる。

 そのなかに革鎧や金属鎧を着ている人、あれが冒険者なのだろう。


 昨日馬車の中でこの世界にも冒険者と呼ばれる職業が存在することを知った。

 冒険者とは冒険者ギルドで色々な依頼を受け、簡単な薬草集めからモンスター退治、探索から傭兵のような事まで幅広い仕事があると教えてくれた。


 その中でもダンジョンが存在することを知り、更にワクワクする面持ちとなった。

 男の子なら誰でもダンジョンの探索には憧れるそうだ。

 ポリーは勿論、ゼルさんも小さな時はずっと憧れていたと。

 僕もいつかダンジョンを攻略してみたいと思うようになっていた。


 僕は今一軒の店舗で商品を眺めている。

 小さな店舗で客は僕しかいない。

 店には四十過ぎのメタボなおじさんが仏頂面でこちらを見ている。

 ガキが買う物はここには無いと言わんばかりだ。

 僕は木の箱に入っている青色をしたガラス瓶のような物を手に取り、鑑定してみた。


 ポーション(下):傷薬。薬草と綺麗な水。粗悪品。


 駄目じゃん。

 手に持って観察しているとメタボが声をかけてきた。


 「おい坊主。そいつは高級品だからなあんまべたべた触るな。落としたら弁償だぞ」

 メタボは粗悪品を高級品と偽りこちらをニヤニヤしながら見ている。

 ぼったくる気満々である。


 ムカついた僕は、そんなの知らんという態度で次々と鑑定していく。


 マジックポーション(下):回復薬。魔草と綺麗な水。粗悪品。

 

 毒薬(下):腹下し。毒草と綺麗な水。粗悪品。

 

 鉄のダガー(壊):腐蝕。中芯ひび。


 偽石(小):魔石の偽物。魔力空。


 紙(破):ただの紙。古紙。


 マジックマップ(大):大陸地図。魔力によって開き現在地を示す。古代遺産。最高級品。


 なんか凄いのがひとつ混じってるんだけど、なんでただの紙の中に埋もれてんだよ。

 ただの紙もマジックペーパーで売られてるしなんなの、この店。 

 だいたいポーションの中に毒薬入れんなよ。

 もれなく一名当たりますよキャンペーンか?

 恥ずかしいことに毒薬すら粗悪品だ。


 地図以外にろくなものしかなく棚の一番上に本があったので手に取り読むと、錬金術の本だと理解できた。

 この世界の文字も読み書き出来るようで、馬車の中ではポリーに驚かれた。

 田舎では識字率が低いようだ。


 錬金術書を食い入るように見ていると、何故か頭の中で錬金術の知識が開化していく。

 どうやら魔眼が発動したようで、少し頭がクラクラしている。


 立ち読みお断りなのかメタボがまた口うるさく文句をつけてくるので、迷惑料としてこの紙買うからと言い、マジックマップを差し出す。


 メタボがいうにはこの店は高級店で、子供じゃ買えないらしい。

 じゃあいいやと、地図を置いて出ていこうとすると、直ぐに割り引きをしてきた。

 粘るに粘って、銀貨一枚まで安くした。

 他はただの古紙のくせに銀貨一枚とは大層な値段である。


 メタボは渋々とした顔で銀貨を受け取っていたが、帰り際チラリと見ると目元が笑っていた。

 僕も地図と魔導書の知識を銀貨一枚で手に入れることが出来た。

 この場合、どちらが騙されたのだろうか。

 圧倒的に得をしたのは僕の気がする。


 メタボの店を出て他の店舗を見て回る。

 その際、すかさず魔導書を店主が許す限りの時間をかけて読み漁り、ちょとした商品をちまちま買いながら半日を過ごす。

 店主達はアラタの容姿から子供がちょっとした背伸びをしているだけだと勘違いをしていたので、アラタにとっては有り難いことだった。


 因みにメタボの錬金術書は破れがあり、他の店で残りの知識を回収することになる。

 アラタはこの事実に気づいていなかった。


 昼になり宿へと帰るとすでに、ゼルさん達が宿の前で待っていた。

 すみませんと駆け寄り三人揃って商館へと出掛ける。

 僕の荷物はゼルさんがマジックバッグに収納してくれた。


 商館は凄く大きい建物が二棟建っていた。

 地方の小学校くらいありそうだ。

 商館に入るとまずは受付をし、証明書をもらうと隣の建物に移動することになる。

 勿論、全てゼルさん任せだった。


 隣は解体や買い取りを行う場所。

 直接持ち込むことも出来るがその際は、手数料が高くなるらしい。

 商館であるから商人である証明書を持っていれば、現行手数料で買い取ってくれるみたい。

 不正防止の意味合いもあるそうだ。


 「ん、ゼル。久しぶりだな」


 「やあ、ダーバ今回もお願いするよ」


 巨体で筋肉質な男がゼルさんと話しをしている。


 「あの人はダーバさん。あの見た目で凄腕の商人なんだよ。ゼルさんとの付き合いも長いみたい」

 ポリーがそっと教えてくれる。

 

 「アラタ君。このウサギどうしよか。肉や毛皮は全部売っていいのかい?持ち帰りたいなら量を指定しとくといいよ」

 ウサギの肉に興味があったので分かりやすく一匹分の肉と毛皮を持ち帰る事にした。


 解体はそれほど時間がかからずに終わった。

 ゼルさんから今回の売上金を受けとる。

 手数料と一匹分を引かれた金額だ。

 ダーバさんに中の金額を確認しないのかと聞かれたので、信用してるからと答えた。

 すると大きな声で、笑いながら背中を痛いくらいに叩いてくる。

 痣にならないかが心配だ。

 

 肉はゼルさんが袋にしまってくれた。

 何度も申し訳無いと頭をさげると、笑顔でいいよいいよと返してくれる。

 本当にいい人だ。


 ポリーに毛皮はどうするのと聞かれたが、正直使い道を考えていなかったので今更ながらに、どうしようと悩んでいた。


 何か作れないかとポリーに聞くと外套がいいよと教えてくれた。

 ポリーがダーバさんに相談しようと僕の手を引いてダーバさんの元へと走っていく。


 ダーバさんはまだ近くにいたので毛皮のことを相談すると、二つ返事でやってやると、ただし銀貨一枚かかると言われたのでその場で支払う。

 ポリーに感謝を伝えると頭の上の犬耳がピクピク動き、後ろで尻尾がフリフリと揺れていた。


 ポリーにはダーバさんと話しがあるからと、ここで別れた。

 少し不思議がっていたが、そのままゼルさんの元へと帰っていった。


 僕はダーバさんにお世話になっている二人に何かプレゼントをしたいと伝えると、また笑いながら痛いくらいの力で『そうかそうか』と叩いてくる。

 正直勘弁してほしい。


 僕達は魔道具専門のアイテムショップに来ている。

 マジックバッグの事をゼルさんに聞いたらアイテムショップまで連れてきてくれたのだ。


 正直言おう、べら高い。

 安いのでも大銀貨七枚となっている。

 ん、大銀貨?そんなのあったの。

 僕はさっき貰った袋を開けてみた。

 すると大きさの違うお金が一つ出てきた。


 大銅貨:一般的なお金。銅貨10枚の価値。


 これでひとつ分かった。

 僕の魔眼は目で見ることと知識が必要だったのだ。

 昨日はまだ大銅貨や大銀貨を知らなかったので頭の中の解説には表示されなかったようだ。

 今では表示が増えている。


 銅貨:一般的なお金。最低価。

 大銅貨:一般的なお金。銅貨10枚の価値。

 銀貨:一般的なお金。大銅貨10枚の価値。

 金額:一般的なお金。大銀貨10枚の価値。


 何でも教えてくれる万能目玉だと勘違いをしていた。


 貨幣のことをゼルさんに聞くと、他にも大銀貨は銀貨10枚の価値、白金貨は金貨100枚の価値だと教えてくれた。

 大金貨は無いそうで国やそれなりの貴族は金貨ではなく、金板を持っているそうだ。

 市勢には滅多に回らず、国や貴族、大商人が主に使うものらしい。


 さて、マジックバッグの話しに戻すと、今回の報酬では全く手が届かない事が分かった。

 悪魔から貰ったお金もあるけど、この先を考えると残しておきたくなる。

 何があるか分からないからね。

 今回は諦めようと思う。

 

 アイテムショップを出て、今度は一般的な道具屋へと来ていた。

 ここでは僕の旅カバンやリュック等を見ている。


 「アラタ良いのがあるよ」

 ポリーが持ってきたのは僕も詰められそうな巨大なリュックだった。

 

 「うわ~、誰が使うのこれ?」


 「巨人族やがたいのいい鱗族なんかが買っていくよ」


 店のおじさんは僕達を見てニコニコしながら教えてくれた。


 結局僕は体に合わせてちょっと小さなリュックやカバンを選んだ。

 宿に戻るまでに三軒の店を回り、旅仕度は整った。

 宿に着くと三人でこれからについて話しあう。


 「アラタ君はこれからどうするんだい」

 

 ゼルさんは真っ直ぐに僕の目を見て聞いてきた。

 ポリーは犬耳をピクピク動かしながらも不安げな顔をしている。


 「正直まだ決めて無いんです。僕に何が出来るのかよく考えて決めようと思います」


 僕は正直に答えた。

 この人達に嘘はつきたくなかったからだ。


 「だったら一緒に行こうよ。僕、アラタと一緒がいい」


 ポリーはそう言って僕に飛びついてきた。


 「何か決まるまで、一緒に来るかい」


 飛びついてきたポリーを受けとめ、頭を撫でながら考える。

 だけど答えは既に自分の中で出ているようだ。


 「そうですね。お願いします、ゼルさん」

 

 僕の返事を聞いて二人はとてもうれしそうだ。


 それから二日後、僕達は宿の前にいる。

 今日この町を出発するのだ。

 僕はその前に渡したい物があると伝え、おもむろにリュックの中から外套を取り出す。

 白兎の毛皮で作られたものだ。


 「アラタ君。これはあの時の毛皮かい」


 「そうです。足りない分は買い取って作ってもらいました。ダーバさんが協力してくれたんです」


 「うわ~、ふわふわだ。ありがとう、アラタ」


 「有り難う、アラタ君。とてもうれしいよ」


 二人は喜んでくれたみたいで早速、羽織っている。

 僕も外套を羽織り出発する。

 この日、真っ白な外套を羽織った三人が、リーグの町を旅立っていった。


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