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黒の魔眼  作者: ひのえの仏滅
第1章 始まり
3/29

01.

 そこは草原だった。とても長閑な風景。

 飛ばされた先が人混みだったら、怖くて動けなくなっていたかも知れない。そう考えると助かった。

 (あらた)は自分と周りの状況を確認してみた。


 まずは自分の体を確認してみる。

 アラタの知らない黒色の服を着ている。

 靴も革製だが、何の皮だか分からない。

 腰には細身の剣がぶら下がっていた。

 恐る恐る抜いてみる。

 剣なのでそれなりの重さがあるはずなのだが、まるで気にすることもなく、するりと鞘から抜いてしまった。

 思っていた以上に軽く感じる。

 軽く振ってみるがピュンッピュンッといい音を出してそれなりに振れているようだ。

 そういえばと思い脇腹も確認するが、何ともない自分の普通の脇腹だった。


 「よかった。怪我ないや」


 向こうで受けた傷で、死ぬ原因になった傷は何処にも見当たらなかった。

 右側の腰にも麻で編まれたような巾着袋がぶら下がっている。

 中には銅貨二十枚、銀貨十枚、金額五枚が入っていた。

 これがどれだけの価値があるのか分からないが、無一文よりずっとましである。

 どうやらお金の他にも石のようなものが入っていた。

 よく分からないので石を目に近づけてみると、突然頭の中に説明文が浮かんでくる。


 純正魔石:純粋な魔力だけで創られた魔石。魔石の高純度品。

      極稀に自然界に精製される。高級品。


 「な、何これ?。う、気持ち悪っ」


 アラタは突然情報を脳に叩き込まれたような気分になり、吐き気を催す。

 暫くすると落ち着き、今度は気持ちを整えて硬貨と腰の剣を目に近づけてみる。


 銅貨:一般的なお金。最低価。

 銀貨:一般的なお金。銅貨100枚の価値。

 金額:一般的なお金。銀貨100枚の価値。

 鋼鉄のレイピア:突きに特化した剣。屋内戦などに有効。

 

 「はぁ、屋内って外じゃん」


 あの悪魔のことだから面白がってやってる事だろう。

 しかしこの目は便利だ。

 この目を使えばある程度の情報が手に入るようだ。

 そこだけは悪魔に心から感謝した。


 辺りも確認してみる。本当に長閑な場所だった。

 今まででした事はないが、こんな場所で寝転んで微睡むと気持ちいいだろうなと、本気で考え出す。

 寝転ぼうかなと思っていると、何かが目の前に飛び出してきた。

 それは白いモコモコのウサギのようだった。

 ただ、アラタが知っているウサギよりだいぶ大きい。

 股下くらいあるだろうか。

 アラタもウサギだから大丈夫かなと一歩踏み出すと、突然タックルをしてきた。

 急なことで避けられずまともに腹に直撃をくらってしまう。

 一メートルくらい突き飛ばされて目を白黒させていると、ウサギは追撃を仕掛けてきた。

 吐き気を感じながらも、命懸けだと気持ちを引き締めレイピアで反撃する。

 

 結果としてウサギを仕留める事が出来たが、あまりにも無様な姿だった。

 突きに特化したレイピアをやたらに振り回し、たまたまウサギの胸に深く突き刺さっただけであった。

 今ままで喧嘩もしたことがなく、それどころかずっとやられる側だった。

 そんな少年が戦闘など最初からまともに出来る筈がなかったのだ。

 

 「うぅぅぅ、怖かった」


 涙眼になり草原に尻餅をついていた。

 僕は忘れていたのだ、ここが異世界だということに。

 そこそこ時間をかけて気持ちを落ち着かせる事が出来た。

 アラタはウサギが気になりだして鑑定してみようとゆっくりと近づいていく。

 

 ウサギは事切れているからか、ぐったりと地面に頭を投げ出し、こちらを見ているかのようだ。

 生き物の死体を見たことがない訳ではなかったが、ここまで近づいてみることは初めて。

 それでも意を決して鑑定へと入る。


 白兎:野性草食動物。臆病であるため人には近づかないが子供など弱い者には狂暴性を現す。肉は食用。毛皮は服飾用。安価


 うん、分かった。僕なめられてる。

 なんだかさっきまでの恐怖が一気に無くなった。

 狩ったウサギはこのままにして辺りを探ってみるとちらほらとウサギが見える。

 僕はレイピアを抜きそっと後ろから近づくと、警戒心が強いのかだいぶ前に気付かれてしまう。

 やはりウサギは僕の事を下に見ているようで、早速飛びかかってきた。

 僕はテレビで見たフェンシングの構えをとり、ウサギの動きに合わせて突きを放つ。

 ウサギの勢いもあり、レイピアは意図も容易く額を貫いた。

 何だかさっきまでの恐怖が馬鹿馬鹿しく感じるような気分になる。

 倒したウサギを一匹めの所に持っていく。


 「やっぱりそうか」

 

 アラタは決して体が大きい方ではない。

 むしろ小さいのである。

 海外の人から見たらまんま小学生にしか見えないだろう。

 そんなアラタが目の前のウサギを易々と担いで運んだのである。

 不思議に思わない筈がなかった。

 これは悪魔がくれた能力のお陰なのだろう。

 アラタは再度心を引き締め、ウサギ狩りを再開する。


 気づいたらウサギの姿が見えなくなっていた。

 狩り取ったウサギの山を見る。三十匹はいそうだ。

 すべてのウサギが突撃してきた。

 やっぱ、なめられてる。

 

 さて、ここで困ったらことが起きた。

 こいつらどうやって運べばいいの?

 説明文には肉は食用、毛皮は服飾用と出ていたが捌き方も知らない。

 さて、どうしよう。


 かなり迷っていた。

 せっかく狩ったウサギをここに捨てるのが勿体なく、初めての戦利品なのだ。

 やはり一度くらい挑戦しようと、一匹担いで少し離れた所で捌いてみようとするが、捌く道具がないことにようやく気付き、その場でウサギを投げ捨て草原にふて寝するのだった。

 どのくらいそうしていたのか、突然声をかけられた。


 「君、大丈夫かい。怪我してるのかい」


 ここに来てから人の姿は見ていなく、突然声をかけられたことに驚き、叫び声をあげながら飛び上がった。

 またまた情けない事に尻餅をつき、そのままの姿で見上げていた。

 目の前の人は驚きながらも、申し訳なさそうに僕を見つめていた。


 「突然声をかけてごめんよ。誰か倒れてるから心配になって声をかけたんだ。どうやら私の勘違いだったようだね」


 目の前の男の人は謝罪しながら、手を差し伸べてくる。

 僕はまだ少し人が苦手なようで、その手を取ることが出来ずにいた。

 男は『大丈夫かい』と言いながら僕の体を起そうとするが、触れられた瞬間僕の体はびくつき、男はもう一度優しく『大丈夫』といいながら僕を起こしてくれた。

 僕は恥ずかしく、お礼の言葉も出せないでいた。


 男はまず自分の事を話してくれた。

 名前はゼル・ディーン。商人をしているらしい。

 ゼルと呼んでくれと、言われた。

 今は商売を終えてグランドの街に戻る途中。

 ゆっくり旅しながら帰るそうだ。


 「しかし、凄い数だね。何匹狩ったの?」

 

 ウサギの山を見て男は何やら呆れたような顔をしている。

 少し気分も落ち着きどうしようか迷ったが、どうせ駄目だったら捨てるしかないと割り切る事で、今の状況を話し始めた。


 「町まで持ってけばお金は多少取られるけど、解体も剥ぎ取りもやってくれるよ。ここから一番近い町はリーグかな。馬車だと半日くらいで着くから、今からだと夜前くらいだね」


 馬車で半日はウサギ担いで徒歩だと、どのくらいですか?

 まるでその事を考えてなかった自分が恨めしい。

 やっぱり捨てるのかと覚悟をきめた。

 ゼルさんが馬車で一緒に行こうと誘ってくる。

 もうゼルさんに対しての恐怖は払拭されたみたいで、勿論行く事に決めた。

 異世界だからか?それとも力を手にしたからか?こんなにすぐ人と馴染めるとは、アラタも思っていなかった。


 「じゃあ、まずは白兎を収納するか」


 ゼルさんはそういって、徐に肩に掛けてた袋を開きウサギを袋に入れて行く。

 明らかにおかしい。

 ウサギの体積と袋の大きさに大きな隔たりがある。

 僕がゼルさんの作業を怪訝な顔して見ていると、それを覚ったのか袋のことを教えてくれた。


 「不思議かい。これは魔道具でマジックバッグと言うんだ。僕が持ってるのは比較的大きいタイプの物だよ」


 王道ファンタジーキター。

 万歳しそうなくらい僕の心は高揚していた。

 絶対いつか手に入れると心に誓う。


 僕は今、ゼルさんと共に馬車に向かっている。

 ゼルさんが僕の事を聞いてきたので、家族が死んで田舎から出てきたばかりで右も左も分からなくて途方にくれていたと説明した。

 ゼルさんは僕の話しを聞いて同情的になり何かあったら相談に乗るからねと潤んだ瞳で言われた。

 ゼルさんは本当にいい人だ。

 だから騙すのに心苦しさを感じる。


 馬車には然程時間もかからず到着した。

 馬車は街道と呼ぶにはお粗末な、土むき出しのボコボコした道に停まっていた。


 馬車は馬二頭立ての幌馬車と呼ばれる立派な物であり、マジックバッグといいゼルさんがどのくらいの商人なのかを物語っている。

 馬車の御者台には少年が座っていた。


 「アラタ君紹介するよ。ポリーだ。私の所で商人の見習いをしている」


 「あの、宜しくお願いします。ポリーです」


 「こちらこそ、宜しく」


 ポリーは初めて見る僕を警戒しながらも握手を交わす。

 ポリーは九歳の男の子だ。

 身長は僕より、頭一つ半小さい。

 顔は少年そのままで頭になんと、犬耳がついていた。

 後ろでは尻尾が揺れている。

 僕は、九歳の子供とあまり変わらない身長に、軽くショックを受けていた。

 獣人は成長が早いのかな?と、アラタは悲しいくらいの言い訳を考えていた。

 

 僕達は馬車に乗りリーグの町に向かっている。

 御者はゼルさん。

 僕には馬車の操作は出来ないし、ポリーに一人任せるのは不安があるらしい。

 僕達は荷台に乗り色んな話しをした。

 ポリーは最初は警戒していたが、どうやら僕が気に入ったみたいで自分が住む街の事や、今まで立ち寄った村の事など色々聞かせてくれた。

 僕もゼルさんに話した内容そのままに、自分の生い立ちをポリーに聞かせる。

 ポリーは僕が年上だと知ると耳と尻尾をピンとたて驚いていた。

 同い年位だと思っていたそうだ。

 僕達は馬車の中、お喋りしながら進んでいく。

 僕とポリーの会話に時にゼルさんが入ってきたりと、馬車の中はとても賑やかだった。

 

 もうすぐ日が沈む時間となり、ようやくリーグの町についた。

 町の入り口には兵士が二人立っており、どうやら中に入る人をチェックしているようだ。

 僕は慌ててゼルさんに身分証などないと伝えると、自分の連れとして入るから一人銀貨一枚払えば特に問題にはならないそうだ。

 僕達の番がきてゼルさんに記帳台帳が渡され兵士達は僕達の顔を確認してくる。

 何か言われるかと思っていたが何もなく、すんなり町に入る事ができた。


 この世界にきて初めての町である。

 僕は胸を高鳴らせゼルさん達と共に今夜の宿へ向かうのだった。


 あっ、因みに町の兵士が全く僕を警戒しなかったのは、僕が十歳以下にしか見えなかったからだそうだ。

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