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黒の魔眼  作者: ひのえの仏滅
第2章 冒険者 新人編
26/29

21.

 「ミー、一体抜けた」


 コボルトがキャスカの横をすり抜け、ミリアムに襲いかかる。

 ミリアムは杖を構えて魔法を放つと、コボルトの体が炎に包まれ地面を転げ回り苦しんでいる。

 十秒程もがき苦しんでいたコボルトも、今はピクリとも動かない。喉を焼かれた事により、肺に酸素が回らなくなり窒息死したようだ。

 他のコボルト共を殲滅し終わったアラタも、ミーの容赦のない攻撃を目にして少しばかり引いていた。

 もがき苦しんだコボルトの顔は、苦悶の表情を浮かべている。

 絶対に遠慮したい死に様である。

 アラタが引いている事など露とも知らず、ミリアムは本当に死んでいるのか杖の先でコボルトを突つきながら確認していた。


 「この先に、ボス部屋があるわ」


 キャスカは振り向くと、二人にその先を説明する。

 二十階層のボスはオーガであった。しかし、只のオーガではなく、レッドオーガである。

 レッドオーガとは、オーガの亜種であり、力、知能、スピード、どれも普通のオーガより高く、下位の同族を指揮下に置き、連携して襲いかかる厄介な相手。しかも、魔法耐性を持ち、火属性の耐性は特に高かった。オーガである以上、打撃や斬撃に対する防御力も高く、普通のオーガと油断すれば命を落としかねない強敵である。

 ウォルの迷宮は、初心者から中級者向けのダンジョンである。その中で、レッドオーガを倒せるかが、初心者卒業の一つのステータスとなっていた。

 必ずしもレッドオーガを倒さなければ中級者に上がれないと言う訳では無いのだが、そこは暗黙の了解と言うやつで、時に冒険者には肩書きや称号なども必要で、二つ名や称号持ちの冒険者は周囲から尊敬場合によっては畏怖され、ギルドや商店での扱いも一段高く扱われる様になるという。

 チャンスがあって実力もあるのなら、挑戦するのが当たり前なのだとキャスカは言う。

 厨二病みたいな二つ名には興味なかったのだが、称号一つで特別扱いされるのならば、この先の冒険にも役立つかも知れない。

 打算的ではあるが、これは思っている以上に重要な事かも。

 キャスカが言うには、商人も称号持ちには特別に対応するらしい。買い物する上で欲しい物を他より先に融通する位の事ならしてくれるかも知れない。それだけでもとても助かる。


 「よし、準備を整えたら行くぞ」


 アラタは先に進む決意をする。

 勿論、キャスカやミリアムも頷く。

 だが、翡翠だけは理解していないようで、ミリアムのフードに着いてる猫耳擬きにパンチを繰りだし、仮想タイガーと勇ましく戦い続けているのだった。



 ボス部屋の扉を開けて中へと入る。

 三人が歩く度に足音が部屋の中に響き渡る。

 ダンジョンの中だと言うのに落ち着いた雰囲気を感じるのは何故だろう。

 アラタは周囲を見回してみる。

 ボス部屋の中は天井が高く壁は白一色で統一され、どこか画一的な神殿の様な造りとなっていた。

 この神殿の様な人工的に造られた様な姿が、落ち着いた雰囲気にさせているのかも知れない。

 アラタが周囲を見回していると。


 「ん、いる!」


 ミーが前方を指差す。

 奥の方は薄暗かったのだが、突然篝火が灯ると大きな体躯に頭に角を生やし、物語に出てくる鬼そのものの姿をした生き物が三体姿を現わした。


 「あれがオーガ」


 「そう、油断しちゃ駄目よ」


 「わかってる」


 「ふんす、ふんす」


 ミーは鼻息荒く気合い十分である。

 ミーのフードの中で翡翠も毛を逆立て、やる気に満ちていた。

 オーガは獲物を見つけたとばかりに、雄叫びをあげる。

 二体のオーガが向かって来るなか、一体の赤い体躯をした一際大きなオーガが一声吼えると、他のオーガに指示を出し此方の出方を伺っている様な感じ。

 キャスカの話通り、本能で動くだけの魔物ではなさそうだ。

 だからといって、やる事は変わらない。相手が様子を伺っている内に雑魚共を全て蹴散らし、残る一体には三人で集中砲火。安全第一で行こう。

 相手は指揮する者と攻撃する者の二手に別れている。此方は先行する二体に対し三人で集中的に攻撃をする。

 一体のオーガがキャスカの間合いに入り大きく棍棒を振り上げると、キャスカの後方から氷の槍が飛来し、オーガの腹や太股に深々と突き刺さるのであった。

 オーガは突然の激痛に棍棒を矢鱈目鱈に振り回して暴れ捲るが、動きが単一であった為、キャスカに懐に入られるとアッサリと頚の半分を斬り裂かれ、血を噴き出しながら倒れるのだった。

 倒れた直後はピクピクと痙攣していたが、十数秒の後、完全に動きが止まる。


 アラタに襲いかかるオーガは真っ向からアラタの剣撃を受けて、袈裟斬りに真っ二つに切り捨てられていた。

 戦う以前の問題で、全く相手になっていなかった。

 二体の手下がやられた事に激昂したレッドオーガは、大きな咆哮をあげると戦斧片手に襲いかかってくる。


 「何怒ってんだ、コイツ?自分の手下を捨て駒にしといて怒んなよ」


 全くの正論である。

 キャスカやミリアムも、ウンウンと頷いている。

 レッドオーガは肩に戦斧を引き付けると、力一杯アラタ目掛け斧を振り降ろす。アラタも肩に担いだ大剣で斧を迎え撃つ。

 ガギーーーンと、部屋中に甲高い音を響かせて、剣と斧が交差する。

 鍔迫り合いと言えば聞こえはいいが、実際には巨大なオーガが小さいアラタを押し潰そうとしている様にしか見えなかった。

 圧倒的な力を持つ筈のレッドオーガの一撃をアラタは下から押し上げる様な形で受け止めていた。

 あり得ないとした表情を浮かべたのは、レッドオーガの方である。

 自分の半分も無い、人間の中でも子供の様ななりをしたアラタ相手に力が拮抗しているのである。驚きと共に怒りが湧いてくる。オーガの上位種である自分と、目の前の小さな人間が同格などと、決して認めてはならないのだ。

 レッドオーガは咆哮をあげると、全体重をかけてアラタを潰しにかかる。

 オーガは全ての力をもってアラタに対抗する。今までで一番燃えていた。魔物の血が熱くたぎるのである。そう、熱くなりすぎていた。オーガは忘れていたのだ。アラタ以外の存在を。

 アラタは剣を斜めにオーガの戦斧を受け流すと、ステップを踏んで距離をとった。

 アラタが自分から距離をとったのを力負けしたからだと勘違いしたレッドオーガは、口元に笑みを浮かべ、既に勝った気でいるようだ。

 口元に笑みを浮かべていたのは、レッドオーガだけではなかった。

 アラタの口元も笑みを浮かべていたのだ。

 はっとなり、今頃気付く愚かなオーガ。

 二人の女の姿が見当たらない。

 オーガのわき腹に氷の槍が突き刺さる。

 深くはないがわき腹からは血が流れていた。

 氷が刺さった方を見れば、離れたら所に一番小さな人間が杖を構えて氷の槍を宙に作り出していた。

 オーガが一歩踏み出すと、今度は真後ろから背中を斬り裂かれた。

 「×」の字に斬り裂かれた背中からも血が溢れている。

 レッドオーガは相手を近付けさせまいと斧を振るうが、それは手下がやってた事と同じこと。

 レッドオーガに初めて宿る恐怖の感情。

 目の前には大剣を担いだ小さな人間が、口元に笑みを浮かべ立っていた。


 「じゃあな」


 そう言って、アラタはレッドオーガの懐に入り込むと、付与魔法で増強された力とスピードでレッドオーガを真っ二つに斬り捨てるのだった。上半身と下半身に別れてたオーガは地面に転がると、初めて少年を見上げる形となる。少年は納得した様に頷くとオーガの視線に気付きフッと笑みを浮かべるのだった。まるで、こんなものかと言わんばかりに。

 レッドオーガの意識は、ここで途切れた。


 アラタはオーガの死体を収納すると、次の階に進む事にした。

 キャスカもミリアムも同意している。

 だが、翡翠だけはアラタの頭に移動して、ぺしぺしと頭を叩いる。腹が減ったと食べ物を催促していたのだ。何もしていないのに、何故腹が減るのだろうか?

 三人はそんな翡翠の姿を目にして、「ぷっ」と笑いだすのであった。






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