16.
商館が建ち並ぶ商館区画にあり、メインストリートから一歩裏道に入った場所にあるのが奴隷商館。
商館が建ち並ぶメインストリートと違って、何処か陰鬱な雰囲気を漂わせている。
まぁ、明るい奴隷商館ってのもどうかと思うが…………。
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「いらっしゃいませお客様。明朗会計明るい奴隷商館でございま~す」
満面の笑みを浮かべ、貴族の様な挨拶をしながら案内する奴隷商人。
「私は明るい奴隷~♪」
何故か歌いながらクルクル廻って登場する奴隷少女達。
まるでミュージカルを見ている様だ。
「「さぁ、お客様。誰をお選びになりますか~♪」」
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うん、無いな。
アラタの妄想世界とは反対に、奴隷商館が建つ裏通りは寒々しい所であった。
人通りもまちまちで、行き交う人の人相も悪い気がする。
足早に去っていく人やオドオドとした人、目をギラつかせて何やら警戒する様に歩く人など、まさに怪しい人種の坩堝。
そんな事を考えながら歩いていると、目の前に立派な建物が見えてきた。
アラタは奴隷商館の中でも一番大きな商館の前にいた。
商館の壁には『アブドル奴隷商』と書かれた看板が大きく掲げられていた。
扉の前には一人、門番らしき人物がいる。
あの人に話せば入れてくれるのかな?
アラタは商館に向かい歩いていく。
「おい、まてガキ。ここはお前の様なガキがくる所じゃない。さっさと家に帰りな」
門番は剣の鞘であっちへ行けと、アラタを追い払おうとしている。
アラタを客と認識していないようだ。
それも仕方ない事で、この世界の人達は魔物と戦う為に身体も大きく、アラタの身長からまだ十歳以下と見られる事もしばしばであった。
その為、アラタが奴隷を見に来た冒険者だとは考えもしなかったのだろう。
目の前の門番も、アラタの事を冒険者に憧れて冒険者の格好をしている近所の子供と思っていたのである。
商館街だからといてって、商館しか無い訳ではない。
ちゃんと、その地区に住んでいる住人はいる。
大概が商人達であり、商館街は便利な反面家賃が高く、ここに住む商人は大概大商人であった。
だからか、いくら腹のたつガキだからと言って怪我でもさせようものならば、何処をどう巡ってその話しが大商人の耳に届くかわからない。
もしその子が大商人の身内ならば、一介の門番などどう処分されるかわからないのだから。
アラタの事も商人の子供と思っている門番は、それ以上の事が出来ずにいた。
すると、門番の後ろの大きな扉が中から突然開く。
門番も目を見張り振り向くと、其処には高級そうな服を身に付けた小太りで頭の禿げた中年が立っていた。
門番は口をパクパクさせ、言葉が出て来ないようだ。
偉い人かな?
アラタは小太り中年おやじを魔眼で観察する。
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アブドル:人族
職業:商人
Lv:13
HP:350
MP:70
筋力:23
体力:30
魔力:8
知能:28
俊敏:7
幸運:38
魔術
闇Lv:4
スキル
鑑定眼Lv:5
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どうやら、この人が奴隷商人らしいな。
小太り商人は二人を上から見回すと。
「私の店先で何を騒いでいるのかね」
鋭い目線をアラタに向けてきた。
アラタも商人から目を逸らさず視線を交わす。
商人は顎髭を弄りながら、何かを納得したかの様にうんうんと頷きだす。
「ふむ。どうやら小さなお客人が来たようだ。通しなさい」
門番は主の言葉に渋々といった表情で従っていた。
奴隷商館の中は清潔に整えられていた。
キョロキョロと物珍しそうに見るアラタを商人は微笑んで見ていた。
「どうですかな、我が奴隷商館は?想像していたより綺麗でしょう」
心を見透かされたかのような言葉にドキリとするアラタ。
「ハハハ、やはりそうお考えでしたか。大抵のお客様は奴隷商館と言えば、薄暗く汚ならしい場所を想像するんですよ。それは全くの誤解なのですがね。奴隷と言っても彼らは人間です。我々奴隷商人は人間を売り買いする商人なのですよ。例えば武器商人であれば良い武器を仕入れ適正な価格でお客様にお売りする。勿論、武器の手入れも忘れてはいけません。綺麗に研ぎ上がった武器をお客様に見て納得して頂き購入となります。そこは奴隷商も変わりありません。綺麗に清掃された店に綺麗に着飾った奴隷。病気などもっての他です。病気になれば静養させ、完治してから店に並びます。決して我々奴隷商は奴隷を蔑んだり、酷い扱いをしないのですよ」
商人の話しを聞きながら歩いていると、目の前に立派な扉があらわれれる。
「さぁ、此方でございます。さて、入る前にまずはお互いに自己紹介といきましょうか。私はグランドの街で奴隷商館を営むアブドルと申します」
アブドルは胸の前に手を置き軽く頭を下げ挨拶をする。
流石商人、随分と様になっている。
「僕は冒険者のアラタです。アブドルさん、一つ聞いても良いですか?」
「はい、勿論」
「どうして、僕みたいな子供を商館に入れたんですか?門番の人も僕をお客だと認識してませんでしたしね。失礼ながら、それが普通の反応だと思うのですが」
「ただの勘だと言っても納得して下さらないでしょうね。我々奴隷商人に限らず商人は世の中の機微に聡くなくてはなりません」
「もしかして、僕の事を知ってましたか?」
「はい、随分と有望な少年が冒険者になったと聞き、失礼ながら調べさせてもらいました。随分とお稼ぎのようですし、また、珍しいペットも飼い慣らしているようで…………」
翡翠の話しがでた瞬間、アラタから鋭い殺気がアブドルに向け放たれる。
「いやいやいやいや、誤解なさいませんように。私はアラタさんや周りの方、勿論あの珍しい生き物に対しても手を出す事は一切ありませんから。アラタさんはこれからどんどん強く有名になっていく冒険者だろうと考え、挨拶がてら我が奴隷商館をご案内出来ればと考えたまでです。これも先行投資の一つなのです」
アブドルの言葉を鵜呑みにした訳ではなかったが、当人からは怪しい気配が感じられず今の現状で敵ではないと判断し殺気を納めた。
アブドルは噴き出す汗をハンカチで拭う。
(まさか、ここまでとは…………)
長年奴隷商人として各地を歩いてきたアブドルだったが、初対面の新人冒険者、それも自分の半分にも満たない子供にここまで気圧されたのは初めての事だった。
(この子は強くなる。それも並大抵の強さじゃない。AどころかSやもしくは伝説のSSクラスもありえるか…………敵対しなかったのは正解だったな)
商人としての勘がそう告げていた。
アブドルの呼吸も整った所で。
「さて、では当館自慢の奴隷をご覧にいれましょうか」
アラタの前の扉がゆっくりと開かれる。




