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黒の魔眼  作者: ひのえの仏滅
第2章 冒険者 新人編
20/29

15.

 「ふぁぁぁ………」

 大きな欠伸をしながら、アラタはベッドから起き出る。

 時刻は既に昼である。

 前日までウォルの迷宮を攻略しており、地下15階層を攻略した所で地上に戻ってきた。

 それまでは、ずっと地下に潜りっぱなしであり、魔物が跳梁跋扈する迷宮では仮眠が精々で、ゆっくりと睡眠をとる事が出来ず、アラタはゼルの家に戻ると食事をするや、張りつめた緊張がほどけたかのようにベッドに倒れこみ、丸一日寝続けたのだった。


 「ふぁぁぁぁ、よく寝たな」

 小さな身体を目一杯伸ばし、意識を覚醒させる。

 ドアの向こうからトタトタと此方に向かってくる音が聞こえる。

 ゼルやキャスカの足音でない。

 だとすれば、一人しかいない。

 扉をノックする音が部屋に響く。

 アラタが返事を返すと勢いよく扉が開かれ、部屋の中にポリーが飛び込んできた。

 久々に会えたアラタに甘えたくて仕方ないのだろう、ポリーはアラタに飛び付くと頭をアラタの胸に擦り付けていた。

 やれやれといった感じでポリーの頭を撫でる。

 五分程経つとポリーも満足したのかアラタから離れ、昼食が出来たとアラタの手を引き一階に降りていく。


 ダイニングではゼルや先に起きたキャスカが席に着き二人を待っていた。

 「だいぶ時間がかかったようだね、アラタ君」

 ポリーの行動を理解していたのか、ゼルはすまなそうな顔をアラタに向ける。

 キャスカも体験済みなのか、やっぱりといった表情だ。


 「すみません。待たせましたか?」

 「いいや。こうなるだろうと早めにポリーを向かわせたからね。然程待ってはいないさ」

 「ほら、二人共早く座って。スープが冷めちゃうわ」

 二人が席に着いた所で揃って食事をとる。


 前日の食事は二人を気遣って早めに切り上げた為、迷宮の話も出来なかった。

 その為、今日の昼食はアラタが迷宮の不思議やそこで出会った冒険者や翡翠の事を話し、キャスカは二人で戦ったモンスターとの戦闘や危なかった事、更に翡翠を助ける為に寝ている自分を置いて勝手に森に行くアラタの話しを冗談を交えつつ話し、ゼルやポリーを驚かせたり笑わせたり、大いにその日の昼食は盛り上がった。


 その日の午後。

 「こいつは、随分使い込んだみてえじゃねぇ~か」

 アラタはブロードソードを購入した店主の紹介で鍛冶工房に訪れていた。

 勿論興味本位で訪れた訳でなく、目的はブロードソードを研いでもらう為である。

 アラタの振るうブロードソードは購入してから然程経っていないが、既に幾つかの極小さな刃こぼれや魔物の血等がこびりつき、他の人からすれば、お金の無い新人冒険者がベテランや引退した先輩冒険者から年代物の剣を譲り受けているようにしか見えなかった。


 アラタの前にはブロードソードを片手で軽々と持つ筋骨粒々の見た目『オーガじゃね?』といった男が、手に持つブロードソードを具に観察していた。

 男はブロードソードからアラタに目線を移す。

 「つうと、お前さんはこの剣を買って数日でここまで酷使したと…………信じられんが、実際この目で見ちまったからな。たしかにこの剣は俺が打った剣だ。先日店主のシャトルがこの剣を有望な新人冒険者に売ったと言ってたのがお前だったと言う訳だ。見た目に反して随分腕がたつと言ってたが、数日で此とは俺の予想を大きく越えたな」


 数日で剣をボロボロにし、怒られるのではないかと内心ビビりまくるアラタ。

 だが、目の前のオーガ……いや、げふん、げふん、工房の主の顔は笑って?あれ、獲物を見つけた肉食獣の表情……怒ってないよね?

 すると、突然目の前のオーガモドキが『がははははは』と笑いだした。

 突然の事にビクリと肩を竦めるアラタ。すると、


 「いや、すまねぇ。驚かせちまったみたいだな。あんまりに嬉しくてよう」

 「嬉しい?」

 何が何だかわからなく、頸を傾げるアラタ。

 「あぁ、嬉しいね。この剣をここまで使い込む事が出来る剣士に出会えたんだからよ。それもベテラン剣士じゃねえ、これから飛び立とうっていう新人冒険者がだ。しかし、シャトルも見る目がねぇな。坊主にこいつを売るとは。だが、しかし困ったぞ…………」

 何故か工房の主はブツブツと呟きながら考え込んでしまった。

 見る目が無いと言っていたが、やはり本心では怒っているのかとアラタはハラハラする。


 考えが纏まったのか、ガバッと顔を上げ真っ直ぐにアラタの目を見る工房主。

 「あ、あの……」

 「………………坊主。この剣はお前に合ってねえ」

 「…………」

 真っ直ぐに否定されてしまった。

 言葉が出て来ず落ち込むアラタ。

 それを見た工房主は、

 「あぁ、悪い悪い。言葉が足りなかったな。坊主が悪い訳じゃねぇんだ。この剣じゃ坊主についてけねぇって事だ。坊主には、もっと頑丈で膨大な魔力に耐えうる剣じゃなきゃならねぇって話だ」

 自分が悪い訳ではなかったとホッとするアラタ。


 だが、今のアラタにはそのブロードソードを超える剣を購入出来るだけの資金がないのだ。

 合ってないと言われても、じゃあ買い換えますとはいかない。

 工房主もその事には気づいている筈である。

 いくら有望な新人冒険者だからと言っても、そんな直ぐにお金なんて貯まる訳がなかった。

 二人して悩んだ結果が、今回はブロードソードを研いで修復する事でお金が貯まったら自分に合う剣をなるべく安く売ってやるから偶には工房に顔を出せと言われた。

 帰り際になり漸くお互いの自己紹介をして工房主の名がガジンと言う事を知った。

 

 ブロードソードの研ぎ終わりを待ち、工房を出る頃には日もだいぶ傾いていた。

 アラタが中央通りを歩いていると、ガラガラと音をたてながら数台の馬車が列なってアラタの前を走っていく。

 馬を数頭立ての大きな馬車で何故か全て布で覆い隠されていた。

 更にその周りには十人位であろうか冒険者らしき姿もある。

 「随分厳重な警戒だな。貴族関係の品でも運んでるのかな?」

 アラタが呟くと、隣にいた男がアラタの方をむき、馬車の事を教えてくれた。


 「おいおい。坊主本気で言ってんのか?どんな田舎から出てきたか知らねぇが、ありゃ奴隷商人の馬車だよ。貴族があんな汚い馬車使う訳ないだろう。坊主も滅多な事口にするんじゃないぞ。貴族様に聞かれたら事だぞ。気を付けなよ」

 そう言って男は去っていった。

 アラタも帰ろうかと歩き出すと、目の前で馬車がガタガタと音をたてて揺れ垂れ下がった布が捲れあがった。

 布の中は鉄格子で組まれ奴隷達が逃げられない様になっている。

 鉄格子の中には十数人の女性や少女の姿があり、その中に一人だけ十歳にも満たないかと思われる幼女の姿もあった。

 その幼女はアラタと目を合わせると大きく目を見開き驚いている様に見えた。

 布が捲れる一瞬の出来事であり、その様子を確かめる術はない。

 馬車を見送るとアラタはゼルの家へと歩き出した。


 翌日。

 アラタは一人中央通りを歩いている。

 特に用がある訳でなく散歩がてら店の商品を覗いていたのだ。

 通りを歩いていると、前方に見知った人物が此方に向かって歩いてくるのが見える。

 どうやら先方もアラタに気付き、手を上げて挨拶してくる。

 「やぁアラタ。今日は一人で買い物かい?」

 見知った相手とはバドであった。

 バドはアラタが冒険者登録をしようとギルドで登録の順番待ちをするアラタに絡んできたリッツの兄とパーティーを組んでる冒険者で、パーティーの斥候役であり、ムードメーカーでもあった。

 まとめ役がリッツの兄のリーガルで、バドはパーティーの中和剤的な役割もこなし、影からパーティーを支える人物。

 パーティーメンバーで唯一の女性のミンとリーガルの恋を一番に応援しているのもバドである。


 ウォルの迷宮内で出会い、小さないざこざはあったがお互いに和解し、リッツはどうかわからないが、アラタは既に気にしていなかった。

 最初はリッツのパーティーとの事で警戒していたアラタであったが、リーガルの誠実さとバドの人懐こさがポリーと重なりグランドの街に戻ってからキャスカも含め一緒に食事をする仲になっていた。

 グランドの街でキャスカを除けば一番仲の良い冒険者の一人だろう。

 一番と言っても何十人と知り合いのいるアラタではないので、バドはアラタの貴重な交遊関係を結ぶ一人であった。


 二人は大きな肉の串焼き買い食いしながらお互いの近況を話し合った。

 「あっ、そうそう。これ、知ってるかい?昨日、奴隷商館に変わった奴隷が入ったんだってさ」

 「変わった奴隷?」

 アラタは奴隷には興味無かったが、バドの言う変わったと言う部分に興味が湧いた。

 「年の頃は7、8歳の女の子。無口で他の奴隷の子とも交わらず、ずっと一人でいるんだって」

 「ふぅ~ん。でも、その位で話題になったりしないだろう」

 「そりゃ、そうさ。それだけだったら、ただの暗い子で終わってたさ。だけど、此処からが本題の部分…………その子、呪われてるんだって!」

 アラタの眉がピクリと反応する。

 「呪い?」

 「本当らしいよ。何人かの客がその子を買ったんだけど、その購入者全員が不幸に見舞われたんだってさ」

 「死んだのか?」

 「いや、死者はでなかったらしいけど、相当ひどい目に会ったって。だから、その子は必ず商館に戻されるらしいよ」


 一通り話し終わるとバドは買い物の続きがあるからと言って走り去っていった。

 バドを見送ると、さっき聞いた奴隷の話しが事が気になりだした。

 バドは言っていた、呪われていると。

 奴隷を買うつもりは毛頭ないが、アラタの足は商館が建ち並ぶ方へと自然と向かって行くのだった。




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