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黒の魔眼  作者: ひのえの仏滅
第2章 冒険者 新人編
18/29

13.

 地下12階。

 鬱蒼と生い茂る草を掻き分け進んでいく。

 目の前に拡がる景色は地下11階と同様。

 どうやら地下12階も広大な森林の迷宮らしい。


 「キュッキュッ」


 緑色で蒲公英の様な毛、栗鼠の体躯に狐の耳と尻尾を持った謎の小動物は、アラタの頭の上で周囲の景色を楽しんでいるのか、忙しなく頭を左右に動かしていた。


 「翡翠(ひすい)、あんまり動くと落っこちるぞ」


 アラタは頭の上にいる小動物の体を撫でると、気持ち良いのかもっと撫でろといわんばかりに、アラタの掌に体を擦り付けてくる。

 数分撫で続けると翡翠と呼ばれた小動物は丸くなり、アラタの頭の上でスヤスヤと眠ってしまった。

 この場所が最も安全だと思っているらしく、周りを警戒している様には見えなかった。


 「アラタ。翡翠の事なんだけど、多分普通の動物や魔物じゃ無いわ。ウォルの迷宮が攻略されてだいぶ経つけど、迷宮内に翡翠の様な生き物がいるって話しは全く聞いた事無いもの。其に、さっきその子フワフワと浮いてたわよね。風を操る小動物が発見されれば、絶対に噂になってる筈よ。危険だとは言わないけれど、余り他の人に見せない方が良さそうよ。面倒な事に巻き込まれるかもしれないし……」


 「だからって迷宮に残す訳にはいかないだろう。まあ、残れって言っても聞きそうに無いけど。それと、さっき空中に浮いてたのは魔法じゃないぞ。魔術や魔法だったら感知出来るけど、翡翠が浮いていた時には何も感じなかった。ただ、翡翠の周りに目に見えない何かが蠢いていた様な気がするんだけど」


 キャスカは歩みを止め、顎に手を当てて考えだした。

 魔物の気配が無いと言っても、無防備過ぎる。

 無論、全く警戒していない訳では無かったが、褒められた行動で無いのは確かだ。

 見方を変えれば、アラタを信頼しての行動ともとれるが……。


 「確かな事では無いけれど、もしかしたら、翡翠は霊獣かも」


 「霊獣?」


 頭の上に翡翠がいるので首を傾げる事はせず、腕を組んでキャスカの話しの続きを待つ。


 「霊獣。体内に精霊を宿した珍しい生き物の事。精霊と一口に言っても、色んな属性に別れているの。火の精霊、水の精霊、風の精霊、土の精霊、雷の精霊、光の精霊、闇の精霊。他にも多種多様な精霊がいるんだけど、有名な精霊と言ったら今言った七属性の精霊ね」


 「そう考えると、翡翠は風の精霊を宿した霊獣かも知れないって事か。やっぱ、バレたらまずいよね?」


 アラタは、恐る恐るキャスカの顔色を伺う。


 「まずいわね。珍しい生き物を欲しがる金持ちや貴族だけでなく、精霊術師やその研究者からも狙われる可能性があるわ。アラタが翡翠を保護するのならば、翡翠の存在はなるべく伏せた方が良いわね。トラブルが新たなトラブルを呼び込み、大変な目に会うかもしれない」


 キャスカの話しを聞き、アラタの顔つきがだんだんと変わっていく。

 翡翠の事は自分が保護すると決めていたアラタ、もし翡翠に善からぬ感情を持って接してくる輩がいたならば、その事自体を後悔させてやると、どす黒い感情がアラタの中で渦巻いていた。


 キャスカは不安気な表情をうかべている。

 アラタの強さを知ってはいるが、貴族や金持ち連中は自分では動かない。

 必ず手練れの冒険者等を雇う事だろう。

 見た目にもアラタは強そうに見えないから、美味しい仕事と飛び付く冒険者も多くいるかもしれない。

 その中に、A級やS級程の冒険者がいたら、アラタだって危ないわ。

 その時、私に何が出来るのだろう。

 アラタの盾として、S級冒険者を何秒抑えられるのかしら。

 キャスカは一人不安を募らせていた。


 地下12階を無事に抜け、地下13階に降りる。

 地下13階も森林エリアではあったが、何故か道が出来ており、迷宮が生まれた当初から道はあったという。

 何故に?迷宮の考える事は良くわからん。

 その理由はキャスカが教えてくれた。


 「地下13階で一番気を付けなければいけないのが油断よ。大森林を抜けて見晴らしも良くなったと油断する冒険者が必ずいるの」


 どうやら、相手の油断に漬け込む為の罠であったらしい。

 くわばらくわばら。


 「特に夜は注意して」


 「何か、危ないのが出るのか?」


 「シャドウウィップと言って、影の様な魔物で闇夜に音もなく背後に忍び寄って、鞭の様な腕で相手の首を絞めて殺す厄介な魔物が出るの。地下13階の犠牲者は大概コイツの仕業よ。昼間だからって油断してると、林の影から腕を伸ばして茂みに引き摺り込まれたりするから気を付けてね」


 うわぁ、迷宮えげつないな。

 キャスカの説明によると、シャドウウィップの弱点は光属性と火魔法だと。

 剣などの物理攻撃も効果が無い訳ではないが、シャドウウィップの身体組織はスライムに近く、斬撃よりもハンマー等による潰滅が効果的のようだ。


 シャドウウィップとは自然界に生まれた魔物ではなかった。

 千年以上昔に栄えた、古代魔法帝国の魔導師によって創られた魔法生物である。

 魔法帝国は魔導師達のその強大な力で国土を拡げ、ついには大陸統一まで成し遂げたが、統一後も魔導師達の野望は消えず、最終的には神の力をも手にしようと画策し、神の禁忌に触れた為神の怒りをかい、一昼夜で滅んだという、今は物語の中でしか語られない伝説の帝国の事である。

 シャドウウィップなどの魔法生物は、その滅んだ魔法帝国の都市等で核となる魔石を取り込み、自己増殖を繰り返し世界中に散らばっていったという。

 この迷宮にいるシャドウウィップも、その時事故増殖したシャドウウィップだと考えられていた。

 まさに古代魔法帝国が生み出した負の遺産である。


 探索も夕刻に差し掛かり、アラタ達は野営の準備に取り掛かっている。

 アラタはテントの設営をしながらも周囲を警戒し、キャスカは石を並べ積み上げただけの簡易竈でスープを温めている。

 夜は魔物の活動が活発化する。

 従って、まだ日が落ちる前に食事を済ませ休息をとるのは冒険者の基本であった。

 


 夜に活動するのは何も魔物だけとは限らない。

 人間も動き出す。

 人と言っても冒険者とは限らないのだ。

 迷宮の中で活動する盗賊も数多に存在する。

 迷宮内で殺された場合、死体は迷宮に吸収されその痕跡が残らない。

 そこに目をつけた盗賊達が、迷宮内で冒険者をターゲットにして強盗殺人を繰り返しているなど、何処の国でもある話しであった。


 特に危ないのがランクの低い迷宮である。

 ランクの高い迷宮にはレベルの高いモンスターが跳梁跋扈し、高ランクモンスター目当てに高レベルの冒険者が集まる、そうなると盗賊としても活動しずらかった。

 だが、低ランクの迷宮ならば駆け出し冒険者や低レベルの冒険者が多くなる為、盗賊としても狙いやすいのだ。


 中には冒険者になったばかりの金持ちや貴族のボンボンもいる。

 駆け出し冒険者は油断する者も多く警戒も拙い。

 まさに、そこが盗賊共の狙い目だった。

 盗賊に捕まった男は殺されるか、奴隷より更に苛酷に使い潰される。

 女性は盗賊達の慰みものにされた後、奴隷商などに売られて行く事が大半だ。

 しかし、中には捕まった冒険者が盗賊に鞍替えするケースもあり、なかなか盗賊を完全に殲滅するのは難しい。

 迷宮内ではモンスター以上に、盗賊等の襲撃を警戒しなくてはならなかった。


 外はすでに闇の帳が降りている。

 焚き火の前にはキャスカが一人、アラタはテントの中で眠りについていた。

 眠るアラタの顔のすぐ側には丸くなって共に眠る翡翠の姿もある。

 その姿は完全に丸い毛玉であった。


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