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黒の魔眼  作者: ひのえの仏滅
第2章 冒険者 新人編
17/29

12.

 突然、僕達の目の前に緑色の大きな虎が茂みをかき分け姿を現した。

 キャスカはフォレストタイガーと呟いていたっけ。

 地球上の虎よりもかなり大きい。

 頭から後ろ足まで四メートルはありそうだ。

 尻尾を含めれば六メートルに届くだろうか。


 「まずいわ、こんな所でフォレストタイガーに出会うなんて。運が悪いわね、私達」


 キャスカは苦笑いを浮かべ、距離をとろうと摺り足で少しづつ下がっている。


 運が悪いってさ、僕達。

 それは、きっと僕のせいです。

 ご免なさい。

 レベルが上がっても運の数値は上昇しませんでした。

 未だに『7』のままです。

 消費税より低いって、どうよ……。


 自分の運の無さを嘆いていると、呆けている様に見えたのか、アラタの方が与し易しと思ったらしく、フォレストタイガーはアラタに狙いを定めてゆっくりと近付いてくる。


 「アラタ、確りして」


 アラタが突然現れたフォレストタイガーに恐怖を感じて動けないのではと、勘違いをしたキャスカがアラタに対して叫ぶ。

 その瞬間、フォレストタイガーは一気にアラタへとつめ寄り飛びかかってきた。


 「アラタッ!!」


 キャスカは失敗した、と焦っていた。

 迷宮内では、いつ魔物に襲われるか分からない。

 なので、何時でも戦闘態勢をとれる様、ある程度間隔を開けて歩いていたのだ。

 アラタが使用する武器は大剣である。

 側にキャスカがいればアラタの邪魔になり、思いきり剣が振るえないのではと考えての事。

 だが、それが今回は仇になった。

 もう少しでも近くにいればと、後悔していた。


 フォレストタイガーはアラタに飛びかかり、前足の爪でアラタを引き裂いた……様に見えたが、実際はアラタの1メートル前でガリガリと何かを引っ掻いていた。

 まるでそこに、見えない壁があるかのように。

 アラタは平然とフォレストタイガーの間抜けな行動を見ては、仕草が面白いのか笑っている。

 キャスカの方へ振り返り、手まで振って余裕の表情。


 アラタはフォレストタイガーに目を向けると、闇魔法の眠りの霧(ヒュプノス)を唱える。

 白いモヤがフォレストタイガーを覆うと、先程まで獲物を目の前に暴れていたのが嘘の様に静かになり、鋭い目つきであったものが次第に瞼で被われ、大きな体躯を縮こませて丸くなる様に眠りへと堕ちていった。

 大丈夫だと思いつつも心配になりアラタに駆け寄ると、アラタは目の前で鼾をかいて寝ているフォレストタイガーを観察していた。

 頭を撫でても髭を引っ張っても目を覚まさない。

 完全に眠りに堕ちている様子。

 安全を確認するとアラタは振り返り、


 こいつ、どうする?と言いながら、右手で首を斬るジェスチャーをする。

 魔物とはいえ、無抵抗な者を殺すのが嫌だったのか、キャスカは先を急ぐ事をアラタに勧めた。


 二人は薄暗い森の中を歩いている。

 暫くの間、日本のテレビで視た○○探検隊気分で歩いていたが、ここにきて魔物がまた姿を現し始めた。

 どうやら、フォレストタイガーの縄張りから脱け出たようだ。


 「ブラックベアとグリーンモンキー。フォレストタイガーからすると、だいぶ格下になるわ。やっぱり、さっきのは運が悪かっただけの様ね」


 「どっちも特殊な能力はなかったよね」


 「ええ。爪と牙での攻撃しかないわね。ギルドではブラックベアの方が格上って事になってるわね。だけど、アラタからすればどちらも変わらないしかもしれないわね」 


 「じゃあ、猿の方はキャスカに任せていい?」


 キャスカは頷くと、飛びかかってくるグリーンモンキーを次々とサーベルで撫でるように斬っていく。

 まるで、美しい剣舞を舞っているかの様。

 アラタも背にしていた大剣を構えると、自分からブラックベアの懐に入り、一刀のもとに胴体を真っ二つに断ち斬っていた。

 余りにも呆気無く戦闘は終了する。

 誰かが言っていたっけ、二人の動きはベテラン冒険者のようだと。

 評価に違わぬ動きであった。


 魔物の遺体を回収し、地下へと続く階段を目指す二人。

 他の階層では何組かの冒険者とも出会ったが、この階層では出会う所か気配さえも感じない。

 階層が広すぎて、アラタが感じとれていないだけかも知れないが。

 その後も二度魔物と戦闘し、小さな川の近くにポツンと森に囲まれる形で平地が広がっていた。

 先駆者が休憩所として開拓したのか竈らしき人工物もあり、夕刻に差し掛かる前であったので、今日はこの場でキャンプを張る事にした。

 迷宮内で摂るには少し豪華な食事も済ませ、今日は早めに休む事に。


 「キャスカ、夜は僕が結界を張りながら番をするから、先に休ませて貰うよ」


 「ええ、お休みなさい。アラタ」


 「お休み」


 アラタは一人テントに入り、眠りに着いた。


 アラタが目を覚ますと、辺りは既に真っ暗。

 目を擦りながらテントから出ると、焚き火の前に丸太に腰掛けたキャスカがいた。

 テントの周りには数匹の魔物の遺体もある。

 アラタが眠っている間に近付いて来た魔物だろう。


 (戦闘があったのか。全く気づかなかったな)


 アラタは自分が思うより疲れていたのか、ぐっすりと深い眠りに就いていたようだ。

 自分の警戒心の無さを反省しつつ、キャスカと見張りを交代する。

 キャスカがテントに入るにを確認し、アラタは自分とテントを囲う様に結界を張り巡らせた。




 見張りを交代して数時間。

 森の中から鳴き声が聴こえてくる。

 人間のものではなく、何かの小動物のような鳴き声だ。

 あの鳴き声を聴いていると、気持ちがソワソワとし居たたまれない気持ちになる。

 テントを囲う結界は永続的のものを張っているし、少し離れた所で消えたりはしないか。

 見張りが持ち場を離れて行動するなど、決して褒められる事ではない。

 アラタは自分に対し結界があるから大丈夫と言い訳を口に、鳴き声のする方へ様子を見に行こうと考えていた。

 森から聴こえる鳴き声が、どうしても気になるのだ。

 アラタはそっとテントに近付き、テントの周りだけに更に強力な結界を二重にして張る。

 これで大丈夫。


 「よし、行くか」


 決意したアラタは鳴き声のする森へと駆けて行くのだった。




 光魔法のライトを唱え、真っ暗な森に入って行く。

 アラタの周りには、六個の光の玉が浮かび周囲を照らしていた。

 とは言っても、光の玉が照らすのはアラタの周りだけで、五メートル先は闇に閉ざされていた。


 「キュッキュッキュッキュッキュッキュッ」


 目の前の闇の中から鳴き声が聴こえてきた。

 今度は近いぞ。

 光の玉を一つ目の前の闇の中に飛ばしてみる。

 すると、大きな木の太い枝の上に狐の様な耳と尻尾を持った、リスの様な生き物がいた。

 その生き物はアラタを見、鼻と耳をピクピク動かし危険で無いかを警戒しているようだ。

 森から聴こえてきたのは、この生き物の鳴き声だったみたいだ。

 その生き物は、枝の上で前肢を必要に舐めていた。

 前肢には血が滲んでいる。

 怪我している所をみると、他の魔物に襲われたのか。

 だとすると、まだここいらに…………大人が十人で手を繋いでも一回りも出来ない程の大木の闇の中からのそりと現れたのは、この階層に来て初めて出会った魔物、フォレストタイガーであった。

 フォレストタイガーも逃がした獲物の匂いは覚えているのか、牙を剥き出して今度は逃がさないと唸り声をあげていた。


 「よう」


 アラタは片手を上げ、久しぶりに会った友人に軽い挨拶をする感覚でフォレストタイガーと向き合っている。

 馬鹿にされたと思ったのか、フォレストタイガーは更に牙を剥き出し、何時でも飛びかかれる態勢をとる。

 相手が退いてくれれば、やるつもりはなかったんだが。 

 アラタは仕方ないと、背負った大剣を抜き放ち、フォレストタイガーと対峙る事になった。

 

 フォレストタイガーはなかなか動かない。

 アラタは鳴き声を上げるリスらしき生き物の傷が気になり、なかなか動かないフォレストタイガーに苛立ちを覚えていた。

 更に数分、フォレストタイガーはまだ動かない。

 痺れを切らしたアラタは何でもないかの様に、スタスタとフォレストタイガーに歩み寄る。

 アラタの行動に、フォレストタイガーも驚愕する。

 今まで出会った人間は、自分を避けるか餌にしてきた。

 なのに、この小さな人間は、散歩でもするかの様に自分に向かってくる。

 この行動にはフォレストタイガーも我慢出来なかった。

 森の覇者たるフォレストタイガーを目の前に、散歩などと屈辱である。

 朝の事など忘れて、フォレストタイガーはアラタに飛びかかっていく。

 今までと同様の相手なら今頃、小さき人間の首筋に噛みついている筈だった。

 だが、この小さき者は今までの人間とはまるで違っていた。

 野生に生きるものとして、その事実に気付くのが遅すぎた。

 フォレストタイガーは後悔する、この小さき者と戦った事を。

 フォレストタイガーが最期に目にしたのは、自分の額へと食い込む真っ黒な大きな鉄の塊だった。


 フォレストタイガーを虚無の中に仕舞うと大木の下まで行き、リスらしき生き物に『おいで』と、手を伸ばす。

 数分は警戒していたが、フォレストタイガーがいなくなったのと、アラタが自分に害を及ぼさない者と判断したのか、スルスルと木から降り、アラタの腕を通り、今は肩に乗っている。

 リスに似た生き物は、アラタの肩の上で怪我した前肢を舐めていた。

 アラタはヒールを唱え、その怪我を癒す。

 突然傷口が塞がり驚いたのか、怪我していた前肢とアラタを交互に見つめ、怪我が治って嬉しいのか、謎の生き物は鳴き声を挙げながらアラタの顔に身体を擦り付けていた。


 

 テント前。

 アラタは丸太の上に腰掛けると、火の番をしながら悩んでいた。

 悩みの種はアラタの頭の上にいる。

 怪我も治り、リスに似た生き物はそのまま森に帰るものと思っていたが、それに反して未だにアラタにくっついている。

 テントまで戻って来たアラタは、この生き物どうしようかと頭を悩ませていた。

 アラタが一人であるなら悩む必要もなかったが、どうやってキャスカに説明しようかと必死に考えていた。

 いくらなんでも、助けてポイはあんまりである。

 行き当たりばったりに行動した結果が、これであった。


 「…………結界内に突然現れた、とか無理だな……フォレストタイガーの件もあるし、二重結界は解除したけど……黙ってればバレないかな?」


 ブツブツと、アラタは一人事を呟いていた。


 いつの間にか夜も明け、まだ薄暗くはあるが周囲は十分見渡せる。

 起床時間となり、テントの中からキャスカが出てきたが、一人考え込むアラタは気付いていなかった。

 キャスカはアラタに声を掛けようとするが、アラタの頭の上に見慣れない生き物がいる。

 害は無さそうだが、アラタの様子もおかしい。

 キャスカはアラタの横まで行き、隣にある丸太に腰掛けた。


 「おはよう、アラタ」


 突然横から声が聴こえて来たのに驚き、アラタは地面を蹴って後ろに跳びすさる。

 突然跳ぶものだから頭の上にいた生き物は地面に堕ち、抗議の声を挙げるとまたアラタの頭の上まで登って行く。

 声の主がキャスカとわかると、あからさまに動揺するアラタ。

 これは何かあると踏んだキャスカは、昨晩何があったのかとアラタを問いつめていくのだった。


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