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黒の魔眼  作者: ひのえの仏滅
第2章 冒険者 新人編
15/29

10.

 リーガルの紹介で、ミスリルとオリハルコンを直に見て触れる事も出来た。

 ミスリルは鉱石と言うには軽く、そして驚く事に柔らかかった。柔らかいと言っても粘土程では無く、金属としては柔らかいという意味で、熱を加え一度形を整えると強度や耐熱、耐寒、耐魔、防腐といった耐性が一気に上がり、再度形を整えるには、更なる腕や経験が必要になるという。

 一流の鍛冶職人かそうでないかは、ミスリルの打ち直しがどれ程完璧に出来るかで決まるという話。

 一流の中の一流、片手で数えられる程の職人の中には、初期作より打ち直しの方が素晴らしいと謂わしめる程の職人もいた。

 ミスリルとは、鍛冶職人にとっても一流への登竜門となっていた。


 逆に、オリハルコンは重く固い金属であった。

 素材自体の強度が高く、熱にも強かった。

 ミスリルを扱える窯であれば大概の金属加工は出来たが、唯一扱えない金属がオリハルコンである。

 オリハルコンを加工するには、更なる高熱が必要であった。

 だが、其処まで耐えうる窯は普通には造れない。

 その為、錬金術で特殊な窯を造るのだ。

 窯の中は相当な高温になり、他の金属に対しては扱いづらい事から、オリハルコン専用窯として造れていた。

 金属の中で、オリハルコンだけは別格の扱いとなっていた。


 リーガルとは店の前で別れ、アラタはギルド近くの総合雑貨店に来ていた。

 商業地区では分野事に店も商品も別れていたが、冒険者ギルドの近くでは色んな分野の商品を置くのが主流らしい。

 これは、一つの店で大概の物が購入出来、一々歩き回らなくてすむ為の工夫であった。

 冒険者には色々な仕事があるが、大概は討伐や護衛、採取や調査が多い。

 したがって、冒険者ギルド付近の店にはそういったよく購入される品物が雑然と並べられており、それに対して、商業地区の店ではその分野に特化した商品を扱う事が多かった。

 ギルド近くの店に置いてない商品も多々あるのだ。


 アラタは本棚に目を惹く一冊の本を見つけた。

 背表紙には『悪魔の眼』と書かれ、所々破けた古臭い本であった。

 手に取り中をパラパラと捲ると、表紙以外にも破れて抜けたページがありそうだった。

 店主に値段を聞いてみた所、随分前に冒険者から買い取ったはいいが、全く誰にも見向きもされない本だと言われ、なかば強引に銀貨一枚で押し付けられる形となった。


 「まぁ、いいか」


 欲しい本が安く手に入ったのだから文句は無い。

 だけど、誰にも見向きもされないって、どれだけ不人気なんだか。

 悪魔の眼を持つアラタとしては、少々ショックな事実であった。


 悪魔の眼以外にも面白そうな物があった。

 本というより紙を紐で束ねただけの物ではあるが、作りはそこそこで、内容が『錬金術と付与魔術』とあった。


 「あぁ、それかい。本なんてのは高級品だから余り売れなくてね。代わりに書き写した紙の束なら本程高くないし、書き手がいれば増産出来るしで、そっちが今の主流なのさ。本程確りしてないが、読む分には問題無いしな。安くしとくよ」


 成る程、アラタは感心していた。

 高級な本を一冊売るより、薄利多売で稼ぐ。

 一束作れば其処からいくらでも増刷出来るし。

 商人も色々と考えているものである。

 



 ゼルの家、アラタの部屋。

 ペラペラと紙の捲れる音が聞こえる。

 アラタは早速購入した『錬金術と付与魔術』と書かれた紙の束を読んでいた。

 店主のおじさんによると、正本から同じ本の形に写した物を『写本』と言い、今回購入した紙の束ねた物を『複写』と呼ぶらしい。

 写本は金持ち貴族が見栄の為に購入する事が多く、複写は稼ぎのある冒険者や職人が購入すると言う。

 写本は本の形をしている為、それなりにダメージに強く、複写は紙そのままに穴を開けて紐を通している為、無理に引っ張ったりすれば直ぐに破けてしまう粗い作りであった。

 既に三ページ程、取れてしまっていた。


 アラタは破けたページと束を重ねると虚無の中へとしまう。


 「成る程。錬金術で鉱石や金属を作り変え、上級素材としてから剣を打つ方法と、剣を打ってから魔石を使う方法があるのか。前者は高い素材や技術を求められるが、それだけに強い武器が出来るし、後者は手軽に強化出来るが威力はそれなりと。強い武器にしたければ、強力な魔石が必要になるって事だよな。作るとしたら、やっぱり前者かな……」


 強い武器を作るなら、強い素材や属性を多数入れれば作れそうと簡単に考えていたアラタであったが、元となる素材にも相性や耐久値があり、無理に合成すると全く使えない脆い素材が出来てしまう。

 予想以上に厄介そうな作業であった。

 アラタがキャスカのサーベルを治そうかと言った時、キャスカは明らかに不安げな表情をしていた。

 きっとキャスカはこの事を知っており、素人に任せるのがどれだけ不安だったのか理解していたのだ。

 いくら命の恩人であれ、大切なサーベルを実験のように扱われるのは、キャスカとて許可出来なかったのであろう。


 「はぁ、早まったかな」


 アラタは少し、後悔していた。


 因みに、アラタの購入した大剣は錬金術師が魔鋼鉄と言う素材を作り、その素材を使い一流の鍛冶師が打った一級品であった。


 

 三日後。

 アラタはギルドで紹介された錬金術師と付与師に師事し、一通りの技術を学んだ。

 アラタが二人の元へ訪ねると、二人はアラタの見た目に驚き、教え始めると成長スピードに驚いた。

 アラタはたった一日で技術を修得し、付与も錬金術も中級までなら完璧に使えるまでになっていた。


 アラタの部屋。

 アラタとキャスカは互いに向かい合い座っている。

 キャスカの手には、傷ついたサーベルが鞘に収まり握られている。


 「アラタ。この剣の事、お願いしてもいいかな?」


 キャスカは徐に、サーベルをアラタの前に差し出す。


 「いいの、キャスカ?技術は一通り学んだけど、絶体大丈夫とは言えないよ」


 「うん、アラタなら大丈夫。この前は、再生不能と言われたショックで正直混乱してた。けど、アラタに命を助けられて、パーティーを組んで、一緒に冒険して判ったのはアラタなら信用出来るって事。私はこの剣に誓ったの、アラタを守るって。だから……お願い」


 アラタは無言で細剣を受けとると、ゆっくりと鞘から抜く。


 「分かった。絶体治すから、待ってて」


 アラタは中芯に皹が入ったサーベルを丸テーブルの上に置き、虚無の中から数個の素材を取り出す。

 一つは大きめの魔石。一つは風晶石(ふうしょうせき)

 風晶石とは、風の魔力が宿り、元は透明な水晶が風の属性を得て淡く緑色に染まった水晶である。

 洞窟やその付近で稀に発見され、そういう場所をこの世界では風穴(ふうけつ)と呼んでいた。 

 虚無の中から取り出した最後の素材は何とあの、ミスリルであった。

 少量とはいえ、決して安くはない値段である。

 これにはキャスカも驚いていた。


 「アラタ。どうしたのこの、ミスリル」


 アラタはテーブルに素材を並べながら、入手経路を説明する。


 「ミスリルはいつもお世話になってる魔道具店の店主さんに安く分けて貰ったんだ。いつぞやの最高級ポーションのお礼だって」


 最高級ポーションのお礼と言われても理解できず、キャスカは首を捻っていた。

 アラタがその経緯を話すと、なる程と一応は納得したもよう。


 「風晶石は、錬金術師のギャンさんの手伝いをして、その見返りに貰った物なんだ。魔石は魔道具店で買ってきただけ」


 話しながらもアラタの手は動き続け、準備が整ったようだ。


 「よし、やるか」


 アラタは深呼吸するとゆっくりとした動作でサーベルに触れ、意識を指先に集中し、自分が思い描くサーベルのイメージを、指先からサーベルに送る様に、徐々に魔力を高めていく。

 魔術師でないキャスカにもわかる位の大きな魔力をアラタから感じる。

 すると、サーベルが光を纏い、周りの素材も同調する様に光りだした。

 サーベルと素材が強く光ると、テーブルの上にはサーベルだけが残されていた。


 「終わったよ、キャスカ。剣を振って、試してくれないかな」


 キャスカは頷くとサーベルを構え、軽く振ってみた。

 すると、ピュンッという音と共に、ヒュルルという音が聞こえ、部屋の中にはそよ風が吹いていた。


 「これって。まさか、魔剣」 


 「よし、成功みたいだな。そのサーベルに風の属性を付与したんだ。なれれば風の刃を飛ばせる様になるよ。それより、サーベルの調子はどう?」


 あまりの事にコクコクと、頷く事しか出来ないキャスカ。


 「それなら、よかった」


 アラタは心底ほっとした表情を見せる。

 結構なプレッシャーを感じていたのだろう。

 これで、肩の荷が降りたな。


 一方キャスカは………キャスカは剣の感触を確かめる様に、アラタが止めるまで、一心不乱に部屋の中でサーベルを振り続けていた。




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