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黒の魔眼  作者: ひのえの仏滅
第2章 冒険者 新人編
14/29

09.

 「で、修復不能だと………」


 アラタとキャスカは向かい合い座っている。

 ここは、ゼルの家のアラタの部屋。

 キャスカは武具店での事をアラタに話していた。

 大切なサーベルである事も含めて………アラタも肩を落とすキャスカを心配し話しを聞いている。

 その姿から、もしや冒険者を辞めてしまうのではないかとの思いも一瞬過よぎる。

 それ程の落ち込み様に見えた。


 「このサーベルは私にとっては特別な剣だったのだ。今でこそ父との間に溝が出来てしまったが、この剣への思いは変わらない。嘗ての父の様な騎士になりたいと………騎士では無く冒険者になってしまったが、誰かを助ける為の剣でありたいと今でも思っている。その誓いをたてた大切な剣なのだ………」


 アラタは身動ぎもせず、目の前で話すキャスカの視線を正面から受け止め口を紡ぎ聞いている。

 前世と言えばいいのか、以前のアラタならば解らない感情であった。

 大切にされた事もなければ大切な物も無い。

 だが、今のアラタには守りたい人達が少なからずいる。

 したがって、キャスカが語る思いも今のアラタには理解出来た。

 アラタは腕を組んで思案する。

 確か、昨日読んだ錬金術書に鍛造と魔鋼錬金が………やってみるか。


 「キャスカ。確実ではないけど、そのサーベルを治す方法があるよ。僕の使う錬金術には鍛造もあるんだ。それで作り治す事が出来るかも。でも、まだ使った事がないから試してからでいいならやるけど………正直、キャスカの納得がいく程の剣が出来るかは分からない。それでもいいなら」


 キャスカはアラタの試案を聞くも不安気な表情である。

 自分の思い出来の剣が今より悪くなるかも知れないのだから。

 迷っているというより決めかねていた。預けて大丈夫かと………

 アラタもキャスカの心情を図り、直ぐに答えは出さなくていいと。

 もし引き受ける事になってもいい様に、練習だけはしておくからと言い部屋から出ていった。

 キャスカは部屋から出ていくアラタの背中を見つめ動けずにいた。


 アラタは魔鋼剣を買った店に顔を出していた。

 錬金術の知識はあるが、実際に鍛造の現場は見た事が無い。

 手順を知っているだけで技術が無いのだ。

 その為に、技術者を照会して欲しいと頼んでいた。

 知識だけでは無く、この目で見て、行ってこそ技術は上がると。

 百聞は一見に如かず。

 魔法も使えば使う程に上達したし、ポーション作りでも同様である。



 店長に紹介された鍛冶屋で一通り学び、親方はアラタの事を気に入ったらしく、必要な鉱石や錬金素材を安く売ってくれた。

 アラタが紹介された鍛冶屋は腕が良いと評判で、工房は大きくないが一流冒険者が素材を直に持ち込み、その人だけのオーダーメイドを作る事で有名な工房であった。

 他の街から素材を持ち込み、オリジナルの武器を打ってもらう冒険者も少なくなかった。


 「時間が余っちゃったな」


 アラタは鍛造や錬金の情報を求めて冒険者ギルドに来ていた。

 昼を過ぎてはいるが、まだ夕刻時には早い。

 その為か、ギルド内は閑散としており冒険者は疎らであった。

 アラタは受付カウンターに歩み寄ると、一人の受付嬢に声を掛ける。


 「レレさん、こんにちは。今日は、ちょっと聞きたい事があって来たんですけど……」


 「こんにちは、アラタさん。お知りになりたい事とは何ですか?一応、規則でお教え出来ない事柄もありますので、ご了承下さいね」


 「はい。知りたいのは、腕のいい錬金術士と付与士と結界師についてなんですけど……」


 アラタの言う結界師とは、国や領主に雇われていないフリーの『空間魔法師』の事である。


 「錬金術士と付与士と結界師ですか。あの、錬金術士と付与士の方は何とかなりそうなんですが、結界師は………結界師程の人になりますと、Cランク以上であり、ギルド長のご承認が無いと紹介出来ない決まりとなっておりまして」


 「そうですか。結界師にも興味があったんですが残念です。ですが、今回一番の目的が錬金術士と付与士なんです」


 レレはホッと息をつき、『そうですか』と言ってカウンター上にメモを走らせた。

 古びたパピルス紙の様な紙に綺麗な字が書き込まれていく。

 この世界で紙は貴重品らしく、現代社会のパルプ紙等あろう筈もなく、羊皮紙に至っては高価であった。

 製紙技術としては中世と同等か、それよりはマシといったところか。

 古代エジプトの技術よりは上だろう。

 そんな事を考えていると、アラタの目の前に綺麗な字が書かれた紙が差し出された。


 「此方にギルド公認の付与士と錬金術士の名前と場所を書いておきましたので、ギルドの紹介と言えば無下にはされない筈です。ですが、一部の技術についてはお教え出来ない事もあるとは思いますが、強く強要して諍いを起こされますと、ギルドからの罰則が下りますのでご注意下さい。アラタさんならその様な事は無さそうですが、一応は……」


 「わかりました。ギルドの信頼を裏切る様な事はしませんから、安心して下さい」


 レレはそうは言ったが、アラタに対しては安心して紹介できると思っていた。

 他の冒険者を見てみれば、全てではないが大概は粗暴な連中である。

 その中で、アラタはギルドの受付嬢でしかないレレに対しても丁寧な対応をしてくれる。

 レレだけに限らず、大概の人に対してそうである。

 そんなアラタが無下な対応をし、相手を困らせる事は無いだろうとの判断である。

 

 冒険者には周りのサポートが必要である。

 武器屋然り、道具屋然り。

 勿論、錬金術士や付与士も同意である。

 その人達と揉め事を起こしサポートを打ち切られでもしたら、そのギルドは忽ち衰退するであろう。

 したがって、冒険者ギルドは冒険者達に変わり、周囲のケアに敏感に対応していた。

 過去には余りにも粗暴な冒険者に依ってサポートを打ち切られた経験がギルドにはある。

 かれこれ、数十年前の事である。

 その苦い経験を踏まえての対応であった。


 だからと言って、清廉潔白な者だけを冒険者にするなどと、出来るはずもなかった。

 冒険者には憧れでなる人もいれば、前科持ちもいる。

 過去の事を根掘り葉掘り聞いていれば、冒険者になれない人がどれだけ出てくるか。

 ギルドはそれをある程度黙認し、冒険者登録している。

 冒険者は命を張り依頼をこなす。

 その為、命を落とす者が絶える事はない。

 何処の国でも冒険者は人材不足であった。

 命を落とさなくても怪我や年齢で引退する者もいる。

 一人のベテラン冒険者を育てるのに、どれだけの時間と労力が必要か……それを考えると、多少の悪さならばと黙認する様になっていた。

 流石に殺人者を受け入れる事はなかったが。


 アラタはギルドを出て、近くの武器屋を物色していた。

 付与士や錬金術士の元へは明日行こうと考えていた。

 そういえば、今日冒険者ギルドでマーシャの姿を見なかった。

 アラタを見れば、女の武器を使いモーションをかけてくる筈。

 レレの横に座っていたのも、今日は違う女性であった。

 まぁ、毎日いる訳でもないし、偶々休日だったのかも知れない。


 一軒の武器屋の隣に、大きな店が建っていた。

 扱っているのは魔物の素材と鉱石等。

 隣の武器屋直営の店みたいだ。

 アラタが目にした事がない素材もたくさんありそうなので、早速入ってみた。

 店の広さは八十坪ほど。

 そこに、所狭しと素材がきちんと分別され並べられている。

 その種類は百を超えるだろうか。

 時間をかけてじっくりと鑑定していくが、何処にもミスリルやオリハルコンが見当たらない。

 貴重品だから、店の奥にでもしまってあるのだろうか?

 店員に聞いてみる。


 「ミスリルやオリハルコンですか。店内には置いてありませんよ。必要な分量言って貰えれば持って来ますけれど…………」


 店員はアラタをジロジロと見てくる。

 値踏みしている様だ。

 大剣を背にしている事から冒険者に見えなくもないが、あきらかにベテランとは言い難い……というか、昨日今日冒険者になったばかりの様子。

 ミスリルやオリハルコンを必要としているとは、とても思えなかった。

 分不相応と言ってもいい。


 「申し訳無いんですが、お売りする量にも限度がありまして。必要としている購入者以外には持って来る事が出来ないんですよ。何分、貴重ですから…………」


 アラタは遠回しに『帰れぇ』と言われてしまった。

 先程、ギルドから騒ぎは起こすなと言われてしまった分、是非にと頼み難い。

 いつか目にする機会もあるかと、しかたなしに店を出て行こうとすると、横合いから声がかけられた。


 「やぁ、アラタじゃないか。君も買い物かい?」


 其処にはウォルの迷宮で出会ったリーガルの姿があった。

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