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黒の魔眼  作者: ひのえの仏滅
第2章 冒険者 新人編
13/29

08.

 翌日。

 アラタは昨日立ち寄った魔道具店に来ていた。

 今日はキャスカはいない。

 お金が入ったので、新しい武器や防具を見に行くそうだ。

 サーベルが刃こぼれしていたと涙目に言っていた。

 ゼルは忙しそうに朝から出掛けている。ポリーを伴って。

 よって、アラタは一人で魔道具店に来ていた。


 店内の本棚にはまだ読んでいない魔導書が沢山ある。

 本好きなアラタにとっては至福の時間。

 足を運ばない理由は無かった。

 今日は、既に四冊読破していた。


 「う~ん。なかなか面白かったな」


 五冊目の本を棚に戻すと、大きく伸びをして固まった体の凝りを解きほぐす。

 時刻はまだ十一時前。

 たっぷりと時間はある。

 次の本に手を伸ばすと一階にいる店主の老人から声を掛けられお茶に誘われた。


 「よっぽど本が好きなんじゃのう。全く集中力が途切れんかった」


 「すみません。とても助かってます。魔導書は高価で手が出ませんから」


 「ほっほっほっ。それこそ構わんよ。昨日も言った通り本は読む為にあるもんじゃ。本も著者も読んだ人の為になれば本望じゃろうて。いつでも来てくれていいからの」


 「有り難う御座います。何か僕に出来る事があったら言って下さい。お世話になってるの分、無料で引き受けますよ」


 「ほっほっほっ。それは有り難い。何かあれば頼らせてもらうかのう」


 まるで孫を可愛がる好好爺。

 店主はお客と言うより、アラタには孫のように接していた。

 本物の孫娘は冒険者ギルドで受付をしているそうだ。

 会えない孫娘の代わりなのだろうか?

 紅茶を啜る音だけが店内に響いていた。

 そんな静かな空間に突如ベルの音が鳴り響く。

 入口の扉に付けられたカウベルの音。

 それは来客を告げていた。

 体の大きい男が入口に立っている。

 鎧を着ている所を見ると、冒険者の様だ。

 何故か落ち着きの無い様子で店内をキョロキョロと見回し、店主と目が合うとズカズカと足早に近付いてきた。


 「ロンバードさん、ポーション。最上級のポーションはあるかい?他を回ったんだが余りに高額だったり、売り切れてたりで買えなかったんだ。ここになけりゃ、もう………」


 目の前の冒険者は最上級ポーションを求めてこの店まで走り込んできたらしい。必至に探し求めて商業地区の奥にあるこの店まで。


 「悪いが最上級ポーションは、この前伯爵様に納品してしまって残っていないんじゃ。すまんのう」


 「そ、そんな。じゃあ、リズベットは………」


 男は膝から床に崩れ落ちて行く。

 店主もその姿を申し訳なさそうに見ていた。

 どうやら冒険者仲間の一人が魔獣の森探索中にハンターマンティスに斬りつけられ、片腕を斬り落とされたと。

 その為に、最上級ポーションが必要なんだと………。

 アラタはバッグの中からそっと最上級ポーションを取りだす。


 「あの、最上級ポーションなら持ってますので、譲りましょうか?」


 店主も男も目を見開きアラタの方を向く。

 男など声が上手く出ないようで、上擦った声で確認してきた。


 「い、いや。俺には有り難いけど、いいのか?そんなに金も出せないけど。それでも?」


 「本当によいのかい。最上級ポーションは何度も手に入る物でもあるまいに」


 「いいですよ。誰かを助ける為、必至に此処まで来たのに手ぶらでは帰れないでしょう。店主さんも言っていた様に、誰かに使われてこそのポーションですから。こいつも本望ですよ」


 「あ、有り難う。ここに金貨二枚と大銀貨六枚入ってる。この値でも?」


 「えぇ、構いません。それで譲りますよ」


 男は何度も礼を言って店を飛び出して行った。


 「すまんのう。君に代わりをさせてしもうた。損した分は儂が補填しようかのう」


 「大丈夫ですよ。実はあと何個か持っているんです」


 「それは凄いのう。貴族にしたって大物貴族でなければ何本も持っておらんよ。それ程に希少なものなんじゃ」


 アラタも改めて値段を聞いて正直驚いた。まさか、一本で金貨十枚以上もするとは…………まぁ、後悔はしていないが。


 「最上級ポーションと言えば、ゼル・ディーンも伯爵様に納品しておったの。頑張っておるようで何よりじゃったわい」


 「えっ、ゼルさんを知ってるんですか?」


 今度はアラタが目を見開き、店主を見る。


 「おや、君もゼルの知り合いだったのかね?ゼルは一時期儂の元で働いておったんじゃよ。小さい頃から商才があってのう、二十になる頃には独立しておったわ。この頃、よう名を聞く様になってのう、嬉しいかぎりじゃ」


 アラタは店主とゼルの話しで盛り上がり、その後数冊の魔導書を読み帰路についた。




 キャスカは馴染みの武器屋に来ていた。

 キャスカの住む町には道具屋しか無く、武器も置いてはあるが武器専門店には遠く及ばず種類も豊富とはとても言えなかった。

 キャスカが父と初めてグランドに来た日、初めて立ち寄ったの武器屋がこの店であった。

 キャスカにとっては、それ以来の付き合いとなる。


 武器屋らしく店内には筋骨隆々な男達が多く、下手な新人冒険者よりもよっぽど強そうである。

 棚や壁に飾られている武器も装飾の類いは少なく、無骨な作りのものが殆どでどれも実践を見据えての物ばかりだ。

 見栄えを気にする貴族には見向きもされないだろうが、一定以上のランクの冒険者には特に気に入られている店であった。

 この店の武器を持つ事を目標としている新人冒険者も多くいた。

 新人冒険者にとっては、この店の武器を持つ事がステータスの一つとなっていた。


 キャスカの前には、サーベルを手にじっと見つめるオーガの如き体格をした男がいた。

 バドル武具店の店主バドルである。

 バドルは手にしていたサーベルを徐にキャスカに返し、首を横に振る。


 「嬢ちゃん………残念だがこいつは治せねぇ。刃溢れは大した事はねぇが、中芯に(ヒビ)入ってやがる。綺麗に研いでも武器としちゃ使えねぇよ。諦めな………」


 ガックリと肩を落としサーベルを見つめるキャスカ。

 キャスカにとっては特別なサーベルであった。

 父と初めてグランドに来た日。

 今まで我儘など言わなかった娘がサーベルを見て、買って欲しいとおねだりしたのである。

 しかも、父の様な騎士になりたいと………父親は困った顔をしながらも、心の中では嬉しかった。

 父は可愛い娘の初めての我儘に幾つかの約束をし、サーベルを買え与えた。

 絶賛家出中のキャスカであるが、この事だけは忘れた事は無かった。

 今は父親と疎遠になっているが、良き思い出である事に変わりはない。

 その大切なサーベルが修復不能と言われたのである。


 「どうしても、駄目なのか?もう、治せないのか?」 


 「嬢ちゃん。剣を大切にしているのは分かるがよ、そりゃ駄目だ。綺麗に研いで、治った様に見せる事は出来るが、実践じゃあ使えねぇ。いや、使っちゃなんねぇ。確実に剣も嬢ちゃんも死ぬぞ。だから、諦めてくんな。俺の剣にそこまで愛情持ってくれた嬢ちゃんを死なせたくねぇんだ。聞き分けてくれ。すまねぇな、嬢ちゃん………」




 アラタは中央市場で通り掛かる人に魔眼を使いステータスの鑑定を行っていた。

 本来であれば断りも無く見るのは許される事ではないが、覗いてはいけないという法も無く完全に個人のモラルに任されていた。

 勝手に覗いた事がバレたならば問題になるであろう事は理解している。

 それでも尚、魔眼を使いステータスを見る。

 アラタは自分のステータスと他人のステータス、特に冒険者のステータスにどれ程の違いがあるのかを確認していた。

 冒険者を見るならギルド近くの方がよさそうだが、上級者ともなると魔眼で見ている事を察知する者もいるだろう事から、人通りの多い中央市場で人混みに紛れての観察をしていた。


--------------------

 バーディ:犬人族

 職業:剣士、拳士

 Lv:29

 HP:1560

 MP:28

 筋力:105

 体力:99

 魔力:4

 知能:11

 俊敏:69

 幸運:31


 スキル

 筋力強化Lv:2、俊敏強化Lv:1、斬撃耐性Lv:1、打撃耐性Lv:1


 戦闘

 二段突きLv:3、五月雨Lv:1、剛一閃Lv2:、鬼斬りLv:1、豪腕突きLv:2、破砕掌Lv:1、剛体Lv:1、俊脚Lv:1


--------------------

 アラタ:人族?

 職業:魔法戦士、治癒師、結界師

 Lv:9

 HP:1380

 MP:2070

 筋力:150

 体力:125

 魔力:238

 知能:110

 俊敏:95

 幸運:7


 魔法

 火Lv.3、水Lv.1、風Lv.2、土Lv.1、光Lv.1、闇Lv.4、治癒:Lv.1、錬金Lv.3、付与Lv.2、結界Lv:1


 スキル

 打撃耐性Lv.3、火耐性Lv.1、闇耐性Lv.2、精神耐性Lv.1、採集Lv.3、料理Lv.1、複写Lv:2、解読Lv:1、解錠Lv:1、罠Lv:2


 戦闘

 鬼の一撃Lv.1


 ユニークスキル

 魔眼:鑑定Lv.2、悪食Lv.1

 虚無Lv.MAX 

 魅了(保護欲)Lv.2

--------------------


 僕って、レベルの低い割には、全体的なステータスが高いんだな。

 これも、悪魔の眼のお陰?

 初めて他の冒険者とのステータスの比較をした事で、色々と理解出来た。

 肉体強化スキルが無いのに、自分より高レベルの冒険者よりもステータスが上回っていた事。

 ユニークスキルが誰にでもある訳では無い事。

 他人のステータスを見ただけではスキルをコピー出来ない事……十数人のステータスを覗き見た事で理解出来た。


 「ここでやる事は、もうないな」


 アラタはゼルの家に帰ろうと足を踏み出すと、冒険者ギルドへ続く大通りからキャスカが放心した風体で歩いてくる。

 付き合いは短くというか出会ったばかりではあるが、ここまで肩を落とすキャスカは初めてである。

 アラタは不安になりキャスカに声を掛けるべく、歩く方向を変えるのであった。

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