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黒の魔眼  作者: ひのえの仏滅
第2章 冒険者 新人編
11/29

06.

 地下7階。

 六階と見た目に変わらないが、腐敗臭は一掃強まった様な気がする。

 壁や床には何かの骨や肉片が固着。

 肉片の表面には蛆の姿も見える。

 これには二人の足もより一掃早くなった。

 さっさとこの腐敗臭とはおさらばしたいのである。


 急ぎ足で進むと前方から、軽快に走る音が聞こえてくる。

 決して冒険者の足音では無い。

 何故なら金属音どころか二足歩行の足音ですら無いからだ。

 もっと軽快な犬の様な足音。


 「ゾンビドッグ。爪や牙には毒があるから気をつけて」


 キャスカの言葉そのままに、肉の爛れた犬型のゾンビが走ってくる。

 どうやら腐敗臭の正体はコイツらみたいで、犬特有の匂いに腐敗臭が混じり、得も言われぬ臭いが立ち込めていた。

 二人は顔を背ける事など出来る筈もなく、そのまま戦闘に入る。


 アラタはファイアボールを放ち、頭数を減らす作戦にでる。

 五発を放ち、三体戦闘不能にするが、二発は避けられてしまう。

 残り三匹。


 キャスカはサーベルを構え、飛びかかってくるタイミングで横に体をずらし、下から上へ撫でる様にサーベルを滑らせ、流麗な動きで敵の首を飛ばす。

 アラタは横目にキャスカの動きを見ながらも、飛びかかってくるゾンビドッグを真っ向から斬りすてた。

 残った一匹は逃げる様子も見せず、キャスカに飛びかかって行く。

 女の肉が好みなのだろうか?

 キャスカは突撃を横に避けると同時に、剣道の抜き胴の如く相手の勢いを利用して首を斬り落とした。

 一連の動作に全く無駄が無く、アラタもその動きに見惚れていた。


 キャスカもアラタの視線を感じ、少し恥ずかしいのか頬を染め、惚けているアラタに対し喉を鳴らして合図する。

 アラタも見惚れていた事が恥ずかしかったのか、反対に視線をずらすと、アラタも喉を鳴らして平静を保とうとする。

 その場で二人が視線を合わせる事は無く。

 二人は先へと早足で進んで行くのだった。


 暫く歩いていると、右側の道から乾いた音が近付いてくる。

 スケルトンの様だ。

 進む方向とは違うが、進んだ先で挟み撃ちになるのも避けたいので此処で討伐する事に。

 ケルトンとの戦闘にも慣れてきたので剣のみで戦う事に。


 アラタは迫るスケルトンに自分から突っ込むと、横一文字に三体斬り飛ばす。

 残りは二体。

 剣に体を寄せて左切り上げに一刀両断。剣を切り返し最後の一体は首を横凪ぎに斬り落とした。

 一連の動作と言うには程遠く、あきらかに力業であった。

 キャスカの真似をしているつもりが、全くの逆方向に向かっている。

 キャスカの剣が柔の剣なら、アラタの剣は剛の剣である。

 速さと力。

 真逆の剣であった。


 キャスカはヒヤヒヤしながら見守っていたが、この間まで剣一つ持った事が無いとは思えない程に、アラタの体はいい動きをしていた。

 アラタの剣は魔物向けの剣に見える。

 力で斬るのは魔物に対して有効である。

 では人間はと言えば、力に対し受け流しや返し技、剣の持ち手を狙う等の剣技も存在する。

 力も必要だがそれに対する技があり、今のアラタでは決して勝てない部分もある。

 だが現時点での話しであり、これからのアラタの成長で勝てる要素が出てくる可能性も。

 キャスカはアラタの成長と共に自分も成長し、アラタの横で戦い抜く事を改めて強く心に刻んでいた。


 スケルトンの戦闘から十分たらず。

 今度はゾンビと戦っていた。


 「この階層の魔物達は食い意地が張りすぎてる」


 「アラタ、くだらない事を言ってないで戦闘に集中して」


 アラタは寄ってくるゾンビを一刀両断。

 キャスカはゾンビの首に狙いを定め、攻撃していく。

 キャスカが最後の一体を斬り伏せると溜め息をつき、二人は心底疲れた顔をしている。


 初めてのダンジョンで戦闘の繰り返し。

 休もうにも異臭がきつくてまともに休めない。

 出てくるのは生気の無いアンデットばかり。

 薄暗く異臭漂う迷宮内とあっては、初心者には精神的にきつい筈である。

 普段のアラタなら戦闘中に余計な言葉は発しない。

 そのアラタが冗談を言うのは、精神的にきついのを和らげる為。

 キャスカも理解していたが、キャスカ自信も精神的に辛そうだった。

 

 目の前に八階への階段が見える。

 二人は今の状況を話し合い、一度地上に戻る事にした。

 このまま進むのは危険と判断したからだ。

 アラタが転移石を使い、地上に戻る。


 二人は何度も大きく深呼吸して、肺に溜まっている空気と外の綺麗な空気を入れ換えている。

 余程嫌だったのだろう。

 迷宮近くにはテントや小屋があり、商人が冒険者相手に宿泊施設として貸し出していた。

 今からグランドの街へ向かえば到着時には夜遅くになってしまう。

 既に、本日最後の馬車も出発していた。


 二人は商人に一宿を訪ねると、テントが一つしか空いてないと。

 疲労してる二人は、一つのテントで宿泊を決める。

 駄々をこねた所で、無いものは無いのだから。

 アラタの虚無の中にはテントもあるが、今からテントを張る気力が二人には残されていなかった。

 テントに入るとキャスカもアラタも鎧を脱ぎ、すぐに横になる。

 魔物のいない場所で休める事に、緊張の糸が解けたのだろう。

 二人はそのまま眠りに着いていった。


 翌日。

 二人は、昼近くに起き出した。


 「おはよう」


 「おはようアラタ。今日はどうするの?」


 「一度グランドに戻ろうと思ってる。色々装備や情報のことで欲しい物があるんだ」


 「分かった。準備するわ」


 二人は干し肉や野菜の酢漬けで朝食をとり、鎧を装着して出発の準備を済ませる。

 グランドまでは歩いて帰る事にした。

 二人は森に敷かれた街道をグランドへ向け歩いている。

 昼前だからか、行き交う人や馬車が多い。

 ここまで人の往来があると、魔物も近付いて来ない様だ。

 無事森を抜け草原を歩いていると、彼方此方に薬草や魔草が目に入る。


 「キャスカ。悪いんだけど、薬草取り手伝ってくれないか」


 「勿論。だけど、見分けられるかどうか」


 「それなら大丈夫。僕が、全部鑑定するから」


 二人は薬草取りをしながら、グランドへと歩いていく。

 進みながらも、薬草や魔草を集めていく。

 キャスカが持ってくる葉には雑草が多く含まれ、アラタも苦笑しながら仕分けていく。


 「済まないアラタ。手間をかけさせてばかりで」


 キャスカは自分が採取してきた半分が雑草の事実に済まなそうな顔をしていた。


 「僕だって、魔眼がなければ見分けなんかつかないよ。だから気にする事無いって」


 それでもグランドが近付くにつれ、キャスカの採取する薬草の確率が僅かづつではあるが上昇していく。


 グランドに着くまでに集めた薬草類は、膨大な量になっていた。

 先日集めた量の半分にはなるだろう。

 採取時間を考えれば、先日の半分にもみたない。

 今回は二人で採取したのだが、アラタの採取時間は少なかった。

 だからと言って、キャスカの採取が多かった訳でも無い。

 単純に、アラタの採取スピードと鑑定が更に早くなっていたのだ。

 薬草採取を生業にしているベテラン採取者を、軽く越えるスピードであった。


 アラタはグランドの町中を歩いている。

 たった一日ぶりなのに、何故か懐かしさを感じていた。


 「先に冒険者ギルドに寄らない。魔物の買い取りを済ませておきたいし」


 「あぁ、そうだな。ただ魔石だけは売りたくない。魔石の金額分は、僕の取り分から引いといて欲しい」


 「いいの?私は構わないけど」


 「お金の事は、キッチリしときたいんだ」


 二人は中央広場を左に曲がり、冒険者ギルドへ。


 冒険者ギルド内。

 夕刻まで時間があるからか、受付は然程混んでいなかった。

 アラタとしてはレレにお願いしたかったのだが……丁度、マーシャのカウンターが空いた。

 マーシャがアラタと目線を合わせると、笑顔で手招きしてきた。

 キャスカは不機嫌な表情をしている。

 仕方ないと、マーシャのカウンター前に。


 「お疲れさま、アラタ君。あら、今日はお友達も一緒?」


 マーシャの言葉で、更に不機嫌になるキャスカ。


 「此方はキャスカ。キャスカとチームを組む事にしたんだ」


 今度はマーシャの眉がピクリと上がり、キャスカと目線を合わせる。

 漫画やアニメならここで、バチバチと効果音が入りそうな様子。

 アラタとしては関わり合いたくなかったがそうもいかず、マーシャに素材の買い取りをお願いする。

 二人はどちらともなく視線を外し、以降二人が目を合わせる事はなかった。


 量があるので別室へと案内されていた。

 鑑定人は薬草の買い取りの時に知り合ったナッツである。


 アラタはマジックバッグに似せた袋の中からどんどん出していく。

 ナッツも長年鑑定人をしているが、新人冒険者が持ち込む量では無かった。

 それを顔には出さないが、正直驚いていた。


 「これで全部です」


 「はい、ご苦労様。それじゃあ、早速鑑定に入るから。二人は別室で休憩してて良いよ。終わったら呼びに行くから」


 「はい、そうします。キャスカ、行こうか」


 「えぇ」


 二人はカウンターの方にいるからと伝え、部屋を出ていく。

 魔物は数種類。

 細剣で首を斬られたもの、大剣で両断されたもの。

 細剣は理解出来る。

 だが、大剣は?

 両断された魔物の中には、オークも存在する。

 オークをここまで斬るには相当の力が必要になるが、あの二人にそれが出来るとは思えなかった。

 唯一、アラタが背負っていた大剣だろうか?

 あの体格でこれを為したのならば、どれだけの力なのかと。

 ナッツはアラタに興味が湧き、具に鑑定をしていくのだった。


 二人はカウンター前で、レレやマーシャと話しをしている。

 アラタとレレは和気藹々と、キャスカとマーシャはギスギスと。

 対照的な二組であった。

 誰しも、ギスギス組には近寄りたくないのであろう。

 周りにいる数名の冒険者達も、関わり合いたくないのか距離をとり、目を向けてくる事も無かった。

 少し心配なのがアラタと話すレレに向け、刺すような視線を二人が向けてくる事。

 カウンターの内側にいる職員達も『何も起こりませんように』と、祈るばかりであった。


 そんな光景もナッツの登場で終わりを告げる。

 其処にいた全員がナッツに対し、心の中で喝采を送っていた。


 「マーシャ、これがアラタ君達の買い取り表。後は宜しく」


 「はい、お疲れ様」


 あからさまに不機嫌な顔でナッツを見るマーシャ。


 ナッツは、何があったのか解らないまま奥へと帰って行く。

 完全なとばっちりである。

 同情はするが、誰も口には出さなかった。

 誰しも巻き込まれたくは無いものだ。


 今回の報酬はいい金額になった。

 その七割を、キャスカへと渡す。

 最初は拒んだキャスカも、アラタが引かないと分かると渋々受け取っていた。

 それでも、アラタの手元には、大銀貨一枚以上の金額が握られていた。


 今回の査定で、二人のギルドランクが上がった。

 GからFへ。

 とは言っても、駆け出しランクでしかない。

 オークナイト討伐や、討伐数が評価されたみたいだ。

 もしゾンビ等の魔石で討伐証明がなされたならば、もう一ランクあがったのかも知れない。

 鑑定へと回した魔物から魔石が抜かれている事にマーシャから言及されたが、ただ必要だからと答えそれ以上は口を閉ざした。

 口を開きそうに無いと、マーシャもそれ以上は言及しなかった。


 中央広場。

 夕刻前だからか、買い物客で溢れている。

 肉や野菜を買い求める人が多く、今晩の夕食になるのだろうか。

 中には、何の肉?と、言いたくなる様な物もある。

 二人はゼルの家に向かって歩いていた。


 「明日の予定は?」


 「やりたい事があるんだ。各店を回って、魔眼の能力のアップを図る」


 「そう。私も一緒じゃ駄目?」


 「構わないけど。面白い事なんて何も無いぞ」


 「構わないわ。いつ頃行くの?」


 「昼前には出ようかと思ってる。飯も外でとればいいしね。午前中はポーション作りかな」


 明日の予定を話しながら歩いていると、ゼルの家が見えてくる。

 大分空けていた様な感覚になり、二人に会う嬉しさもひとしおに。

 アラタが玄関に入って行くと、ポリーが大きな声で『お帰り』と、抱きついてくるのだった。

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