我が家は大規模ダンジョンのある村の雑貨店ですけど、今日は休みです。
やっぱりゆるゆるな感じに仕上がりまして‥‥。さらっとお楽しみ下さい。
皆様こんにちわ、リリーです。
日夜ダンジョンに向かう血気盛んな冒険者やそうでもなく暇だし行くかなぁ~位の冒険者も行き交う村の大通りを早足で進んでいます。
お昼少し前、一通りの片付けや売上金の確認を済ませてから休店日の札を扉に下げて、それはもうルンルンでお出掛けですよ。そうハンスさんとご飯、もといデートの日!昨日もダンジョン帰りだろうハンスさんを捕まえて、明日デートですよちゃんと準備してて下さいね!と念を押したので大丈夫だろう。
いつもの地味でシンプルな紺色のワンピースを脱ぎ捨て、淡い水色の袖口や裾にレースをあしらっているワンピースで頑張ったのだ。少しは可愛くなっていると思う、まあハンスさんの事だ褒めてくれるかは怪しい所かな。
冒険者組合に併設してるカフェで待ち合わせをしているのだけれど、あのカフェは中々可愛らしいカフェできっとハンスさんソワソワしてるんだろうなぁ。今の時間ならランチを食べにくる女子で溢れる時間帯だもの。オムライスとっても美味しいのよねぇ、ふわっふわでとろとろのオムライスを思い浮かべて涎が出そうになりながらカフェに急いだ。
「ハンスさーん、待ちました?」
「ん、いやさっき来たから大丈夫だ。で、ここで食うか、別の所に行くかどっちがいい?」
「じゃあ、移動しましょう!女子に囲まれるハンスさん見たくないし!」
「あのなぁ~アレッカじゃないんだ、俺なんかは囲まれないからなリリー」
やっぱり服装については褒めてくれない、と言うか触れられない。私にしちゃ頑張ったんだけどもなぁ、ちょっと位は期待していたのよ?
まあ、二人でのんびりゆったりしたいので女子に人気のカフェは止めておこう、ハンスさんも落ち着かない様だし。二人でのんびりゆったりだと、何処が良いか?うーん。むしろランチタイム間近の今、何処に行ってものんびりゆったりは無理だろうから、どうしたものか?一先ず出ますかと冒険者組合の受付前を通りすぎようとしたら声を掛けられた。
「お、ハンスにリリー丁度良い所に。百五十階層でトルパルの異常発生だ、至急殲滅してきてくれ。殻は適当に纏めとけ、後で回収班出すから」
「ヤダー!!私とハンスさんデートなんですからねっ他のベテラン勢に頼んで下さいよぉ!」
「そのベテラン勢が出払ってるからお前達に頼むんだろーが。デートとか俺だって最近してないのに!」
「横暴だー!ハンスさん、ナイクさんが私達がデートだから妬んで邪魔してくるっ」
「んな訳あるかっ!ハンスっリリーなんて止めとけ!こんなじゃじゃ馬、手に余るぞ俺がもっと良い女紹介してやるっっ」
「はあああ?!!失礼にも程があるんですけどっハツリちゃんに言い付けてやるんだからね!」
「おいナイク、リリーもちょっとほら、落ち着け。な?他の冒険者の邪魔になるし‥‥」
この陰険メガネのナイクさんは冒険者組合の組合長、因みに二十八歳。
パン屋のハツリちゃんと付き合ってるけどお互い忙しくて中々会えてないので、よくハツリちゃんとランチした後自慢しに行くと今みたいになる。受付のお姉さん達には毎度の事なので今もにこやかに受付業務をしている、流石の一言である。
ハンスさんはこの時間に組合に居る事は滅多にないので、私達の口喧嘩は初体験みたい。困った顔で私とナイクさんを交互に見てオロオロしてる。可愛い。困った熊さん可愛い。
「ハツリには言うな、ばかたれ!俺の紳士なイメージが崩れるだろうが」
「ぷっ紳士なイメージだって~陰険メガネの間違いー。」
「リリーてめぇ!」
「ほんとの事ですー!」
「だから、二人とも落ち着けと‥‥」
ハンスさんが可哀想なので、仕方なく今日の所は一時休戦にする。
でだ、トルパルとは蝸牛型のモンスターだ。背負っている殻はかなり頑丈でその上軽いので防具にはもってこい!の優秀な素材だけど、危なくなると殻に引っ込むトルパルに手を焼く冒険者が多いのだ。
モンスター図鑑には『大型の蝸牛。体長二メートル 体重八十キロ前後 ヌメヌメツヤツヤな彼ら。色とりどりの殻はオシャレだけど、やっぱヌメヌメって嫌じゃない?』との事。ヌメヌメが嫌らしい、私も同感だ。トルパルの通った後は粘液だらけでげんなりするもの。それが異常発生なんて、百五十階層はさぞ愉快な事になってるんだろう‥‥行きたくないなぁ。
「いやぁぁぁぁぁっ!!キモいっハンスさん助けてー!」
「っリリー!その、当たってるから‥‥」
五十階層毎に行き来出来る特別な魔石があるので、ナイクさんから支給された百五十階層用の魔石でサクッと移動してきた。が、草原の広がる百五十階層はものの見事に何処を見てもトルパル。あっちを見てもこっちを見てもトルパル。辺り一面、トルパルの粘液でヌメヌメテカテカとしている。
それでも、鳥肌を立てながらハンスさんにこれ幸いと抱き着いた。大きくはないがそこそこはある胸を当てつつではあるけどね。恥じらいとかそんなものはポイ捨てだ、ハンスさんゲットに勤しまねば!
「ひ、一先ずトルパルを片付けるぞ。だから、離れてく‥‥」
「またデートしてくれます?」
「いや、今はそれよりも」
「私にとってはトルパルより一大事です!デートしてくれます?」
「うっ、わわ、分かった。分かったから、するから」
「やったー!絶対ですからね~。よし、えいやっハンスさん鼻と口塞いでね」
次のデートの約束を取り付け、仕方なく離れてから周りに適当に店から取ってきた爆弾を投げた。勿論、只の爆弾ではなくお婆ちゃん特製クッキーの粉末を詰め込んだやつなのでハンカチで吸い込まないように鼻と口を押さえる。
綺麗に周りにばらまかれたクッキー爆弾。粉末もそろそろ舞うのを止めただろうとハンカチをポケットに仕舞い、辺りを見回せば、あら不思議。トルパルの殻が散乱しているだけになっているのだ。
「相変わらず、婆さんのクッキーは凄いな。下手な武器や毒より頼りになるな」
私もそう思う。
その後も同じ手法でトルパルを殲滅させてダンジョンから帰還した。組合に報告しに行く途中で、ハツリちゃんに「ナイクさんに渡して欲しいの」と色んなパンが入ったバスケットに頑張ってね!なメッセージカードが添えてあったから、ナイクさんが一番好きらしいメロンパンを食べながら届けてあげたら口論になった。
心の狭い男である、隣で「俺がメロンパン貰ってきてやるから落ち着け」と八の字眉のハンスさんの心の広さを見習えばいいのに。 オロオロしてる熊さんはやっぱ可愛い。