第一章 ハイスピードフェアリー④
超能力を持つ、少年少女たちの青春ストーリー
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ひなたは、努力しない人間が好きではない。
その上、文句ばかり言う奴なんて大嫌いだ。
生徒会執行部に所属し、そこで任務遂行に尽力する彼女が、そんな風に思うのは不自然ではないが、他にも理由がある。
ひなたは、小学校に進学する頃には、高レベル能力者と認定されていた。
そして彼女は、その名声に、あぐらをかいたりはしなかった。
ある少年との出会いで、周囲から認められるようになった彼女は、その後も努力を続ける。
だれよりも上手く、高速移動を扱えるようになるため、日夜鍛錬を惜しまなかった。
いつの日か、少年と再会したとき、胸を張っていられるように――そんな、幼い恋心もあったのかもしれない。
彼女にとって、努力することは当たり前。
文武両道。品行方正。執行部のエース。一条ひなたに与えられた、それらの名声は、後からついてきた評価でしかない。
努力すれば、評価される。それが彼女の価値観だ。
努力もせずに、文句を言うような人間を、心良く思うはずかない。
そんな、ひなたが最近、特に気に入らない人物がいる。
「えッ、それホント?」
「どうやら、本当らしい。学生証の機能に詳しい奴に聞いたんだけど、エロ画像とか、メモリーに保存したらダメなんだと。やっちまったぜ」
三人の男子生徒が、教室のすみで話し合っている。
三人は、授業中こそ大人しくしているが、休み時間になると、こんな風に低脳な話題で盛り上がる。また、周囲の迷惑もかえりみず、奇声を発したり、机を叩いて騒ぐこともあった。
「そうなると、やっぱりエロは……」
「「「エロ本に限るッ!!!」」」
三人が声をそろえた。
(また、あいつら、バカなことを言って騒いでる)
ひなたが、苛立ちを隠そうともせず、眉間にしわを寄せ、口を曲げる。
不機嫌そうに、机に肘をつき、その上に顎を乗せた。
彼らを見ていると、どうしてもイライラしてしまう。
ひなたの経験上、この類の連中が、生徒会や執行部を悪く言ったり、真面目に努力している人間をバカにするのだ。
そのクセ、口ばかりで自分からは、なにもしようとしない。
それに、アンダーポイントをバカにするわけではないが、彼女が知るアンダーポイントの多くは、努力を放棄しているように感じた。
能力値で区別された彼らが、卑屈になるのはしかたないのかもしれない。でも、その人の価値は能力で決まるものではない。勉学に励むでもいい、芸術を追求するでもいい、超能力以外にも自分を磨く方法はいくらだってある。
それなのに、大抵のアンダーポイントは、自分は落ちこぼれだから、と言い訳してなにもしない。文句ばかり口にする。
そんな彼らを見るたびに、頭にきた。
ひなたの大嫌いな人たち。彼らの態度は、自分に努力するきっかけを与えてくれた少年と、彼と過ごした大切な思い出を否定しているようで、我慢できなかった。
「エロ本といえば、昨日、望が好きそうなヤツを手に入れたから、後で持っていくよ」
「僕が、好きそうって?」
「ほら、前に貸した系統の……」
「ぜひ、お願いします」
その典型と言える三人が、ひなたの感情を逆撫していく。
ひなたが、『アンダーポイント五人組』と名づけた五人の男子生徒。
その中でも風澤望、鳴島隆人、三浦翔太郎の三人は、暇さえあれば、こうして騒いでいた。
中でも、彼女が最も気に入らないのが風澤望。
中心人物は隆人だったが、望は彼のペースにズルズル流される、優柔不断で主体性のない人物に見えた。
それに、時々、教室を抜け出し、公然と授業をさぼる。
(きっと、それを注意なんかしたら、お前なんかには関係ないだろ、とか言うに、決まっているんだから)
望は、ひなたの一番嫌いなタイプだった。
真面目に考えない、ヘラヘラしているだけで楽な方、楽な方へ流れて、居心地が悪かったら文句をいう。自分を見直さない。
昨日も望たちを注意したが、今日になると、同じように騒いでいる。
(いちいち、注意しているあたしの方が、バカみたいじゃないッ!!)
入学式から、二週間以上が経過していた。
何度も注意しているのに、彼らは態度を改めない。
もはや、強行手段に出てもいい頃だ、と思い始めていた。
(授業をサボるでもなんでもいい。次に、彼がなにか違反したら、生徒会の役員として、とっちめてやるんだからッ)
ひなたが、厳しい目つきで望をにらみつける。
彼が自分に向けられた視線に、気づくことはなかった。
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終章まで、毎日更新の予定です。