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プラスチャイルド  作者: textscape
プラスチャイルド①
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第一章 ハイスピードフェアリー②

超能力を持つ、少年少女たちの青春ストーリー

挿絵(By みてみん)



   + + +



 現場に到着したひなたは、セーラー服姿の少女を見つけて、そばまでかけよっていった。


「上坂さん」


 上坂と呼ばれた少女が、ビクッと肩を震わせた。


「あ、ひなたちゃん」


 少女が『ひなたちゃん』と口にした瞬間、ひなたが眉をひそめる。

 その意味を理解したのか、少女は慌てて言い直した。


「こ、こんなに早く到着するなんて、さすが『一条さん』だね」


 少女は、生徒会情報分析班に所属する上坂香代(かみさか かよ)

 ひなたとは同い年だ。プライベートでは、『ひなたちゃん』『香代ちゃん』と呼び合うほど仲が良い。だが、今は任務中だ。公私混同を避けるため、現場では名字で呼び合うことにしていた。


 申し訳なさそうにしている香代をよそに、ひなたは現場を見渡した。

 建設途中のビルと、その建材の山。ビルは鉄筋がむき出しの状態だ。この中に、違反者が逃げ込んだのだろう。


「それで、葉澄先輩(はずみせんぱい)は?」

「向かいのビルで、違反者を監視しているみたい。一条さんが来たら、これを渡すように言われたの」


 香代がインカムを差し出す。ひなたはそれを受け取ると、すばやく耳にかけた。

 すると間髪入れずに、落ち着いた女性の声が、インカムから聞こえてきた。


『ごめんね、一条さん。非番だったのに』

「いえ、かまいません。こんな風に、葉澄先輩が呼び出すってことは、あたしじゃなきゃ駄目だってことでしょ?」


 ひなたが、向かいのビルに視線を向けた。

 だが、そこに立っているビルは、壁一面が巨大なスクリーンと看板で、多い尽くされていた。香代の説明では、そこで監視をしているらしいが、それができるような窓はなかった。


『そうなの。他の「第1(ダイイチ)」メンバーじゃ、余計な被害が出そうなの。だから、お願い』

「はい……ところで、違反者の特定は?」

『できてるわ。上坂さん』


 香代が、慌てて10インチのタブレットコンピューターを持ち上げた。

 ひなたが画面をのぞき込む。そこに見知らぬ生徒の情報が映し出されていた。


『違反者は西園康平(にしぞの こうへい)。17歳。プロフェイタ学院高等学校の二年生よ』

「プロフェイタってことは、違反者は予知能力者?」

『そう。でも能力値は、低い方だったみたい。情報によれば、5秒先の予知しかできなかったらしいわ』


 高レベルの予知能力者なら、数年先の予知すら行える。そんな予知能力者たちの中で、5秒先の予知しかできない西園は、アンダーポイントとはいかないまでも、低い評価とそれなりの扱いを受けていたのだろう。


『そんな彼が、1時間半ほど前に他校の生徒、数名に怪我をさせて逃走。どうやら、その子たちにからまれちゃったみたい。その時に、自分の力の悪用方法を思いついたんでしょうね』


 画面の男子生徒は、真面目そうな顔をしていた。能力を悪用する違反者と聞くと、凶悪な犯罪者のように聞こえるが、実のところ普通の生徒である場合が多い。

 ひなたは、これから相手にする違反者の顔を、冷ややかな目で見つめていた。


「なんとなく、わかりました。葉澄先輩のいう悪用方法……あたしで対処できるでしょうか?」

『あら、一条さんは、私の見立てじゃ不安?』

「そんなこと、ありませんけど」

『大丈夫、過去のデータや監視して得られた情報から判断して、貴女なら問題ないはずよ』

「わかりました」


 そう答えると、ひなたは鞄から17センチほどの棒を二本取り出した。


「これお願いね」

「うん」


 香代に鞄を預ける。


『あ、それと一条さん。急ぎでお願い。あと15分ほどで収拾しないと、高都自警(こうとじけい)が出動することになっているから』


 と葉澄が、困ったような声を出した。


『ほら、そうなると予算、削られちゃうじゃない?』


 ひなたが苦笑いを浮かべる


「了解、善処します」


 その時、香代が彼女に声をかけた。


「ひなたちゃん、気をつけてね」


 タブレットを掲げた香代は、心配そうな顔をしていた。

 だが、すぐに、あッ、と声をもらす。また、下の名で呼んでしまったのだ。


「うん、気をつけるよ『香代ちゃん』」


 ひなたは笑みを浮かべると、あえてその名を口にした。すると香代が、今にも泣きそうな顔になった。


 とはいえ、ぐずぐずしている時間はない。ひなたは、手にした短い棒を握りしめると、建設途中のビルへとかけだした。


 インカムから葉澄の指示が入る。


『まずは、剛山隊長と合流して』

「了解です」


 ビルに飛び込むと、指示にしたがって二階へ上がり、三階との間にある階段の踊り場へと向かった。

 そこに、四人の男子生徒がいた。彼らは、『第1』と呼ばれる執行部第1機動隊の隊員たちだ。


「一条」


 隊員の一人が、ひなたを呼んだ。


「剛山隊長」


 ひなたは、大柄な人物のもとへとかけよる。


 彼は190センチはある長身に、筋肉質な体格をしている。露出した二の腕は、強靱な筋肉の塊だった。そして印象的なのが目だ。野獣のような獰猛な瞳をしている。恐ろしく、目つきが悪い。


「葉澄から、奴のことは聞いているな?」


 この男は、執行部第1機動隊を率いる剛山正尚(たけやま まさなお)

 ひなたは『第1』に所属しているので、上司にあたる人物だ。


「はい、予知能力者ですね。それも、極短い未来しか予知できない」

「侮るなよ。5秒先といっても、かなり精密な予知ができるみたいだ……油断したら、この通りさ」


 剛山が顎をしゃくる。そこにいた同僚たちは、腕や足を庇いながら、床に腰を下ろしていた。剛山自身も、こめかみから左頬にかけて、出血した跡が残っていた。

 ひなたは腕を組むど、剛山に視線をもどした。


「隊長にしては珍しい」

「ああ、まったくだ。予知能力が、あれほどやっかいなもんだったとは……この俺が、接近戦で遅れを取った」


 剛山が悔しそうにつぶやく。そして部下を見つめると、力強くこう言った。


「だが一条、お前なら、やれるはずだ」


 ひなたも剛山を見つめてうなずく。


 直後に両手を降り上げ、勢いよく左右に振りおろした。

 シャッ、と金属音がなり、彼女が手にしていた二本の棒が、40センチほどの長さになった。

 警棒だ。伸縮構造があるため、縮めた状態なら、鞄に入れて携帯できるほどコンパクトになる。そして任務の際は、彼女の打撃力を飛躍的に上昇させる、強力な武器になるのだ。


「必要なら、援護するぞ」


 剛山がそう言うと、ひなたは困ったように眉をハの字にした。


「うーん。隊長がいると邪魔かも」


 剛山は、チッ、と軽い舌打ちをした。


「言いやがる……」


 その口調は、部下の態度に腹を立てた、というよりも、自分の不甲斐なさを、嘆くような言い方だった。


「葉澄先輩」


 ひなたが、インカムに問いかける。

 すぐに反応が、かえってきた。


『準備は、いいみたいね。西園は、三階に上がった先、フロアの中央にいるわ。でも気をつけて、障害物が多すぎて視界が悪いはずだから』

「了解……一条ひなた。これより、違反者の確保に向かいます」


 ひなたが目を閉じ、呼吸を整える。

 集中力を高めるためだ。


 空気が、ピンと張りつめる。


 ゆっくりと、瞼を開いた。


「『ゲット・レディ?』」


 ひなたがセーフティースペルを口にした瞬間──その姿が消えた。


 だが、瞬間移動ではない。

 加速だ。高速移動。それが、彼女の能力だった。


 すでに階段を上がり、ひなたは3階のフロアを駆けていた。

 問題の違反者は、すぐに見つけられた。

 それも後ろを向いているため、彼女に気づいていない。


 ぐんッ、とさらに加速する。


 右手の警棒を降り上げ、少年の背中へと叩きつける──が、かわされた。


 体をひるがえし、寸前で、ひなたの攻撃を避けたのだ。

 彼女は立ち止まらず、そのまま、十数メートル先まで走り抜けた。

 壁際で立ち止まり、ひなたが振りかえる。


 すでに相手は姿を隠し、その目で違反者を確認することはできなかった。


 それにしても、今の回避は、尋常ではなかった。ひなたを見ずに、的確な方向、タイミングで攻撃を避けた。まるで武道の達人が、相手の動きを見切った時のような、そんな動きだった。


「お前、一条ひなただなッ」


 薄暗い、フロアの奥から、男の声がした。


「知ってるぜ。執行部のエース、そして高速移動の能力者……クククッ、ハハッ」


 突然、相手が高笑いをした。


「一条ひなたでも、オレに傷ひとつつけられねえ。さっきのオオカミ野郎も力だけで、ぜんぜん、当てられねえから、こっちが、奴の頭を割ってやったんだぜ?」


 ひなたの眉が、ピクンと跳ね上がった。


「気づいちまったんだよぉ。この力の使い方ぁ。今まで、さんざんバカにされた能力だが、ハハッ、でも、とうぜんだよな? 5秒先の未来予知は、戦闘において最強ッ!」


 壊れた機械に似た、耳障りな高笑いが響く。

 ひなたは、それを涼しい顔で聞いていた。


「それじゃあ、最強さん。しっかりと予知してよね」


 高笑いが止む。


「ああ、お前の頭も、かち割ってやるぜ……『レシス・フォーカス』ッ!」


 フロアの奥で、物音がする。

 ひなたには、違反者の所在が手に取るようにわかっていた。葉澄がインカムを通して、随時、相手の情報を報告していたからだ。


 ひなたの唇が、つり上がる。

 自信に満ち溢れた、彼女らしい強気な笑みだった。


「『ゲット・レディ?』」


 高速移動を発動させる。

 ひなたが、弾かれたようにフロアを駆けだした。

 葉澄の情報から、相手の位置はわかっているので、姿を確認する前に攻撃体勢を取った。


 柱の角を曲がった直後に、警棒を突きだす。


 が、当たらない。


 かまわず、右腕を降りおろすが、それも当たらない。


 違反者の少年が、柱の陰に逃げ込んだ。

 彼女もその後を追う。


 もう一度、相手に警棒を叩きつけようとするが、それもかわされ、空を切った警棒が柱に当たった。


 暗闇に、火花が飛ぶ。


 次に、ひなたが蹴り上げた左足が、違反者の背中をかすめた。


「いぃいッ」


 彼が、悲鳴を上げた。


「どうしたの、最強さん?」


 さらに加速して警棒を降りおろす。それはかわされ、近くの木枠を粉砕した。


 だが、相手には、もう余裕がない。


 警棒を水平に振った。当たった。

 黒光りする警棒が、左肘に食い込む。彼の腕が、ぐにゃりと曲がった。


「があッ」


 少年の絶叫が、フロア中に響く。


「ほら、ちゃんと予知しなさいよ」


 ひなたが、残酷なセリフを口にする。今や能力を発動させても、5秒先の運命を知るだけだった。


「ういえあッ、ああ、あッ」


 少年が振り向く。その顔は、恐怖に支配されていた。


 ひなたが身をよじり、軽く膝を曲げる。

 繰り出したのはハイキック。

 だが、加速中に放たれたハイキックは、絶大な威力を有していた。


 直撃だった。


 彼の顔面がへしゃげる。


「あッ……かッあ、あ……」


 喉の奥から、言葉にならない声がもれた。

 違反者が、力なく崩れ落ちる。彼はコンクリートの床に倒れ込むと、白目をむいてピクピクと痙攣した。


「確保完了」


 ひなたがインカムで報告していると、背後から手を叩く音が聞こえた。

 振り向くと、剛山がこちらに歩いてくる。


「さすがだな。いくら予知できても、物理的に回避不能な速度には対応できない。葉澄からそう提案された時は、半信半疑だったが……見事だ」


 剛山は、違反者の前に立つと、手錠を取り出し、素早く拘束していく。

 すると、葉澄の不服そうな声が、インカムから聞こえてきた。


『あら、剛山隊長。私の言葉を信じてなかったんですか? ショックだわ』

「別にそう言うんじゃない。最終的には、お前の案を了承したのは俺だ……だが通常、直線的にしか動けない、と言われている高速移動での室内戦闘だ。不安がなかった、と言ったら嘘になる」

『そう? それなら、かまわないけど』


 剛山が違反者を肩に担ぐ。

 その顔は、困ったような面倒くさそうな表情だった。


 その顔を見て、ひなたも意地悪がしたくなった。

 警棒を肩に乗せて、葉澄のように不満げに言う。わざとらしく、怒った表情を浮かべた。


「でも、それって部下のあたしを信用していなかった、って意味ですよね?」


 一瞬、剛山が目を見張る。

 直後に、はあ、と深いため息をついた。


「ちくしょう……よけいなこと、言ったか」


 すると、二人同時に突っ込まれた。


『「何か言いました?」』


「うるせえな、なんでもねえッ」


 生徒会では、『執行部最強』の名で呼ばれる剛山だったが、この二人には、たじたじだった。



   + + +



終章まで、毎日更新の予定です。

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