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プラスチャイルド  作者: textscape
プラスチャイルド①
4/48

序章 スターティングコール④

超能力を持つ、少年少女たちの青春ストーリー

挿絵(By みてみん)



   + + +



 ショートホームルーム前の朝のひと時。


 教室の一角で、数人の男子生徒が成島隆人(なるしま りゅうと)を中心に集まっている。風澤望(かぜさわ のぞむ)もその一人だった。


 いつもなら、朝は眠そうな顔であくびを連発している連中だったが、今日は違った。真剣な表情で、お互いの顔を見つめ合っている。

 始めに、口を開いたのは隆人だった。


「さて、この事態に、我々はどう対処すべきか、みんなの意見を聞きたい」


 彼が、世界大戦でも始ったような面持ちで問う。

 しかし、だれも口を開こうとはしなかった。みんな、躊躇しているようだ。


 それを見た隆人は、意を決したように深く頷く。まずは、自分が発言をしなければいけないと感じたらしい。リーダーの素質が、あるのかもしれない。


「みんなが困惑する気持ちはわかる。このタイミングで転入生なんて、だれも予期していなかった。だから、その情報を入手した我々は、すぐさま職員室へと偵察に向かったんだ」


 その一字一句を聞き逃すまいと、全員が黙っていた。


「転入生が女子であることは、入手した情報から判明していた。イリーナ・アンダーソン。その名は、彼女が日本人でないことも意味していた」


 だれかが息を呑んだ。


「しかし、現場に到着した我々が目にしたのは、まったく、情報になかった光景だ。金髪? 想定内だ。青い瞳? 想定内。かわいい? 転入生ならとうぜんだろう……だが」


 隆人が言葉に詰まる。これ以上を口にするのは、彼にも覚悟が必要だった。


「彼女はどう見ても……身長、体型、顔立ち、その全てが、10歳前後の幼女のそれだ。いや、かわいいんだよ。でも幼女じゃん? 俺たち高校生じゃん? 倫理的にどうなの? そりゃあ、かわいいから、有りか無しか、と言われればアリさ。だけど、ここで諸手を上げて喜んだら、クラスの女子から、白い目で見られるのは明白だよね?」


 感極まった隆人が、早口で捲し立てた。

 しかし、転入生に対する切実な思いを吐露する彼を、すでに、多くの女子が白い目で見ていた。


「だが、もっと重要なことがあるッ! 問題なのは、職員室でイリーナちゃんを一目見た時に感じた、この思いを認めるということは、つまり俺はロリコンだという……」


「鳴島ッ」

「隆ちゃん」

「隆人!」


 友人たちが、隆人の言葉を遮った。だれもが、それ以上は言わせまい、と声を上げる。

 望も親友の肩をつかみ、その手に力を込めていた。


 三浦翔太郎(みうら しょうたろう)が、震えた声でさとす。


「もういい、もういいよ。隆人」

「翔太郎……お、おれ、俺は」


 二人の目に光るモノがあった。

 なにかしらの一体感が、全員を包む。

 それは、別の言い方をすれば、友情、かもしれない。


 しかし……。


「そこのアンダーポイント五人組ッ」


 心地よい一体感は、一瞬にしてかき消された。

 原因は、ひなただ。


「朝っぱらから、そんなバカ話で騒がないでくれる? 他の人の迷惑を考えられないんなら、教室から出てってちょうだいッ!!」


 ひなたが、眉をつりあげながら怒鳴る。

 あまりの気迫だったので、望たちは背中を丸めて、すみません、と謝った。

 すると彼女は、乱暴に席に着くと、叩きつけるように教科書や筆記用具を取り出す。まだ、怒りが収まらないのだろう。


「もしかして、ぼくたち、目をつけられてる?」


 翔太郎が、小さくつぶやいた。


「多分、そうだろうな……執行部に目をつけられるなんて、これから大変だぞ」


 友人たちが暗い顔をする。

 すると望が、彼らにこう言った。


「でも、正直、慣れたんじゃない?」


 すると隆人が、苦笑いを浮かべた。


「まあ、確かにそうだな」


 望たちは、入学式の初日に注意を受けてから、毎日のようにひなたに叱られていた。

 それは彼らが騒ぐから注意しているのだ。彼女を非難することなんてできない。

 気の弱い男子生徒なら、泣き出しかねないような剣幕だったが、こうも毎日、怒鳴り声を浴びせられていると、それが当たり前のように感じてきた。


 もちろん、その慣れはダメな生徒の感覚である。


 それに、彼らも叱られて楽しいわけではない。

 五人は、今日は大人しくしていよう、と話し合うと、いそいそと自分たちの席へと戻っていった。


 しばらくして、勢いよく教室のドアが開く。


「はーい、みんな。全員、席についてください。今日はホームルームの前に、みんなに紹介したい生徒がいます。ほらほらぁ、みんな席についてえ」


 教室に入ってきた姫宮(ひめみや)先生は、出席簿をぱたぱたさせながら生徒に着席をうながした。


 生徒たちも紹介したい人物が、待望の転入生だと知っているので、すぐさま席についた。


「よし、みんな席についたね……じゃあ、入ってきて」


 姫宮先生の言葉から、ワンテンポ遅れて転入生が教室に入ってくる。


 だれもが、そこに現れた美少女に驚いた。

 その美貌にも驚かされたが、やはり、彼女の幼さに驚く。


「みなさんも第二世代能力者って、聞いたことあるよね?」


 担任が口にした『第二世代能力者』とは、スターティングコールの直前に医療目的で人工授精を行っていた受精卵から、後に生み出された超能力者のことだ。

 第一世代の研究でつちかったノウハウを元に、超能力の英才教育を受けた能力者であり、総じて、高いレベルの能力を持つと言われている。


「彼女は頭脳明晰だったため、この歳で高校進学を果たし、交換留学生として、アメリカのメリーランド州からやってきました」


 姫宮先生の説明では、本来なら他の生徒と同じように入学する予定だったが、留学の手続きに問題が起きてしまい、こんな時期になってしまったそうだ。


 そのため、正確には転入生ではなく、新入生と言う方が正しい。


「アンダーソンさんの説明は、こんなものかな。じゃあ、さっそく自己紹介をしてもらってもいい?」


 少女はこくんとうなずくと、少し緊張した面持ちで口を開いた。


「イリーナ・アンダーソンです。アメリカ合衆国、メリーランドからきました。今年、10歳になります。好きな食べ物はチョコチップクッキーです」


 流暢な日本語だった。


「日本の学校は、初めてで、色々わからないので教えてください。よろしくお願いします」


 イリーナがお辞儀をする。そういう作法に慣れていないのだろう、確認するように教師を見上げた。

 姫宮先生が小さくうなずくと、イリーナは嬉しそうな顔を見せたが、自分を見つめるクラスメイトの視線に気づくと、恥ずかしそうにはにかんだ。


 そんな少女の仕草や言動は……男女を問わず、クラスメイトたちを魅了した。


「かわいいッ」

「うそぉ、お人形さんみたい」

「冗談みたいな可愛いさだな」

「やべー、ぐっときちゃったんだが、どうしよう」


 野太い歓声と黄色い歓声が、教室に響く。


「はいはい、静かに。アンダーソンさんの席は、桜井(さくらい)さんの後ろの席だから」


 姫宮先生がそう言うと、近くの席の女子生徒たちが、こっちこっち、と手招きをしてイリーナをむかえる。

 少女は左手で髪をかきあげると、自分の席へと歩き出した。


 青い瞳を細め、アイドル顔負けの完璧なスマイルで、彼女はクラスメイトたちの間をすすんでいく……とイリーナが目を見開き、ある場所に視線を向けた。


 少女が見つめた先に、望がいた。


「?」


 彼もイリーナの視線に気づいたが、彼女はすぐに目を逸らし、周りの生徒たちにあいさつをする。


(あれ? 気のせいかな?)


 望が首をかしげると、背後から隆人が話しかけてきた。


「かわいいは正義、これは真理だ」


 それから、イリーナがいかにかわいいのかを、親友から長々と聞かせられた。

 望は、会ったばかりなのに、よくそんなにほめられるなと感心したが、この親友が原因で、その日、三回もひなたに怒鳴られてしまった。



   + + +



終章まで、毎日更新の予定です。

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