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プラスチャイルド  作者: textscape
プラスチャイルド①
2/48

序章 スターティングコール②

超能力を持つ少年少女たちの青春ストーリー

挿絵(By みてみん)



   + + +



 生徒会の少女と出会ってから、半年が過ぎた。


 高校に進学した風澤望(かぜさわ のぞむ)は、『結波中央学園』ゆいなみちゅうおうがくえんの入学式を迎えていた。学園長や理事長の話に、何度も眠気に襲われたが、なんとか入学式を乗り切る。


 その後、教室に移動し、担任から今後の日程や学園の規則の説明を受け、ようやく本日の日程は終了した。


 担任が教室を出ていくと、一斉に周囲が騒がしくなった。

 緊張から開放されたクラスメイトたちは、顔見知りに話しかけたり、机につっぷしたり、受信メールの確認をはじめたりと、思い思いの行動をはじめる。

 望も、早速、声をかけられた。


「やっと終わったな、望」


 振り向くと、校則ギリギリセーフな茶色い頭の少年が、ネクタイを緩めながら笑いかけてきた。


 彼の名前は、鳴島隆人(なるしま りゅうと)。幼稚園からの幼馴染みで、共にアンダーポイントとして育った間柄だ。

 能力だけではなく、勉強も同じくらい駄目だったことで、ますます二人は仲良くなってしまった。

 同じ結波中央学園に進学し、同じクラスになった。実は、幼稚園からずっと同じクラスだ。

 まさかの11年連続同じクラス。これこそ腐れ縁と言うのだろう。席も後ろ前だった。


「入学式って、肩こるよね。なんだか疲れちゃったよ」

「はは、ほんと、そうだな……それにしても、1年C組は、アレだな」


 隆人が、含みのある笑みを浮かべた。


「アレ?」


 望が聞き返すと、親友は声を潜めた。


「アタリってことだよ」

「アタリ? どう言うこと?」

「わかんねえのかよ……それじゃあ、教室を見回してみろよ」


 望が教室を見回す。そこには、真新しい制服を着たクラスメイトたちがいた。


 初めて見る顔が、かなり多い。

 望が入学した結波中央学園は、強い能力を持つ学生が暮らす学生地区にある高校だ。これまで、アンダーポイント地区で暮らしていた望が、クラスメイトの大半を知らないのはとうぜんだった。


 本来なら、アンダーポイントの望や隆人が通うのは、アンダーポイント地区の高校だ。


 だが、結波中央学園は「多角的な研究を行うため、様々な力を持つ生徒が、能力値の大小に関わらず在籍しているべきである」という方針のもと。多くのアンダーポイントが通っている。

 望たちは、アンダーポイント枠でこの学園に入学してきたのだ。


 とはいえ、隆人が口にした、アタリ、とはどう言う意味なのか?

 望が首をかしげた。


「おいおい、マジでわからないか? それじゃあ、そうだな。あそこに座っている、一条(いちじょう)ひなたを見ろ」


 隆人にうながされ、望は少し離れた席に座っている少女に視線をむけた。

 黒髪をサイドテールにまとめ、二重瞼の大きな瞳、整った鼻筋と控えめな唇……驚くほどの美少女だ。


(あれ? あの子って)


 見覚えのないクラスメイトたちに混じって、見覚えのある少女がいた。

 誰だっけ? と思い出そうとしたが、親友がニヤニヤと顔をほころばせながら、「カワイイだろ?」と聞いてきたせいで、望の思考は中断されてしまった。


 否定する理由がなかったので、彼女がかわいいことを認める。


「それじゃあ、隣の席の女子はどうだ?」

「あの子もカワイイよね」

「そうだ、ではその隣は?」

「うん、この子も悪くない。普通にカワイイ」

「はい、じゃあ次」

「あの子は、美人って感じだよね……あ」


 ようやく、隆人がいわんとしていることに気づいた。

 望が顔を向けると、ようやくわかったか愚か者、と書いてある顔で、親友がうなずいた。


「まだ、全クラスを見て回ってないから、断言はできないが、俺のカンが正しければ、今年の新入生はかなりの美少女ぞろいの上、このクラスは特に集中している」


 隆人が、真剣な眼差しを望に向けた。

 10年以上の付き合いだが、彼がこんな表情をするのは、はじめてかもしれないと望は思った。それほど重大なことなのだろう。


 しかし、これだけは言っておきたかった。


「隆人が、担任の話も聞かずに、女の子ばかり見てたのはよくわかった」


 皮肉っぽくそう言うと、隆人が間髪入れずに反論する。


「おいおい、ちゃんと姫宮先生の話だって聞いていたぜ。姫宮千花(ひめみや ちか)。新任の女教師で、担当は数学。少し子供っぽい話し方をするけど、それも、あのベビーフェイスとあいまって、すげえ可愛い。唯一、残念なのが胸なんだけど……それも、ありっちゃ、アリだしな。そうだろ?」


 隆人が、満面の笑みを浮かべた。


「……うん、そうだね」


 望は、水を差すのもしのびないと思い、とりあえず親友の言葉に賛同しておいた。

 もっとも、望だって立派な男子高校生だ。クラスの女子や担任が美人なのが、うれしいのは同じだった。


 そんな二人のもとに、小柄な少年がやってきた。

 彼は長い前髪をしていて、伸ばした前髪が顔の半分を覆っている。鼻と口だけしか見えなかったが、ときどき前髪の間から、子供っぽい大きな瞳がのぞく。そんな少年が、きれいなボーイソプラノでたずねた。


「なになに? なんの話をしてるの?」


 隆人が、おう、と短く声をかけ、続いて望が話しかける。


「翔太郎も同じクラスかあ、また1年間よろしく」

「うん、ぼくこそ、よろしくね」


 少年の名前は、三浦翔太郎(みうら しょうたろう)。同じ中学校出身のアンダーポイントで、望と隆人の友人だ。


「そういえば熊谷(くまがや)たちは? 奴らも同じクラスだったよな?」

「熊谷? さっき、別のクラスを見てくるって、教室を飛び出していったよ。女の子がどうとか言ってたけど……」


 隆人が、ちっ、と軽い舌打ちをした。


「あの野郎……やられた」


 そう言って、隆人は悔しそうな顔をした。

 望も他の友人たちが、別のクラスを見に行った理由をさっして、苦笑いを浮かべた。


「まったく、友達甲斐のない奴らだぜ。入学初日は、こうやって友情を確かめあうべきだってのに……」


 隆人が学生証を取り出した。

 彼の手には、縦12センチ、横5センチほどの長方形の黒い塊が握られていた。

 学生証は、結波市(ゆいなみし)に暮らす全生徒に支給されている物で、身分証明の他に、携帯電話、電子マネーなど、様々な機能を備えている。高度政令都市で生活する上では、欠かせない物だ。


 隆人が学生証の画面に触れると、結波中央学園の校章が映し出される。

 続いて画面を操作し、メモリー機能を呼び出した。


「こうして友情を確かめ合った二人だけは、俺の汗と涙の結晶を見せてやるよ」


 望と翔太郎が首をかしげたのを見て、隆人は頬をつり上げた。


「お前ら、卒業してから入学式までの間、なにしてた?」

「新しい寮に荷物を移動して、残りは実家に帰っていたけど」

「うん、ぼくも」

「そうだ……もちろん俺も実家に戻っていた。だが、そこで惰眠をむさぼるような、愚かなまねはしなかった」


 そこで言葉を区切ると、隆人は声をひそめた。


「実家にいる間、オヤジのパソコンを占領して、エロ画像を収集していたのさ。そのデータ、64GB分が、この中に入っている」


「「!!」」


 望と翔太郎が大きく目を開く。

 その発想はなかった、という視線が隆人へ向けられた。


 二人の反応は、多少、大げさに感じるかもしれない。

 だが、学生証はインターネットにアクセスできるが、各種のフィルターがかけられているため、成人向けサイトを閲覧することはできない。さらに高度政令都市では、タバコやアルコール類、成人向け雑誌といったものは、極端に流通が制限されており、それらを学生たちが手にすることは、ほとんどなかった。


 そんな環境におかれた男子高校生にとって、64GBのエロ画像がどういう代物であるのか、説明するまでもないだろう。


「2次、2.5次、3次に至る、考えうる様々な画像を集めた。ただ、あまり時間がなかったから、玉石混交になっちまったがな」

「他でもない、隆人の厳選だもん。どれも間違いなんてないはずだよ」


 翔太郎が、身を乗り出して訴えた。

 小柄だが、彼も立派な男子高校生だと言うことだ。

 もちろん、望も同じだ。隆人を見つめると、ゆっくりとうなずく。


「お前ら……よし、さっそく見せてやろう。もちろん、後でデータもやる」


 望と翔太郎が、小さな歓声を上げた。

 三人が学生証をのぞき込む。彼らが肩を寄せ合い、見つめる画面には、『画像』というシンプルなファイル名が表示されていた。


「いくぞ?」

「うん」


 隆人が画面にふれる。


「……あれ? ちょっと読み込みが遅いな……まあ、データ量が多いから……ん?」


 見たことのない画面が表示された。

 英語で表記されているため、3人にはなんのメッセージなのかわからない。


「なんだ、これ?」

「さあ、なんだろうね?」

「僕も見たことないよ、こんなの」


 画面が切り替わり、ファイルが開いた状態になる。

 だが、そこに隆人が言うエロ画像は一つもなかった。


「もしかして……消えちゃった?」

「うーん、それっぽいね」


 がっかりした様子の望と翔太郎。

 だが隆人は、がっかりどころではかかった。この瞬間、彼が数日にわたって注いだ時間と情熱、希望とロマンが、完全に消滅してしまったからだ。


 わなわなと体を震わせ、叫ぶ。


「お、俺の五日間がぁああああッ!」


 三人は知らなかったが、学生証はウイルス対策として、許可なく外部から持ち込まれたデータを、高度政令都市の中で開こうとした場合、それを強制的に削除するプログラムが入っている。


 今回は隆人のエロ画像を、許可なく外部から持ち込まれたデータ、として削除したのだ。


「ウソだろッ! なんでだよッ!」


 望と翔太郎がなだめようとしたが、隆人は、そんなバカなッ、こんな事ってありかよ、と叫び散らした。

 情熱と希望とロマンを失った彼を、二人があたりさわりのない言葉で慰める。そうするのが精一杯だった。


 だが、彼らは騒がしくしすぎた。

 ある人物が、隆人の悲痛な叫びを聞いて、腹を立ててしまったのだ。


「ん?」


 いつの間にか、望の前に鬼の形相をした少女が立っていた。

 一条ひなただ。


「あなたたちッ、さっきから、なにを騒いでいるのッ!!」


 ひなたの剣幕で、教室の空気が凍りつく。

 だが、彼女はかまわず声を張り上げた。


「もう下校時間よ。騒ぐなら学校を出てからにしてッ!!」


 さらに、望をにらみつけ、わかった? と念を押す。


「はい、すみません」


 望は思わず、そう返してしまった。

 なんで僕だけ怒られたの? と思ったが、言い返したりなんかしたら、さらに怒鳴りつけられそうだったので黙っていた。


 と、ひなたが望の顔を見つめる。


「……あなた、どこかで会ったっけ?」


(あ、思い出した。この子って……)


 望は思い出した。この美少女は、半年前にアンダーポイント地区で見かけた、生徒会の少女だ。どうりで見覚えがあるはずだ。


「まあ、いいわ……今度からは、周りの迷惑も考えなさいよ」


 そう言って、ひなたは望に背を向けた。


「あの……」


 望が呼び止めようとしたが、彼女は早足で教室を出ていってしまう。


 教室はしーんと静まり返った。

 望たちはもとより、他の生徒も、そこで起きたことを理解するのに数秒かかった。


 しばらくして、クラスメイトたちが、ぽつり、ぽつりと話を始める。


「噂には聞いてたけど、一条さんってスゴいんだね」

「たしか、執行部やってるんだっけ?」

「あんなのが同級生って、ちょっと憂鬱」


 口々に、ひなたの噂話がささやかれた。

 隆人や翔太郎も、よく知っているらしい。


「一条さんって、ぼく、聞いたことあるかも」

「そりゃあ、一条ひなた、って言えば超有名人だからな。検挙率ナンバー1で、執行部のエースって呼ばれているんだぜ。もちろん、かなりの能力者で、聞いた話じゃ、十数人の違反者をたった一人でぶちのめしたって……」


 親友が噂話に花を咲かせる。


 だが、望は噂話に興じることなく、ひなたが出ていったドアをしばらく見つめていた。



   + + +



終章まで、毎日更新の予定です。

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