Ⅲ-①
今日は橘会のお手伝いからのカフェバイト。普段は被ることはないんだけど橘会の方が忙しいみたいでブッキング。
はーさすがに疲れるよ…。土曜日も別のバイトだしなぁ、……だんだんキツくなってきた。ただの受付だし、父さんから頼まれてやってたお手伝いみたいなもんだし。よし、今度続けるか話してみよっと。
「かおちゃん、二番にケーキセットね」
「はい」
とりあえず今日はがんばろ。
「ありがとね」
「いえ」
「?なんか疲れてるね」
「そんなことないですよ」
「修一にこき使われてるんじゃない?何かあったら言ってね。懲らしめるから」
にっこり。
思わずわたしもにっこり。…引きつってないといいんだけど。ていうかマスター最強だ。
――カランコロン
「いらっしゃいませっ。空いている席へどうぞ」
すんごく良いタイミング!良かった…。
私は男性のお客様の座るテーブルにお水とおしぼり、メニューを持って向かった。
「こちらメニューになります。お決まりになりましたらお声をおかけ下さい」
「…コーヒー」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
うーん。新規のお客様かな。なかなか聞き取りにくい声だな。
「……けた」
「?」
なななななんだろう。顔がうつむき気味で前髪が長いからか顔がよく見えない。うーんちょっと気味悪いかも……?
「マスター、コーヒー1です」
「…了解」
ん?マスター少し険しい。どうしたんだろ。
「マスター?」
「あ、あぁごめんごめん」
「い、いえ」
あれ、いつものマスターだ。気のせいだったかな。
「かおりちゃんもうあがって良いよ。暗くなってきたからね」
言われて時計を見れば19時30分。お店が閉まるまではあと30分あるけど、いいのかな。
「もうお客様も少ないし大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
「あ、これ試作品のクッキー。よければおやつにどうぞ」
「やった!嬉しいですっ。ありがとうございます」
マスターの作るお菓子って本当に美味しいんだよね。たまにしか作らないから希少価値高いし。うふふ楽しみっ。
「それと来週の木曜日って空いてるかな?」
「えと生徒会のお手伝いのあとになるので19時くらいなら」
「んー少し遅いかな〜」
「何かあるんですか?」
「あぁその日お菓子の試食してもらえないかと思ってね」
なにっ!試食!
「行きますっ」
行かないわけがないので即答したら、笑われた。いいもん別に。
「ははは。ありがとう。帰りは送るから心配しないでね」
「ありがとうございますっ楽しみにしてますっ」
――カランコロン
「いらっしゃい、おや修一じゃないか」
「いらっしゃいませ。お疲れ様です」
およ。会長だ。てっきり帰ったのかと思ってた。
「まだ仕事終わられてなかったんですね」
「あぁ」
「で、ご注文は?」
会長はマスターを無視するように私の方を向く。…なんだろ?
「もうあがりか?」
「は、はい」
「送る」
「うぇ?会長いま来たばっかりじゃ」
「送る」
「ハイ」
まるでメドゥーサに見つめられたようだ。なによー聞いただけなのに睨まなくたって。てか室内温度三度は下がった気がする。
「なーるほど。修一はわざわざね〜」
ニヤニヤにたにたと言わんばかりのマスター。あまり煽らないで欲しい。空気が凍って寒い……。
「だってさ。準備しといで。コーヒーは出しとくから」
「は、はい。ありがとうございますっ」
ま、気を使っていただいたみたいなんでお言葉に甘えよう。しかし帰り道何話そう…。私の胃保つかな。うーん…………。
この時私は気づかなかった。マスターと会長が厳しい顔で何かを話していること。
店内にいた男が怪しげな笑みを浮かべていたことも。
「木…………19時」
そしてまたマスターも会長も、もちろん私もこのつぶやきを聞いたものは誰一人いなかった。




