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のうと  作者: 曲楽 ゆず
1/3

のうと


僕のことはきっと みんな だれもが忘れてしまっただろう


彼女もきっと でも 僕は



一学期中間テストの前日の水曜日、わたしは、公園のベンチに座っていた。

家に帰ると母が『テスト勉強は!?』とうるさいし、テスト勉強をする気力なんて全くなかったので、家に帰りたくない気分だった。

わたしは下を向いて、ノートに落書きをして時間をつぶしていた。

30分ほどして、人が近づいてくる気配を感じた。

その人の気配は、わたしの前で立ち止まった。

顔を上げてみると、そこには1人の男の子が立っていた。

「えっと・・・本乃ほんの 真優まゆうさん・・・だよね?」

そこにいたのは、わたしの学校の制服を着た、わたしと同じ年くらいの男の子だった。

「そうですけど・・・」

「僕は遠野とうの えいっていうんだけど・・・僕のこと、知ってる?」

聞きなれない名前。それに、顔も見たことない顔だ。

たぶん同じ学年だと思うけど・・・こんな子、いたっけ・・・?

「遠野君・・・・・?えと、同じ学年・・・??」

「うん、一応。まあ僕のことなんて、知ってるはずないか・・・。」

「あっ、えっと・・・ごめん・・・。」

「ううん、いいんだ。それより、明日からテストじゃないっけ?こんなところで絵描いてていいの?」

その言葉に一瞬ピクッとしてしまった。

せっかく明日のテストの存在忘れかけてたのに。

「そうだけど・・・。テスト勉強やる気でなくて。」

「本乃さんって、成績良いの?」

「えっ!」

「あ、いきなりこんなこと聞いてごめん。確か、中1のころはすごく頭いいって噂があったから・・・・・。」

確かに、小学校のころまでは成績は良いほう・・・というかかなり良かった。

でも、中1の後半から、勉強に少しずつついていけなくなってしまった。

「今は全然・・・。平均よりちょっと良いくらいだよ。わたし、家庭学習の習慣がないから、中学入ってから勉強についていけなくなっちゃったみたい。」

「もしかして、宿題とか、ためるタイプ?」

「うん。よく先生に怒られる。」

明日提出の課題も、全く終わっていなかったりする。

「そうなんだ。本乃さんって、すごく真面目な人かと思ってたけど、案外そうでもないみたいだね。」

遠野君が笑った。わたしもつられて笑ってみた。

とても不思議な男の子だった。

「遠野君って何組?部活は何やってるの?なんで突然わたしに話しかけてきてくれたの?」

「僕は3年1組。部活は・・・一応美術部所属。最近ずっと家の用事で出られてないけどね。ずっと本乃さんと話してみたいと思ってたんだ。

 君が一人でベンチにいたから、つい声をかけちゃったけど・・・迷惑だった?」

「迷惑だなんて、そんなことないよ。でも、わたしなんかと話してみたいと思ってたなんて、かわってるよね。

 わたし、あんまり人と話したりしないタイプだし・・・わたしなんかじゃ声かけづらいと思うよ。それにしても、男子で美術部なんてすごいね。」

友達に美術部の子がいるけど、美術部に男子もいるなんて聞いたことはなかった。

「おかしいよね。男子なのに美術部なんて・・・。」

「ううん?男の子で絵が上手いのって、素敵だと思うよ。」

「ありがとう。本乃さん、明日もここに来る?」

「あ、うん、たぶん。学校帰りによると思う。」

「じゃあ、明日も声かけていいかな?」

「うん。もちろん。」

「じゃあ、明日も一緒に話そう。」

わたしは、男の子と話したことなんてほとんどなかったけど、遠野くんはとても話しやすいし、話していて楽しいと思った。

また一緒に話したいと思った。

それから毎日この公園で遠野君と話すようになった。

日曜日は部活がなかったので、2人で遊びに行った。

とても楽しかった。



そして、あれから5日がすぎた月曜日。

その日は、クラスの仲の良い友達が風邪で休みだった。

放課中(休み時間中)退屈だったわたしは、暇つぶしに1組まで行って、遠野くんと話してこようと思った。

遠野君とは学校では会ったことがなかったので、遠野君の学校での様子も見てみたいと思った。

でも

1組の教室に遠野君はいなかった。

1組の仲の良い子に聞いてみた。するとその子は

「遠野・・・永君・・・・・?」

と言ってしばらく変な顔をすると

「このクラスにそんな人いないよ?別のクラスじゃない?」

と言われてしまった。

でも、どのクラスの友達に尋ねてみても、そんな子は知らないと言われた。

どういうことなのだろう。

廊下を歩いていると美術部の友達とすれちがったので聞いてみた。

「美術部に、遠野君っているよね?」

「遠野君・・・?」

「そう、3年の遠野 永君・・・。」

「そんな人・・・いないはずだけど。」

「え・・・美術部に男子っていないの・・・?」

「男子はいるけど・・・伊絵いえ君っていう・・・。」

「それって苗字?」

「うん。わたしもよくわかんないんだけど、3年生の男の子で、でも学校に来てるところは見たことないな・・・。名簿に名前はあるけど。」

「そうなんだ・・・。」

どういうことだろう。遠野君・・・確かにこの学校の制服を着ていた。

もしかしたら、違う学年なのだろうか・・・。でも、確かに3年1組で美術部だと言っていた。

「伊絵・・・って人、ちなみに下の名前はなんていうの?」

「なんて読むのかはわかんないけど、確か、野球の『野』に、『雨』に『時』・・・の三文字だったと思うよ?かわった名前だったから、名簿見たときに覚えちゃって。」

「野雨時・・・・・?やあと・・・?」

「かな。わかんない。たしか名簿には3年1組って書いてあったと思うけど。」

「3年1組・・・!!?」

「そう。なんかいろいろ事情があって、ずっと学校に来られてないらしいけど、たしか1組だったはず・・・。」

「3年1組の男子美術部員・・・。」

それって――――――

遠野君じゃ・・・・・。

頭の中で遠野君の顔を思い出す。

その瞬間

わたしの記憶の中で遠野君と何かが重なったような気がした。

それは、結構前の記憶。一人の男の子の記憶。

わたしは、何か大切なことを忘れてしまっているような気がした。

時計を見て、もう授業2分前だということに気がついた。早く戻らないと次の授業に間に合わない。

そう思って教室に戻ろうとして、ふと、彼と話したときの、彼の言葉を思い出した。

遠野君の・・・好きな場所。

わたしは走り出した。そこに彼がいるような気がして。

3年生の教室のある3階から屋上へつながる階段を駆け上がって、屋上の扉の前にたどり着いた。

常に鍵がかかっていて、生徒は、特に用事があるときしか出ることはできない屋上。その扉の横には、使われていない生徒用の机が積み重ねて置いてある。

その一番奥の机の中・・・遠野君が教えてくれた。

「あった・・・。」

屋上の鍵の合鍵。ここに鍵が入っていることは、先生達も知らないらしい。

わたしは、その鍵で扉を開けた。

「遠野君・・・・・・・・?」

そこには、彼が いた。

「本乃さん、もうテストの順位は返ってきた?・・・さすがにそれはまだかな。テストの答案は返ってきた?どうだった?」

「遠野君・・・・・は、この学校の・・・3年1組の生徒・・・なんだよね?」

遠野君は笑顔だった。

「わかってたんだ。僕が過ごせる時間は一瞬。僕は今、ほんとはこの学校にはいないから。君がこの学校で僕をさがしてしまえば、この時間は終わってしまう。」

公園で話しかけてきてくれたときと同じ、笑顔だった。

「でも僕は、君と・・・真優ともう1度話したかったから、それでもいい、と思ってしまった。」

その笑顔は、他の男子の見せる笑顔とは違う。どこか大人びた笑み。

彼の奥にいつも見える哀しみが、彼を大人びて見せているのだということにようやく気づいた。

「・・・・・っ、伊絵君・・・、なの・・・?」

「伊絵君・・・か・・・。僕のこと、君は  本当に覚えてないんだよね。」

彼の笑顔に、よりいっそう哀しみが深まって、わたしは胸が苦しくなった。

思い出せない・・・。なにか、記憶に重なるものはあるのに・・・。

「ごめん。こんなこと言ってもなんにもならないってわかってるのに。」

彼は右手を前に出した。その手には、一冊のノートがあった。

「ノート、今は使えないから、返すね。まだほとんど使ってなかったんだけど・・・。」

薄い水色のよくある5mm方眼ノートだ。わたしもよく使っている。

「名前書いてあるし、最初の4ページぐらい使っちゃったけど・・・ごめんね。ありがとう。」

彼がノートを差し出してきて、わたしはそのノートを受け取った。

「ありがとう、真優。」



気づけば、わたしは教室の、自分の席に座っていた。

机の上には一冊のノートが置いてあった。

そのノートには、一人の男の子のクラスと名前が書いてあった。

『1年1組 伊絵 野雨時』

チャイムがなって授業が始まった。



授業が終わって教室を飛び出したわたしは、奈原なはら先生をさがした。

奈原先生は、今年の3年1組の・・・そして、一昨年の1年1組の担任の先生である。

奈原先生は、職員室にいた。

「先生!!」

わたしは『失礼します』も言わずに職員室に入ると叫んだ。

「うわ!!!どうした本乃!!」

普段はおとなしいわたしが、いきなり大声で先生を呼んだので、先生はかなりビックリしたらしい。

「あの・・・。」

少しためらってから、でもたずねてみた。

「伊絵君って、おととし1年1組でしたよねっ!?」

「伊絵・・・ああ、そういえばいたな。確かにそうだったと思うが、それがどうしたんだ?」

「あの・・・なんで今学校に来てないんですか!?伊絵君って、3年1組の生徒ですよね・・・?」

「ああ・・・そうだが・・・・・。」

それから先生は、思い出すように悩んで言った。

「なんで・・・忘れていたんだろうな。」

「え・・・?」

「伊絵は・・・1年生の4月から・・・ずっと入院中だったんだ・・・・・。」

「あ・・・・・。」

「先生として、担任として、最低だな。生徒が入院していることをずっと忘れていたなんて。」

「わたしも・・・」

胸が熱くなって、心が熱くなって、目が熱くなって、目からボロボロと涙が落ちた。

「わたしも・・・忘れてました・・・・・。」



中学に入学して、わたしが、1年1組の生徒になった。

担任の先生は、奈原先生という男の先生だった。

そのクラスには、市外の小学校から転校して来たらしい、変わった名前の男の子がいた。

その子の名前は、 『伊絵いえ 野雨時のうと』。

入学して一週間がたったころ、教室移動で理科室に行こうとして、その男の子が、一人で一生懸命何かを探しているのが目にとまった。

「どうしたの?何さがしてるの?」

勇気を出して、話しかけてみた。

でも、返事は返ってこない。

「はやく行かないと授業始まっちゃうよ。もう他のみんなは行っちゃったよ?」

「ノートが・・・なくて・・・・・。」

今度は返事をしてくれた。

「あ・・・・・そうなんだ。・・・学校には持ってきたの?」

「・・・・・さっき、山間やまのま君に、とられちゃって、どこかにかくされたみたいで・・・。」

「えっ!そうなの・・・?」

「『おまえはおまえ自身がのうと(ノート)なんだから、こんな物いらないだろ』って・・・。」

「なにそれ、意味わかんないっ・・・。ひどいね。でも、もうほんとに時間ないって、授業始まっちゃう。」

「うん・・・。」

「あっ、そうだ!これあげる!!」

「えっ!?」

それは、薄い水色のよくある5mm方眼ノート。

「5冊セットで安く売ってたから買ってきたんだ。面倒だったから、5冊まとめて学校に持ってきちゃった。でもこんなにいらないし、1冊あげるよ。」

「いいの・・・?」

「うん。もちろん。」

その男の子は笑ってくれた。

わたしは、自分から話したこともないような人に話しかけるなんて滅多にしないけど、話しかけてよかったと思った。


次第に、よく話すようになっていったわたしたちは、4月の後半ごろにはもう結構な仲良しになっていた。

「ねえ伊絵君、野雨時君って読んでいい?」

「え!なんでいきなり・・・。」

「だって、野雨時って、変わってていい名前じゃん?」

「そんなことないよ。変わってて変なだけだよ。」

「なんで?『のうと』なんて格好良くない?あ、わたしのことは真優って呼んでいいよ。」

「僕は『のうと』なんて名前、あんまり好きじゃないんだけど・・・。」

「どうして?わたしは、自分の『まゆう』って名前好きだよ?だって、『まゆ』とか『ゆう』ならいるかもしれないけど、『まゆう』なんて珍しいし、この学校でもたぶんわたし1人しかいないと思うし・・・なんか他の人と一緒じゃない、自分だけの名前って感じがするじゃん。」

「・・・・・。」

「『のうと』って名前も好きだよ。『野雨時』で『のうと』なんて、すっごく珍しいし、もしかしたら、世界で1人だけなんじゃないかな。素敵じゃない?

 自分の名前を持ってる人は、自分しかいないんだよ。自分だけの名前なんだよ。それに、『野、雨、時』っていう、漢字も素敵だよね。」

「そうかな・・・。」

「そうだよ。だから、野雨時君って呼んでもいいよね?」

「うん、真優。」

「ありがとう、野雨時君っ!」

「僕、今まで自分の名前嫌いだったけど、なんか好きになれるかも。」

「ほんと?」

「うん、だって、真優が『好き』って言ってくれた名前だから。」

「え・・・?」

「ところで、もうすぐ仮入部だけど、真優は、何部に入るの?僕は美術部に入ろうかと思ってるんだけど、男子で美術部なんて変かな・・・。」

「えっ、全然そんなことないよ!!男の子で絵が描けるなんてなんか格好良いよ!!」


そのときわたしは、野雨時君といっしょに、この中学校生活を過ごしていけるんだと、そう思っていた。

でも・・・・・それはいきなり・・・  ――――――そう、その次の日のことだった。


その日、いつまでたっても野雨時君は登校して来なかった。

奈原先生に、事故にあって救急車で運ばれたと聞かされて、頭が真っ白になった。

でも、みんなの反応は、

「伊絵・・・?だれだっけ?そんなヤツいたっけ・・・・・?」

「そういえば、『のうと』とかいう変わった名前の市外からの転校生がいたよな。そいつのことじゃねぇ?」

という感じのものだった。

野雨時君は、わたし以外の人とはほとんど話さず、クラスでも目立たない人だったので、

その変わった名前以外は、印象に残っていなかったらしい。

病院にお見舞いに行こうとしたが、『今いろいろと大変な状況だから子供は会ってはいけない』と、追い返されてしまった。

それから、クラスのみんなは、野雨時君の話をしなくなっていった。

先生も、わたしが聞かない限り、野雨時君の話をしなくなった。

そして、なにかの病のように、伝染病のように、みんなみんな、そしてわたしも 野雨時君のことを忘れていった。



どうして忘れていたんだろう。



「先生、今、野雨時君どこの病院に入院しているかわかりますか?」

「あ、ああ、たしか昔もらった資料に書いてあったと・・・お、あった。地図と住所も書いてあるから、お見舞いに行くならこれ持って来なさい。」

「ありがとうございます!!今すぐ行ってきます!!今からの授業さぼって行ってきます!!3組の担任の先生に伝えておいてくださいっ!」

「なっ、おい、それは・・・。」



会いに行かないと。

今度はわたしから 彼に会いに行かないと。



病院について、病室を聞いて、早歩きで病室に急ぐ。

そして その彼の個室の病室のドアを開けた。


「・・・っ・・・・・!」


彼がいた。


公園で 屋上で たくさんの笑顔を見せてくれた彼は たくさん管につながれ、ベッドに横たわっていた。


「あなた・・・もしかして、野雨時のお見舞い・・・・・!?」

その声に驚き振り返ると、そこには一人の女の人が立っていた。

「あの、もしかして、野雨時君のお母さん・・・ですか?」

「ええ。わたしは野雨時の母です。あなたは?」

「わたしは、野雨時君の・・・元クラスメイトで友達の、本乃 真優です。野雨時君のお見舞いに来ました。」

「そうなの・・・。まさか、野雨時のお見舞いに来てくれる子がいるなんて・・・あなたは、野雨時のこと 覚えててくれたのね。」

「え・・・?」

「不思議よね・・・。野雨時が事故にあってから、親戚も、前の学校の友達も、どんどん野雨時のことを忘れていって・・・

 わたしと夫は、覚えていることができたのだけど・・・でも、あなたも覚えててくれたのね・・・。」

「いえ・・・その・・・実は、わたしも、ついさっきまで忘れてたんです。」

「つい さっきまで・・・・・・?」

「はい・・・・あ、あのっ、もしかして野雨時君って、事故にあってから1度も目をさましてないんですか・・・?」

「ええ、実はそうなのよ。ついこのあいだまでは、それでも普通にベッドで寝ていることができたのだけでど、急に容態が変わって、

 こんなふうにたくさんの管をつながなければいけなくなってしまったの。」

「いつから・・・なんですか?」

「先週の火曜日の夜からよ。急に、いきなり容態が変わったの。」

「・・・・・!!」

先週の火曜日の夜・・・

野雨時君が、わたしに会いに来てくれた日の前日・・・・・。

「野雨時君っ・・・それで・・・・・だから会いに来てくれたの・・・!?」

今までずっと彼を忘れていた自分が悔しくて、必死に泣かないように涙をこらえたが、こらえきれない涙が、ポタポタと落ちる。

「最後に・・・もう一度わたしと 話に来てくれたの・・・・・!?」

ベッドにいる彼の顔は中1のころとは違う。

何か奥に強くて哀しい物を宿した顔・・・公園で 屋上で 笑顔を見せてくれたあの顔。

「大丈夫 野雨時君は、絶対助かるから・・・・・!!わたし、思い出したから。奈原先生も・・・。きっともうすぐ、あのころのクラスメイトも、

 野雨時君の昔の友達も、みんな、野雨時君のことを思い出すよ・・・。だからお願い、早く目を覚まして・・・!」

「・・・・・真優さん・・・。」

その声で、わたしは我にかえった。

「はいっ・・・。」

「あなたは最近・・・・・野雨時と会ったんですね。」

「・・・・・はい・・・。」

「野雨時の様子は・・・どうでしたか・・・・・?」

「元気でした。あれならきっと・・・大丈夫です。きっと もうすぐ目を覚まします。」


野雨時君・・・


お願い 目を覚まして




もう会えないと思った。

だから、会いに行った。

彼女が、僕のことを忘れてしまっているのはわかっていたけど、

それでも会いたかった。

優しい彼女に。

好きだった 彼女に。

クラスになじめなかった僕に声をかけてくれた彼女。

なくなってしまった僕のノートのかわりに、自分のノートくれた彼女。

僕の名前を『好き』だと言ってくれた彼女。

そんな彼女に もう1度会いたかった

だから会いに行った。

それで最後だと思った。


でも


真優は 僕に会いに来てくれた。


あと少し 僕に力があれば


僕は 起きれるのかな




その日、病室を訪ねてから2時間、ずっとわたしは彼の手を握っていた。

もう少しで、目を覚ましてくれるような気がしたからだ。

でも、彼は、なかなか目をさまさない。

「そうだ・・・ノート・・・・・。」

わたしは持ってきた彼のノートを取り出した。

「野雨時君、明日から学校出られるよね。そうしたら、ノートは必要だよ。ノート・・・返すね。」

彼の枕元にノートを置き、再び手を握った、そのとき

「・・・・・!」

彼のまぶたが動いた気がした。

「野雨時君・・・・・!」


彼が 目を覚ました。


「真優さん・・・!」

彼のお母さんが、わたしを見た。

「真・・・優・・・・・?」

彼が わたしの名前を呼んだ。

「野雨時君・・・!」

握っていた彼の手をもう一度ギュッと握った。

「僕のこと・・・思い出してくれたんだ・・・?」

「うん・・・思い出した・・・ごめんね・・・忘れてて ほんとにごめんね・・・・・。」

「それは、真優が悪いんじゃないから・・・たぶんそういうこともあるんだと思う。僕はわかってたから。」

「ううん、わたしが悪いの。わたしが、もっと早くここに来ればよかったんだ・・・。」

「また、2人で、あの公園でしゃべれる・・・?」

「うん、もちろん。放課(休み時間)に屋上でもしゃべろうね。」

「うん。」

「野雨時君、あのね・・・。」

「なに?」


「わたし、野雨時君の名前 今でも好きだよ。


 あと、 野雨時君のことも    好きだよ。」



「うん。僕も。

 

 真優の名前も


 真優のことも ずっと大好きだった。 」




「ありがとう。また 一緒に学校行けるよね?


 約束   だから。」


てきとうに考えた名前、『遠野 永』を

後ろから読んだら『いえ のおと』って、

ノートっぽくなったので、

これで小説を書いてみよう!と思ったのです。

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