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ドナドナ事件(7)

「作戦?」


「フルーラ、王国軍はどこで待機をしているの?」


「三つの門全てにいるわ。町から出るものはもちろん、入ろうとするものも捕える為に」


「そう。分かったわ。じゃぁ、貴方達の指揮官はどこに?」


「南門よ。そこで待機して、私たちの連絡を待っているの」


「了解。そこに、みんなを送るわ」



その一言に、フルーラとリッツが仰天する。中からしか開くことのできない結界であるというのに、それをたった今説明したばかりだと言うのに。



「フルーラ、リッツ。何万もの騎士や王国軍を一人ずつ手招きしていたら、何日かかると思っているの?」



最もな意見に、二人の表情がゆがむ。この結界は、一人ずつしか招きいれることができないから、見つかってしまえばこの作戦がつぶれるだけでなく、同じ方法で侵入することができなくなる。

だから、絶対に見つからないように、招きいれる方法を、例え何日かかっても見つけ出すつもりだったのだ。



「リーファ、どうするつもり?」


「結界そのものを破壊する」



なっ、と言って騎士二人は固まった。それができればいう事は無いが、それができないから何年も手をこまねいていたのだ。

二人がこんなに苦労することもなかったとも言える。



「リーファならできるよぅ~。この結界はね、核となるものを破壊すれば、止まるからね」


「え、え?そう、なの?」


「魔法の持続期間は、最大で術者の命尽きるまで。でも、物体を疑似術者として指定すれば、その物体が朽ち果てるまで魔法の効果を持続できるの」


その物体が、朽ち果てるまでの時間、それだけの長さを魔法の効果として保つことができれば、人が辿り着けない時間の向こうまで行くことができる。

ただし、その物体指定の技術ですら体得するのに時間がかかるのだが。



「なら!それは俺たちの仕事だ」


「そうね。その指定された物体が何かさえ分かれば、良いんでしょう?」


「それは、私が」


「フルーラにもリッツにも、それは無理だよん。だって、この結界は魔女の結界。虚無の魔女の結界だもん」



うふふ、と笑うアイの口にした虚無の魔女という単語。

それが意味するものを本当に理解しているのは、この場ではリーファとアイだけだった。



「虚無の…魔女って?」



恐る恐るフルーラがたずねる。

リッツも首を傾げているし、子ども達同士でも、そのような魔女の話は聞いたことが無いと首を横に振っているものばかりだ。



「…“魔女の通った後は、何一つ残らない。全てを暴力的な魔法で虚無にする”なんて、言われてた魔法使い」


「あー!それ、あたしのおばーちゃんが言ってた!二百歳を超える魔女って!!」



唐突に、一人の少女が声を上げる。

先ほどリーファと一緒に禁止の魔方陣を探していた少女なのだが、その少女の声に皆が振り返る。

おとぎ話の中に出てくる、圧倒的な力によって世界を支配した魔女だと言う。その魔女の結界が何故、このケイオスの町にできているのか、その謎を解けるのはリーファとアイくらいなものだが。


「魔女の結界…。心当たりが…あるから。この結界を保っているものに…。だから、私に任せて欲しいの」


「心当たりがあるなら…それを私たちが壊してくるけれど?」



フルーラの言葉に、リーファはふるふると力無く否定する。

どんな理由でも、その意思は、譲らないと訴えていた。



「今からアイの力で結界の外に移動させるね。アイの力は、転移の属性じゃないから大丈夫。二人は、子ども達を安全な場所に。結界が無くなると、町を覆っていた闇が薄くなるはずだから、それを合図に突入して」


「それは…構わないけれど、貴女はどうするつもりなの?一人でこの城に留まるつもり?」



何人のゴロツキが、何人の戦い慣れた魔法使いが、剣士がいるのか分からないこの城の中にたった一人の女の子を残していくことに不安を覚えるフルーラとリッツ。



「大丈夫だよ」


「リッツを貴女に付けるわ。これだけは譲らない。いいわね?」



有無を言わせない強い口調に、苦笑しながら頷くリーファ。

任せろ、とでも言うようにグッと拳を握り締めてみせるリッツ。



「話は纏まった?じゃぁ、振り落とされないようにぃ、皆お手手つないでね~」


「アイ、お願いね」


「私の心配より、自分の事心配したらぁ~?この子たち送ったら~そのまま帰るからね~?」


「…分かってる」


「それと、後払いでもいいんだけどぉ?」


「アンタを呼ぶのに、これだけ魔力削るのに?馬鹿言わないで」


「相変わらず頑固ねぇ~。……死なないで。約束は…守ってよ」



プラチナブロンドの前髪の下から覗く、綺麗な金色の瞳が心なしか潤んでいる。

黒髪の少女と交わした、アイの…いやアイ達の約束。

彼女はそれを一度破っているから。

だから、もう一度強く念を押しているのだ、この小さな体躯の神様は。


間延びした口調が、一瞬だけ切なげに言葉をつむいだ事に、フルーラとリッツはハッとする。

この二人の少女の間には、あまりにも強い絆がある。

騎士団の学校で習ったような、召還者と召還された者との間にある形ばかりの契約などという言葉で彼女たちを表すのは失礼だと思うくらい。



「それじゃぁね~」


「うん。それじゃ」


「気をつけろよ、フルーラ。団長に言伝頼む」


「分かったわ。二人とも気をつけて」



「バイバイー!」「おねーちゃんとおにーちゃん気をつけてー!」などと、子ども達が手を千切れんばかりに振っている。

フルーラと子ども達が集まっているところにアイが近づき、フルーラの手を取る。


アイが小さく何かを呟くと、小さな神様から徐々に真っ白な光が溢れ、周囲に拡散する。

少し離れた所で見守っていたリーファとリッツを飲み込むことは無く光は収束する。

光が光源もろとも消える頃には、牢屋の中には二人以外は居なかった。



「俺たちも…行くか?…っておい!」



ついさっきまで隣に立っていた黒髪の少女が、片膝をついて蹲っていた。

リッツも蹲るようにフルーラに近寄った時に、ふとあることに気がつく。

少女が荒く浅い呼吸を繰り返し、さらには…大きな血の染みができていることに。



「お前!どうしたんだ!」


「大丈夫。その内止まるから…」


「大丈夫って…」


「早く…身を隠せるとこ、ろを…アイが…、扉…開けてくれた…」



リーファの言葉にリッツがパッと扉を見ると、確かに鉄格子の扉が開いている。

いや、開いているというか…正確に言えば、何故か腐りボロボロになって形が保てなくなっている、という表現が正しかった。



「何だこれ…」


「さぁ、此処から出るよ…」


「あ、あぁ!で?魔女の結界は?何処なんだ?」


「この塔の、一番上よ」


「は?」



間抜けな顔をして一瞬立ち止まるリッツだったが、ヨロヨロとリーファが牢屋を出て行くので、慌てて追いかける。

リーファは、左腕を庇いながら歩く。左腕には、大きく抉られたような切り傷がある。

足を怪我している訳では無いが、体力が無くなっているのか、血を多く出してしまったことによるものなのか。

治癒系統の魔法も使えないし、簡単な応急処置しか心得の無いリッツには、リーファに肩を貸すことくらいしかできなかった。





ケイオスの街。

この街は、ずっとずっと昔からそう呼ばれている。

ローデシア王国にとっては癌のような存在で、この街の周辺にもゴロツキやならず者といった取り締まるべき人間が多く住み着いている。

そして、彼らのような悪いことに手を染めた人間…あるいは“商品”である奴隷以外には街に入ることは叶わない。

それは何故かこの街の周囲を覆う強固な結界のせいだ。

街に住む住人が認めたものしか入ることができない…という限定的な制約を設け、なおかつ数百年の時を経ても尚消えない圧倒的な力。


王国は、すでに何人ものスパイを送り込んだ。それはすべて失敗に終わっている。行方知れずという結果として。

そして今回、騎士団最年少のフルーラ・アコットとリッツ・ベルバルの二名が、“商品”として潜り込んだ。

何としてでも、この結界を破壊するとしていた今までとは違い、今回は軍の人間を結界内に招きいれるという目的で。


街は高い塀で囲まれており、入り口は三箇所。

北と南と西。

正面である南口には、三箇所の内、一番強く配置がされている。


騎士団長を筆頭に騎士団のメンバーはもちろん、三箇所に配置された王国軍兵士たちも、後方で補給係として頑張っている者達も緊張していた。

いつその合図が来るからわからないから。


闇の中に沈むように、物音のしない恐ろしく静まり返った夜。


緊張走る、その一群の中に…その光は唐突に現れた。



「な!何だ!!」


「団長!お下がりください!」



白に埋め尽くされる視界が、騎士団員や兵士たちの平常心を破壊する。

これは異常だと、長い事兵士として生きてきた者達の第六感が警告する。

半ば本能的に、光に剣の切っ先あるいは銃口、あるいは魔法陣の準備をしていると。


光が無くなり、そこから姿を現したのは、全員子どもだった。



「ラカント団長!」



子ども達の中で一番に声を上げたのは、緑髪の…子ども達の中では最年長らしき少女。



「フルーラ・アコットか!これは…一体?」


「団長。すみません、予測できない事態により急遽作戦を変更させて頂きました。しかし、もう間もなく結界は破壊されます。突入は、作戦通りお願いします」


「破壊…?事情は後で聞く。君たちは休んでいなさい」


「いえ。私も突入します。リッツとリーファが中にいるんです」


「リッツ・ベルバルと…リーファとは?」


「それも後程に」



「魔女の結界…壊れたよぉ~」



切迫した雰囲気の中で、やはりアイの間延びした甲高い声は目立つ。

不思議な服装の幼女に兵士が剣の切っ先を向けるが、幼女はケラケラと笑うだけ。



「彼女は無害です。敵ではありません。我々を助けてくれました。…アイちゃん、ありがとう」


「別に?お礼ならリーファに言いなよ~?」


「もちろんよ」


「じゃ、私はもう行くね~。あ!そうそう、フルーラ、突入するなら治癒の魔術符をたくさん持っていた方がいいかもねぇ?」


「え?」



それはどういうことなの?と、フルーラが聞き返そうとした瞬間、アイは悪戯っ子の微笑みだけを残して消えた。

夜の景色が広がるその辺りに、アイの残した白い光の残像だけが焼きついている。



「お前ら、大変な量の報告書になるな…」


「お読みになられるのは団長ですからね」


「覚悟くらいしておくさ」



「フルーラねーちゃん!あの二人、絶対助けてよ!?」


「そーだよ!リーファねーちゃん!助けてよ!!」



今まで黙っていた子ども達が、堰を切ったようにまくし立てる。

何かの目的の為に古城に残った二人のことが心配なのだ。


そんな子ども達に、フルーラは任せて!とサインを送る。



「全軍!突入準備!!」


前回に載せるの忘れてました。神様の名前については適当です。神話からそれっぽいものをチョイスしているので、その辺はサラッと流して下さい。

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