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ドナドナ事件(4)

「リドルム…城?」



不思議そうにフルーラが呟く。

彼女が首を傾げるのも無理は無い。

ついさっき、フルーラの口から“この街は名前を失っている”ことを聞いたのだから。


ケイオス…“混沌”の名前の通り、この街は世界の闇を凝縮したような街だった。


ありとあらゆる悪事の混在する…、真っ暗闇ではなく、ドロリとした不快感を増幅させる闇。

いっそ清清しいほどに見えなくなるような闇では無い。



「私の知っている街に、ちょっと似てたから」


「リーファの、知っている街?」


「そう。でも、こんなに不気味じゃなかった」



そう。決して豊かとは言えないが、貧しくても皆楽しく暮らしていた街だった。

観光地がある訳でも、商業が発達している訳でも無い。

名家がある訳でも、悪人が蔓延っている訳でも無い、のほほんとした街は、ほとんど国の中央政治からは置いていかれたようなもの。

民家が多いから、かろうじて街ではあるが、一歩間違えば村とも呼べるような片田舎。


街の中心に建つ城には、十一の時まで、家族と住んでいた。





あの頃は、幸せだった。





いや、普通の生活を送れていた…と言える。

両親と、兄と姉がいて、末っ子として皆にそれなりに可愛がってもらって。

身分の差などほとんど無かったリドルムでは、城主の子どもも農民の子どもも訳隔てなく学校へ行き教育を受けた。



普通の、生活だった。


今は、憧れる程に。




「この街、随分と前に人がいなくなって…。いつの間にか悪人共の巣窟になっていたのよ…」



事情を知らないフルーラは続ける。

私にとって、残酷な現実を。



「王国一の、奴隷商売の場所。此処は本当に、反吐が出る場所だわ」


「そう、だね…」



馬車の中でずっと扉の門番をしていた男たちに加え、更に六人の男たちが加わり、二十人程の子ども達を引きずるようにして歩かせる。

運転していた男に加えて、この街で待機していたやつ等が加わったのだろう。

城につけば更に増えるかもしれない。

いや、むしろ、この街全ての人間が敵かもしれない。


魔法の使えない私には…敵わない相手だ。


自分の存在の根底すらも抉り取られる事態だと言うのに、私には何もできないのだろうか。

見れば、フルーラとリッツも何故か歯軋りして悔しがっている。

他の子ども達は泣きべそかいたり、SOSを出して喚いていたりするのに。
















古城に到着し、重い木製の扉を開けると、蜘蛛の巣が張り煤けて破れた絨毯の敷かれたロビーがある。

汚くなっていることを除けば、五百年前と変わらない事に涙が出そうだ。

きっと…他の部屋も何一つ変わっていないのだろうな。


正面に続く大扉の向こうの大ホールは、極稀に街の人たちを招いての宴会が開かれていたが、今は恐らく奴隷オークションの会場だろうと予想する。


そのまま大ホールに連れて行かれるのかと思ったら、私たちが連れて行かれたのは、ロビー左手の扉をくぐり入り組んだ廊下を越えた先の牢屋だった。




「何ここ…」



石を積みあげ作られた地下牢は、大人ですら数十人入っても余裕なくらいの広さだった。

鉄格子の小さな扉を開け、冷たい石畳の上に次々と放り投げられる子ども達。

私やフルーラ、リッツと順番に放り投げられ、最後のリッツが放り込まれ、石畳に尻餅をついたとき、扉は完全に閉ざされた。



「牢屋…のようね。元々この城にあったようなものじゃ無さそう…。明らかに奴隷商売用って感じね」



加えて言うならば、さっき通ってきたやたらと迷いそうな廊下も、元住人としては「何これ!知らない!こんな廊下知らない!!」と叫びたくなるものだった。



「オークションは夜に始まる。フルーラ、それまでに終わらせよう」


「えぇ、当然よ」



いつの間にか、頑丈に縛られていた筈のロープをあっさりと解いて立ち上がる二人。

縛られたせいで、うっすらと鬱血した手首を撫でるフルーラとリッツの目は、奴隷商人に捕まった非力な子どものものでは無かった。



「フルーラ?リッツ…?」


「ごめんなさい、リーファ。そしてみんな。怖がらせてしまったこと、不安にさせたこと、本当に申し訳なく思っているわ。でも、私たちはどうしても此処の場所に来なければならなかったの。この場所で、奴等とあなた達が離れる場所まで来なければ、全員を守ることなんてできないと思ってね…」


「白状すると、俺とフルーラは、ローデシア王国騎士団の人間だ」



すすり泣いていた子どもたちの涙が止まる。

希望を見つけた瞳が、生き残る可能性を見出した瞳が、赤毛の少年と緑髪の少女を見つめる。

騎士団。それは、この国最高の戦士たちの集まり。そんな騎士団に十代の人間は一握りしかいない。つまり、この二人はとても優秀であるということ。

期待の篭った視線に、力強く頷き、微笑む二人。



助かる…!!その時は、そう信じて誰も疑わなかった。

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