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鳥カゴの破壊

急に出会ったその四人に、無理矢理に騎士団の宿舎に連れていかれそうになったのを必死になって抵抗し、今現在に至る。


現在位置は、小洒落た飲食店の個室。いわゆるVIPルームだ。



「リーファ、紹介するわね。こちらは、ローデシア王国騎士団治安維持部隊長のアベル・ラカント。隣は副隊長のブライアン・エニエス」


戦士の風格を醸し出す屈強な男性が隊長で、ヒラヒラしたパステルカラーの服を着た華奢な女性が副隊長…………。


「ブライアン……?」


浮かび上がった疑問をリーファが口にすると、ニコリとエニエス副隊長が笑う。それはまさに女神のような微笑み。賢者のような布の多い服装が似合う。


「私、男なの。でも心は乙女よ?だから、君みたいなクールな人って好みなのよね〜☆」


ウフフと笑うたび、ノワールの口元がひくつく。そんな言葉、彼が生きてきた数百年の間に、言われたことなど無いのだろうに。

見れば、フルーラとリッツの表情も苦笑いだ。


「エニエス、無駄口を叩いている暇は無い。我々はリーファ殿と話をしにきたのだ」


真面目な口調のラカントさんがたしなめると、エニエスさんはペロリと舌を出して肩をすくめる。


「…私と……話ですか」


フルーラ達の前ではイロイロやりすぎたから、正直何を聞かれるのか検討がつかない。


オホンと咳ばらいを一つしたのち、ラカント隊長は言った。


騎士団に入ってくれ、と。


「……………え」

「っ!」


怒りに満ちた形相で立ち上がろうとするノワールを手で制す。昔とは違う。たぶん違う。私は奴隷にはならない。


「突然の事で驚くのも無理は無いわ。でも、リーファのその知識、何の道具も使わずに魔法を使い、失われた召喚術を使うという圧倒的な才能を埋もれさせるのは国の為にならないと思って」


ノワールの滲み出る怒りを感じとってか、フルーラがあたふたしながら説明をする。


「お断りするわ」


キッパリと言い切ると、向かい合った二人とその背後に控える二人がたじろぐ。断られる事を想定していなかったのか。


「私、ギルドの人間だし…。リッツに言ったわよね?依頼を請け負っているって。虚無の魔女に関する依頼を」

「え?」

「ケイオスの城は魔女の家よ。それに、依頼はあれだけじゃないの」


まだやらなければならない事がある。だから、騎士団に入って自由を奪われるのは無理だと告げた。

本音を言えば、まだ嫌だし、エズを殺したのは…騎士団だと思えてしまう。

私を血と闇の世界から救ってくれたのは彼なのに。


「じゃあ☆私から一つ質問ね♪」


ウッフンとエニエスさんが微笑む。飄々とした風体の掴めない人。


「あなた…何者かしらぁ」


その質問が1番怖かった。投げ掛けたこいつこそ、一体何者なのだと問い返したい。


「召喚術が失われて何年経っていると思う?三百年よ?どうして受け継いでいるのかしらぁ?」


ウフッと笑う。昼行灯か。この男…いや女か?

ウフと笑うエニエス副隊長だけは敵に回したく無い!!と部屋の隅で改めて心に誓うフルーラとリッツ。


「それに私が答えるとでも?」

「力ずくって、私あんまり好まないの。美しく無いし、ね」

「冥土土産に、召喚術見せましょうか?」


そこまで言うと、エニエスはケラケラと笑った。目尻に涙までにじませて。


「その魔力量で?そんなの、召喚したって代償払えないじゃない。命でも差し出すの?」


え?と部屋の隅に座していた二人が固まる。召喚に払う代償…?アイを呼び出して、彼女は何を払ったのか。


「リーファ!もしかしてあの時の怪我…」


牢屋内で、フルーラや子供たちが去った後に、リーファは突然血を流して倒れた。

その話を聞き、フルーラが「そういえば…」と思い出す。

城に突撃する時にアイが、治癒の魔術苻を持って行けと悲しげに言っていた、と。


見せ過ぎた、と今更に後悔し、チッと心の中で舌打ちをする。


「ありがちな契約ねぇ?血の盟約?でもそれなら尚更、貴女の魔力量は納得が行かないわぁ」


血で従えさせるのは、圧倒的な力を持つもののみ、だ。最も簡単かつ確実に相手を服従させる手段。しかし、それが行われるのはごく稀。自分の力が、相手よりも格段に上でなければ、相手に血を与えようと、相手の為に血を流そうと意味を成さない。

エニエスの魔力量は騎士団内でもトップクラスだ。その上を行く人間でも、そんな契約は不可能と言えるのに。


「益々興味深いわねぇ」

「……」


キッと、リーファがエニエスの事を睨みつけた瞬間。


パンッ


四人の間にある机の上に置かれていたグラスが、同時に全て割れた。いや、フルーラとリッツの持っていたグラスも。


「…………貴女、無動作・無詠唱で、魔法を?」

「余計な事を言えば、この部屋ごと消すわ」


スッと立ち上がる。

十代の少女らしからぬ、冷淡で何の感情も宿さない海の色の目。


「私は私の目的がある。関わらないで。それに…、まだ私は…貴方たちを許せない」


そこに怒りは無かった。ただ、何かを失ったような切なげで悲しげな瞳があった。

どんな手段を使っても、どんな切り札を切っても良い、とリーファは思う。それ程までに、騎士団というものに、あるいは貴族というものに嫌悪する。あの当時、護りたいものは、家族や街の人たちだった。だから国に軍に騎士団に従った。


今、人質はいない。やつらに従う必要は無い。


私は私の思うままに、生きる。篭の外に出ろ、と言ってくれたあの人の為に。だって私は………。



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