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さよなら、私の平穏

翌日、アニーに連れられてイデアのギルドを目指す。

町並みは昔と比べて随分と賑やかになり明るい空気が漂う。ただそれだけでは無く、何やら大きな催し物でもあるのか活気がある。


「アニー、お祭りでもあるの?」

「三日後に英雄祭があるの」


英雄祭…とリーファが口の中でその言葉を繰り返す。知ってた?とノワールに聞くと肯定の意。

英雄様の死んだ日なのか生まれた日なのか分からないが、また、建国記念の日との区別も曖昧らしい。英雄という偶像崇拝のような祭は、意味の薄い祭ではあったが、生まれる利益を考えれば意味のある祭らしい。

生まれた日でも死んだ日でも無いだろうなぁと、思い描く。どちらも寒い季節だった。が、今は暖かく過ごしやすい季節だ。

「ここよ、リーファ」


大通りからは少し外れた…丁度、アニーの宿屋と大通りを挟んで対極に位置する、ブロック積みの大きな建物。厳つい雰囲気の扉の両側にはこの国、ローデシア王国の国旗が立ててある。

民の味方の何でも屋、といった存在だった頃とは似ても似つかない。しかし、成らず者が集まるという雰囲気でも無い。

呆然と入口で立ち尽くすリーファ。その見つめる視線の先、入口から金髪の女性が出てきた。美人とは言い難いが、そばかすとえくぼがチャーミングな女性だ。


「あら?アニー?」

「久しぶりね〜イリ。魔術学院卒業式以来かな?」

「ホントよ!あんたイデアに帰ってきてたの?言いなさいよ!」


何やら旧知のようだ。口ぶりは同級生の久々の再会のようだが、アニーは15、6歳と、リーファと変わらない位なのにイリは二十歳を越えている感じだ。


「アニー、この方は?」

「初めまして、お嬢さん。私はイリ。このイデアギルドの看板娘よ」

「よく言うわー。25にもなって!」

「同い年に言われたく無いわ〜」


えっ!!と、リーファとノワールが驚き飛び上がる。アニーは見た目十代だ。


「アニーは事情があってね」

「ま、大した事じゃないわ。二人とも、イリに案内させるからおいで〜」


魔術学院の元学生は楽しそうに中へ入っていった。


「ノワール、気づいた?」

「魔法、ですね」

「永続型の物質変化…。中々の使い手ね?」


アニーにかけられた、アニーの年齢を変化させる魔法。あれは常に魔法をかけられている状態となる永続型だ。昨今滅多にいないというその使い手が何者なのか。事情とは何なのか。


「今までは、朧げにしかその魔力を感じられなかったけれど、事実が分かれば話は違うわ」


アニーが望めば、アニーの魔力を借りてリーファがその呪いのような魔法を解く事が可能だ。



時期を見計らって、アニーに話そう

。良くしてくれたお礼だ。


先に行ってしまった二人を追いながら、リーファは決意した。



屋内は、外観通りのものだった。ブロック積みの無機質な壁に、武骨な人間がよく似合っている。灰色を基調とし、調度品はモノトーンと冷たい雰囲気だ。

受付とおぼしき場所には、イリと同年代の女性が立っていた。アニーとイリが何やら受付の女性に話し掛けた後、こっちにおいでと手招きした。


「名前は?」

「リーファ・ロー…えっと…」


淡々と尋ねられた無機質な質問に当然のように答えようとして慌てる。リーファ・ローデシア。王国の犬になる証として奪われた名前。ローデシアと名乗るよう、それが誉れであると振る舞うよう散々言われてきたのだ。不意に口をついてでてきてもおかしくは無い。

が、ローデシアの姓を名乗ることはすなわち王族を意味する不用意に此処で名乗ってしまえば、要らぬ騒ぎになる。

長らく使うことを許されなかったファミリーネームを、やっと使うことができる…。


「リーファ・ローエット様ですね?」

「え?あ、はい…」

「では、あちらの部屋で魔力測定を行って下さい」

「魔力…測定?」

「属性の判定と魔力量。あとは戦闘能力の測定です。自動判定ですので簡単ですよ」


まずいっ!!

名前が間違われた事なんてこの際どうでも良くなるくらい、魔力測定はヤバい!

自動判定されたら、セプテットじゃすまなくなる…。どうしよう。


リーファが必死に対策を考えている間に、書類の作成は終了してしまった。アニーとイリがしっかりとリーファの手を取り、大きな扉をくぐる。


白を基調とした部屋。が、足元は地面のように色が塗られ、天井も空が描かれている。


「リーファ頑張ってねー」

「全力出さないと死ぬわよー」

「え?」


イリとアニーの言葉に、リーファとノワールが驚くが、その瞬間に扉が閉まる。たった一人、異質な空間に取り残されたリーファには不安だけが残った。

部屋の作りなのか、白い部屋だからなのか奥行き感がよく分からない。


ザザッ


映像にノイズや砂嵐が混ざったようなものが人型を取った。

敵か、と身構える。

ノイズの人型は、一瞬少女の型をとろうとして…砕けた。


「えー、まじかよ」


少年の声色が聞こえてきた。辺りを見渡すと、ノイズの人型が砕けた所よりも遥か後方から、大小様々な鈴を身につけた不思議な服装の十歳前後の少年。


「あなた、何?」

「それは俺が言いたい。お前何?人間じゃ無いだろ」

「……」


言われ慣れている。化け物だなんて言葉は。でも何故?こんなにも辛い。彼には、罵倒の言葉として使用している感じが無いからだろうか。


「あー召喚まで使えるの?世界がバランス失うじゃん」

「……」

「お前、ギルド来てる場合じゃない。本体探せよ」

「え?」

「本体。今は殆ど聖霊みたいな事になってる」

「だから、魔力が無いの?」


気付いてたのか、と軽く笑う。

聖霊とは、アイオンたちのような状態だ。彼女は神であるが故にこの世界に実体を伴って顕現することはそれこそ世界に歪みが生まれる。だから霊体のような不安定なものとして本体から力の一部を切り取り召喚される。それでも強い力を持っているアイオンたちは、実体がもっとずっと強いからだ。


今、私がその状態だと言われ、僅かばかり納得がいく。魔力が極端に少なくなっていること。人間が持つ筈の無い、聖の属性を持っていること。


長い眠りの中で、普通に生きたいという願望の表れかもしれない。


「探せよ本体。今、この国は呪われてる」

「え?」

「さっきお前と一緒に来た女。あいつも成長を止められてるな。呪いだ」


アニーの事だ!


「あの呪いは何?」

「さぁね。ただ解くのに苦労するらしいが」


と、不思議な少年は笑う。完全に他人事だ。


「まぁギルドにいるのもアリかな。解呪の以来は放置されてる状態だし?お前なら分かるだろ?あれの解き方」


分かる、と言えば分かる。永続型の魔法が廃れた理由に、術式の複雑さがあると考えている。魔道具を使ってもできない、ある意味職人技・感覚がものを言う方法だからだ。それに面倒というのも大いに納得できる。


複雑な言葉と数字と文様は、見慣れない人にとってはただのマークでしかない。魔法はある意味センスで成すものだけに、それ以外のルールは廃れてしまうのは仕方が無い。


「頼むぜ。俺達には手が出せない」

「それってまさか」


聖霊のようなこの少年に手が出せないと言わせるこの呪い。

じわじわと苦しめていく、決して殺しはしない苦しませ方は…憎悪を持った人間のする事だ。


「ギルドに登録してやるよ」

「…どうも。ねぇ、魔法タイプ…水と風にしてくれない?」

「まぁ…騒ぎになるもんな。いいよ」


ホッとする。それが気になっていたからだ。この試験のシステムを軽く説明してもらい不思議な空間の広がる部屋を退室する。


「頼むぜ、英雄様」


え?とリーファが振り返ったが、そこに少年の姿は無かった。




「如何でした?」


扉のすぐそばで待機していたノワール。部屋の中で起こったあらましを伝えると些か表情が曇る。


「そんな顔をしないで」


五百年前となんらかわりない事態なっているのでは無いかと危惧しているのだ。困った人を助ける、ただそれだけの存在に、戻って欲しくないとノワールは強く思っている。


「昔とは違う。ね?」

「え、えぇ」


そう違う。今は…エズがいない。あの頃、リーファの精神を支えていた彼がおらず、手元には腕輪が残るのみ。


ギルドへの正式登録の為に、受付に向かったリーファを慌てて追いかけた。



「あ、おかえり〜」

受付のカウンター内にイリがいて、カウンターごしにアニーと雑談していた。リーファを見てニコニコと手を振る。

受付の女性に声をかけると、データは届いておりますとの事。自己申告だと嘘を言う人がいるから、こうしてあの少年がデータを受付に送るのだ。志望者の分身を少年が作り、志望者はそれと戦う。戦闘データは受付に送られ、属性や戦闘タイプ、能力によってランク付けされるというシステムだ。


「リーファ・ローエット様のランク及び属性ですが………え?」

「え?」

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