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アニーの魔法教室

仕事を片付けて、後はオーナーに引き継いだというアニーが、幾つかの本を手にして部屋を訪れた。オーナーとはアニーの父親で、料理長は彼女の母親ではあるのだが。


「さて。まずは魔術学院の説明かしらね?ざっくり説明すると、魔法を習うための学校よ」

「それも、とても優秀な?」


リーファが尋ねると、うーんと唸るアニー。机を挟んでアニーと向かい合ったリーファとノワールは首を傾げた。


「基本は貴族。市民から入学できる子はそれなりに優秀よ。貴族でも魔力のカケラも無い奴はいないけど、平均的な魔力があれば入学を許可されるの」


未だに、お貴族様々って訳よと呆れた口調でアニーは告げる。


「で、学院の事はこれくらいにしといて。魔術の基礎から。魔術を大まかに体系して?」


できる?と聞かれ、体系か…と悩む。


「召喚型・瞬間型・永続型?」

「古っ!!」


ビシィっとアニーの突っ込みが入る。

召喚・瞬間・永続の内、召喚は使い手がほとんどいない魔法だ。

瞬間型とは、炎の球を発射したり、遠く離れた場所に移動する魔法。

永続は、罠であったり幻影であったり物質変化であるといった魔法。

こちらも現在においては使い手がごく僅かしかいないものだ。


「リーファが言ったのは、四百年くらい前には主流だったものね。今は、攻撃・回復・補助よ」


攻撃は更に、火・水・雷・風・土・光・闇に分かれる。補助も回復も分類は無い。

攻撃の7タイプも、光と闇を使えるものはほとんどいないそうだ。

このローデシア王国内において光の属性を持つのは、大司祭と呼ばれる人間唯一人。

闇にいたっては、過去その使い手がほとんど魔物であったことから、調査も行えないそうだ。


へーと相槌を打つリーファは、随分と変わったなあと思う。しかし、召喚型の使い手がほとんどいないとは…。リッツ達の前で召喚魔法を使った事が悔やまれる。しかも、喚んだのはアイ…時間を司る神アイオンだ。


「因みに私は攻撃魔導士よ。攻撃を専門として学んだの」

「え?全部使えないの?」

「まさか。世界最高の魔導士でも3体系全てなんて不可能よ?

現在、国内最高の魔導士は攻撃を4タイプと補助の一部を習得しているのだとか。


「1タイプの魔法だけならソロ。例えば、私は風しか使えないからソロなの」


2タイプならばデュオ、3タイプならばトリオ、4タイプならばカルテット、5はクインテット、6はセクステット、7はセプテットとなる。

それぞれのタイプの中にも初級魔法、中級、上級、最上級の魔法が存在する。最上級まで習得すれば、そのタイプのマスター称号が貰える。


「アニーさんはマスター?」

「無理無理!私の師匠がウィンドマスターだけどねー」

「凄いのね。魔法ってそんなに階級を区切らなければならないの?」


リーファにしてみれば不思議なことだ。昔はもっと自由だった。魔導士に称号なんてものは必要無くて、魔力量だけで優劣はついた。


「魔導協会の取り決めだもの…。考えがあっての事じゃない?」

「ふーん」

「さて、お勉強はここまで。何か質問は?」

「あ、はい!」


先生よろしく区切りをつけたアニーに思わずこちらも釣られる。学生のように手を挙げてしまった。


「1番便利なタイプって?」

「便利…ねぇ…?」


うーん、と悩むアニー。


「便利ってのは無いと思うわ。火と水って相性悪いけれど、火力があれば水に負けなかったり、やり方によっていくらでも有利にも不利にもなるのが魔法だからね」


アニーの言葉を聞いて、リーファは苦笑する。

確かにそう言われてしまえばそうだ。ソロの場合特に、自分と相性の悪いタイプと出会った場合の戦術を考えることが重要になってくるのだろう。

今までの戦闘では、相手の繰り出す魔法に応戦したり、圧倒的な破壊力で相手を叩きのめすことが多かったから、戦術というのを考えたことがあまり無い。

アニーの話によれば、現在のリーファは攻撃魔法で考えただけでもセプテットだろう。更に言えば、使われなくなって久しい魔法すらつかえるのだから、世界の常識をひっくり返す存在だ。

だから、1つのタイプに絞ろうかと思ったのだ。

あるいは、2つでも良いだろう。ならば、何と何をチョイスすべきなのか迷う。


「風の使い勝手はどう?」

「え?…使い勝手?まぁ、いいわよ。相手が風を視覚的に捉えられない場合が多々あるから、そういう意味では便利かもね」


風を1つめにするとして…相性的に考えて、雷と土は除外すべきだ。

ならば、火か水。魔法を放った際の派手さを考慮すれば、目立たない水の方が使い勝手が良いかもしれない。


「アニー、私たぶん…水と風を使えると思うの」

「えぇ!?デュオ!?凄いわね!」


あぁ、デュオでこの反応か…と少々嘆きたくなる。

これで、全タイプを使用可能だとバレたあかつきには、一体どんなことになるのか…知りたくも無い。


「で?魔法が使えるなら、大した疑問点は無い筈だけれど…」

「ううん。さっきみたいに、私の知識が古いから聞きたかっただけなの。でね、私このイデアに来たのはギルドに入るためなの。どうしたらいいか、分かる?」

「ギルドに…?」


アニーの表情が、笑顔から一瞬で険しく変わる。

ノワールが言った、ギルドがごろつきの集まりである事と何か関係があるのかと訝しむ。


「ギルドは…あんまり若い子にはお勧めしないわねー」

「ゴロツキばっかりだから?」

「犯罪者くずれとかもいるし、ルールはあるけどモラルが無いのよねーあそこは。どうしても入りたい?」

「えぇ。どうしても」


リーファの意思を確認するかのように、アニーが目を覗き込む。

青空を切り取ったような瞳の中に、鋭い決意を垣間見た気がして、アニーは苦笑した。

この少女…リーファには誰が何と言おうと言葉を実行する意思が見て取れる。彼女のお目付け役のような存在であるクロが諦めのような表情をしている事からも、彼女が有限実行タイプだと予想ができる。


「イデアのギルドに、知り合いがいるわ。紹介してあげる。ギルドで何をしたいのか知らないけれど、気をつけてね」

「ありがとう、アニーさん」

「クロさんは?ギルドに登録するの?」

「私は…」

「クロはしないわ」

「…しないの?」

「クロは必要無いわ。ギルドに登録するのは私だけ」


クロ…ノワールの言葉を鋭く遮る。元々ノワールは使い魔だ。

今は腕輪との契約によって、かろうじてこの世に存在をつなぎとめているだけだ。魔法なんて使ってしまったら、その身に何が起こるのか。

最悪の場合、魂ごと消えてしまうかもしれない。

それだけは…その事態だけはリーファにとっては避けたいものだった。

頼るものもいないこの世界で、ノワールの存在は本当にありがたいものだと感じている。

最期の戦いの前に勝手に契約を切ったはずなのに、それでもこうしてついてきてくれる、五百年の時を生き永らえてくれたことには頭が上がらない。

だからこそ、彼を消すわけにはいかない。

腕輪との契約によるペナルティで、彼の魂は格が下がってしまった。

あと一回の違反で消えてしまうかもしれないと思うと、どうしても慎重にならざるを得ない。


いつまでも傍に居て欲しいと願うのは、私の我侭だ。

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