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伝説

深く深くに沈む意識。



もう二度と、目覚めることは無いと。


もう二度と、その瞳を見ることは無いと。



もう二度と、話すことは無いと。


もう二度と、その澄んだ声を聞くことは無いと。



そう思っていた。


そんな事実信じたくなかった。



だけど。


だから。



深く深くに押し込められてしまった意識が、再び目覚めたとき。



私は、どうすればいいのか…分からなかった。


僕は、神に感謝した。













****************















「ねぇ!おばーちゃん!!英雄様のお話をしてー!」


頭の高い位置で髪を結び、白いパジャマを着た少女が、祖母のもとへ走る。

暖炉の近くで椅子に座り編み物をしていた祖母は、一旦手を止めて、駆け寄って抱きついてくる孫を愛おしそうに抱きとめた。

少女がおねだりするお話は、ほとんど伝説のようなものだ。

ずっとずっと昔に、まだこの国が他国と戦争していた時のお話。


「好きだねぇ、お前は」


「うん!だって英雄様かっこいいんだもんー!!私もいつか英雄様みたいになるんだよ!」


「そーかい、そーかい。それなら、しっかりとお話しなくてはねぇ」


「やったー!!」


祖母の膝から降りて小躍りし、少女は自分の椅子を持ってきてちょこんと座る。


「じゃぁ始めようか」












ずっと、ずーっと昔。


ローデシア王国は帝国ゲルティアと長い間戦争をしていた。


世界を手に入れようとする帝国に、自分の国を守るために王国は必死に戦ったが、少しずつ少しずつ領土を奪い取られていた。


優秀な魔法使いがたくさんいたにもかかわらず、帝国はそれを上回る戦力を持っていたから。


そんなある日、王国の辺境の村で、優秀な魔法使いが見つかった。


僅か12、3歳の少女の魔力は、当時王国にいたどの魔法使いよりも圧倒的に優れていた。


少女は、自分の国が滅んでしまうかと思うと、いてもたってもいられずに王国軍に志願した。


その少女の魔法は凄まじくて、あっという間に勝利を重ねていき、奪い取られていた領土を取り返した。


更には、他国に侵略していた帝国軍をも蹴散らし、終には帝国を追い詰める形となった。


しかし、帝国軍も簡単には負けを認めなかったし、それに皇帝は少女に匹敵するくらいの魔力の持ち主だった。


このままでは、いずれ帝国軍が再び力を持ち、世界を恐怖に染めてしまうと考えた少女は、自分の命を投げ打つ覚悟をした。


少女の死と引き換えに、帝国軍は壊滅した。皇帝を失い、統率力を無くしてしまったからだ。


幼い少女の死に、王国の人々は大層悲しみ、彼女を英雄にすることを決めた。


国を救った英雄として、ずっとずっと未来まで、彼女の活躍を語り継いでいこうと。



夜色の髪をなびかせて


炎のように燃える赤色の瞳


彼女の心は、まるで聖母のよう


世界を救った英雄様


貴女の願いや思いが、人々を救った


美しき英雄様


安らかにお眠りを














「さぁ、お前も自分のベッドで、眠るんだよ」


「…うん!ありがとう!おばあちゃん!!」



孫の去っていく後姿を眺め、再び編み物を手に取る。

今まで自分が話していたお話を、再び思い出してみる。


伝説としての英雄様は、先ほど話したままの内容だ。


しかし、事実としての英雄様は、謎が多い。

王国と帝国が戦争をしていたのは、今から丁度…二百年ほど前だ。

しかし、当時の記録らしきものには、少女が戦っていたという話は皆無。

そして、王国が保有する英雄様のお墓。

三十年ほど前に、その墓が荒らされる事件があったのだが、墓には何も入っていなかったのだ。

彼女を示すのは、夜色の髪と炎のような瞳、そして圧倒的な魔力。

肖像画もない、遺体らしきものも無い。

ただ、御伽噺と、彼女が使っていたらしい武器などが数点残っているのみ。


英雄様などいなかったのだ、とする学者もいれば、絶対にいたと主張する学者もいる。


意見は別れ、未だに決着がついていない。



ぐるぐると堂々巡りをしてしまう思考を振り切って、老女は編み物をやめ、ベッドに向かった。


幸せそうに眠る孫の寝顔を、これまた幸せそうに眺め、自分も眠りについた。



12.12.16訂正(帝国名と英雄の活躍時期を変更しました)

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