第1章 第1話:異世界転生、ただし「石の中」から
暗闇だった。
視界ゼロ。酸素残量、不明。触覚に伝わるのは、逃げ場のない圧倒的な「密」――すなわち、岩盤の感触である。
(……なるほど、これが噂の『石の中にいる』ってやつか)
ログ、本名・佐藤ログは、冷静に現状をデバッグし始めた。前世での職業はデバッグエンジニア。納期数時間前に上がってくる「絶対に動かないクソコード」を吐血しながら動く形に整形する、業界でも指折りの「掃除屋」だ。徹夜明けにサーバー室の床で寝落ちしたはずが、目が覚めたらこれだ。
普通ならパニックになるところだが、ログの脳内にはすでに現状が「数式」として展開されていた。
(俺の体積分の岩石がどこへ消えたのか、あるいは俺の座標が既存のオブジェクトと重複しているのか。いずれにせよ、物理演算が仕事をしていない。……クソゲーか?)
その時、暗闇の向こうから「ふえぇ……」という情けない泣き声が聞こえた。
「どうしよう! 初めての転生者なのに、初期リスポーン地点の計算を間違えちゃったぁ! 座標(0,0,0)に設定したのに、一億年の地殻変動を計算に入れてなかったよぉ……!」
……犯人が、すぐそばにいた。
ログは残ったわずかな空気で、エンジニア特有の「低音で威圧感のある声」を絞り出した。
「おい。そこにいる管理責任者。今すぐ俺の現在座標のオブジェクト干渉をオフにするか、オフセット値を+10メートルして再描画しろ。死ぬぞ」
「ひぃっ!? 岩の中から声がしたぁ! ゆうれい!? バグの擬人化ぁ!?」
「バグはお前だろ。いいからポチれ」
「あ、はい! ポチっとな!」
次の瞬間、ログの視界を強烈な光が突き抜けた。凄まじい浮遊感。気づけば彼は、切り立った崖の中腹の岩棚の上に放り出されていた。
「ぷはっ……! 酸素……! 窒素……! 計算通りの大気組成……!」
大きく息を吸い込み、乱れた眼鏡を直す。目の前には一人の少女が浮いていた。透き通る銀髪に白いドレス、背中には羽、頭上には光輪――どこからどう見ても「女神」だった。が、その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃである。
「ごめんなさいぃ……! 私、世界の管理者やってるエクセルって言いますぅ。設定ミスっちゃった……」
「……エクセル? 名前が表計算ソフトか。嫌な予感しかしないな。おい、原因を三行で述べろ」
「えっ、えーっと……。①座標を原点(0,0,0)に固定した。②そこが偶然、山の中だった。③地殻変動の変数を入れ忘れた。……です!」
ログは天を仰いだ。
「お前は馬鹿か? 初期座標を絶対値で指定する奴があるか。セーフティエリアのリストからランダム抽出するか、地形をレイキャストして設置面を割り出すのが基本だろ。お前がやったのは、サーバーラックの電源タップの真上に10トンの文鎮を落とすようなもんだぞ」
「れいきゃすと……? ぶんちん……? 難しい言葉を知ってるんだね、ログくん!」
「……褒めてない。それから、その金縁の分厚い本は何だ」
「これ? この世界を動かしている計算式が全部書いてある『創世の書』だよ! 魔法の威力とか、歩く速さとか、全部私が考えたの!」
ログはそのページを覗き込んで、絶句した。
「……なんだ、この『攻撃力』の計算式は」
『ATK =(筋力 + 武器威力)×(運 × 0.1)』
「えへへ、運が良いほうが強いかなって、掛け算にしてみたよ!」
「ふざけるな! これじゃ運が10以下の奴は、武器を持っても素手より弱くなるだろ! 運が0の奴はどうなるんだ、攻撃力が0か? 攻撃の概念が消滅するぞ!」
「えっ、あ……。そういえば最近の冒険者さんたち、スライムに勝てないって嘆いてたかも……」
「当たり前だ、この欠陥アルゴリズム作成者が! ……貸せ。その本を貸せ。今すぐデバッグしてやる。このままじゃ魔王を倒す前に、俺がこの世界の不条理で死ぬ」
ログの怒号が崖の空に響き渡った。こうして、超合理的エンジニアと感覚派のポンコツ女神による、世界再構築の旅が幕を開けた。
【第1章1話・デバッグログ】
▶ 事象:転生者が初期地点で地形に埋没。
▶ 原因:絶対座標(0, 0, 0)指定と地殻変動の考慮漏れ。
▶ 対策:設置地点をオフセット+10mで再計算(Re-calculate)。
【次回予告】
第2話「ボーナスポイントの罠」──「お前は馬鹿か? 数値の型を確認しろと言っただろ!」
【約10万字完結済】月・水・土 21時更新。
※初回5話公開。最初の1週間は毎日更新の予定。
※本作はAIを執筆補助に使用しています。




