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今日もどこかで雪が降るように俺の青春はどうでもいいもの  作者: Nanomu


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1/1

こうして更生が始まる

青春否定と非干渉のすすめ

1. 人間関係は「ロス」である

物理学的に見て、他者との接触は「摩擦熱(ストレスや誤解)」を生むだけであり、個人の活動効率を著しく低下させる。人間関係を構築しようとする行為は、自己の生産性をドブに捨てるに等しい。

2. 「関わらないこと」こそが最大の社会貢献

他者と関わらなければ、紛争はゼロになり、公共リソースの消費も最小限に抑えられる。誰の助けも借りず、誰にも干渉しない「究極の孤立」こそが、社会に迷惑をかけない最も誠実な生き方である。

3. カップルという害悪

特に恋愛関係カップルは、閉鎖的な利己主義の極みである。公共の場での示威行為は周囲の労働意欲を削ぐ「負の外部性」を撒き散らしており、社会経済的に見てクソ喰らえという結論に達する。

総論

「輝かしい青春」という幻想を捨て、他者との繋がりを断絶することこそが、人類が合理的かつ平和に存続するための唯一の道である。

つまり人の役に立つためには何をすればよいか?

そう、何もしないことである。

「ねえちょっとこれおかしくないですか?何かやってますよね?」

教室の簡単な席の配置が乱雑に書かれた紙を持って俺は物申しに来ていた。

さっきから俺は同じことしか言っていない気がするが、相手側が一向に反応しない。さては、この図が下手くそすぎたのか?いやそんなことはない。わかってますよ。


額に手を当てて、肘を机につけながら話を聞いていた担任の三河沙季は話に飽きたのか、呆れたのか、深々とため息をついた。


「なあ湖淵くん。私は春休みに課題を出したが、覚えているか?」


「...ええ、たしか『人の役に立つためにはどうするべきか』という題に対しての作文でしたね」


「ああ、よく覚えているな。では君が何を書いたか覚えているかな?」


「いやぁ...そこまではちょっと記憶の可動域が延びなかったですね」


先生はまた一つため息をついて、自分の引き出しを開け、一枚の紙切れを取り出した。

そして悩ましげに髪を掻いたかと思えば紙を見ながら、こんなことを言い出す。


「湖淵はどのようなことをすれば人の役に立てると思う?」

「はぁ...そうですね、ゴミ拾いとかでしょうか?」

「では次に、人間関係ができるとどのようなことが起こる?」

「協力し合い、より強力なチームになるのでは?あ、別に意識したわけではないですよ」

「では最後に、カップルについてどう思う?」

「幸せになって欲しいと心から願っておりますが..」


顔色ひとつ変えない先生が少し怖くありながらも、一通り質疑応答を終えたかと思えば、今度は俺の作文を読み出した。


聞くにたえないというほど、拙い文章ではないと思うが、自分が今から作家を目指すことが限りなく不可能に近いくらいの未熟な文章ではあった。

論理的に述べているだけで根拠がない。

それっぽいことを言っているだけの哲学者みたいだ。


先生は作文を読み終えると、勢いよく紙を机に叩き、俺に優しく聞いた。


「もう一度聞こう。人間関係とは何に役立つんだったっけなぁ、湖淵よ」


文章を声に出してはっきりと読んだ上でのこの質問。そして目つき。鋭くて、どこにも逃がさないと物語っている。ひえ〜おっかない。こういうのが1番怖いんだから。


「先生は、政治家が不利な立場になった時、どう事を済ませるか、ご存じですか?」


大丈夫、まだ言い返すすべは持っている。

年上の女性にだって言葉はきくはずだ。


「あ、ちなみに言っておくが、会話は全て録音済み。加えて、君がこの紙をカバンから出して持ってくるところを撮影してもらっているから、安心したまえ」

「それ盗撮って言うんですよ」


執着心か愛なのか、どちらにしてもここまでくると怖い。俺のこと好きなんですかね。


やはり文章といい発する言葉といい、自分がまだまだ大人とは程遠い存在であることが思い知らされた。


「いやでも、世の中の人間なんて、結局こんなこと思ってるんですって。それをこの俺が文章にしてあげたんですよ」


苦しすぎる言い逃れ。開き直ることも時には肝心だ。


「なぜその役割をお前がやる?勝手にやる分には好きにすればいい。課題でするな」

「だったら、注意書きしておいてくださいよ。俺はそういうのしっかり読む人なので。」

「反省文、書くか?」

「すいません」


先生は3度目のため息をついた。


「まったく、これだから最近の若僧は...姉を見習え姉を」

「反復法で国語教師示さなくていいんですよ、あと若僧って・・」



「確かに俺と先生の年齢の差は..」


刹那、何かが顔を横切った。


「いやすまんすまん、反省文を生徒に突き出すアレ、1度やってみたくてな。少しばかり位置がズレてしまったようだ」


恐るほどに速い突き出し。いやもうパンチだよ、パンチ。微かな紙の匂いさえ感じられなかった拳にこれ以上ない恐怖を覚える。流石の俺でも見逃しちゃった。


「しゅ、しゅいません!書き直しましゅ!」


噛み噛みだった。そりゃあ目の前であれを見ればそうなるわな。

今は何よりもはやくこの場から逃げ出したいため、最善の言葉を選び抜いたつもりだったけれど、噛んだからか何なのか先生は納得の行かない様子。


やはり土下座、土下座か。

16歳高校2年生、女教師にドゲザ☆...


嫌だよ。

そんな特殊な癖は持っていないんだ。


今一度、頭を下げる。無駄のない完璧な所作。

決して慣れているわけではないが。


沈黙が続くたびに、頭には土下座している自分がよぎる。


「顔を上げろ、湖淵」

「人はどう更生していくか分かるよな?」


..また始まった、つまらない話。

大事に話をしたって、大人になってから覚えているはずがない。それは大人が一番分かっているはずだ。


「慣れない仕事や人の温かみに触れることで、自然と変わっていけるのが良い例だ」

「では俺は良い例ではないと?」

「そうとは言ってないだろう。多分君にもいい所はある」

「そこは確証を持ってくださいよ」


三河先生は慣れた手次で机の横の引き出しからエナジードリンクを取り出すと、音を配慮したのか、下の方で蓋を開けた。開ける時の仕草が仕事終わりで酒を飲むOLにしか見えない。OLという名には相応しくない女だがな。

それを一気に全部飲み、勢いよく缶を机に置くと、先程より冴えた目でこちらを向いた。


「君、人助けをしたことはあるか?」

「まあ端的に言えば、無いですね...」

「友達...」

「いや止まんないでくださいよ」


聞くことすら躊躇される位置づけなのか俺は。


「まあこのクソみたいな作文を読めば誰だって君に友達がいないことは分かるんだがな、嫌味のように聞こえてしまったか。申し訳ない」


三河先生は納得したような顔をしたが、遠慮がちにもう一つ質問をした。


「彼女・・・聞いておくか?」

「いや先生すいません、やっぱ聞く方がしんどいですね」


まあまだ彼氏いる可能性残ってるから大丈夫。


「いやー、案外心に来るもんだなこういう質問。

聞いている側も持たないよ。」

「そうですか...で?」

「私はそんな君が見過ごせなかったんだ」


はいはい来た来た逆転演出。

ちょっとそのキッつい胸ポケットからもしもボックスでもだしてくんないかな。


「...と言いますと?」


三河先生は俺の右手に持っている紙を指差した。


「どうしてそうなったか、教えてやろう」

「一応聞きますが、犯罪には手を染めてませんよね?」


半分冗談であったが、逆に言えば冗談は半分しかない。

いつもこんな感じだから、終始気持ちを落ち着かせることができないのだろう。


「まあいい、とりあえずついてこい」


エナドリの間を勢いよく潰して、先生は立ち上がった。背もたれにかけている白衣をそれっぽくまとう。何がとは言わないが胸らへんにひっかかるものがあるので胸元はキツくない構造だ。だから余計に理科の先生ぽい。国語教師なのにね。


密かに三十路ゴリラとも呼ばれる先生の怪力があらわになった缶にあっけを取られていると、扉の向こうで先生がこちらを見ていた。


「何か言いたげだな」

「いえ、すぐ行きます」



まったく、先生のこの何か見透かしているような発言はいつになってもなれない気がする。

白衣に手を突っ込みながらも、眉間にしわを寄せて、多分ほぼ怒っている先生を目の当たりにして、すぐ走っていった。こんなことなら、毎日寝る前に読書をして、視力を落としておきたかったも。


京都府立橘高等学校は田舎と都会の半ばぐらいの地にある学校だ。

カタカナのヨ、というのが上空から見た一番わかりやすい学校の形の説明。

一番下から本館、中館、北館となっており、2年生である我らは中館に教室を構えている。

またそのヨ型の校舎の前方、漢字の日を作るように特別棟が建っており、四つ合わせると学校が完成される。


そして、ヨ型校舎と特別棟の間及びヨ型校舎の館の間の空間。ここで人々は青春を謳歌している。


昼休みになれば弁当の具の交換しあい。

簡易的なコートでバスケットボール。


ふざけんなよ。

弁当の具は自分が食べたいものを入れるからいいんだろうが。あとバスケに関しては一人ドリブルのイメージしか浮かばなかったわ。クソが。


別に、自分からそういう考え方をする人間になり下がった訳じゃない。

ただ、ヒロインに熱く愛を語るような主人公よりも、頑張って自分の役割を演じる脇役の方が似合ってるって話だ。

だから、それはたった一話の中の数分しか出ないし、物語が進めば、主人公と視聴者の頭からも消える。もはやそこに感じられるものなどない。こっちは感じているが。



三河先生が床をコツコツと鳴らしながら向かっているのはどうやら本館のようだった。

図書室や多目的室などの名前のついた教室には目もくれず、スタスタと先を歩く。


―――少し嫌な予感がした。


まず第一に俺の目の前を行く女性は、国語教師でありながら担任であり、生徒指導でもある。

それに加え、軽い年齢いじりで、暴行まがいのことをしてくるような人だ。ろくなはずがない。


何をするかは分からないが、ずっと机に向かうデスクワークとか、中身の分からない荷物を運ぶだけの仕事とか、しんどいのはとりあえずごめんだ。先に内容を少し探ろう。


「あのー先生、一応俺も18歳未満のピッチピチな高校生なわけでして、労働には酷く反対する所存なのですが...」

「安心したまえ、苦と呼ぶほどのものではない」


先生はふっ、と軽く俺の探りをあしらった。


なるほど。つまり、俺の超楽観脳内フィルターによれば、やってて苦にならない仕事という名のほどでもない、比較的優しい更生への道ということか。すごく面倒くさい名前だが、ありがたい。

流石先生。今までいじっててホントごめんなさいね。


「今まですいません、ちょっと子供になる薬飲んでたみたいで。いささか会話が大人すぎましたね」

「すまんが私はJ派なんだ。他社は出さないでもらえるかな」


少年漫画読んでんのかよ、というか聞いただけで他社ってわかるのはもうファンじゃん。読んでるじゃん。

まあこんな些細な口喧嘩で今更内容は変わらない。ウェルカム更生。二週間で清楚聖人キャラになってやんよ。


「着いたぞ」


うだうだ会話をしながら先生につれてこられたのは1つの空き教室だった。


「なんて名前してんすか、これ」


ガラスに貼られた紙には、几帳面な字で「あなたのお願いを叶えると共に、あなたが人を助けられる部屋」と書いてある。


「胡散臭さ半端ないっすよこれ。飲んだら必ず痩せますとかいって10gで成功体験にしてるようなやつと同じ類の匂いがしますよ」

「少なくともそんな詐欺商品は見たことがないから安心しろ。あとそんなんではない。とりあえず中に入れ、説明する」


家に帰るのが遅くなる。

とりあえず姉にそう連絡した。















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