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花人  作者: ぴあす


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1/1

不公平

 土の味がする。地面に這いつくばって腹の傷を抑える。眼の前には醜悪な姿をした植物の化物がいる。

 なぜこうなったか。遡ること数日前。俺は電車に揺られていた。


『今回のゲストはー!メリット研究の第一人者、麻鷺玄道さんです!』


 ネットニュースをぼんやりと眺めながらあくびをする。始発の電車の中は憂鬱にまみれていた。


(メリットか‥‥俺には関係のない話だ。つまんね)


 スマホを閉じつり革に体重をかける。


「メリット」


 それは最近突如として発生した超常現象。人の身に超能力が宿る、端的に言えばそういうことだ。しかしメリットの発現は全員に起きるわけではない。

 発現しないものもいる。


 俺もその一人だ。もともと不公平だった世界は拍車をかけて不公平になった。


「俺もなんかすごいのゲットできないかな‥‥」


 思わず口から漏れてしまった。俺は慌てて口元を覆い、スマホを見て誤魔化す。仕事の疲れで最近はよくわからないことをしてしまう。


『間もなく、朝霧東、朝霧東です』


 目的駅についた。憂鬱を抱えて駅のホームを歩く。今日も会社で怒られる。そう思うと一歩を進めるのが嫌でならない。


「なに!?いや!誰か!」


 俯いて歩いていると何やら駅の中の店でなにか騒ぎが起きている。進行方向にあるので俺は意図せず野次馬になってしまった。


 店員の女性が地面にへたり込んでいる。なにかに怯えるように顔を歪ませ泣き叫んでいる。

 流石に大事だということを理解した俺はスマホで百十番を打ち込む。


「えっと、事件です。駅で女性が襲われてます。場所は朝霧東‥‥」


 言いかけた言葉は俺の目に写った光景に遮られた。女性が怯えていた対象。

 それは人のような形をした植物だ。

 植物の茎を束ねて作ったような姿は藁人形のようだ


 植物は店員の首を掴み上げる。絞め殺す気だ。

 俺は周りを見渡す。武器になるものはないか。まず目についた消化器を抱えて化物に接敵する。


「おい!こっち見やがれ!」


 白い消火剤を化物に撒き散らす。人生初の消化器を使う相手が化物とは思わなかった。

 化物はよろけて店員を落とす。

 へたり込んで咳き込む店員の手を引いて走る。人助けなんてこの時が初めてだ。


「大丈夫ですか!?それに、何なんだあれ!」


 俺はアドレナリン任せのダッシュで駅のホームを駆ける。


「何とか大丈夫です!さっきはありがとうございました!でも!ちょっと!早い!」


 足をバタバタさせて走る店員を見て俺は速度を落とす。

 ホームの中には誰もいなくなっていた。もう避難が完了しているのか。なら早く行かなければ閉じ込められる可能性がある。


 息を切らす店員に痺れを切らして俺は担ぎ上げ出口を目指す。


「え!?ちょっ!自分で歩けますって」


「このままだとここに閉じ込められる。化け物と箱詰めなんて嫌だろ?」


 店員は青ざめた顔で頷く。

 一番近い北口に向かうがシャッターがすでに閉まっていた。

 この流れはまずいと内心焦りながらももう一つの出口に向かう。

 しかし次の出口は花屋の直ぐ側、化物のいた場所にまた戻るしかないのだ。


「出口はもう南口しかないですね。心の準備はいいですか?」


 俺の問いかけに店員は嫌々ながらも頷いた。


「頑張ります‥‥あともうおろしてくれても大丈夫ですよ?」


 恥ずかしそうに店員は言う。慌てて店員を下ろす。なんだか微妙な空気が流れる。


「急ぎましょう」


 俺は空気に耐えられず、小走りで南口へと向かう。


 ◇◇◇


 花屋から出てすぐの曲がり角まで来た。今までの人生で駅がここまで静かだったのはあとにも先にもこれが最後だろう。

 気の所為と願いたいがなんだか鉄臭い気がする。

 息を殺して花屋の方を覗き込む。


「待っ‥‥!」


 店員が俺の腕を引く。


「何。やめろ!来るな。逃げ。走って!」


 植物の塊が角から覗き込む。やつはでたらめな言葉を壊れたレコーダーのようにリピートする。

 化物はずっとここで待っていたようだ。やつの体は赤黒い液体にまみれている。


「クソ!走れ!」


 腰を抜かした店員をまた担ぎ出口に走る。シャッターはしまっていたがバールか何かでこじ開けられていた。他にも取り残されていた人がいたのだろう。


「早く!服引っ掛けんなよ!」


 シャッターを押し上げて店員を先に逃がした。シャッターの隙間は俺でもぎりぎり通れるくらいの大きさ。

 後ろを確認したが、化物はいない。


(巻いたか)


 一安心でシャッターを潜ろうとした。


「待って!」


背後から子供の声がした。振り返ったがそこには誰もいない。幻聴にしては妙にはっきりしていた。


「おにいさん!早く!上!」


 胸から何かが飛び出した。

 それは植物の鋭利な茎だった。

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