表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小物の異世界生活  作者: おこげ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/70

9

倉庫の扉は

想像よりずっと普通に開いた。


「……あれ?」

ギィ、と嫌な音はしたが、

それだけだ。

爆発もしない。

呪いも飛ばない。

魔法陣も光らない。


「……拍子抜けしていい?」

返事はない。

中は薄暗いが

ちゃんと朝日が差し込んでいる。

木箱。

木箱。

樽。

また木箱。


「……倉庫だ」

本当に

倉庫だった。

俺は三歩進んで

立ち止まった。

(今だ。今、何か起きる)


五秒。

十秒。

起きない。

「……罠、遅刻してる?」

慎重に

床を踏む。

ミシ。

「っ」

止まる。

(来る……!)


何も来ない。

ただ床が

古いだけだった。

依頼主の男が言った。

「適当に、壊れた箱をまとめてくれ」

「適当って……」

「箱は箱だ」


哲学的すぎる。

俺は木箱に近づく。

「……開けてもいいですか」

「いいぞ」

「中身、飛び出しません?」

「釘と布だ」

普通すぎる。

箱を持ち上げる。

重い。


「……重い」

誰も反応しない。

「……重いんですが」

「仕事だからな」

現実が厳しい。

樽に手を伸ばす。

(樽=中に何かいる)

俺の中の常識だ。

ゆっくり叩く。

コン。

空。

「……誰も住んでない」


ホッとする。

作業は

本当に地味だった。

壊れた箱を一箇所に集める。

使えそうな布を畳む。

釘を数える。

数えた釘が

何度数えても

一本ずつ増える。


「……怖い」

数え直したら、

合ってた。

俺の脳が疲れている。

昼前。

汗が出る。

だが

死の気配はない。


「……平和」

怖い。

平和が逆に怖い。

誰かが外で叫んだ。

「うわっ!」

俺は即床に伏せた。


「来た!」

「蜂だ!」

(外かよ!)

数分後、何事もなかったように

静かになる。

依頼主が言う。

「外、大変だな」

「ですね……」

倉庫の安全度が、

急上昇した。

午後。

俺は箱の山の中で

気づいた。


「……俺、ちゃんと働いてる?」

汗かいてる。

物運んでる。

生きてる。


「……これ、普通の人生では?」

気づいてはいけない真実に

触れた気がした。

作業終了。

依頼主が銅貨五枚を渡す。


「ご苦労」

俺は両手で受け取った。

「……本当に?」

「本当に」

噛んだ。

本物だ。

外に出る。

太陽が、優しい。


「……生きた」

大げさだが事実だ。

その日の夜。

宿の前に立つ。

女将を見る。


「……あります」

銅貨を出す。

女将は無言で受け取り

鍵を投げてよこした。


「部屋は同じ」

「……ありがとうございます」

ベッドに倒れ込む。

屋根がある。

床じゃない。

「……倉庫、意外と悪くない」

だが、

脳内では警報が鳴る。

「でもこれが“普通”になったら終わりだ」

小物は

慣れを恐れる。

こうして俺は異世界で初めて

無事に金を稼いだ。

英雄的活躍?

ない。

魔物討伐?

ない。

だが、

今日も生きている。

それで十分――

のはずだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ