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小物の異世界生活  作者: おこげ


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8/69

8

朝、俺は地面から起き上がった。

正確には

「起き上がろうとして失敗した」。

体が言うことをきかない。


「……野宿、デバフ重すぎない?」

背中が痛い。

首が痛い。

人生も重い。

パンの残骸を見つめる。

昨日、女将にもらったやつ。

半分残しておいた自分を、

全力で褒めたい。


「……計画的摂取」

噛む。

硬い。

だが生きてる味。

朝の村は

何事もなかったかのように動いている。

洗濯物。

井戸。

パン屋。

俺だけが

世界から一段ズレている。

ギルド前に立つ。

ここに来るまで

三回引き返した。

五回深呼吸した。

心臓が

無意味に元気だ。

「……倉庫整理」

掲示板の文字が

やけに大きい。

【危険度:なし】

(嘘だ)

俺は頭の中で会議を始めた。


【俺会議 議題:倉庫整理を受けるべきか】

・賛成派

「金がもらえる」

「屋根の下で寝られる」

「死なない(予定)」

・反対派

「フラグ」

「イベント」

「“実は魔物”」

議長(俺):

「反対派の意見が感情的」

想像①

倉庫に入る

→ 扉が閉まる

→ 暗闇

→ 目が光る

→ 完

「却下」

想像②

倉庫で整理中

→ 床が抜ける

→ 地下遺跡

→ 魔王軍

→ 完

「却下」

想像③

普通に終わる

→ 報酬

→ 生存

「……信用ならない」


背後から声。

「また見てる」

昨日の冒険者。

「迷ってます」

「倉庫整理だろ?」

「はい」

「楽だぞ」

「“楽”って言う人、大体片腕ない」

「それは偏見」


片腕、あった。

余計に怖い。

受付嬢が気づいた。

「今日はどうされますか」


俺は

五秒沈黙した。


十秒。

十五秒。

後ろの列がざわつく。


「……質問いいですか」

「どうぞ」

「倉庫、呪われてません?」

「されてません」

「封印とか」

「ありません」

「悲しい過去は」

「倉庫に?」

「はい」

「木箱が壊れたことはあります」

「重い」


俺は天井を見た。

ここで断れば

今日も地面。


受ければ

未知。

未知=死。

だが地面も

割と死に近い。

受付嬢が

静かに言った。

「……昨日、倉庫整理を断った方が

別の仕事で怪我しました」

「え」

「蜂です」

「蜂強すぎません?」


俺は拳を握った。

「……倉庫」

喉が鳴る。

「……整理」

胃が鳴る。

「受けます」

言ってしまった。

周囲が、

一瞬静まり、

拍手が起きた。


「勇気あるな!」

「ついにか!」

「やっと働くのか!」

やめろ。

受付嬢が

書類を差し出す。

「サインを」

手が震える。

文字が歪む。

「……これ、途中でやめられます?」

「できます」

「命の危険を感じたら?」

「逃げてください」

「最高の契約だ」


外に出た。

太陽が、

やけに眩しい。

「……やってしまった」

だが、

不思議と後悔は少ない。

野宿よりはマシだ。


倉庫は村の端にあった。

木造。

古い。

扉の前に立つ。

俺は深呼吸した。

「……ただの倉庫」


自分に言い聞かせる。

「ただの」

「倉庫」

手を伸ばす。

次の瞬間――

物語が動き出す音がした。

俺の胃が。

「……腹減った」

小物の初依頼は

こうして

最悪の緊張感とともに

始まろうとしていた。

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