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小物冒険者の日常災害  作者: おこげ


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79/107

世界を救う回

その噂を最初に聞いたとき、俺はパンをかじっていた。

 固めのやつだ。

 安いから。

「聞いたか?」

 隣の冒険者が言う。

「何を」

「お前の話」

 嫌な予感がした。

「世界、救うんだって?」

 パンが喉に詰まった。

「……誰が?」

「お前」

 この町、情報の精度が低すぎる。

 詳しく聞くとこうだ。

 王都で勇者が大規模作戦を開始する。

 それに合わせ、各地で連動した動きがある。

 そしてこの町では――

「小物冒険者が、何かを始める」

 らしい。

 俺は断言する。

 何も始めていない。

 そもそも始められるほどの能力がない。

 だが町の空気は、

 「嵐の前の静けさ」みたいになっていた。

 鍛冶屋が炉の火を弱める。

「今は刃を打つ時じゃねえ」

 違うと思う。

 商人が在庫を抱え込む。

「動きが出てからだ」

 何の動きだ。

 パン屋がパンを焼きすぎる。

「決戦の日は腹が減る」

 決戦しない。

 俺はギルドに行く。

 掲示板は空。

 受付が真顔だ。

「……今日は、依頼は出ません」

「なぜ」

「あなた待ちです」

 待つな。

 昼。

 俺は水を飲む。

 それだけだ。

 だが広場がざわつく。

「飲んだぞ……」

「準備段階か」

「慎重だ」

 水分補給だ。

 俺は落ち着かなくなり、立ち上がる。

 その瞬間、

 町全体が息を止めた。

 結果。

 トイレだった。

 評価は爆上がりした。

「大胆な単独行動」

「誰にも告げない覚悟」

「覚悟っていうか限界」

 最後だけ合ってる。

 夕方。

 町長が来る。

 直々に。

「君が動くときが、町が動くときだ」

「じゃあ俺は一生動かない」

「なるほど……抑止力か」

 話が通じない。

 二日目。

 俺は普通に寝坊した。

 その結果。

 町は封鎖状態になった。

「まだだ」

「まだ動かない」

「待て」

 全員、俺を基準に生活している。

 やめろ。

 商売が止まり、

 冒険者は酒場で待機し、

 衛兵は意味もなく巡回する。

 俺は怖くなってくる。

 これ、俺が悪いよな?

 三日目。

 ついに緊急集会が開かれる。

 なぜか俺が壇上。

「彼はまだ何もしていない」

「つまり……」

「まだ“その時”ではない」

 誰も俺の発言を求めていない。

 俺は言う。

「……世界は、今日も平和だ」

 本音だ。

 一瞬の静寂。

 次の瞬間――

 大歓声。

「言った!」

「平和宣言!」

「戦わずして勝つ覚悟!」

 違う。

 その直後。

 馬を飛ばした使者が来る。

「王都より伝令!

 魔王軍、なぜか撤退!」

 町が狂喜乱舞する。

 俺は混乱する。

「なぜかって何だ」

「それが……原因不明で……」

 俺を見るな。

 翌日。

 俺の肩書きが増えていた。

「世界を動かした男」

「沈黙の冒険者」

「何もしない英雄」

 全部やめろ。

 宿屋。

 女将が言う。

「英雄様、宿代上がるよ」

「英雄じゃない」

「でも世界救ったでしょ」

 救ってない。

 ベッドに倒れ込み、俺は考える。

 俺は何もしていない。

 だが町は勝手に期待し、

 勝手に盛り上がり、

 勝手に満足した。

 つまりこの町では、

 行動よりも、存在の方が厄介なのだ。

 翌朝。

 俺はそっと布団をかぶった。

 起きない。

 動かない。

 目立たない。

 だが誰かが言う。

「今日は動かない……?」

「これは長期戦だ」

 もうだめだ。

 この町で一番の災害は、

 魔王でも、勇者でもない。

 俺の日常だ。

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